第97話 ヤーナ奴隷商館
「ここが、ヤーナ奴隷商館か……」
オレとライラは、ヤーナ奴隷商館へと足を踏み入れた。
中では小奇麗な身なりの人を中心に、人がロビーを行き来している。刀鍛冶の工房で構成されているエッジとは思えない光景だ。奴隷らしき人は見当たらない。きっと、娼館の奥か地下に奴隷を収容しておく部屋があるに違いない。
鉄道貨物組合でクエストを請け負っていた時、奴隷商館に品物を運び込んだ時のことを、オレは思い出す。奴隷商館の奥に入るには、奴隷商館の職員になるか、出入りの業者になるか、奴隷になるかしかない。オレは出入りの業者として、奴隷商館の奥に入ったことがあった。ボロ布を纏った奴隷が、牢屋の奥で蠢いていた。正直、監獄と何ら変わらないとしか思えなかった。
そんなことを思い出していると、奴隷商館の職員らしき男と目があった。男はまるで、ダンジョンで宝箱やレアアイテムを見つけたかのように、目を見開いてオレたちに近づいてきた。
「お客様!? 本日は売りでございますか!?」
「え? な、何――?」
オレが驚いているのを無視して、男はライラを見てから、オレに云った。
「そちらの銀狼族の少女、是非高値で買い取らせていただきたいと思います!!」
「――はぁぁぁぁああ!?」
銀狼族の少女を高値で買い取る?
こいつ、オレがライラを売りに来たと思っているのか!?
オレの目に怒りの炎が宿るのにも気づかず、男はさらに続けた。
「なんとまあ美しい銀狼族の少女でございましょう! 胸も尻も大きくて、これなら買い手はいくらでも見つかります! 是非是非、我々にお売りいただけませんか!? 高く買い取らせていただきます。処女でございましたら、さらに買い取り価格は上がります! なんでしたら、お客様の言い値でも――!!」
「ライラはオレの嫁だ! 売り買いする奴隷じゃない!! ていうか、奴隷かどうかの確認もしないでいきなり一方的に商談を始めるとか、失礼だろ!!」
オレの怒りが爆発し、オレは男に対して怒鳴った。思わずソードオフへと手が伸びそうになったが、ソードオフを出したら最後、ぶっ放してしまいそうな気がした。オレは理性を総動員して、なんとかソードオフに伸びかけた手を引っ込める。
奴隷商館のロビーに居る人のほとんど全員が、オレたちに視線を向ける。
対する男は、自分がしていたことにやっと気づいたのか、すぐに頭を下げた。
「こっ、これは失礼いたしました! それでは、本日はどのような奴隷をお求めで?」
「買いに来たわけでもない。ちょっと確認したいことがあるんだ」
オレはぶっきらぼうに云う。
「ここ1年の間に、銀狼族の奴隷がいるかどうか、売買されたかどうかを確認したいんです」
ライラがオレたちが今日この奴隷商館に来た目的を告げる。
それを聞いた男は、何度か頷いた。
「かしこまりました。それでは、別室の方で対応いたしますので、どうぞこちらへ」
オレたちは、歩き出した男についていくことにした。
途中、視線を感じたような気がしたが、きっとさっき怒鳴ったせいだろうとオレは思った。
「こちらの中で、お待ちください」
「ここは?」
「こちらは、交渉室でございます」
男に案内されてきたのは、交渉室という場所だった。
「こちらで、奴隷の商談や面会などを行っております。どうぞおかけください」
オレたちは促され、イスに座る。高価なイスらしく、少し尻が沈んでから、ゆっくりと反発するように上がってきた。
「それでは、確認して参りますので、しばらくお待ちください」
男はそう云うと、交渉室を出て行った。
「……ビートくん」
ライラが、オレの手を握ってくる。
「もしも銀狼族の奴隷がいたら、どうしよう……?」
「うーん……」
オレには、答えが出せなかった。奴隷の相場は、だいたい1人が大金貨50枚~60枚だ。特別な技能を持っていたり、美形だったりすると、場合によっては大金貨100枚以上になることもある。当然、今のオレたちにそんなおカネはない。
ましてや銀狼族の奴隷となると、希少価値がついて価格は跳ね上がる。銀狼族の奴隷を買うなんて、とても無理だ。
だが、そのまま見ていないフリをすることも難しい。
見てみぬフリをしてその場はしのげても、ライラがオレに対して抱く印象は大きく変わってしまうだろう。ひょっとしたら、離婚なんてことにもなりかねない。
ライラと離婚するなんて、死んでもイヤだ。
じゃあ、銀狼族の奴隷がいたとして、買うことができるか?
それも無理だ。
どうすれば、いいんだ!?
オレが頭を抱えていると、ドアが開いた。
先程の男が、ファイルを抱えて戻って来た。
「こちらは、過去1年間の奴隷の取引記録でございます」
男は机の上にファイルを置くと、ファイルを開いてオレたちに内容を見せてくれた。ファイルには細かい字で、詳細な奴隷取引の記録がつづられている。
「過去の1年間に、銀狼族の奴隷を取引した記録はございませんでした。また、現在も当奴隷商館では銀狼族の奴隷は取り扱っておりません」
「よ、よかったぁ……」
ライラが胸に手を当てて、そっと息を吐き出す。
オレも安心した。ライラが悲しむことも、銀狼族の奴隷を買うなんていう展開にもならなかった。
もしも銀狼族の奴隷がいたら、オレたちの旅はここで終わっていたかもしれないな。
そのとき、ドアが再び開いた。
「話は聞かせてもらったぞ。銀狼族なら居たぜ、娼館にな」
「だ、誰だ!?」
男が叫んでドアの方を向き、目を見張る。
ドアの向こうから現れたのは、貴族のような身なりをした筋肉質な男だった。肌は日焼けしたように浅黒く、指には宝石がついた指輪をいくつもはめている。見るからにお金持ちだ。
「オレはアメリゴっていうモンだ。ロビーで銀狼族が云々と聞いたから、気になって話を立ち聞きさせてもらった」
アメリゴと名乗った男は、ズカズカと入ってきて、強引に男の横に座る。
男はなすすべなく、アメリゴにイスを譲った。
「あの……さっきのお話って、本当ですか?」
ライラが尋ねると、アメリゴは頷いた。
「ああ、本当だ。オレはエッジの刀鍛冶協同組合の幹部だ。このエッジで出回っている情報は、ほとんど掴んでいるんだ」
「詳しく教えて下さい!」
ライラはイスから立ち上がり、アメリゴに頭を下げた。
アメリゴは、何度か頷いた。
しかし、オレは少し嫌な予感がした。アメリゴの口元が、緩んでいるように見えたせいだろうか?
「いいだろう。但し、条件がある」
「条件――?」
ライラが首をかしげる。
オレも条件の内容が気になり、アメリゴの目を見た。
条件とは何だろう。
高額な情報料だろうか?
それとも、何かと交換するのだろうか?
オレが想像を巡らせていると、アメリゴが口を開いた。
「そのライラという銀狼族の少女を、一晩好きにさせてくれ」
オレとライラは、顔を見合わせた後、耳を疑った。
「――はぁああ!?」
オレはアメリゴの言葉が信じられず、叫んだ。
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次回更新は、7月30日21時更新予定です!
なんと、3000PVを突破しました!!
ここまで読んでもらえるとは思っていなかったので、感激です!
読んでいただいた皆様、ありがとうございます!!
ビートとライラを、これからも見守って下さい!
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!





