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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第1章
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第7話 レスキューミッション

 ライラが、強盗に捕まった。

 人質(ひとじち)になったハズク先生を助けようとして、今度はライラが人質になった。

 しかも強盗は、ライラを奴隷(どれい)として売り飛ばそうとしている。

 強盗はライラを()して『銀狼族(ぎんろうぞく)』だとか云っていたが、どういうことだろう?

 なんとかして助けないと。


 オレはチラっと、辺りを見回(みまわ)す。

 他の子どもたちは、完全に(おび)えている。


 ダメだ。

 力になってくれそうなのは1人もいない。

 泣いている子や、怯えて声も出せない子がほとんどだ。

 もしかしたら、チビっている子もいるかもしれない。


 オバちゃんたちも、きっと同じような状態になっているのかもしれない。


 オレだけでなんとかしないと。


(まつた)く、今日はなんてツイてない日だ」


 オレはどこかの刑事(けいじ)のようにそう(つぶや)くと、強盗に見つからないように、こっそりと動き出した。




「うわーん! 誰かたすけてー!」

「お腹()いたよー!」

「ハズク先生ーっ!」


 小さな子どもたちが、恐怖(きようふ)空腹(くうふく)で泣き叫ぶ。


「みんな、もうちょっと頑張(がんば)りましょう。きっと、大丈夫だから」


 必死でなだめようとするハズク先生。


「うるせぇぞクソガキ! 死にたいのか!?」


 容赦(ようしや)なく怒鳴(どな)る強盗。


 どちらも、子どもたちを静かにさせる効果はあまりなかった。




 オレは床をヘビのように()いずり回り、強盗に近づいていく。

 危険だけど、みんなを助けるためには、この方法しかない。


 イチかバチか。

 その先に待っているのは、勝利か死か。


 でも、同じ男ならこれには(かな)わないはずだ。


 オレは気づかれないように、1人の強盗に近づき、股の下までやってきた。

 (ひたい)を冷や汗が流れていく。

 ここまでは、上手(うま)くいった。

 問題は、ここからだ。


(上手くいってくれよぉ……)


 オレは慎重(しんちよう)に位置を調整(ちようせい)すると、生唾(なまつば)を飲み込んだ。


(せーのっ!)


 そして思い切り、上半身(じようはんしん)()げた。


 グチャ。

 オレの頭の上で、嫌な音がした。


「あぎゃあ!」


 強盗の1人が、悲鳴(ひめい)を上げて気絶(きぜつ)する。

 突然、仲間が悲鳴を上げたことに、強盗全員が(おどろ)いた。


「お、おい、どうした!?」

「あっ、このガキ!」


 強盗の1人が、オレに気づいた。

 ヤバい。


「てめぇ、動くなって云っただろう!?」

「待ちやがれ!」


 オレの上を、1人の男がまたぐ。

 チャンスだ。


「ふんっ!」


 オレは再び、上半身を上げる。

 ぐしゃ。


「ぅんがあっ!」


 オレをまたいだ男は、変な声を上げて倒れた。


「このガキ!」

「うわあっ!」


 オレは強盗に捕まり、持ち上げられる。


「うぐぐ……放せっ!」


 オレはもがくが、強盗は放さない。


「いい度胸(どきよう)だ! お前から殺してやる!」

「ビートくん!」


 今だっ!

 ハズク先生が叫ぶと同時に、オレは片足(かたあし)を後ろへと()り上げる。

 ぐしゃっ。

 上手いこと、強盗の股間(こかん)に当たった。


「――!!」


 強盗は声を出すことなく、気絶する。

 オレはすぐに解放された。


 さて、残るは……。


「ビートくん!」


 ライラを捕まえている、あの強盗だけだ。


「な、なんなんだこのガキ!」

「いててて……」


 オレは右手を(おさ)え、その場にしゃがみ込む。


(うで)が……腕が……!」

「へっ、やっぱり大したことねェな」


 強盗が、ゆっくりと()かってくる。

 このままじゃ、捕まる!


「ビートくん! 逃げなさい!」


 ハズク先生が叫ぶが、オレは逃げない。

 そして強盗が、オレの目の前で立ち止まった。


「ゲームオーバーだぜ」


 強盗が片手(かたて)を伸ばして捕まえようとして来る。


「――なんちゃって」


 オレはニヤリと笑うと、強盗の股間を右手で(つか)み、握力(あくりよく)を一気に発揮(はつき)した。


 ぐしゃ。


「ああああ!!」


 強盗は捕まえていたライラを放すと、口から泡を()いてその場に倒れ込んだ。

 これで、強盗は全滅した。

 こいつらは、2度と起き上がれないだろう。


 思った通りだった。

 この痛みに勝てる男など、いないのだから。


 オレは強盗の股間から、手を離す。


「うえ……変な感触(かんしよく)

「ビートくん! ライラちゃん!」


 ハズク先生が、オレたちを抱きしめる。


「良かった。無事で本当に良かった……!」


 その後、オレたちは駆け込んできたお手伝いのオバさんたちと、通報(つうほう)を受けて駆け付けた騎士団(きしだん)に取り囲まれた。

 騎士団、遅い!

 オレは叫びたくなったが、ハズク先生の胸に顔を(うず)められ、声が出せなかった。



 強盗は騎士団に引き渡され、オレは身体にケガを負っていないか検査(けんさ)された。

 無事に終わったと思っていたら、今度はハズク先生からのお説教(せつきよう)が待っていた。


 こっぴどく(しか)られるのかと思いきや、そうではなかった。

 2度と危険な事をしない、と約束しただけで解放された。



 オレが談話室(だんわしつ)に戻るために進んでいると、ライラが(あら)れた。


「あっ、ライラ」


 ライラはうつむいたまま、じっとその場に立っている。


「無事で本当に良かっ――んぐっ!?」


 突然、オレはライラに抱き着かれた。


「……ライラ?」

「助けてくれて……ありがとう」

 そう云うと、ライラはオレに抱きついたまま、声を上げて盛大(せいだい)に泣き出す。


 (こわ)かったんだろう。

 強盗に捕まり、奴隷として売り飛ばすなんて云われて、連れ去られそうになる。

 どれほど怖い思いをしたことか。

 それはライラにしか分からないはずだ。


 他の子どもたちやオバさんが見てくるが、ライラは(かま)わず泣き続ける。

 オレはライラが泣き止むまで、抱きしめながらそっとライラの頭を()で続けた。


 これって役得(やくとく)……だよね?

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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