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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第8章
95/214

第93話 鉄の意志

 アークティク・ターン号は次の停車駅へと向かい、広大な東大陸を疾走する。

 東大陸の西部は平野が続いていることもあり、どこまでも見通せそうなほどの広い陸地が続いている。

 オレたちはそんな変わり映えしない景色を見ながら、食堂車で昼食を食べていた。


「なんだか、味気ない景色ね……」

「こう何も無さ過ぎると、すごい退屈だな……」


 食堂車の売りは、景色を楽しみながら美味しい料理が食べられることだが、これではその魅力が全く伝わってこない。馬車で旅をするよりかはマシだが、一日も早くこんな単調な景色の地域を抜けてくれることを、オレたちは祈りながら食事をした。

 食事を終えると、オレたちは商人車に立ち寄った。


「はいはい、安いよ安いよ!」

「新商品も入っているよ、さあいらっしゃい!」

「どんなものをお望みですか!?」


 商人車は賑わっていて、どこの行商人の前も満員御礼(まんいんおんれい)状態だ。

 単調な景色ばかり続いているためか、普段は展望車で移りゆく景色を楽しんでいる人たちもが、行商人に群がっている。

 これじゃあしばらく、買い物は出来なさそうだ。


 あぁ、なんか刺激的なことが起きないかなぁ……。


 オレはその直後、そう考えたことを後悔した。

 それは商人車を抜け、ライラと共にデッキへ出た時だった。




「あなたが、ビート様ですね!!」

「へ?」


 急に名前を呼ばれ、オレは声がした方を向く。

 そこにいたのは、人族の少女だった。長い黒髪を持ち、清楚な印象だが、オレはその少女に見覚えは無かった。グレーザー孤児院でも、鉄道貨物組合(トランスギルド)でも、その取引先でも見たことが無い。ライラの勤め先だったグレーザー駅のレストラン『ボンボヤージュ』にも、いなかった。


 一体、この少女は何者だ?

 どうして、オレの名前を知っているんだ?

 列車強盗を撃退した時に、誰かから聞いたのか?


 オレがそう考えを巡らせていると、黒髪の少女がいきなりオレに抱きついてきた。

 むにゅん。

 ライラとは違う柔らかい肌と胸が、オレの身体に触れてくる。ライラとはまた違った、いい匂いもした。これだけなら、オレはすぐに顔を真っ赤にしていただろう。

 だが、そうは問屋が下ろさなかった。


「会いたかったです! 私の婚約者様!!」

「――はぁあ!!?」


 オレは少女の発言に、驚きのあまり思考能力を奪われた。

 少女のいい匂いも肌の柔らかさも、それで一切感じなくなる。

 オレの中で渦巻いているのは、混乱だけだった。


 混乱しながらも、オレは少女を引き離した。


「――ていうか、あんた誰だよ!?」


 少女を引き離してある程度落ち着いたオレは、顔も名前も知らない少女に問う。

 すると、今度は少女が驚いた表情になった。すぐに目がうるんできて、悲しそうな表情へと変化していく。


「私はミリアです! ひどいじゃないですか! 婚約者の名前を忘れるなんて! プロポーズして、婚約のネックレスまで贈ってくれたじゃないですか!」」


 ミリアと名乗った少女は、再びオレに抱きついてきた。

 しかし、知らない人から抱きつかれて、喜ぶ人などいない。それがたとえ、相手が美少女だとしてもだ。


「本当に誰なんだよ!? 婚約のネックレスを贈った覚えなんてないし……ていうか、なんで抱きついてくるんだ! 離してくれ!!」

「わたしのビートくんに、なに抱きついてるのよ!?」


 ライラが怒りを含んだ声で云いながら、ミリアを引き離す。

 ミリアを睨みつけるライラの目は、まさにオオカミそのものだった。尻尾もピンと立っていて、敵意をむき出しにしている。


「あなた、今なんと仰いましたの!? ていうか、誰ですか!?」

「わたしはライラ。ビートくんの奥さんよ! それに、それはこっちのセリフよ!!」


 ライラの自己紹介に、ミリアは顔をひきつらせた。


「お、お……奥さんですって!? ビート様の!?」

「だいたい、いきなりビートくんに抱き着くなんて非常識じゃない! ビートくんに抱き着いていいのは、わたしだけなんだから!!」


 おいライラ、前半は当たり前のことで頷けるのに、後半で全て台無しになっているじゃないか。

 オレは心の中で呆れたが、ライラの云うことは最もだった。少なくとも前半までは。

 それにこれ以上、ミリアに抱きつかれたら、それを見せつけられるライラがかわいそうだ。


「ミリア、きっと人違いだ。オレはミリアのような黒髪の少女と婚約した覚えはない。オレが唯一プロポーズして、婚約のネックレスを贈った相手は、オレの隣に居るライラだけだ」


 オレは一切の嘘偽り無く、ミリアに向かって云う。どれだけ記憶を遡っても、オレが婚約のネックレスを贈った相手は、ライラしかいない。ライラ以外の女性に婚約のネックレスを贈ろうとしたことなど、一度も無いのだ。

 しかし、ミリアは激しく首を横に振った。


「違います! ビート様の婚約者は私だけです! 決して獣人族の女なんかではありません! お願いですから、目を覚ましてください!!」


 ミリヤはデッキで騒ぎ立てる。


 あ、これはマジで厄介だ。さっさと撤退した方がいい。

 オレはライラの手を取ると、騒ぎ立てるミリアをほったらかしにして、2等車の個室へと逃げ出した。

 追いかけてこないか不安だったが、そういったことはなく、オレたちは無事に個室へと戻ることができた。




 個室に戻って来ると、オレはすぐドアに内側から鍵を掛けた。

 これでもう、中に入るには内側の鍵を開けるか、ボニーとクライドのように窓から侵入するしか方法が無くなる。しかしその窓も、今は閉じられている。つまり、この個室にはオレたち以外誰も入れない。


「もう! いきなり現れて、ビートくんが婚約者だと云ってくるなんて! 一体何だったのかしら?」


 ベッドに腰掛けたライラは、まだプンプンと怒っている。よほど腹に据えかねたらしい。

 確かに、オレもライラの前に別の男が現れて、抱き着いて婚約者を名乗られたらいい気持ちはしない。ライラの気持ちが、少しだけ分かったような気がした。


「オレが知りたいくらいだ。オレが婚約のネックレスを贈った相手は、ライラ以外に居ない」


 オレは何度も過去の記憶を遡ったが、婚約した相手はライラだけだ。それ以外で婚約を口にした相手は、1人もいない。

 重婚することが認められているとはいえ、している人は少ない。そのほとんどが、よほど裕福な者か、領主のような権力者くらいだ。それに、オレはライラ以外の女性を妻として迎え入れる気はない。


「もしかして、婚約者だと主張を繰り返して、わたしからビートくんを奪う気かしら!? わたしはビートくんと別れる気なんて、かけらほども無いのに!!」

「たとえそうだとしても、その心配はしなくていいよ」


 オレはそっと、ライラの頭に手を置く。そして撫でた。


「オレの妻はライラだけだ。ライラがオレと別れる気が無いように、オレもライラと別れる気なんて無いよ」

「えへへ……ビートくんなら、そう云ってくれると思った」


 ライラは先程までの険しい表情から一変。顔を赤らめながらデレデレして尻尾をブンブン振る。オレに撫でられているときの、いつものライラだ。


「でも、またあのミリアという女が来たら心配ね。ビートくん、夕食は今夜からしばらくはここで食べよう!」

「でも、それだと携帯食料ばかりになるし、ライラの大好きなグリルチキンやフルーツサンドも食べられなくなるよ?」

「ビートくんのためなら、グリルチキンやフルーツサンドも、我慢できるよ!」


 ライラはオレの目を見てそう云う。その目には強い光が宿っていた。

 とても強がっているようには見えない。

 この場合、無理にライラを説得しようとするのはよくないな。


「じゃあ、夜になったらここで夕食にしようか。だけど、1つだけ約束してもいいかな?」

「……?」

「たまには、テイクアウトでもいいから野菜も食べておこう。野菜不足は、ライラのお肌にも良くないからさ」


 オレの言葉に、ライラは口元をゆるませながら頷いた。




 夜になり、オレたちは携帯食料の夕食を食べ終える。

 食後にライラと紅茶を飲みながらリラックスしていると、ドアがノックされた。


「こんな時間に、誰かしら?」

「ブルカニロ車掌かな? オレが出てみるよ」


 オレはライラにそう云って立ち上がり、ドアに向かう。そのままドアノブに手を掛け、ドアの鍵を解除しようとした。

 そのときだった。


「やっと個室を突き止めましたわ! ビート様! 早くあの獣人女から離れて下さいませ!」

「!!?」


 昼間に訊いた声に、オレは固まった。

 声の感じから推測するに、あのミリアに間違いなかった。


 オレは反射的にドアから離れ、ライラの元まで戻って来る。


(あの女の匂いが、ドアの方からするわ!)

(ど、どうする!? 違うって云ってみようか!?)

(ビートくん、声を出しちゃダメ! こっちから正解を教えるようなものよ!)

(で、でもさっき「突き止めた」って、云ってたぞ!?)


 声を出しても出さなくても、本当に居場所を突き止めているとしたら、オレたちに打つ手はない。

 誰か、助けてくれ!!


 その願いが通じたのか、ドアの向こう側から別の声が聞こえてきた。


「お客様! 他のお客様に迷惑です! お止め下さい!!」


 ブルカニロ車掌の声に、間違いなかった。


「離してくださいませ! 助けて、ビート様ぁ!!」


 ミリアが叫ぶ。しかし、オレは動かない。


「おい、すぐに鉄道騎士団を!」

「はっ、はい!」


 ブルカニロ車掌以外に、もう1人いたらしく、別の人の声がした。

 しばらく、ドアの向こう側からミリアとブルカニロ車掌が揉み合う音や声が聞こえてきたが、複数の足音が聞こえてくると、ミリアの声は悲痛なものに変わった。


「よし、連れて行け!」


 鉄道騎士団の声がした。


「ビート様! ビート様ぁ!!」


 ミリアの助けを求める声が聞こえる。

 それもだんだん遠くなっていき、やがて聞こえなくなった。


 物音や声が聞こえなくなってから、オレはドアの鍵を解除し、ドアを開けて廊下の様子を見る。

 廊下には、誰もいなかった。

 先程の騒がしさが嘘であるかの如く、静まり返っていて、列車が走る音しか聞こえてこない。

 オレはそっと、ドアを閉めて鍵を掛けた。


 正直、ここまで来るとは思いもしなかった。

 もしあの時、ドアを開けていたら、どうなっていたのだろう?

 オレの身体に、悪寒が走る。


「……しばらく、トイレにもわたしがついていくわ」


 オレはライラの言葉に頷いた。

 その夜、オレはいつもとは逆に、ライラに抱きしめられながら眠った。




 翌朝。オレは目を覚ました。

 ライラの匂いに包まれながら起き上がる。


 ライラは、すでに起きていた。いつもはオレよりも後に目を覚ますことが多いのだが、その日だけは違った。

 ドアを鋭い目つきで、睨みつけている。ライラが滅多に見せない目つきだ。

 オレは嫌な予感がして、ライラに聴いた。


「ライラ……どうしたの?」

「ビートくん、ドアの向こうから、あの女の臭いがする……!」


 ライラがそう云った直後だった。

 ドアが激しくノックされる。


「ビート様! どうして出てきてくれないんですか!? 婚約者なのに!」


 ミリアの声が、ドアを叩く音に混じって聞こえてくる。

 どうやら、ブルカニロ車掌と鉄道騎士団に取り押さえられたわけではないようだ。恐らく、注意を受けて反省の色を見せたため、解放されたのだろう。

 だが、その反省の色は、仮初めだったようだ。


 ライラが、ベッドから出た。


「もう許せない! あのミリアという女、わたしがガツンと……!」

「ライラ、待って!」


 動き出そうとしたライラを、オレが静止する。

 ライラはオレの声に、すぐに従い、足を止める。


 オレはベッドから出ると、ソードオフを手にした。


「オレがなんとかする。きっと、ライラが出たら今よりも状況は悪くなるかもしれない」

「ビートくん、大丈夫?」

「きっと……。ライラは万が一に備えて、隠れていて」


 ライラは頷くと、ドアから死角になる位置に隠れた。


 ここまでミリアが来たのなら、こっちも逃げているわけにはいかない。

 きっとミリアは、自らが諦めるまで、どこまででも追いかけてくるに違いない。そんなことになったら、ライラの両親を探すどころではなくなる。

 そうなるまえに、早いうちに手を打っておこう。


 オレがドアの鍵を解除し、ドアを開ける。

 そこには、ミリアがいた。


「ビート様! やっと姿を見せて――!」

「ミリア、ひとつ訊きたいことがある」


 オレはミリアの言葉を遮り、話し始めた。


「……オレの事を、愛しているのか?」


 オレの問いに、ミリアは何度も首を上下に振る。


「もちろんです! ビート様のためなら、どんなことでも――!」

「悪いが、オレはお前のことを愛してはいない」


 再びミリアの言葉を遮り、オレはキッパリとそう告げる。

 さすがのミリアも、オレの言葉を聞き流すことはできなかったらしく、その場でフリーズした。


「え……? ビート様?」


 自分の耳を疑うミリア。

 オレは躊躇(ちゆうちよ)することなく、続けた。


「オレが愛している女性は、ライラただ1人だけだ。それ以外の女性に心惹かれたことは、1度もない! 婚約のネックレスを贈った相手も、ライラだけだ。そして、オレはライラと結婚している。ミリア、お前は誰か他の人と、オレのことを勘違いしているんじゃないのか?」

「そんなはずがありませんわ!」


 ミリアは、オレの考えを認めなかった。


「あの獣人女が、ビート様にそう思い込ませているだけですわ!」

「ミリア、オレはライラと一緒の孤児院で育った。そして今現在に至るまで、一度も離れ離れになったことはない! だからこれ以上、オレとライラにつきまとうのは止めてくれ!」


 これで分かってくれるなら、オレもそれ以上のことはしなかった。

 だが、そうはならなかった。

 そしてミリアは、オレに云ってはいけないことを、口走ってしまった。


「あんな畜生女のことなど、早く捨てて下さいませ!」


 ガチャリ。


「……ひっ!?」


 ミリアの悲鳴で、オレはミリアの眉間にソードオフを突きつけていることに気づいた。引き金には指も掛かっていて、いつでも発射可能だ。今この瞬間に、ソードオフの銃口が火を吹いたら、ミリアは助からないだろう。

 ミリアの表情が恐怖に満ち溢れていく。


「おい……今、畜生女と云ったな……? ライラのことを畜生呼ばわりしたな……?」


 オレは冷静になってミリアに問う。

 ミリアは全身から冷や汗を流すばかりで、答えない。いや、答えられなくなっていた。少しでも変なことを云えば、頭が吹っ飛ぶ。そう思っていたのだろう。


「オレの前で、ライラのことをそう云った奴が、過去にもいた。そいつは今、墓の下で寝ているぞ。どういう意味か、分かるよな?」

「ひぃっ……!」


 ミリアの表情は青くなり、口走った言葉を後悔しているのが見て取れた。


「ごっ、ごめんなさい!! 撤回します! ごめんなさい!!」


 ミリアが謝罪し、オレはソードオフを隠した。

 一度ソードオフを見たんだ。もう変なことは云わないだろう。もしも云ったとしたら、それは死を意味するだけだ。




「おいっ、ミリア!」


 突然、男の声がした。

 オレは驚いて、声が聞こえた方を見る。


 1人の男が、廊下を小走りでこちらに向かってくる。

 その男は、どこかで見たような顔をしていた。


「ビート様!?」


 ミリアが目を丸くして、オレとその男を見る。


「どうしたの……って、ビートくんが2人も!?」


 ライラも顔を出し、オレと現れた男を交互に見る。

 そのとき、オレは理解した。


 この男とオレは、そっくりなんだ!


「ミリア、どうして僕のところに来なかったんだ……んをっ!?」


 男がオレを見て、驚く。

 この男も、自分とそっくりなことに気づいたらしい。


「き、君は?」

「オレはビートだ。あんたは?」

「僕もビートだ。ビート・ガブリエルだ」


 なんてこった。名前までそっくりだとは。

 性別、顔、名前がオレと完全に一致している。

 ここまで同じだと、まるでもう1人の自分を見ているみたいだ。世の中には似た人が何人かいるとは聞いたことがあったが、本当に居たなんて。


「ビート様……!?」


 ミリアは目を丸くして、オレとビート・ガブリエルを交互に見る。

 しかし、すぐに何かに気づいたらしく、ミリアはビート・ガブリエルに抱きついた。


「ビート様!」

「いったい、どういうことなの……?」


 オレとライラは、まるで訳が分からず、混乱する。

 それを感じ取ったのか、ビート・ガブリエルが口を開いた。


「どうやら、ミリアが僕とあなたを勘違いしてしまったようです。僕の婚約者が、ご迷惑をおかけしました」

「ご迷惑をおかけしました!」


 ビート・ガブリエルが謝罪して頭を下げると、ミリアも頭を下げた。

 オレはハッとして、あることに気づいた。


「じゃあ、ミリアがしきりに云っていた婚約者のビート様というのは……」

「僕の事です」


 やっぱりそうか。


「これにて、僕達は失礼します。この度は、僕の婚約者が大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした!」

「本当に失礼いたしました! 申し訳ありませんでした!」


 ビート・ガブリエルとミリアが謝罪すると、ミリアはビート・ガブリエルに連れて行かれた。

 なんとか、この騒動が終わりを迎えたなと、オレとライラは思った。




 オレとライラは、ベッドに座った。


「まさか、あそこまでビートくんにそっくりで、名前まで似ている人がいたなんて……」

「世の中には似た人がいるっていうことは聞いたことがあったけど、あそこまで似ているとは思わなかったな。でも、ミリアが勘違いに気づいてくれてよかった」


 本気で、オレはそう思っていた。

 積極さだけなら、ライラ以上だ。あんな人に四六時中付きまとわれたら、オレもライラも気が休まらなかっただろう。ゆっくり寝られそうにもない。


「でも、ビックリしちゃった。ビートくんがあそこまで怒るなんて……」

「え?」

「まさか、ソードオフを突きつけるなんて思わなかったもの」


 ライラの言葉に、オレはミリアにソードオフを突きつけていたことを思い出す。

 少し前の出来事なのに、もう昔の事のように感じられた。


「そりゃあ、ライラと別れろとかライラの事を畜生呼ばわりされたら、怒るに決まっているよ」


 オレはそう答える。大切な妻に対して、差別的な言葉がかけられたのだ。

 黙ってはいられなかった。もしも、もう一度ミリアがライラを畜生呼ばわりしていたら、ためらうことなく発砲していただろう。


 すると、ライラが抱き着いてきた。

 ライラに抱きつかれることは慣れているが、抱きつかれるたびにライラのいい匂いと柔らかい肌と胸に、オレはドキッとしてしまう。


「ビートくん、大好き……」


 ライラは顔を紅く染め、オレに向かって確かにそう告げた。

 尻尾を振りながら、オレの匂いを嗅いでくる。


「オレは、自分の意思を貫いただけなんだけどな……」


 少し困惑しつつも、オレはライラを抱き返す。

 ライラの尻尾が一瞬だけ、驚いたようにピンとなり、ライラは尻尾をブンブンと勢いよく振り出した。




 オレたちを乗せたアークティク・ターン号は、停まることなく次の街へと疾走していく。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、7月26日21時更新予定です!

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