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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第6章
82/214

第80話 少女リーシャ

 アークティク・ターン号が、汽笛を鳴らした。

 駅が近いらしく、オレたちは窓を開け、前方を見た。


 少し離れた場所に、街が見える。


「あれが、次の駅がある街?」

「ああ。エノク領のアフチスだ」


 エノク領アフチス。

 エノク領の領主の館があり、ドーンブリカやアルトのように西大陸の伝統的な石造りの家が立ち並んでいる。


「ビートくん、アフチスに着いたら、列車から降りて観光しようよ!」

「もちろん!」


 オレはそう答えたが、なんだか嫌な予感がした。

 なんだかまた、厄介事に巻き込まれそうな、そんな気がしてならなかった。

 それはアフチスに近づくたびに、少しずつ強くなっていく。


 何事もありませんように。

 オレはアークティク・ターン号がアフチス駅に到着するまで、そう願い続けた。




 列車がホームで停車する。ドアが開き、駅員が「24時間停車」と書かれたプラカードを持って、ホームをうろついている。アフチスでの停車時間は、24時間だ。

 オレたちは、いつもの例に漏れずホームへと降り立ち、大きく伸びをしながら外の空気を堪能する。列車内の滞った空気ではない、新鮮な空気が美味しい。


「んーっ、気持ちがいいね、ビートくん!」

「やっぱり、広い場所はいいな!」

「ね、早く観光に行こう!」

「そうだな。アルトでは遊べなかったし、遊ぶか!」


 オレたちは改札を抜けて、駅を出た。




 駅を出てすぐに、オレたちはこちらに向かって走ってくる少女と男たちに気づいた。


「ハァ……ハァ……」

「待てっ!」

「止まれっ!」


 男たちは冒険者らしい見た目で、少女は少し大きなリュックサックを背負って必死に走っている。どう見ても、大人がか弱い少女を追いかけまわしているようにしか見えない。

 そしてそれを見過ごせるほど、オレたちは冷たくない。


「事情は分からないけど、あの少女を保護して騎士団に引き渡そう!」

「了解、ビートくん!」


 ライラが答えると、オレはソードオフを取り出した。

 そして少女……ではなく、それを追いかける冒険者らしき男たちに向ける。

 突如として向けられたソードオフの銃口に、男たちは明らかに怯えた表情を見せた。


「なっ、何するんだお前ら!?」

「邪魔すんじゃねぇ!!」


 男たちは怒号を飛ばすが、オレは全く動じない。

 列車強盗などと戦ってきたおかげか、怒号程度では全く動じなくなっていた。オレは男たちと向き合い、ライラはすぐ横で少女を保護した。


「理由は分からないけど、どうしてこんな子供を追いかける? 答えによっては、タダじゃ済まないぞ?」

「それは云えない。だが、その少女には大きな価値があるんだ! さっさと失せろ!」

「悪いけど、オレたちはそこまで聞き分けがよくないんだ」

「このガキ……!」


 男たちが歯ぎしりするが、オレにとってはそれを愉快で仕方なかった。


「こうなったら、このカギ共も道連れにしてやれ!」

「おうっ!!」


 男たちが襲い掛かろうと動き出したと同時に、オレはソードオフの引き金を連続して引いた。

 2回の銃声が轟き、男たちの動きが止まる。

 襲い掛かろうとしてきた男たちは、その場に倒れ込んだ。


 こういうとき、非致死性のゴム散弾は役に立つ。

 オレは空になったショットシェルを捨て、新しいショットシェルを装填する。


 ものの10秒と掛からず、冒険者らしき男たちは全滅した。


「ビートくん!」

「これでもう、大丈夫だ!」


 オレは親指を立てた。


「とりあえず、ここから離れよう! 騎士団が来たらマズい!」

「うん!」


 オレとライラは少女を連れて、駆け出した。

 駅から離れて行き、オレたちはアフチスの奥へと進んで行った。




 少女を連れて、オレたちは路地裏まで逃げてきた。

 ここなら、そう簡単には見つかりそうにない。


「助けていただき、ありがとうございます」


 駅前に放置してきた男たちから離れて、少女がお礼を云った。


「私はリーシャといいます」

「オレはビートだ」

「わたしはライラよ。よろしくね」


 リーシャと名乗った少女に、オレたちも自己紹介をする。

 そしてオレたちは、訊きたいことを訊いた。


「どうして、追われていたんだ?」

「えーとですね……」


 リーシャはリュックサックを下ろした。

 そしてリュックサックを漁り、中から宝箱を取り出した。リュックサックから宝箱が出てきたことに、オレたちは驚く。それと同時に、なぜ冒険者らしき男たちがこの少女を追いかけまわしていたのか、理解した。

 確かにこの宝箱の中には、かなり高価なものが入っているに違いない。


「これを届けていたら、あの人たちに追われてしまいました」

「そりゃそうだ」


 オレはそれしか云えなかった。

 こんなものを持ち運んでいたら、そりゃ狙われるに決まっている。

 中に何があるのかは分からないが、高価なものが入っていることに間違いは無さそうだ。


「リーシャちゃんは、どうしてこれを運んでいるの?」


 ライラが訊くと、リーシャは「よくぞ聞いてくれた」とでも云うように、目を輝かせる。


「これを、エノク領の領主、メルゲンさんに届けるんです!」

「―――はあああぁあっ!?」


 オレはとても信じられず、思わず叫んだ。

 領主に届ける荷物を、こんな少女に運ばせるなんて、どういうことだ!?

 なんでどうしてこうなったのか、全く理解できない!


「ビートくん、落ち着いて!」

「どどどっ、どうして領主に届ける荷物を!?」

「それは云えません」


 リーシャがそう答える。

 オレは気持ちを落ち着けようと、何度も深呼吸をした。


「……とりあえず、リーシャのことは騎士団に保護してもらおう」


 オレはそうするのが一番だと思った。

 またさっきの冒険者らしき男たちが来たらヤバい。それに、騎士団に保護されていれば簡単には手出しできないはずだ。

 しかし、それに真っ先にリーシャが反対した。


「ダメです! 騎士団だけは絶対にダメです!!」


 リーシャは宝箱が入ったリュックを、守るように抱えて云う。


「騎士団に連れて行くのでしたら、ここでサヨナラさせてください!」

「ビートくん、騎士団に引き渡すのは無理そうよ」

「……わかった。騎士団には連れて行かない。約束する」


 オレが云うと、リーシャは安心したらしく笑顔を見せる。


「じゃあ、わたしたちがメルゲンさんのところまで連れて行こう!」

「そうするしかないか」

「ありがとうございます!」


 リーシャがお礼を云った直後に、オレはしまったと思った。

 エノク領の領主メルゲンの館がどこにあるか、オレは知らない。

 手っ取り早く知るためには騎士団の騎士に尋ねるのが近道だが、騎士団を頼ることはできない。


「待て……領主の館の位置なんて、知らないぞ?」

「それなら、まかせてください!」


 リーシャが、自分の平たい胸をドンと叩いた。


「私の頭の中に、地図がありますから!」


 若干の不安が残るが、案内はリーシャに頼るしかなさそうだ。

 オレとライラは、リーシャと共に歩き出した。




 オレたちは路地裏を中心に進んで行く。大通りや表通りは、なるべく避けた。

 いつどんなところで、先程の男たちと出くわすか全く分からない。それなら人目につきにくい、路地裏を進むのがいいだろう。

 なんとしても、リーシャをメルゲンの館まで送り届け、アークティク・ターン号が出発する前までに駅に戻り、列車に乗らないといけない。

 あんまりのんびりは、していられなかった。


「リーシャちゃん、メルゲンさんの館って、あとどのくらい歩くの?」

「あともう少しです」


 ライラが訊くたびに、リーシャはそう答える。


「休まず歩けば、すぐに着きます」

「そうじゃなくって……」

「大丈夫です。千里の道も一歩から、です!」


 リーシャはそう云って、オレたちの先導を続ける。

 オレとライラは、リーシャについていくしかなかった。


(ビートくん、このままで大丈夫かな?)


 ライラがオレの耳元でそう呟いた。


(信じてみるしか、無いんじゃないかな?)

(でも、もしいつまで経っても辿り着かなかったら……)

(その時は申し訳ないけど、どこかで騎士団の騎士に道を訊こう)


 オレたちがそうひそひそ話していると、前方で悲鳴が上がった。


「きゃあ!!」


 それは間違いなく、リーシャの声だった。


「なんだ!?」


 驚いて前方を見ると、先ほどの冒険者らしき男たちが立ちはだかり、リーシャを見下ろしている。

 こんなところで、出会いたくない連中と、出会ってしまった。

 なんてタイミングだと、オレは胸の中で云う。


「見つけたぞ、さぁ、宝箱を渡せ!」

「イヤです!!」


 男たちの言葉に、リーシャは首を振る。


「早く渡さないか!! 中の物をよこせば、手を引いてやるぞ!?」

「絶対にダメです!!」


 頑なに譲らないリーシャ。

 オレとライラは目くばせすると、リーシャと男たちの間に躍り出る。


「悪いけど、道を開けてもらおう! メルゲンの館に用があるんだ!」


 オレはソードオフを取り出し、男たちに向かって云う。


「そうかい。だったら余計な事には首を突っ込まない方がいいぜ?」

「お前さんたち、その少女が何を持っているのか、知らないのか?」

「宝箱でしょ? その中身が何かまでは知らないけど、か弱い女の子を追いかけまわすなんて、いい大人のすることじゃないよ!」


 うん、全くもってその通りだ。

 オレはライラの言葉を聞き、頷く。


「そうかい……だったら、教えてやる!」


 男の1人が、右手をゆっくりと上げる。

 オレは反射的に、ソードオフを構えた。


「動くな! 動くと――」

「その宝箱の中身は、爆弾だ!」


 ……えっ?

 爆弾だって?


 オレとライラは、顔を見合わせる。


「嘘をつくな!!」


 オレはソードオフを構えなおした。

 下手な嘘だ。せめてもう少しマシな嘘をついてほしかった。


「お前ら、おかしいと思わないのか!? 脳が無いのか!?」

「なんでどこの馬の骨かもわからない少女に、領主に渡す物を運ばせるんだよ!?」

「どう考えてもおかしいだろうが! バカか!?」


 男たちが口々に云う。その内容はごもっともだ。だが、オレたちは冷静になるどころか、逆に男たちに対する怒りが湧き上がってきた。

 相手を正論でまくし立てるのは、たとえ内容が正しかったとしても、火に油を注ぐようなものだ。

 オレはそっと、ソードオフの引き金に指を掛ける。ソードオフの中には、非致死性のゴム製散弾が装填されている。このまま撃てば、目の前の男たちは死にはしないがタダじゃ済まない。

 避けられないし、めちゃめちゃ痛い。


「――くたばれっ!」


 ドガンッ!

 オレは、ソードオフの引き金を引いた。


「ぐっ!」

「ぎゃっ!」


 男たちは、真正面からゴム散弾を浴びた。

 ゴム散弾の威力で気絶し、男たちはその場に倒れ込む。


「走るぞっ!」


 オレが叫ぶと、ライラはリーシャの手を取り、駆け出した。オレもすぐそれに続き、辺りを警戒しながらオレたちは路地裏から路地裏へと走り抜ける。


「待てえっ!」


 背後からは、残った男たちが追いかけてくる。

 オレは残っていたもう1発のゴム散弾を背後に向けて撃ち、男たちをけん制する。

 それが効いたのか、男たちは追いかけてこなくなった。


 なんとしても、このまま逃げ切ろう。

 オレたちは狭い路地裏を駆け抜けて行った。




「ハァ……ハァ……」

「こ、ここまでくれば……大丈夫かな……?」


 オレたちは息を切らしていた。全力疾走してきたため、体力がすぐに限界に来てしまったのだ。おまけに長いこと列車で移動してきて、あまり運動をしていなかった。体力が、以前に比べて落ちているようだ。

 リーシャも走ってきたため、息を切らしていたが、早くも呼吸は戻りつつあった。


「あ、ありがとうございました。おかげで、もう少しで領主の館です……」

「……なぁ、どうしてここまで追われているのに、騎士団に駆け込まないんだ?」


 オレは気になっていたことを、リーシャに訊いた。

 ここまで追われるなんて、尋常じゃない。

 それなのに、なぜ騎士団に頼んで助けてもらおうとしないのか?

 何か、騎士団に対して不信感でもあるのだろうか?


「……実は、さっきの男たちが、騎士団なんです」

「……ハァ!?」


 オレは目を丸くした。

 さっきの男たちが、騎士団だって!?


 オレは、騎士団を撃ってしまったというのか!?


「……すいません。領主の館に着いたら、全て話します。だから、もう少し待ってください」

「わかった。だけど、全て話してもらうからね?」


 少しだけ、言葉に力が入った。

 それを感じ取ったのか、リーシャは素早く頷く。


 オレはチラッと、ライラを見た。


「ライラ、何なら先に列車に――」

「ビートくん、わたしのことは心配しないで。それに、わたしが帰る場所は列車じゃなくて、ビートくんの腕の中だから」


 ライラは笑顔で、そう答える。

 相変わらず、ライラはブレないな。


「わかった。じゃあ、行こうか。領主の館へ」


 まずはリーシャを、メルゲンの元まで送り届けないとな。

 オレたちは再び、歩き出した。




 領主の館に辿り着くと、リーシャを見た門番が、すぐに門を開けた。


「どうぞっ! お待ちしておりましたっ!」


 オレたちは領主の館の中へと案内され、そのまま領主の従者によって奥へと連れて行かれた。

 領主の館に入ったのは、これが2回目だろうか。

 確か最初は、ドーンブリカで決闘をしたオールの父、アム・ベルファスト・フランシス・スミス伯爵の居城だったはずだ。


「それでは、こちらへどうぞ」


 従者がドアを開けた部屋に、オレたちは足を踏み入れた。


「失礼します……」

「失礼しまーす!」


 控えめに挨拶したオレたちと、元気よく挨拶したリーシャ。

 その声に、窓際のイスに腰掛けていた男が立ち上がった。


「よく来てくれたな。リーシャよ。私が領主のメルゲンだ」


 この男が、エノク領の領主メルゲンか!

 オレたちは領主と対面し、緊張を感じていた。


「預かっていたものを、届けに来ました!」


 リーシャはメルゲンに歩み寄ると、リュックサックを下ろした。

 そして中から、あの宝箱を取り出す。


「待っていたぞ、これを!」


 メルゲンは喜んで宝箱を受け取り、そのまま開けた。

 果たして、中には何が入っているのだろう?

 オレたちは箱の中身が、かなり気になっていた。騎士団が確保しようと必死になり、そして何故かリーシャのような少女が運んでいたものとは!?


「リーシャよ、よく運んでくれた! まさしく婚姻のネックレスだ!」

「……え?」


 今、なんと云った?

 オレは自分の耳を疑う。もし間違っていなければ、婚姻のネックレスとメルゲンは云ったような気がするが……。


「婚姻のネックレスを、確かにお届けしました!」

「ありがとう! これでやっと、結婚式が執り行える!」

「ちょ……ちょっと待ってください!」


 オレが慌てて声を上げる。


「そういえば、君達は……?」

「メルゲンさん、私を騎士団から守り抜いてくれたビートさんとライラさんです」

「そうかそうか! それは感謝しないとな! ありがとう!」


 メルゲンが、オレたちに頭を下げる。

 しかし、今はそんなことよりも知りたいことがあった。


「あの、教えて下さい」

「ん、なにを?」

「どうして婚姻のネックレスをリーシャのような少女に運ばせていたのか、そしてなぜ騎士団に狙われていたのか、それを教えて下さい」


 オレが知りたいことは、それだった。

 リーシャから、領主の館に着いたら全て話すと聞いていたが、まだ聞いていない。

 その約束で、リーシャをここまで送り届けた。

 ただの骨折り損のくたびれもうけには、したくなかった。


「リーシャ、全てを話しなさい」


 メルゲンの言葉に、リーシャは頷いた。


「ゆっくりとお話しします。どうぞこちらへ」


 リーシャはそう云って、オレたちを応接室へと案内してくれた。




 応接室でイスに座って待っていると、メルゲンが現れた。メルゲンはオレたちと向かい合う位置に座り、その隣にリーシャも座った。


「まずはお礼を云いたい。リーシャをここまで連れてきてくれて、ありがとう」


 メルゲンはそう云って、頭を下げた。


「早速ですが、教えて下さい。まずはなぜ、リーシャのような少女に婚姻のネックレスを運ばせていたのですか?」

「なぜリーシャに婚姻のネックレスを運ばせていたのか。実は私は、これから結婚式を挙げることになっているんだ」


 メルゲンの言葉に、オレたちはとりあえず「おめでとうございます」と祝言を述べる。


「ありがとう。それで、結婚式には婚姻のネックレスを贈り合うのが必須だ。しかし実は、私は結婚を反対されていたのだ」

「それは……ご両親にですか? それとも親戚にですか?」


 聞きづらかったが、それでも聞かなきゃいけないとオレは思った。

 領主や上級貴族の間では、政略結婚も珍しくない。


「いや、そのどちらでもない。騎士団からだ」

「き、騎士団から?」

「そう、騎士団だ。だから私はこっそりと婚姻のネックレスを準備していたのだが、それを騎士団が嗅ぎつけた。騎士団は冒険者に扮して婚姻のネックレスを運ぶ馬車を襲撃し、婚姻のネックレスを奪って騎士団詰所の奥に封印してしまったのだ。そこでリーシャに頼んで、婚姻のネックレスを取り返してもらった」


 それでリーシャは騎士団から追われていたのか?

 だけど、そうだとするとこのリーシャは何者なんだ?


「実はこの子……リーシャはこう見えてもプロの義賊なんだ。騎士団詰所に忍び込んで、婚姻のネックレスを取り返してここまで持って来て貰う予定だったんだ」


 この見た目で義賊だと!?

 オレはとても信じられないという目で見たが、リーシャの自信あふれる表情からは、高いプライドが伺える。やはり、メルゲンの云っていることは正しいのだろう。


「だけど、騎士団もバカじゃなかった。すぐに気づかれて、リーシャが追われてしまった。そこに君達が通りかかって、助けてくれたんだ」

「つまり……リーシャが狙われていたのは、騎士団が婚姻のネックレスを再び奪おうとしていたから?」

「そういうことです!」


 リーシャが頷いた。


「でも、どうして騎士団が結婚を反対したのですか?」

「それは、私が妻として迎えたい女性が、過去に騎士団を侮辱していたからなんだ。最もその原因は、騎士団の誤認逮捕にあったわけなんだけど、騎士団はプライドが高くて、誤認逮捕の事実を認めようとしなかった。だからそんな女性が私の妻になると、自分たちの首が危ないと思って、騎士団は婚姻のネックレスを盗み出したんだ」

「なんてひどい!!」


 ライラが怒りをあらわにする。

 尻尾が逆立っていて、かなり憤っていることが見て取れた。


「まぁまぁ、落ちついて。騎士団には制裁を下すけど、それは後回し。まずは結婚式を先に執り行いたいんだ」


 そのとき、ドアがノックされた。


「はい、どうぞ」


 メルゲンがドアに向かって云うと、ドアが勢いよく開け放たれた。


「あなた!!」


 部屋に飛び込んできたのは、ウェディングドレスを身に纏った若い女性だった。


「おぉ、ミス・ヘルガ!!」


 メルゲンが女性の名前を叫び、イスから立ち上がる。

 2人は駆け寄ると、抱き合った。


「婚姻のネックレスが戻って来たのね!」

「あぁ。これで結婚式が挙げられる!」

「嬉しい!」


 その様子を、オレたちとリーシャは見つめていた。

 このヘルガという女性が、メルゲンの妻となる女性か。

 ウェディングドレスを身に纏っているせいか、その姿はとても美しく見えた。


 結婚式を執り行い、さらに女性がウェディングドレスを身に纏うのは、領主や上流貴族の間くらいだ。

 一般庶民では結婚式やウェディングドレスは高価すぎて、両方を揃えるとかなりの金額が飛んでしまう。そのため多くの女性にとって、ウェディングドレスを着ての結婚式は憧れとなっている。

 一般庶民の結婚では、立会人を立てて婚姻のネックレスを贈り合い、その後に会食をしておしまい。おカネを掛けないと、オレたちのように立会人を立てて、婚姻のネックレスを贈り合うだけで終了することがほとんどだ。


 ふと横を見ると、ライラはヘルガに釘付けになっていた。

 目が、キラキラと輝いている。

 ライラはウェディングドレス姿のヘルガに、見とれているようだ。


 何はともあれ、これにて一件落着か。

 オレはそう思い、そっとため息をついた。




 アフチス駅。

 アークティク・ターン号が出発の時を告げる。

 見送りには、リーシャだけが来てくれた。


 メルゲンは結婚式の準備で来ることができず、代わりとしてリーシャにオレたちへ渡すようにと、お礼のワッフルを持たせていた。

 オレたちは駅でリーシャからワッフルの詰まったバッグを受け取り、お礼を告げる。


「本当に、ありがとうございました。お体に気を付けて、旅をしてください」

「リーシャちゃんも、元気でね」


 ライラがそう云って頭を撫でると、リーシャは顔を真っ赤にして喜ぶ。

 プロの義賊でも、こういう所は年相応の子どもらしい反応だ。


 オレたちが列車に乗り込むと、再び汽笛が鳴り響いた。

 そしてゆっくりと、アークティク・ターン号が動き出す。


「ありがとうございましたーっ! お元気でーっ!」

「さようならーっ!」


 リーシャの別れの言葉に、オレたちは返事をする。

 リーシャの姿は遠ざかり、すぐに見えなくなった。


 アークティク・ターン号は、アフチスの街を離れて再び何もない草原を走り始める。




「やれやれ、またトラブルに巻き込まれるとは思わなかったな」

「でも、これでメルゲンさんはヘルガさんと結婚式を挙げられるから、良かったじゃない」


 オレとライラは、個室で頂いたワッフルを食べていた。

 ワッフルは甘く、フルーツサンドになっていたため、ライラは大喜びで食べ進めている。


「ヘルガさんのウェディングドレス、素敵だったね」

「オレもウェディングドレスを見たのは初めてだけど、綺麗だったな。ライラも着てみたかった?」


 オレが訊くと、ライラは顔を紅くして首を横に振った。


「わっ、わたしにはちょっと大げさよ! それに、もうビートくんと結婚した後なのに、ウェディングドレスを着るなんて、おかしいじゃない!」

「そっか……」


 口ではそう云うライラだったが、オレは見逃さなかった。

 ライラは尻尾を全力でブンブンと振っていた。



 アークティク・ターン号は、次の街へと向かって、走り続ける。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、7月6日21時更新予定です!

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