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第二歩

ヒロイン登場

 キャルト・ア・ジュエ。それがレオンの持つ起爆銃の銘だった。

 そんな立派な名前がついているがこの起爆銃は適当な露店で見つけた安物の起爆銃だ。銃の銘はグリップにそう彫ってあるだけで誰が作った、とか語源は何か、とかはサッパリ分からず、所詮は量産された安物だろうとしか思えなかった。

 それでもこれを買った理由は、他の起爆銃とは違ってホルスターが付属してきたというのと、謎の一直線の溝があるが銀色と金色の塗装と装飾が何となくカッコよかったからだ。若干ボロボロだったが全然使える域にあるホルスターは今もレオンの足で仕事をしてくれているが、中古品らしいのでちょっと買い替えたいとは思っている。気づかない内にホルスターが千切れて何処かにホルスターと起爆銃が行方不明です、なんてことにならないように。

 そんな起爆銃を持っているレオンではあったが、起爆銃を持っているが故に仲間は見つからなかった。

 仲間を見つけようと決めて三日。昨日、初めて魔獣をダンジョン内で倒して金を稼げたのでこれから先飢えて死ぬ事は無いとは思うし起爆銃の使い方もようやく慣れてきたので稼げる金は増えていくとは思うのだが、起爆銃は前衛のサポート用の武器。一人で戦うのには致命的なまでに向いていないのだ。

 これではその内死ぬ。そう思いずっと仲間を募集するために張り紙を掲示板に貼っているのだが誰も来てくれない。当たり前だ。起爆銃を使うと言う事は自分は魔法使いになれなかった魔法使いです、なんて豪語しているのと同じなのだ。そんな将来足手まといにしかならないかもしれない人間を仲間にしたいなんて思う人間はまずいない。

 同年代の連合員三人が笑いながらカウンターで討伐した魔獣の落とした遺物を出して代わりに金を貰うのを傍目に、レオンは溜め息を吐く。あの家に居た頃は友達を作る事も出来なかったからなぁ。なんて自分の産まれのせいにしてみてもどっちにしろ辛いだけ。

 レオンは店で習った起爆銃のメンテをテーブルの上で済ませると溜め息と共にホルスターに仕舞う。キャルト・ア・ジュエなんて大層な名前が付いてはいるが所詮、戦う力が無い、戦いに関しては落ちこぼれどころか失格レベルの人間をなんとか凡人に限りなく近い落ちこぼれにまで引き上げてくれるだけの物だ。レオンは自分の非才を今までにないくらい恨みながら今日もダンジョンへ潜るために立ち上がる。


「――そこの君」


 だが、丁度そこで声をかけられた。

 いや、自分じゃないかもしれない、なんて思いながらスルーしようと歩を進める。が。


「む、無視しないで」


 その言葉であの呼びかけは自分に対する物なのだとようやく気が付いた。まさかこんな子供に声をかける人間が居たなんて、等と少し心の中で自虐しながらも声をかけられた以上、無視は失礼だ。

 そして、この声が自分にかけられた物ではないと思ってしまった理由として、この声は確実に少女の物だと思ったから。女の子と接点なんてこの十四年で一度も無かったレオンだからこそ、あの呼びかけは自分のものではないのだと思っていたが、女の子が声をかけてきたのなら無視が出来る訳が無い。かけられた声に無視なんて、レディに対する仕打ちではないからだ。


「あぁ、ごめん。僕にかけた声じゃないと思ってね」


 苦笑しながらも振り返る。

 そして、振り返った先に居る少女を見て、レオンは少しだけ息を呑んだ。

 何も声をかけてきた少女が予想以上に可愛くなかったから、なんて失礼な理由ではない。むしろ声をかけてきた少女の容姿はとても整っている。美少女と言っても過言ではない。

 だが、レオンの視線が行ったのは彼女の顔ではない。彼女の背から見える、一対の物。

 翼。

 純白の翼が彼女の背中からは生えていた。


「……えっと、鳥獣人の子が僕に何か用かな?」


 レオンの二の言葉は、ほんの僅かにだが詰まった。それは、彼女の種族が分かってしまったからだ。

 鳥獣人。

 この世界に存在する四種類の獣人の内の一つであり、見分ける方法は至って簡単。羽が生えているか生えていないかを見ればいい。

 故に、家を追い出されるまであまり家を出たことが無かったレオンでも、彼女は鳥獣人である事は一目で分かった。

 そして、レオンが二の言葉を放とうとし、一瞬だけだが詰まった理由。それは、鳥獣人という種族は獣人の中で最も魔法が得意と言われているからだ。それ故のコンプレックスが生み出した、僅かな言葉の詰まり。しかし、少女はそれに気づいているのか気づいていないのか。レオンの言葉に首肯で返した。


「あそこの掲示板で仲間を募集中って書いてあったんだけど……」

「あぁ、うん、そうだけど」


 だが、あの紙には前衛募集としか書いていない。

 鳥獣人は魔法が得意だ。反面、前衛職に対する才能は全くと言っていいほど無いのが一般的。過去の鳥獣人をリストアップしていっても前衛で戦った鳥獣人なんてそう簡単に見つからないだろう。

 それ故に、彼女も後衛職だという事は簡単に想像は付いた。想像は付いたのだが、掲示板を指さした彼女の手を見て少し目を見開いた。彼女の手には明らかに何度も使ったであろう、血痕の付いた籠手が装備されていた。よく見れば彼女の足にも脛当てがあり、魔法使いは軽装が主流なのに彼女はまるで前でぶん殴ってますとでも言いたげな防具で全身をガッチリと固めていた。


「……仲間に入れてほしい」

「いや、でも君鳥獣人でしょ? 僕は後衛だから、バランスよく前衛の仲間を探してたんだけど……」


 いやいや、そんなまさか。なんて思いながらも一応確認する。

 だが。


「私は前衛」

「ま、魔法は? ほら、鳥獣人って魔法が得意らしいし……」

「…………使えない」


 その言葉に今度こそ目を見開いた。

 鳥獣人が? 魔法を? 使えない? そんな馬鹿なと。だが、彼女の言葉通り彼女は魔法使いとして必須とも言える杖を持っていなければ魔力を感じ取る事も出来ない。魔力を持つ人間は軽くではあるが他人の魔力を感じる事が出来るのだが、彼女からはこれっぽっちも魔力を感じられないのだ。

 そんな馬鹿なとは思いつつも目の前に居る少女は本物の鳥獣人。もしかして彼女、自分よりも色々と可哀想な子なんじゃ、なんて失礼な事を思いながらもレオンはその考えを一旦払拭するために咳払いをする。


「え、っと。じゃあ武器は? 前に行くんならそれこそ何かしらの武器のタレントがあると思うんだけど……」


 タレント。簡単に言ってしまえば武器を扱う才能である。

 タレントを発現させるための特殊な武器を握る事によって発現するタレントは今や前衛職の人間にとっては必須とも言える物であり、魔力を持たない人間の内八割近くはタレントを持っている。しかし、魔力を持つ人間は絶対にタレントに目覚めることは無い。

 彼女が前衛職ならば何かしらのタレントを持っている筈だと。そう思い聞いてみたのだが。


「ない」

「え、えぇ……」


 彼女は前衛職に必須とも言えるタレントを持っていないと断言した。長年嘘や虚言に引きずり回されたレオンだからこそ養う事が出来た嘘か本当かを見抜く力は彼女の言葉が真実だと言っていた。 

 と、なるとだ。タレントを得ずとも使える武器は一種類。そう、拳のみ。

 彼女の血痕がこびり付いた籠手はまさか魔獣か人間を文字通りぶん殴ってきたという事なのだろうか。魔法も、タレントも無いから信じられるのは自らの体だけと言って鍛えてぶん殴ってきたのだろうか。

 ある意味彼女は自分よりも悲惨な人生を歩んできたのでは、と思う。思ってしまう。思ってしまうが故に同じように魔力がありながらも魔法が使えないレオンは同情してしまい、今すぐ断るという選択肢が頭の中から抜け落ちてしまった。抜け落ちてしまったのだが、様子を見て断るという選択肢は未だに残っている。レオンだって、組むなら前衛のタレント持ちがいいという希望くらいは持っている。


「ぼ、僕、起爆銃しか使えないけど大丈夫? まだここで稼ぎ始めてから一週間ちょっとの新人だし、まだ魔獣だって一体しか……」

「大丈夫。むしろ一週間ちょっとで一体なら伸びしろはある。私は一か月で一体だったから」


 そりゃ武器が拳ならそうでしょうねと思った。

 魔獣は人間ではない。獣の形をしたナニかだ。それを武器を使わず拳一つで撲殺するなんて真似はそうそう出来ない。というかレオンなら無理だ。撲殺に挑んで数秒で食われる自信がある。むしろ拳で魔獣を撲殺出来た彼女を一瞬だが翼の生えたゴリラとまで思ってしまった。

 レディに対して失礼な事を思ってしまったことを恥じながらもこれはもう一旦組むしかないと腹を括る。


「じゃあ、ひとまずお試しで組んでみよう。で、もしも相性が悪そうなら解散。これでどうかな?」

「問題ない」


 人によってはこれは組みたくないと言っていると同義かと思われるかもしれないが、仲間というのはこれから先、幾つもの死線を共に潜り抜けていく運命共同体だ。だから、相性が悪いのに組み続けるというのはそれこそ自殺行為でしかない。

 だから、こういうお試し期間というのはどんな仲間だろうと一回は経験しているのだ。


「じゃあ自己紹介。僕はレオナルド。レオナルド・ジャック・ロハス。親しい人はレオンかジャックって呼んでくれる」

「レオンだね、覚えた。私はフィリップ・ウィングフィールド。フィルって呼んで? むしろ呼んでくれないと怒る」

「わ、分かったよフィル……」


 なんだかグイグイ来る子だなぁと素直な感想を抱きながらも同時にフィリップって男の名前だったような、と思う。

 が、そこら辺を触れてほしくないのかなぁと察してちゃんとフィルとレオンは呼ぶ。フィルはそれに満足したのか小さく微笑んで頷く。その動作に少し心臓を高鳴らせながらもレオンは表情を普通の状態で維持してフィルと共にダンジョンへと向かった。

 そしてダンジョンにてフィルに対して思った翼の生えたゴリラという単語はあながち間違いじゃないと思うのであった。



****



「変則殲滅型戦闘術、流星ッ!!」


 フィルの叫び声が薄暗いダンジョン内に響き渡り、突っ込んできていた狼型の魔獣の顔面にカウンターのような形で音が鳴る程の踏み込みと共に繰り出された拳が突き刺さる。

 その拳は狼の顔面の骨を殴り砕く音を鳴らしながら牙を折り、血を撒き散らしながら狼を殴り飛ばす。

 だが、狼は一体ではなかった。二体目の狼がフィルの背後を一瞬にして取り、フィルの背中に向かって飛びかかる。

 鳥獣人の羽根には勿論痛覚がある。それ故に羽根に噛み付かれて出血するだけでもフィルの動きは鈍るし出血による大けがは免れない。が、それを防ぐために後衛というのは存在する。


「……っ!!」


 息を呑み、素早い動きをする狼の先を読んで何発かの弾を放つ。

 起爆銃というのは魔力を弾丸に加工して放つための武器。リロードも必要だが、撃つときの音はほぼ無音。だからこそ、奇襲を仕掛けた狼が逆に後衛のレオンからの無音の奇襲が目に当たり体勢を空中で崩す。

 キャイン! という犬らしい悲鳴と共に狼は吹き飛ぶ。その声を聞いたフィルはすぐさま後ろを向き、奇襲の恰好が崩れた状態で吹き飛んでくる狼を視界に入れる。


「変則戦闘術、楓ッ!」


 奇襲に気が付いたフィルの、回し蹴り。そして、その回し蹴りの勢いのまま相手を脚で地面にまで誘導し、そのまま踏みつけて頭蓋を砕く。

 血が飛び出る音と頭蓋が砕ける音が同時に響き、レオンが思わず口元を抑える。

 頭蓋を砕かれ脳すらその一撃で変形。いや、潰れかけたであろう狼はそのまま絶命。その姿を青色の粒子へと変えて消え去っていった。代わりに残っているのは、鋭い牙。

 これが魔獣を倒したという証拠。遺物だ。魔獣は死体として残らず、代わりに遺物を残す。その遺物にフィルは目もくれず先ほどカウンターで殴り飛ばした狼へと視線を向ける。


「グルルルルル……」


 唸る狼。しかしフィルの戦意は衰えない。

 拳を握り構えを作る。そしてフィルと狼はにらみ合い……


「……そこっ」


 呟きながら放たれた魔弾が狼の眉間に直撃する。

 爆ぜる魔弾。その魔弾は頭蓋を貫く威力は無かったが狼が反応できない速度で眉間の皮膚を、肉を軽く割り出血を促す。爆ぜるかのように血が噴き出し視線がフィルから外れたその一瞬。フィルは走り出す。

 距離にして、十歩分。それを縮地と呼ばれる、踏み出した足が地に付いた瞬間に前へと滑らせ距離を稼ぐ技法により加速して一気に狼までの距離をゼロにし、拳の間合いへと持っていく。


「変則殲滅型戦闘術、朔光っ!」


 そして、一切の隙を見せない綺麗な音が鳴る踏み込みからのアッパー。

 狼の顎を捕らえたそれは少女の腕力によってその体を宙に浮かせてその体を空中で半回転させる。

 しかし、それだけでは終わらない。いや、殺しきれていない。顎の骨を砕いた感触はあったが、それだけではまだ完全に殺しきれていない。故に、アッパーに使った右の拳をそのまま開き、そして砕いた顎をそのまま掴む。


「続いて骸ッ!!」


 顎を掴んだ手で狼の体の回転をアシストして加速させ、その頭が地面へと当たる時開いた手をもう一度開き、そして握り拳に変え、狼の体を回転させた力をそのまま拳の力へと変換し、頭が地面に打ち付けられ一瞬その反動で浮いた瞬間に拳を顎に叩き込み地面と拳で狼の頭を挟み込む。

 再び頭蓋が砕ける音と血が飛び出る音……いや、何かが潰れる音が響き、狼が絶命。その姿が消え、代わりに牙が残る。


「ふぅ……お疲れ、レオン」

「お、おつかれ……」


 拳、足、顔に返り血を浴びた美少女に微笑まれたレオンは軽く引きながらも労いの言葉に労いの言葉を返す。

 変則殲滅型戦闘術。それが、拳で戦うフィルの武術の名前だった。

 タレントという才能に対して追いつくための、拳の業。言うならば起爆銃と同じような非才が天才に追いつくための手段。フィルはそれを習い、修めていた。

 戦う姿は正しく凜とした花のように綺麗で、美しかった。美しかったのだが、そこに返り血が混ざってとってもバイオレンスに見える。まさか女の子が拳で狼にカウンターをぶち込んだり、蹴りで狼の頭蓋をカチ割ったり、明らかにレオンを凌駕している反射速度でアッパーを決め込みそこから顎を掴んで地面に叩きつけると同時に拳を叩き込んで頭蓋を砕くなんてもう翼の生えたゴリラが間違いではないとしか言いようがない。

 これで何で一か月も魔獣を倒せなかったんだと思ってしまう。いや、思うしかない。何故なら今のフィル、明らかに下手なタレント持ちよりも強いとしか思えないのだから。


「す、凄いねフィル。その、なんというか……勇ましかったよ」

「そこはお世辞でも綺麗だったとか言ってほしかった」


 綺麗だった。綺麗だったが、それ以上に。


「いや、ほんと、うん…………ゴリラだった」

「ん? 何か言った?」

「すみません何でもないです許して!!」


 つい口を滑らせてしまった結果胸倉を掴まれて笑顔で凄まれた。顔に付いた返り血と拳の返り血が良い味を出している。

 だが、こうして口を滑らせてしまうくらいには彼女の実力は本物だった。これで何で仲間が出来ていないのか。いや、何故自分を選んだのか。それが不思議で仕方が無かった。


「まぁ許してあげる」

「あ、ありがとうございます……」


 胸倉を離され、フィルが牙を回収して懐のポーチに仕舞う。

 その様子を視界に納めながら、どうせなら聞いてしまおうとレオンは口を開いた。


「ねぇ、フィル。フィルはどうして僕を選んだの? 僕よりもいい人なんて沢山いるのに」


 仕方がないから組んでいたのは事実だ。しかし、彼女はタレントが無いにも関わらずレオンの理想的な動きをしてくれた。

 だから、彼女がこれから先も組んでくれるのならレオンは諸手を振って歓迎する勢いになった。完全な手のひら返しだった。

 だが、レオンにとってフィルという少女の力はそれだけ魅力的であった。

 だから、聞いた。そんな彼女が自分のような落ちこぼれを選んだ理由を。


「理由は……えっと、特にない?」


 嘘だ。顔が嘘を物語っている。

 顔色を窺うようにこちらをチラ見してくるフィルに対して今度はこっちが笑顔を返す。全部わかってるからホントの事吐けと。

 その笑顔を何度も見てフィルは申し訳なさそうに口を開いた。


「……起爆銃使ってるなら弱くて誰も仲間が居なさそうだから、仲間になってくれるかなって」

「あぁ、うん……まぁそんな事だろうとは思ってた」


 そのフィルの言葉に対して怒りは抱かない。むしろ起爆銃を持っている人間の仲間になろうと思ってくれたことに感謝の念を抱いたくらいだ。

 だが、それならあと一つ疑問がある。

 何故これだけ強いのに仲間がいないのか。


「じゃあどうして今まで仲間を作らなかったの? フィルくらい強いなら仲間になってくれる人なんているんじゃ……」

「鳥獣人で前衛なんて誰も求めてくれなかった。タレントも無くて魔法も使えない鳥獣人なんて、仲間にしても無駄だし、私の成長もそろそろ限界だから……」


 それは嘘なんじゃないか。そうは言えなかった。むしろ彼女の言ったことはこれ以上ないくらいしっくりくる答えだったし、彼女の顔は嘘を語っていなかった。

 鳥獣人とは本来、魔法を得意とする種族。それ故に拳を作って前に出ていく鳥獣人はそれこそお呼び出ないと一蹴される。弓のタレント持ちだろうと、魔法の才能がある人間だろうと、レオンのような人間だろうと、前に行く鳥獣人なんて明らかなお荷物としか思えないのだ。

 タレント持ちとそうでない人の強さは最終的に天と地ほどにまで広がる。フィルは下手なタレント持ちよりも強いと思える位の強さを持っているのだが、その下手なタレント持ちも一年ちょっと戦えば今のフィルを簡単に抜かす事は可能だ。そして、タレント持ちに追われて追い越されていくうちにフィルの成長は打ち止めとなり、置いて行かれる。

 死ぬまで背中を預けるであろうパートナーがタレント持ちに手も足も出ない程弱いと分かっているから、誰もフィルとは組みたがらない。レオンのようにもう誰でもいいから仲間になってくれと言う人間以外は。


「……まぁ、僕にとっては凄くありがたいよ。こんなに強い子が仲間になってくれるなら」


 既にレオンは彼女と本格的に組んでやっていく気が満々だった。それはフィルも同じようで微笑みながら彼女も口を開いた。


「私も。レオン、弾の威力が無いだけで援護は良かった」

「そ、そう?」

「パワー不足だけど、的確な奇襲潰しと援護。もしも奇襲を潰してくれなかったら私、大怪我してた」


 フィルなら噛み付き程度耐えて力でねじ伏せそうだけど、という言葉は何とか飲み込んだ。これを口にしたら自分も拳と地面に頭蓋を挟まれて砕かれるに決まっているから。ゴリラ少女フィルの地雷となりそうな言葉はなるべく口にせずに飲み込む。


「そう、かな? 自覚はないけど……」

「私なら当てられない。だって……」


 フィルはそう言うとレオンの起爆銃をひったくり、懐のポーチから先ほど拾った牙を取り出し投げ、それを狙い撃つ。

 四回引き金が引かれたが、空中にある牙には一発も魔弾は当たらなかった。


「この通り。これよりも小さい上に速く移動する狼の目に当てるなんて絶対無理」

「そう?」


 自覚が無いレオンは返された起爆銃を手に持ってシリンダーを開いて起爆銃のアシスト機能によって動かした魔力を弾丸の形に加工して弾丸をシリンダーに納める。ここ一週間で慣れた動作だ。恐らく実戦中でも間違うことは無い。

 リロードを終えたレオンは落ちた牙を手にして放り投げ、六回引き金を引く。

 撃ちだされた魔弾は六回全部、空中を躍る牙に当たり、牙は地面に落ちた。


「案外簡単だよ?」

「それはない」


 レオンは澄ました顔で言っているがやっている事は超人のそれである。

 だが、起爆銃というのはどうしても威力不足が目立つ物。これだけ出来てもレオンは弓のタレント持ちや魔法使いからしたら雑魚でしかないのだ。レオン一人ではあの狼すら倒すのに一時間近くかかったのだから。しかも、最後は魔弾ではなく銃床を使って撲殺でしか決める事が出来ない。


「取り敢えず、まだ時間はあるし次行こうか」

「うん……で、その返り血は……」

「帰るまで拭かないけど?」

「そ、そう……」


 怖いから拭いてほしいなぁと思いながら、返り血が付いた手で握ったからかべっとり赤色の物が付着した己の起爆銃を服で拭きながらレオンはフィルの後を歩いた。

ハーメルンにてついたあだ名は有翼メスゴリラ、羽ゴリラ、エクストリームメスゴリラ、エクストリーム有翼メスゴリラ等々。

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