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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第7章
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第86話 大荒野地帯

 どこまでも果てしなく広がっている荒野。

 そこを走り抜ける、アークティク・ターン号。

 そしてそれを出迎えるようにそびえたつ、いくつもの岩の柱やアーチ。


 初めて見た、西大陸中部の景色。

 まるで別世界に来てしまったように感じられる。


「すごい景色……」

「あぁ……まるで異世界だな」


 ライラの言葉に、オレはそう返す。

 どこまでも荒野が続いていて、全くといっていいほど景色が変わって行かない。


 最初のうちこそ、オレたちは荒野を見つめ続けていたが、どこまでも広がる荒野に飽きてくると、リバーシをしたり、雑誌を読んだりした。




 汽笛が鳴り響いた。

 防音仕様になっている個室の中に居るのに、聞こえてきた汽笛に、オレとライラは驚く。普段は微かに聞こえてくる程度なのに、今のはかなりはっきりと聞こえた。

 何か、よくないことが起きたのかもしれない。


 気がつくと、オレとライラは窓に駆け寄っていた。

 外を見ると、馬に乗った人々が列車に向かってくるのが見える。


 キャラバンやジプシーにしては、大きなホロ掛けの馬車が見えない。


「待てよ、あれは……!」


 馬にまたがっている人を見たオレは、過去に読んだ本と、グレーザー孤児院で受けた授業の内容を思い出した。


「ナヴィ族だ!」


 そうだ。ナヴィ族だ。


 西大陸の荒野に暮らす人々で、移動生活をしている種族だ。

 馬を巧みに操る乗馬術を持ち、広い荒野を移動生活している。


 もしかしたら、オレたちは移動中のナヴィ族に遭遇したのか?

 だとしたら、ものすごくラッキーだ。


「ナヴィ族?」

「孤児院時代に、本と授業で習ったんだ。西大陸の荒野で暮らす、移動民族だ」

「でも、何をしに来たのかしら?」

「多分、アークティク・ターン号を見に来たんじゃないかな?」


 オレたちがそう話している間に、ナヴィ族たちはさらに近づいてきていた。

 馬にまたがったナヴィ族は、アークティク・ターン号に向かって手を振ってくる。

 敵意などは、全く感じられない。


「……これだけ手を振られているのに、振り返さないのも悪いな」

「そうね!」


 オレは窓を開けると、少しだけ身を乗り出して、手を振り返す。

 手を振り返されて嬉しくなったのか、多くのナヴィ族が笑顔で手を振り出した。


 なんて平和な光景なんだろう。

 オレたちは思わず、口元を緩めた。


 すると、1人のナヴィ族の若者が列車に近づいてきた。

 若者はなんと、オレたちの所へと向かってくる。


「な、なんだ!?」


 オレたちが驚いていると、若者は革製の袋を差し出してきた。

 中には何かが入っているらしく、底の方が膨らんでいる。


「う、受け取れと……?」


 オレが訊くと、ナヴィ族の若者は頷いた。

 拒否する理由も無い。

 オレはありたがたく、その革製の袋を受け取った。


「ありがとう!!」

「元気でな! また会おうぜ!」


 若者はそう返して、列車から遠ざかって行く。


 それから少しして、ナヴィ族は全員が列車から離れて行った。




「ビートくん、いったい何を受け取ったの!?」

「わからない。中身を確かめてみないことには……」


 オレは袋を床に置き、麻縄で閉じられていた袋の口を開いた。

 そして袋の中に手を入れ、中に入っているものを引き出す。


「これは……!」


 中から出てきたのは、ジャーキーだった。

 袋の中を見ると、同じようなジャーキーが大量に入っている。


「ジャーキーじゃない!」


 ライラが目を輝かせる。


「食べてみようか?」

「もちろん!!」


 オレがジャーキーをもう1本取り出すと、ライラはそれをひったくるようにして受け取った。

 そしてオレたちは、ジャーキーをかじる。

 荒野牛の肉で作られたもので、旨味と肉の味が強めだった。


 かなりワイルドな味を、オレたちは楽しむ。


「けっこう肉の味が強いね……」

「でも、美味しい!」


 ライラは、ジャーキーに舌鼓を打っている。肉の味が濃い方が、ライラの好みらしかった。


「それにしても……」


 オレは袋の中を覗き、悩んだ。

 タダでもらえたのは嬉しかったが、ジャーキーの量は多く、とても消費しきれない量だった。

 それはライラも同じらしく、袋の中を見ると、少し困った表情になった。


「これ、どうしよう?」

「腐らせるのももったいないし……そうだ!」


 渡すのにうってつけな人を思い出し、オレは自分たちで食べる分を別の袋へと分け始めた。




「すいませーん!」


 ジャーキーの入った革製の袋を手に、オレたちはクラウド家の特等車を尋ねる。


「はい、どちら様で――あっ、ライラさんにビートさん!」


 メイヤが、驚いた表情を見せる。


「メイヤちゃん、久しぶり」

「お久しぶりです! 本日は、どのような御用で……?」

「実は、ナッツ氏に会いたいんだけど……」


 オレが云うと、メイヤはすぐに頷いた。


「かしこまりました。それでは、中へどうぞ!」


 オレたちは、メイヤに案内されて、特等車の中へと通される。

 特等車の中では、ナッツ氏が子どもたちと遊んでいた。


「旦那様、ビートさんとライラさんです」

「おぉ! ビート氏にライラ夫人!」

「突然すみません」


 オレが一礼すると、ナッツ氏はいつもの笑い声で応えた。


「はははははっ! 気にしないでくれたまえ! 今日はどのようなご用かな?」

「先日のお茶会のお菓子のお礼として、こちらをおすそ分けにと……」


 オレはそう云って、ジャーキーの入った革袋を差し出す。


「ほう、これは……?」

「ジャーキーです。お口に合えば良いのですが……」

「なんと! ジャーキーか! ありがとう!!」


 ナッツ氏は大喜びで受け取り、オレたちの目の前で袋の口を開け、中のジャーキーを見た。

 すると、ナッツ氏の目の色が変わった。

 かなり驚いている。


 オレたちは一瞬、渡してはいけないものを渡してしまったのかと不安になった。


「これはすごい! ナヴィ族だけしか作れない荒野牛のジャーキーではないか! クラウド茶会でも、手に入れるのは難しい代物だ。一体、どうやってこれを手に入れたのだ!?」

「実は……」


 オレは、ジャーキーを手に入れた経緯をナッツ氏に話す。

 すると、ナッツ氏はさらに驚いた。

 まるで信じられないという目で、オレたちとジャーキーを交互に見た。


「すごい! ビート氏にライラ夫人、ナヴィ族から直接に荒野牛のジャーキーを贈られるというのは、名だたる冒険者でもなかなかないことだ! これを、本当に頂いてもいいのか!?」

「どうぞ。いつもナッツさんにはお世話になっていますから」


 オレたちが頷くと、ナッツ氏は満面の笑みで頷いた。


「ははははっ! それでは、遠慮なくいただこう! ありがとう! またお茶会に誘うから、是非来てくれたまえ!!」




 夜になると、明かりが無い荒野は星明りで照らされる。

 いつか見たような満点の星空に、オレたちは個室を暗くしてブラインドを上げて、天体観測を楽しむ。

 いいムードになってきたからか、ライラは静かに歌い出した。

 オレはライラの歌声に耳を傾ける。


 ライラの歌声を聴いていると、気持ちが穏やかになっていった。


「ん~いい歌だったよ」


 ライラが歌い終えると、オレは拍手をしながらライラを褒める。


「ありがとう! じゃあ、もう1曲どうかしら?」

「お願いします」


 オレは即答する。

 そしてライラは、それに笑顔で応えて再び歌い出した。




 それから数日後、アークティク・ターン号は大荒野地帯を抜けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、7月12日21時更新予定です!

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