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第六歩

「ラァァッ!!」


 フィルの気合を込めた咆哮と共にその右足が振り抜かれる。

 その一撃は完全な筋力と勢いのみで熊型の魔獣の顔にめり込み、そして蹴り抜く。既に片目を魔弾で潰されている魔獣はその一撃で体制を崩し地に倒れる。体重が軽く、そして性別のハンデがある故に本来よりも劣化した技しか使えないフィルではあったが、それでもこの程度の芸当を成すには十分の技量を持っていた。

 そして倒れ伏した魔獣の顔に組み付き、潰した目にその右手を突っ込む。魔獣の悲鳴を物ともせず眼球を指で潰し穴を空け更に腕を突っ込み掻き乱す。そして痛みにより失神した魔獣の目から腕を引き抜き最後に頭を瓦割のように叩き割り、殺す。

 最初のピンチはなんだったのか。フィルは嗤いながらその手に付着した血を舐め取る。


「あーもう汚いよ? ほらタオル」

「……折角悪役ロールしてたのに」

「はいはい、そういうのはいいから」


 そんな悪役ロールを軽く楽しんでいたフィルだったが、結局衛生面でも危ないのでレオンがもう真っ赤になって確実に他人には見せられないようになってしまった今日開封したばかりの新品のタオルをフィルに渡す。

 今日倒した熊型の魔獣はこれで三体目。一体目はそれこそレオンがいなかったらフィルは死んでいたが、二体目はレオンが一手目で流れを掌握したことにより完封。そして三体目も同じようにレオンが一手目で片目を潰し流れを掌握したところでフィルが惨殺した。

 最初はそれこそ準備を念入りにして全力で殺しにかかった魔獣だが、既に簡単に殺せるようになった。

 殺し慣れた。

 たった三体を殺しただけで何を言うのかと思うかもしれないが、フィルは既にあの魔獣を殺し慣れた。まだイレギュラーが起これば少しマズい状況になるかもしれないが、レオンの一手目の流れ掌握からの完封。最早パターンハメとも言えるその殺し方は完全に殺し慣れた人間の物。

 既に赤くない場所を探すほうが難しいフィルは気持ち悪い、なんて言葉を漏らしながらタオルで拭ける部分は拭いていく。背中の翼なんてとっくに返り血で真っ赤だ。戦闘術を使って殺す武人スタイルから眼球から腕を突っ込む猟奇殺人スタイルに戦え方を変えたフィルはレオンから見てとても悪役が似合っていると思った。


「青と白がメインカラーのフィルが真っ赤に……もう殺人してきましたって言ったほうが信じられるよね」

「お前の血で体を染めてやろうかって?」

「じゃあ本気の脅迫どうぞ。一、二、はい」

「次は貴様だ……ッ!!」

「うっわ予想以上に怖いよこの血塗れメスゴリ……はいごめんなさい胸倉掴まないで片手で持ち上げないで」


 そんな他愛もない会話をしながら二階層を有翼メスゴリラとスナイパーは歩いていく。血濡れのフィルと一部フィルに掴まれた事で血に濡れているレオンはこのダンジョンでは明らかに異質だった。

 剣を使えばここまで全身返り血に塗れるなんて事はない。流石に斬った断面から血を浴びたらこうなるが、普通はこうはならないため時々すれ違う同業者はフィルを見ると小さく悲鳴を上げる。一回自分たちよりも年下の少女とすれ違ったが彼女はフィルを見て気絶した。仲間の人に謝った。その仲間の人も悲鳴を上げて少女を担いで逃げていった。流石に外見が完全に猟奇殺人犯の有翼メスゴリラはここら辺で金を稼ぐ連合員にはショックが大きすぎたらしい。

 そんな有翼メスゴリラとちょっと腹黒スナイパーは道中カチ会った狼型の魔獣を蹂躙して血だまりを作りながら歩いていく。ダンジョン内は日光がなく時間の感覚が狂うためレオンが持ってきた懐中時計で時間を確認するが、既に夕食を食べ始めていても可笑しくない時間となっていた。


「どうする、フィル。もう今日は十分な成果を出したと思うけど」

「ん……帰る?」

「そうしよか」


 マッピングはしていないが来た道程度なら覚えている。フィルとレオンはそのまま歩く方向を百八十度変える。

 ダンジョン内は壁そのものが薄く発光しているのか常に視界は良好だ。鳥目であるフィルでも問題なく歩ける程度には視界が確保されている。だからか、真後ろからこちらへ向かってきている二つの影がガッツリと見えてしまった。


「あー……さぁ誰のせい」

「ちょっと分かんないかなぁ」

「十中八九フィルの血の香りのせいです本当にありがとうございました」

「ちょっと何言ってるか分からないかなぁ……!!」


 その原因は明らかにフィルが全身で浴びた返り血のせいだ。実際に彼女が歩いた道は血で出来た足跡がある。それを魔獣が辿ってきたと考えるのが普通だ。何せ相手は熊が元となっているのだ。血の臭いがあればそれにつられてくる。

 先日は狼を狩っていただけであまり返り血を浴びることはなかったが、今回は大型の魔獣を狩った。それ故に付着した血は魔獣を引き寄せるにはピッタリだった。

 レオンは溜め息を吐きながらそっと起爆銃を構える。


「両目潰す?」

「逃げるなら」

「まさか」

「じゃあ片目。どっちも潰すと動きが読めない」

「了解。レンジに入り次第二発撃つよ」

「撃つと同時に走る。掌握よろしく」


 レオンが無言で頷く。

 今回は今までやった事のない、熊型魔獣の二体連続討伐。既に魔獣はこちらに目を付けており、今すぐにでも走り出して突撃を敢行しそうだ。だが、それをしたと同時にレオンが流れを掌握。フィルが前に出て二対一の交戦に入る。

 魔弾の威力は、かなり低い。人間を殺せない程度の威力だが、それでも当てれば出血をさせる程度の威力はある。それ故に相手の攻撃を魔弾を当てる事で逸らす事ができる。射撃技術のない人間なら出来たら奇跡レベルの物だが、レオンは努力だけで身に着けた才能を抜けばトップレベルの集中力が齎す射撃力がある。故に一手目で流れの掌握をする事が出来れば獣畜生相手には一方的な蹂躙をする事が出来る。

 呼吸を掴む。相手の呼吸そのものすら自分の手中にあると言わんばかりの掌握。それを、レオンは可能とする。これは努力が生み出した才能とも言える技術だった。


「……レディ」


 フィルに射撃を知らせるために小さく呟く。

 急に撃てばフィルが反応できない。故にフィルにしか聞こえないように呟きいつでも動けるようにしてもらう。

 そして魔獣が体勢を変えて吠えながら二人へ向かって走り出す。


「ファイアッ」

「参る……ッ!!」


 連続で二回引き金を引く。

 一射後、一瞬にて照準を切り替えたレオンによる二射はほぼ同時に二体の魔獣の右目に当たる。

 立ち上がる悲鳴と痛みによってバランスを崩し倒れる一体の魔獣と痛みを物ともせずに突っ込んでくる魔獣。だが、既にフィルの頭ではそれに対応するための策はある。

 力押しする殲滅型。しかし変則故に身に着けた散滅の技。それを切る。


「変則殲滅型戦闘術……ッ!」


 彼女の師匠は別の戦闘術の技を得たいと言ってもそれを咎める事はなかった。むしろ彼女が女というハンデを得ている故に歓迎した事でもあった。

 女であり、まだ体も完成していないが故に自分の使いやすいように手を入れた殲滅型戦闘術。それが彼女の変則殲滅型戦闘術。

 突進してくる魔獣にカウンターパンチを当てる――振りをして魔獣との激突の寸前にスライディングをして魔獣の真下を陣取る。言うならば走行中の車の下をスライディングで抜けていくようなものだ。言ってしまえば簡単だがやるにはそうとうな反射神経と度胸がいる。フィルはそれを成した。

 そして、スライディングで魔獣の下を潜り抜ける前に魔獣の胸に一発拳を当てる。


「雫」


 散滅型戦闘術の一つ、雫。

 相手に拳を当てて衝撃を体内へと通す。言うだけなら簡単だがやるとなれば口では言い表せない程の難易度を誇る。

 それが、散滅型戦闘術の技。その中の一つをフィルは簡単に使って見せた。その拳が衝撃を叩き込んだ部位は、心臓。どんな生物だろうと傷つき止まればその時点で即死すると言っても過言ではない弱点へとフィルはその衝撃を叩き込み、破壊した。

 その結果は、即死。


「グォォォ……」


 フィルが魔獣の下を潜り抜けて行ってすぐに魔獣は小さく声を出して倒れた。

 その口からは大量の血が吐き出され、すぐに魔獣の姿は消えてなくなった。


「余計な内臓を傷つけた?」


 フィルは自分の感じた手応えに疑問を持つ。

 使えるとは言っても極めてはいないためどうやら勝手を間違えたようだった。これなら雫の裏の技、衝撃をそのまま突き通して相手を吹き飛ばしつつ内臓を破壊する共鳴の方が良かったかもしれない、なんて思いながらもフィルは立ち上がりそのまま前方で四足で立ち上がった魔獣へ向かって走る。

 フィルを迎撃するために吠える魔獣。しかし、その威嚇は単純な隙へと変貌する。

 走りながらの縮地。全速力の速度を超える速さで走り威嚇を強制的に中断した魔獣の目の前へとフィルは躍り出る。彼女の右手は、貫手。


「変則殲滅型戦闘術流星裏ノ一・槍穿!」


 貫手が魔獣の潰された右目を穿つ。

 だが、そのまま手を突き刺さない。痛みのあまりその動きを止めて悶えようとする魔獣を見てフィルはすぐさま次の技へと右腕を続ける。


「続き朔光ッ!」


 音の鳴る踏み込みと同時に強烈なアッパーが魔獣の顎に叩き付けられる。

 その瞬間浮かび上がる魔獣の上半身。その技は更に続く。


「続きッ!」


 そのまま飛び上がるフィル。空中でその体を回転させて踵落としの体勢へと移行する。


「瓦砕ッ!!」


 そのまま筋力に任せた踵落とし。魔獣の頭を捉えたその一撃は魔獣の顎を地面へと叩き付ける。

 彼女は師匠から学んだ事が幾つかある。その中の一つに、どんな生物も共通してとある武器を持つという教えがあった。その武器の名は『地面』。

 硬さは場所によって違うが、言えるのは人間の拳では叩き割れない程の強度を持つ即席の武器にもなるということ。それが生み出す副産物、岩や石は簡単に人間を殺す凶器にもなる。その大本である地面が凶器にならない訳がない。だから、彼女は習った。どんな物を相手にする時もまず相手に地面が有効かどうかを頭の中でシュミレートする事。そして地面が武器となるならそれを十全に使う事。

 ちなみにもう一つの簡単でありながら強力な武器として火があり、人間相手に放火が成功したら確実にぶっ殺せるとか聞いたのだが今の彼女は拳と地面を主武器としている。

 そして、今。魔獣は地面へと叩き付けられた。なら、衝撃を余すことなく相手に叩き付けることが出来る。


「もう一発ッ!!」


 そして更にもう一発、頭を上げようとする魔獣の頭に瓦砕を叩き込む。

 頭蓋にヒビを入れる感触がする。しかしまだ砕いていない。


「フンッ!!」


 そこから更に踵に力を込めて完全に力だけで頭蓋骨を蹴り割り、そのまま脳を潰す。


「……他愛ない」


 魔獣はそのまま消え去り、代わりに遺物を残して逝った。最初の一発以外何もしなかったレオンはフィルの筋力任せな殺害を若干引きながら見守っていた。

 この子には絶対に刃向かわないようにしようと誓って。



****



 血濡れのフィルを連れてレオンはとっととダンジョンから脱出した。あれ以上あの場に留まっていれば全自動魔獣引き寄せ装置となったフィルが次々と魔獣を呼び寄せて対処が効かなくなってしまうのが容易に想像できたため戦闘の余韻なんて無視して全力で突っ走った。

 その結果道中狼型の魔獣を数体屠っただけで被害は済み、結局二人はなんとかギリギリ夕食時と言える時間にダンジョンを脱出することが叶った。


「あー疲れた……ってフィル血生臭ッ!?」

「失礼な」

「いやいや割と本気で。多分そのまま駆除連合支部に入ったら通報されるレベルでヤバい」

「……そこまで?」

「そこまで。っていうか全身返り血で真っ赤なんだし考えてみれば当たり前か……」


 だが、そのまま駆除連合支部で食事をしたら確実に通報されてフィルが暫く衛兵に拘束される。というかレオンが料理をおいしく食べられない。それくらいに今のフィルは血生臭いのでフィルには一旦部屋に帰ってもらい、レオンが遺物を換金して食事を買ってきてから宿で渡す、という事にした。

 レオンも多少血生臭いが、この程度なら別に通報はされない。それ故に気楽にレオンは駆除連合支部へと向かった。

 駆除連合支部は夕食時という事もあってかかなり混んでおり、遺物の換金列もそこそこ長かった。


「あー……これはフィルを結構待たせるかな?」


 でも女の子のシャワーって長いらしいから別にいいかなと思いながらレオンは遺物の入った袋を片手に換金を待つ。

 朝から昼食としての携帯食料を片手に片っ端から出会った魔獣を蹂躙してきたせいか疲れが出てしまいついつい欠伸が漏れる。簡単に言えば疲れた。

 横にフィルがいれば適当は会話をして眠気をそこそこ弾き飛ばしながら列の消化を待つことができたのだが、生憎フィルは今ここにいない。だからレオンは何度か欠伸をしながら十数分。ようやく換金へとあり付いた。遺物を差し出しそれの集計、そして記録、金額の総計を計算を経て手渡された金は昨日稼いだ額の二倍以上はあった。

 純粋に狩った魔獣の数と熊型の魔獣を三体狩ったからだろう。一日でこれが普通になれば餓死や野宿の心配は考えずに済みそうだった。レオンは受け取った金を二等分……ではなくフィルに渡す分を少し多めに考え、列から離れた場所で財布の中の金を適当な物を仕切りにしてしっかりと用意する。

 何時も命の危機に率先して足を突っ込んでいるのはフィルだ。だから、ちょっとくらいフィルの報酬を水増ししたっていいだろうと思ったが故の行動だった。

 そしてそれを終わらせ何を買って帰ろうか、と考えながら視線を駆除連合支部の入口へと向けた。


「げっ……」


 そして自然と声が出た。

 その理由はレオンが顔を上げると同時に駆除連合支部に入ってきた、何人かの取り巻きらしき女を連れた男を見つけたからだ。

 一方的に知っている仲、ではない。互いによく知っている仲だ。知っているからこそ、会いたくはなかった。長男であるアルフ同様ここで金を稼いでいるのは知っていたがまさかこうも早くカチ会う事になるとは、と。面倒は避けたい、のだが恐らくあっちから面倒を吹っかけてくる。ここにフィルが居なかったのが幸いだ、と思いながら恐らく顔に浮かんでいるであろう嫌そうな顔に笑顔を張り付けて誤魔化し、出来ることなら相手が無視してくれるのを望みながらすれ違ってそのまま外へ出たいがために歩き始める。


「ん? おぉ? お前レオンか?」


 とか思っていたのだがやはりこの男は自分に対して見下した笑顔を浮かべて話しかける事を止めてはくれないらしい。

 溜め息を隠し数瞬のイラつきを込めた沈黙を乗せてからレオンは己に声をかけてきた男に対して他人行儀に挨拶を返す。


「どうも、お久しぶりですね。デイヴ()()()?」


 兄さん。

 人が人の名前の後にそう言葉を付ける理由はいくつかある。相手が自分と血の繋がる、もしくは繋がらない兄弟だった時、そして相手を兄と慕う時だ。

 そしてこの男。デイヴと呼ばれた男はレオンと血の繋がった兄弟だ。

 デイビット・アントニオ・ロハス。アルフの弟にしてレオンの兄。つまりはロハス家の次男だ。

 アルフはレオンと仲が良かった。が、デイヴとレオンの仲はレオンが彼を見た瞬間に漏らした声が悟らせるようにお世辞にもいいと言えるものではなかった。誰にでも優しい青年というイメージを持つアルフと比べるとデイヴはその真逆。己の才能と家柄を大っぴらにして女を好きなだけ食う。

 言ってしまえば色欲にまみれた男だった。

 そんな男故に、彼はレオンの事を心底馬鹿にしている。


「何だお前、家から出て行ったかと思ったらこんな所で。ここはテメェみたいな無能が来ていい場所じゃねえのわかってんのか?」


 ほらいきなり喧嘩腰だ。レオンは最早恒例とも言えるデイヴの煽りを真に受けずに溜め息を吐きたい気分になる。

 アルフは、あの両親にそれはもう厳しく育てられた。名家の出身として、男として、長男として恥じぬ男となるように。その結果アルフは才能が無ければ腹を痛めて産んだ息子をゴミ同然にしか見ないあんな両親の下に産まれたのにかなりの人格者となりレオンのいい理解者となった。

 が、代わりにデイヴは甘やかされ過ぎた。

 アルフに厳しきしすぎたかもしれないとデイヴにはそれはもう甘く接し続けた結果デイヴは昔は我儘でやんちゃなガキ大将。今は女をとっかえひっかえして権力に物を言わせる最低な男へと育った。

 レオンの性格が歪まなかったのは目の前にいる男がいい反面教師となり、両親から与えられる筈の愛情をしっかりとアルフから受けたからかもしれない。


「生憎、僕はもう貴方にとやかく言われる人間ではないので。何せあの家とは縁切りしたので貴方とも一切の赤の他人です。僕が何してようが貴方には関係ないでしょう?」

「テメェみたいな無能が目の前チラチラするだけでムカつくっつってんだよ。ロハス家の面汚しが」

「あぁそうですか。なら極力僕を見ないようにしてくれませんか? 僕も貴方と関わりたくないので」


 売り言葉に買い言葉。相手の煽りに対して言葉を返してしまう自分はどうにも子供だ、と心の中で今日何度目になるか分からない溜め息を吐きながらレオンは顔を近づけて胸倉を今にも掴もうとしてくるデイヴから距離をとる。この男、やっぱり路地裏で不良やっていた方が何倍も似合う。


「これから僕、仲間と明日の打ち合わせするのでそろそろ開放してもらってもいいですか?」


 明らかに自分の真正面を遮るように立つデイヴに自分でも不気味だと思うレベルの張り付けた笑顔で告げる。

 が、返ってきたのはレオンを心底小馬鹿にするあの笑顔だった。一回アルフ兄さんに折檻されればいいのに、なんて思いながらレオンは一応デイヴの言葉を聞く。


「ほぉ? テメェみたいな無能が仲間ぁ?」

「えぇそうですよ? フィリップは偶然出会って組むことになった落ちこぼれ仲間なので。良かったですねぇ。僕を馬鹿にできる材料が増えて」


 ここでサラッとフィルの名前を出しておく。

 もしも彼女の名前がありふれた女性名だったら名字の方を出していたが、フィルの名前は本人が軽いコンプレックスを抱いている通り男性名。だからサラッと口に出しデイヴには落ちこぼれ仲間は男なのだと伝えてからついでに自分に落ちこぼれ落ちこぼれと煽っても無駄だと軽い自虐をすることで伝える。

 ただレオンを馬鹿にして玩具にしたかっただけなデイヴはその自虐を聞いて興ざめしたのか舌打ちをした。この男はそうやって煽って突っかかってきた人間を更に煽って数で囲んでボコボコにして遊ぶのが好きな最低な人間だ。だから予めこう言っておけばこの男はイラつくが口を出せずに舌打ちをする。本当に我が兄ながら馬鹿で愚かだと心の内でデイヴを馬鹿にした。


「テメェ、あまり生意気してるとぶっ殺すぞ?」

「どうぞご勝手に。まぁ僕を殺したらアルフ兄さん辺りが衛兵に通報して独房一直線でしょうけど。それでもしたいのならどうぞどうぞ。僕は貴方のような人の人生破壊できるならそれで満足ですから」


 煽りに詰まればこうやって出来もしない脅しをかけてくる。小物の正明だ。

 レオンには彼よりも立場が上の兄、アルフの後ろ盾がある。今のデイヴの行動の数々はアルフが呆れ黙認しているからまかり通っているに過ぎない。故にアルフの後ろ盾をちらつかせればデイヴは何も言えない。


「じゃ、僕はもう行きますので。これからもう一生顔を合わせないことを祈ってますよ、デイビット・アントニオ・ロハスさん」


 こういう男の煽りは真に受けて顔真っ赤にしたら負けだという事を十四年の人生で既に学んでいるためレオンは適当に会話を終わらせて一度デイヴから距離を取ってから宿へと向かった。

 フィルと会わせると面倒なことになるから、絶対に会わせないようにしようと誓って。

噛ませ犬ZIKEI。なお普通に強い模様

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