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第一歩

ハーメルンにて投稿していた物をこちらでも投稿。


前に書いていた作品が謎の削除をされたため怖いです

 努力が実を結ぶのは、下手が常人となる時だけだ。

 それが、魔法使いの名家に生まれた少年、レオナルド・J・ロハスの思った事だった。

 人生と言う物は、十パーセントの努力と九十パーセントの才能によって勝ち組か負け組かに分かれていく。才能が無ければ人間、どれだけ努力をしようと九十パーセント、努力した天才に負けるのだ。才能が無い人間が、才能がある人間に食らいつく事なんて、不可能。

 それが、人生という物。産まれた時に得たたった一つの才能によって負け組か勝ち組かハッキリと別れてしまう、理不尽な物。

 レオナルドは、産まれて数年でそれを悟った。悟らざるを得なかった。

 ――魔法使いの名家出身でありながらも、魔法が使えない。魔力はあるだけで、魔法を使う事が出来ない。まだ産まれて数年のレオナルドはそれでも努力次第で魔法が使えるようになると、魔法が使えないというだけで自分を冷遇する家族を始めとした家の人間の圧に耐えながらも努力をした。

 が、その努力は実を結ばなかった。

 レオナルドは十四歳になった今日この日まで、魔法を使えなかった。

 魔法陣を正確に描く事も、魔力を動かす事も、詠唱を確実に噛まないよう、イントネーションも何もかもを完璧にしても。常人なら投げ出すレベルの十年近くの努力も。全て、全て全て全て全て全て。無駄だった。魔法の才能がある人間なら感覚だけで出来る事を凡人が努力で補おうとして、無駄だった。

 だから、悟った。この世界は九十パーセント……いや、それ以上の才能とそれ以外の努力だけで構成されているのだと。才能が無い人間は、生きていても何の価値もない人生を歩むのだと。ただ、悟った。だからか。


「レオナルド。お前は今日限りでこの家を出ていけ。今すぐにだ」

「……はい、分かりました。お父さん」


 父からの縁切りの言葉を、何の反発も無く受け入れる事が出来たのは。

 知っていたから、とも言える。この家は魔法使いの名家。故に、魔法が使えない人間が何年も家族として存在していていい場所じゃない。

 幸いにも、苗字は変える手段が無いし、そこそこ有り触れている苗字だからかそのままでいいと言われた。しかし、今後一切、この家には関わらないという条件を無理矢理に飲まされ、何の選別も無く自分の数着の服だけを纏めて出ていく事になった。

 父はとても強い魔法使いだ。それ故に、自分の息子がここまで非才であり、不出来である事が許せなかったのだろう。レオナルドもそれは分かっていた事故に何の反発もしなかった。

 執事やメイドからも白い目で見られながら何時も通りに家の中を歩き、家の外にある使われていなかった物置部屋を改造しただけの小さな部屋の中から少ない私物である衣服だけを纏めて部屋を出る。十年近く住んでいたこの部屋を離れるのはなんとなく寂しかったが、それでも仕方がないと視線を逸らして家の敷地から出るために歩く。


「……レオン、お前はそれでいいのか?」


 だが、敷地を出る前に後ろから声をかけられた。

 振り返ればそこにはこの家の中で唯一優しくしてくれた兄が……長男であるアルフレッド・ロハスが立っている。


「アルフ兄さん……別に、大丈夫だよ。それに、近々こうなるのは分かってたから」

「そう、か……」


 レオン。そしてアルフ。それは彼等が親しいからこそ呼ぶ、互いの愛称だった。この家でこの名前を口にする存在は、この二人しかいない。


「……なぁ、レオン。俺が当主になったらお前をこの家に戻す事だって出来る。出来るが……しない方がいいか。お前はこの家でいい思い出なんて、一個も作っていないからな」


 長男であるアルフは、優しい男だった。

 魔法の才能があり、魔力もこの家の中で誰よりもあり、そして優遇されていた。そして、この家の中で誰よりも優しかった。それ故に、周りから白い目で見られるレオンであろうと彼は優しく接し、レオンも彼の優しさがあったから今の今までこの家で生きていく事が出来た。

 だが、そんな彼に家に戻ってくるか? と言われても彼は戻りたくないとしか言えない。例えアルフが当主になろうと彼と、その嫁以外の人間は全員がレオンを良くは思わないだろう。

 それはレオンもアルフも分かっている。分かっているから、レオンはここで家を出ていくのが正解なのだと思わざるを得なかった。


「でも、アルフ兄さんは別だよ。アルフ兄さんには、ずっとアルフ兄さんで居てほしい」

「勿論だ。俺は何があろうとお前の兄貴だよ」

「ありがとう、アルフ兄さん」

「……これくらいで礼を言われるなんて、な。この家はやっぱり相当腐っている」


 兄弟が兄弟として居るだけで、礼を言われる。

 それが普通じゃないなんて事は分かり切っている。その普通が出来ないというのがどれだけ可笑しいのか。分かっている。分かっているのだが、まだ当主でないアルフは何もできない。

 せめて、こうして異常だと分かっていながらも兄としてずっと居てやるという言葉をレオンに言ってやるしかアルフには出来なかった。


「そんな事はないよ。僕が魔法を使えなかったのが悪いんだ」

「それこそ違う! 才能が無ければいる事さえ許されない家なんて!!」


 自分の境遇を受け入れたレオン。そして、それが可笑しいと思うアルフ。どちらもどちらを思いあっての言葉故に、譲れない。譲れないのだが、レオンは兄に向って大丈夫だからと笑うしかない。

 アルフも、ここで何を言ってもレオンの状況は変わらない。それが分かっているから口を閉じるしかなかった。

 すまないと。こうして見送る事しか出来なくてすまないと思いながらもアルフは懐から紙の袋を取り出すとレオンに直接渡した。レオンが中を見ると、その中は金だった。レオン位の子供なら、宿暮らしでも一か月は生活できそうな、大金とも言える金。


「餞別だ。もしも足りなかったら家に来い。完全に一人立ち出来るまでは金なんて幾らでも出してやるしアビーにも言って家に住ませてやる。いや、今からでも俺の家に来て……」

「さ、流石にそれはアビー義姉さんにも迷惑だよ。でも、大丈夫なの? こんなにお金を渡してくれて……」


 レオンは少し負い目を感じていた。

 アルフはまだ新婚。家に隠れてこっそりとした結婚だが、それ故に家の金は使えない。だから、これはアルフが自力で稼いできた、アルフとアビーの金だ。それを、こんなにもくれて大丈夫なのかと。

 だが、アルフは何の影も感じさせない顔で大丈夫だと告げた。


「これでも稼いでいるんだ。その程度なら幾らでも出してやる」


 それは事実なのだろう。アルフ並みの才能がある人間なら、この程度の金、数日もあれば稼いでみせるだろう。

 アルフにとってこの金はこれっぽっちと言える額だ。だから、アルフからしたらこの倍以上の金を渡したいのだが、妻であるアビーがこれ以上はレオンが受け取らないと言ったため泣く泣くこの額にした。

 だから、この言葉は欲しかったら欲しいと言え、と言っているのと同義だった。

 しかし、レオンはそう口にしない。


「ありがとう。でも、これから僕は一人立ちするんだから、お金を貰うのはこれっきり。一人で生きていく土台が出来たら遊びに行くね?」


 これを新たな旅路の路銀にして生きていく。そうアルフに告げる。もしもこれ以上の金を渡されたらレオンは受け取らない気でいた。いや、この金すら受け取るのには少し忍びなかったが、受け取らないとアルフの方が納得しないと分かっていたため受け取るしかなかった。

 そんなレオンの内心を何となく察したアルフはアビーの言う通りだったと思いながらもレオンから離れる。


「あぁ。何時でも来い。困ってなくても困ってても何時でも来い」

「うん、ありがと」


 兄だから。弟だから、この程度の助けはしてやるのが道理だと思い言った言葉をレオンは受け取る。


「ちなみに、これからどうする気だ? その金じゃ流石に他の街まではいけないと思うが……」

「暫くはこの街に居るよ。駆除連合で連合員になって、ダンジョンでお金を稼ぐつもり」

「ダンジョンって……本当に大丈夫なのか? 言いたくはないがお前は……」


 戦う力は無い。言葉の尻を濁してそう伝えるがレオンは笑顔で大丈夫と告げる。


「この間街に出たら魔力があれば使える武器を見つけたんだ。それを買って、なんとかやってみる」

「魔力があれば……あぁ、起爆銃の事か」

「うん。あれなら僕でも戦えるから」


 魔力がある非才が、才能に追いつくために造られた武具。それがあれば、例え戦う力が無くても戦える。その力で、一人で生きていくための土台を作る。

 非才故に。非才だから物を使い、非才の極限まで上り詰める。十年以上も才能に追いつこうとしたレオンが才能に追いつくことを諦め、そして見つけた生きるための手段だった。


「な、何なら俺がダンジョンに潜って慣れるまでついていくぞ!? いや、むしろお前の仲間として……」

「さ、流石に過保護過ぎだよアルフ兄さん……僕一人でも大丈夫だって」


 しかし、それでも可愛い弟が命の危険がある場所に赴くというのは軽くブラコンが入っている兄にとっては心配なようで結構過保護な事を言ってくる。

 が、それではレオンが自立出来たことにはならない。だから、有り難いその申し出はハッキリと断った。

 断られたアルフはそうか、とだけ言ってレオンに詰め寄るのを止める。レオンはこう見えても結構頑固なところがある。こうして言い切ったのだからもう梃子でも動かないだろう。


「……じゃあ、行ってくるね、アルフ兄さん」

「あぁ。本当ならお前について行きたいんだがな……あのクソ親父が俺を呼び出しやがる」

「あ、あはは……」


 クソ親父って……とちょっと口が悪くなった兄に向って言いかけるが、クソ親父というのには全面的に同意なのでレオンは笑うだけでそれ以外は何もしない。


「じゃ、また今度」

「そうだな。また今度会おう」


 アルフはレオンの言葉に、また会おうとだけ返し、レオンは旅立った。

 自分の将来のため、生きるために――



****



 それから一週間後。


「まぁそんなに世の中甘くないよねぇ……」


 レオンは駆除連合支部内部にある酒場のカウンターに突っ伏していた。彼の足にはホルスターが巻き付いており、そこには銀色の銃が収められているのが分かる。

 魔力を銃弾として撃つ武器、起爆銃。兄と別れてから勇ましくその銃を手に入れて駆除連合支部に行き、その足でダンジョンへ行ったは良い物の、初めての武器の勝手も何も分かる訳が無く、起爆銃に慣れるのに三日。ダンジョンという空間に慣れるのに四日。計一週間使ったがレオンが稼いだ金は、ゼロ。彼はまだ一度もダンジョン内に巣食う魔獣を討伐する事が出来ていなかった。

 あのちょっとカッコよく家を出ていったレオンは果たして何処に行ってしまったのか。そう言ってしまいたい位に今のレオンは消沈していた。

 アルフから貰った金ももう大半を使ってしまった。身を守る防具を買い、起爆銃のメンテキットを買い、その他にも必要な物を買って行ったらあっさり金は無くなっていった。残っているのは後三日間分の食費になるかならないかと行ったところの金だけ。所詮自分もいい所のお坊ちゃんでしか無かったんだとしかレオンは思わざるを得なかった。

 周りの喧騒の中には今日は儲けただとか明日は豪遊だとか色々と今のレオンにぶっ刺さる言葉が聞こえてくる。レオンは突っ伏した頭の近くに置いてあったジュースの入ったコップを掴み、顔を上げて飲み干し、コップを丁寧に机の上に置く。


「……仲間を作ろう! 多分一人じゃどうにもならないよこれ!!」


 一人で何とかすると豪語した少年は、結局人間は一人じゃどうしようも出来ないと言う事を新たに悟ったのであった。

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