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第五歩

「変則戦闘術、流星! 続いて朔光! 続き骸ォ!!」

「うわぁ出た必殺コンボ」


 昨日までの酔っ払いは何処へやったのか翌日。フィルは絶好調だった。

 ダンジョンへ入り目につく狼に向かって突進から繰り出す拳、流星を繰り出しそこから更に踏み込みアッパー、朔光を繰り出し、そして浮いた相手を骸で地面に叩きつける。相手は死ぬ。

 さっきから出会う狼が一体だけという事もあり、フィルはレオンの射撃のアシストによって生まれた僅かな隙をその必殺コンボを使い狼を屠っていた。屠るたびに彼女の衣服や顔、羽根に飛び散る赤色の液体は徐々に量と濃さを増していく。

 狼の頭蓋を砕き残心をするフィル。小柄な体から繰り出される拳はレオンが受けたら確実にそのまま必殺コンボで殺されるレベルだが、チラッと周りを見るとタレント持ちであろう人間は狼ごときまるで障害にもならないのか最早見る事も無く斬り捨てているレベルだ。

 タレントの有無。それだけで狼一体に苦戦するかしないかが出てきてしまう。そんな世界の理不尽さを噛みしめながらもレオンはフィルの持ってきた牙を労いの言葉と共に回収する。


「ふぅ……そろそろ下の階層に行ってみる?」

「え? あぁ、そうだね。狼型程度じゃもう相手にならないだろうし」


 少し他所の方へと飛ばしていた意識を戻しながらフィルの提案に乗る。

 ダンジョンとは、平面ではない。

 入り口である一階。そこから下の方へとダンジョンは続いているのだ。上にではなく下の方へと伸びた超巨大な自然の造り出した建造物。それがダンジョン。

 学者の一説によればダンジョンは超巨大な生き物であり、魔獣を産みだしそれを狩る人間を集め、その人間の発する魔力を食う事によって生きている、とか。言うならば人間に利益を出す代わりに餌を貰う、一種の共存を示そうとしている生物。それがダンジョン、らしい。

 中にはただの現象だ、とか偶然できた物だ、とか言う学者はいるが、ダンジョンが生み出す利益は巨大。今現在この大陸にある九つのダンジョンはこの大陸の三つの国がそれぞれ三つずつ保有している。そしてそのダンジョンを中心として都会化が進んでいる。なのでダンジョンの正体を知っても人々の認識は変わらず命を懸けて金を稼ぐ場所。それから変わらないのだ。

 閑話休題。

 フィルの提案はここから下の階層に行かないか、という物。そして下の階層に行けば行くほど、魔獣は強くなり代わりに落とす遺物の値段は高くなる。

 フィルもレオンも、今の自分達が何処まで通用するのかという有りがちな意識を持っているが故に階下に行く事に対するストップは出なかった。


「じゃあ階段を探そうか」

「あ、私知ってる。一人の時に何度か見た」

「そうなの? じゃあ案内してくれる?」

「もち」


 有翼ゴリラ少女の後ろを黙ってレオンはついていく。その間も索敵、とは言えない索敵だが周りに気を配るのを忘れず、いつでも奇襲に対する奇襲による流れの掌握をするために起爆銃を握る手は緩めない。

 だがその気持ちも杞憂に終わりレオンとフィルは二階層へと行くための階段の前に辿り着いた。

 大体入り口から歩いて十分程度の場所。五階層毎にあるという強力な個体、通称ボスとの決戦の部屋があるというボス部屋を攻略するまではこの階段をずっと使う事になる。もしボス部屋を攻略した場合はその先にある転送装置によって一階層と五階層をショートカット出来るようになる。

 ちなみにショートカットには一階層の入り口横にある小さな隠し通路を通り転送装置に乗って行きたい階層を口にする必要がある。が、生体認証等があるらしく、その転送装置を使って行けるのは攻略済みの階層だけだ。

 閑話休題。


「じゃあ、行こうか……警戒は怠らずに」

「分かってる。確か二階層からは熊型の魔獣も出てくる」

「うん。フィル、倒せる?」

「ちょっと、厳しいかも。でもやれる」

「わかった。頼りにしてるよ」


 まだ五階層を通過していない同い年あたりの少年がおっさきーと煽りながら階段を駆け下りていくのを無視して二人は意を決して階段を下りていく。

 レオンはフィルの事を内心、有翼メスゴリラなんて言ってはいるが、彼女が今までメスゴリラっぷりを発揮できていたのは相手が自分よりも小さいからだ。熊のような、自分よりも力が強くそして大きい相手に対しては所詮人間や獣人の筋力なぞ虫に刺された程度でしかない。

 それ故に、ここからは力ではなく技。如何に自分よりも筋力、反射、瞬発が勝っている相手を技で完封していくかが問題となる。

 人間はその差を埋めるために武器を手にした。だが、武器を手にしないフィルは、己が十年間培ってきた技のみで自分の体の何もかもを上回る相手を倒さなくてはならない。


「お願い、レオン。確実に先手を取れるようにして。じゃないと多分死ぬ」

「わかった。任せて」


 タレント持ちなら、二階層程度、笑いながらでも突破できるほどだ。

 だが、武器がないフィルでは技を使っても魔獣の筋力のみで全てを壊され死ぬ恐れがあるのだ。

 だから、確実に先手を取って相手を封殺する必要がある。一発でも攻撃が当たれば、恐らく再起不能になる。傷を癒す薬としてポーションが存在するが、瞬時に再生ではなく一旦傷を塞ぐ膜を作り傷口周辺の細胞の再生能力を強化するだけなので痛みは止まらない上にそんな物を買う金が今の二人にはない。

 故に、爪で思いっきり引っ掻かれでもしたらそれだけで出血多量で死ぬ可能性があるのだ。タレント持ちなら余裕でガードできるそれをくらって。


「……フィル、そこの曲がり角」

「大丈夫。こっちも把握してる」

「作戦は」

「出てきた瞬間を仕留めたい」

「無理ならこっちが流れを掴む」

「お願い」


 作戦の伝達は極めて迅速に、そして短く。

 フィルがその場で構え、レオンは大きくバックステップして距離を取り射撃のために片膝をついて起爆銃を構えいつでも射撃できるように構える。

 そして、相手は曲がり角から現れる。

 黒色の体毛に赤く光る眼。熊型の魔獣。それが四足歩行で姿を現した瞬間、レオンがその照準を瞬時に合わせる。そして、フィルは相手の大きさと頭の位置を確認し、参る。と小さく呟いて仕掛ける。


「変則殲滅型戦闘術、流星……ッ!」


 助走をつけ、そしてぶん殴る。その際に縮地を重ねる事によって破壊力を倍増させるのが流星。

 そんな初歩の技故に、そこから流星は様々な技へと派生する。

 本来は人間を相手に想定されている武術。それを魔獣用へと徐々に変化させたが故に生まれた様々な技の裏。その中の一つ。大型の、動物に似た魔獣を不意打ちで倒すための技。


「裏ノ一・槍穿(そうせん)ッ!!」


 作るのは拳ではなく手刀。それを縮地を合わせた爆発的な助走により勢いを乗せ、突き刺す。

 指先で毛と皮膚を破れる程、彼女は強くない。

 それ故に狙うのは、目。どんな生物だろうと柔らかく、そして穿たれれば激痛を発生させる事が出来る部位。そこを完全なる不意打ちの槍穿により、穿つ。


「グオオォォォォォォォォォォォ!!?」


 魔獣が吠える。己の視界が半分闇に閉ざされた瞬間に発生する激痛に。

 だが、フィルは止まらない。そこから更に確実に魔獣を封殺するためにフィルは目から腕を引き抜くと羽根を伸ばし魔獣を足場にして飛ぶ。

 鳥獣人としての特徴でもある羽根を使って僅かに上空への飛距離を伸ばし、ダンジョンの天井へ足をつける。そして、魔獣の動きを完全に見切り、天井を蹴る。


「続き、変則殲滅型戦闘術瓦砕(がさい)裏の二・落星ッ!!」


 殲滅型戦闘術の中の一つ、踵落としで相手の頭蓋を砕く技、瓦砕。それの変則型であり、裏の技。天井を蹴り更に勢いをつけた踵落としを相手に叩き込む相手を確実に殺すための技、落星。

 それを痛みに悶える魔獣の頭に、叩き込む。

 四十キロ近くの人間の、天井を蹴るという異例の技を使った踵落とし。ダンジョンの天井までは二十メートル以上も距離があるが、それを己の筋力と翼のみで詰め、そして蹴り、踵を叩き込む。

 だが。


「グルォオオオオオッ!!」

「まずっ、仕留めきれ……ッ!?」


 仕留めきれない。

 フィルが成人男性並みに体重が重ければ、殺せただろう。

 だが、フィルの落星は魔獣の頭を地面に叩き付け、己の踵と地面で挟み衝撃を一切逃がす事無く頭蓋にヒビを入れるまではよかったが、そこで止まった。

 痛みに次ぐ痛みにより魔獣は完全に我を失い前足を振るい首を振るう。フィルを叩き落し殺すために。


「ぐぁっ!!?」


 仕留め損なった。その事実に一瞬フィルの思考が止まる。その一瞬が魔獣に反撃のチャンスを与えフィルの体に魔獣の腕が炸裂する。

 それを籠手で防いだはいいが、フィルの少女故に軽い体はその一撃で成すすべなく吹き飛ばされ地面に叩きつけられる。

 ダメージは小さい、訳がない。受け身を取ることに失敗しダメージは加速する。今まで使っていた地面という武器を自分にぶつけられ、衝撃が己の内にダメージとして留まる。


「いっつぁ……」


 声を漏らすくらいの痛みに耐えながらもフィルは立ち上がる。

 だが、顔を上げると正面には自分を殺すために血を流しながらも走ってきている魔獣がいた。

 自分の体重以上の物体が自分が走るよりも速い速度で繰り出す突進。

 それに無事でいられる人間なんていない。それこそ人外くらいしかその肉体の砲弾という武器に耐えられる者はいない。まだ人間というカテゴリから抜け出せていないフィルがそれをマトモに食らえば、死ぬ。

 魔獣の頭が体に突き刺さり、体の骨という骨を折り、内臓を傷つけ即死級の致命傷を与えることだろう。

 ここにフィルと魔獣の二体のみが存在しているのなら。


「ジャックポット……ッ!!」


 小さく声が響く。

 次いで聞こえるのはハンマーが薬莢を叩く音であり、その直後に魔獣の無事だったもう片方の目からは血が噴き出した。


「フィルッ!! トドメを!!」


 下手人は、フィルの仲間、レオンだ。レオンの才能とも言える射撃技術が魔獣の目を穿った。

 魔獣は残った目を穿たれ走るバランスを崩してその場で倒れる。ならば、トドメを刺すなら今しかない。

 痛みを訴える体を動かし、拳を握る。

 この程度の痛み、どうということはない。ならば、戦える。殺せる。屠れる。


「変則殲滅型戦闘術ッ……!」


 走り、飛ぶ。

 狙うは先ほど踵落としを叩き込んだ頭蓋。

 そこを割り、脳を潰す。そして、殺す。

 そのために、もう一度、同じ技でを叩き込む。


「瓦砕裏ノ二・落星ッ!!」


 魔獣を踏み台に飛び、そして天井を足場に急降下。そして踵落としを叩き込む。

 頭蓋が完全に砕ける感触と脳を潰す感触を感じ、フィルは魔獣の潰した頭を足場に後ろへと飛び、残心。魔獣が消えていくのを見送った。


「ふぅぅぅ……」


 二階層での初戦闘は、無事にフィルとレオンの勝利に終わった。

サラッと動物の頭蓋骨とか叩き割ってる辺り有翼メスゴリラ

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