第83話 巨人族
オレはライラから頼まれて、ライラを背後から抱きしめていた。
腕の中にいるライラは、大人しくオレに体を預けている。
ライラはオレに抱きつくのも好きだが、オレに抱きつかれるのも好きだ。
「はぁ~……落ち着く」
ライラは満ち足りた声で、そう云う。
「ライラ、本当にこれ好きだよな……」
オレは少し呆れた様子で云う。
かくいう俺も、ライラを抱きしめるのは好きだ。
ライラの抱き心地は最高だ。
眼下にはライラの頭と、たわわに実った胸が見える。
ライラの胸を見て、ふとオレは思った。
(触っても……いいよね?)
オレはそっと腕を動かしていき、ライラの胸へと手を近づけていく。
幸いなことに、ライラはまだ気づいていないようだ。
どうかこのまま、気づかないでくれ――!
そのとき、列車全体にブレーキがかかった。
前方から甲高いブレーキ音が聞こえてきて、オレとライラはベッドから床に投げ出されそうになる。
「きゃあっ!」
「うわっ!」
オレはライラを離さないように、咄嗟に強くライラを抱きしめる。
そのとき、オレはライラの胸を鷲掴みにてしまった。
しかし残念なことに、感触を確かめている余裕は無かった。
ブレーキが掛かって減速していく列車の中で、体勢を崩さないようにするので精いっぱいだった。
やがて列車が停まると、オレはそっとライラを放した。
「あー、ビックリしたぁ……」
ライラは服のシワを伸ばしながら云う。
「それにしても、何が起こったのかしら?」
「列車は停まっているみたいだけど……?」
窓の外の風景は、全く動いていない。
列車は完全に停まっている。
ドンドンッ。
今度はドアがノックされた。
「はいはい、どなたですか?」
列車が謎の急停車かと思ったら、今度は急な来客か。
忙しいな。
オレがドアを開けると、パピィが立っていた。
「パピィ!?」
「すごいよ! すごいのよ!!」
パピィはどういうわけか、かなり興奮している。
「ど、どうしたの?」
「パピィ、いったい何がすごいんだ?」
オレたちは何がパピィをここまで興奮させているのか分からず、首をかしげる。
するとパピィは、オレたちの手を取った。
「見ればわかるから! とにかく来て!」
「あっ、ちょ――!」
パピィはオレたちの返事を待たず、オレたちを個室から連れ出した。
すっかり選択権を奪われたオレたちは、パピィに連れられて個室から出され、さらには列車からも半ば強制的に下ろされてしまった。
「あれよ、あれ!」
列車から下ろされたオレとライラは、パピィに促されて列車の前方を見る。
「「……!?」」
オレたちは、絶句した。
列車の前を、何人もの巨人族が歩いていた。
巨人とはいえ、人族のような姿をしているものではない。巨大な岩がいくつもまとまって、人の形をしていた。それがまるで軍隊のように隊列を作り、レールを横断していく。
オレは孤児院時代に読んだ本に出てきた、ゴーレムを思い出す。
目の前を歩いていく巨人たちは、まさにゴーレムだ。
「巨人族は普段は温厚なんだけど、怒らせると集団で襲い掛かってくるから、巨人族を怒らせて生きて帰ってきた人は、ほとんどいないんだって! だから絶対に怒らせないようにしてね!」
「う、うん……巨人族なんて、初めて見た」
「さすがにあれに、喧嘩を売る勇気は無いなぁ……」
騎士や列車強盗と戦って勝って来たオレでさえ、正直勝てる自信が無い。数メートル……いや、下手したら数十メートルもある巨人族相手に喧嘩を売るなんて、自殺行為にしか思えない。
「あぁ、こんなにたくさんの巨人族を見れるなんて、最高!」
パピィは鼻息を荒くして、尻尾をブンブンと振った。
どうしてパピィがこんなデカいものに夢中なのか。
変わっているなと、オレたちは思った。
それからしばらくして、巨人族が全て立ち去ると、オレたちは列車へと戻った。
それと入れ替わるようにして、車掌や乗組員がオレたち以外の車外へ出ていた人に声をかけ、列車へと戻るよう促していく。
車外へ出ていた人全員が列車に戻ると、アークティク・ターン号は再び動き出した。
夕暮れの時間になると、突然汽笛が数回鳴り響いた。
個室の中に居ても聞こえてくるほど大きな汽笛に、オレたちは驚いて個室から飛び出した。
「ビートくん、何かあったみたい!」
「大きな汽笛は、あまり良くないことの前兆のようなものだ。……ライラ、なんだか嫌な予感がするぞ」
オレは自然と、ソードオフを取り出していた。
そして、オレの予感は当たった。
「お客様にお知らせします! 巨人族の群れからはぐれた巨人が列車に接近中です! 繰り返します! 巨人族の群れからはぐれた巨人が列車に接近中です!」
ブルカニロ車掌が走って来てそう告げ、すぐに次の車両へと向かっていく。
「きょ、巨人族!?」
「ビートくん、窓の外!!」
「!!」
ライラが指さした先を見て、オレは目を見張った。
列車と併走するように、1体の巨人族が走っていた。
列車はかなりの速度で走っているはずなのに、巨人族は疲れる様子すら見せず、まるで感情が無い機械のように走り続ける。
巨人族が列車を見る目は紅く光っていて、まるで血走っているようにオレたちには見えた。
オレは昔観た、映画のワンシーンを思い出す。
確か巨人族のような、巨大なロボットが列車と併走しているシーンがあった。
まるで、その時観た映画の中に入ってしまったみたいだ。
さすがにこればかりは、オレにはどうすることもできそうにない!
「どどど、どーしようこれ!?」
「列車に危害とか……加えてこないよね?」
慌てて声が震える横で、ライラが云った。
ライラ、その発言はフラグだ!!
オレがそう思った直後だった。
巨人族が、列車に近づいてきた!!
「わあ、止めてくれ!!」
オレはソードオフの銃口を、窓の外の巨人族に向け、ライラを左腕で抱きかかえる。
たとえ列車を破壊されたとしても、ライラの事は自分の命に代えても守る!
「ダメ!!」
そのとき、聞き覚えのある声がした。
「えっ?」
オレが声の聞こえた方を見ると、パピィがデッキにある出入口の窓から身を乗り出して、巨人族に話しかけていた。
パピィ、危ない!!
オレとライラはヒヤヒヤしながら、パピィを見る。
パピィは真剣なまなざしで、巨人を見つめた。
「帰りなさい! あなたの居場所はここじゃない!」
「グオオッ!」
巨人族が、声にならない言葉を話す。
いったい、あれは何語だろう?
「いい子だから、仲間の元に帰るのよ!!」
パピィはそう云うと、笛のようなものを奏で始める。
あの笛は、いったいなんだ?
笛は聞いたことのない、不思議な音色を奏でる。
不思議な音色の笛が奏でる音を聞いた巨人の表情が、変わった。
紅く光っていた目は、紅い光から穏やかな色へと変化していく。
同時に、表情も険しいものから、少しずつ穏やかな表情へと変化していった。
やがて、巨人は穏やかな表情に戻ると、列車から遠ざかって行く。
オレとライラは目の前で起きていることが信じられず、顔を見合わせる。
巨人の姿が見えなくなると、パピィは窓から列車の中へと、身体を戻した。
「あれは何だったの?」
ライラが訊くと、パピィは胸を張って答えた。
「はぐれ巨人よ。時々、こうして巨人族の群れからはぐれた巨人が現れるの」
「さっきの笛のようなものは?」
「巨人をなだめるための笛よ。とあるゴーストタウンで見つけたの」
売ったら、とんでもなく高い値段が付きそうだ。
「もう大丈夫なはずよ。巨人族は西大陸の中部にしかいないから」
「ありがとう。パピィ」
「いいのよ。さっきは私にとっても、ちょっとヤバかったからね」
パピィはそう云って二カッと笑う。
「私は、図書館車にいるから、巨人族の事で知りたいことがあったら、いつでも訪ねてきてね」
パピィはそう云うと、図書館車の方向へと向かって廊下を進んで行った。
オレたちは巨人族の脅威が無くなって安心すると、個室へと戻った。
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次回更新は、7月9日21時更新予定です!





