第7話 レスキューミッション
ライラが、強盗に捕まった。
人質になったハズク先生を助けようとして、今度はライラが人質になった。
しかも強盗は、ライラを奴隷として売り飛ばそうとしている。
強盗はライラを指して『銀狼族』だとか云っていたが、どういうことだろう?
なんとかして助けないと。
オレはチラっと、辺りを見回す。
他の子どもたちは、完全に怯えている。
ダメだ。
力になってくれそうなのは1人もいない。
泣いている子や、怯えて声も出せない子がほとんどだ。
もしかしたら、チビっている子もいるかもしれない。
オバちゃんたちも、きっと同じような状態になっているのかもしれない。
オレだけでなんとかしないと。
「全く、今日はなんてツイてない日だ」
オレはどこかの刑事のようにそう呟くと、強盗に見つからないように、こっそりと動き出した。
「うわーん! 誰かたすけてー!」
「お腹空いたよー!」
「ハズク先生ーっ!」
小さな子どもたちが、恐怖と空腹で泣き叫ぶ。
「みんな、もうちょっと頑張りましょう。きっと、大丈夫だから」
必死でなだめようとするハズク先生。
「うるせぇぞクソガキ! 死にたいのか!?」
容赦なく怒鳴る強盗。
どちらも、子どもたちを静かにさせる効果はあまりなかった。
オレは床をヘビのように這いずり回り、強盗に近づいていく。
危険だけど、みんなを助けるためには、この方法しかない。
イチかバチか。
その先に待っているのは、勝利か死か。
でも、同じ男ならこれには敵わないはずだ。
オレは気づかれないように、1人の強盗に近づき、股の下までやってきた。
額を冷や汗が流れていく。
ここまでは、上手くいった。
問題は、ここからだ。
(上手くいってくれよぉ……)
オレは慎重に位置を調整すると、生唾を飲み込んだ。
(せーのっ!)
そして思い切り、上半身を上げた。
グチャ。
オレの頭の上で、嫌な音がした。
「あぎゃあ!」
強盗の1人が、悲鳴を上げて気絶する。
突然、仲間が悲鳴を上げたことに、強盗全員が驚いた。
「お、おい、どうした!?」
「あっ、このガキ!」
強盗の1人が、オレに気づいた。
ヤバい。
「てめぇ、動くなって云っただろう!?」
「待ちやがれ!」
オレの上を、1人の男がまたぐ。
チャンスだ。
「ふんっ!」
オレは再び、上半身を上げる。
ぐしゃ。
「ぅんがあっ!」
オレをまたいだ男は、変な声を上げて倒れた。
「このガキ!」
「うわあっ!」
オレは強盗に捕まり、持ち上げられる。
「うぐぐ……放せっ!」
オレはもがくが、強盗は放さない。
「いい度胸だ! お前から殺してやる!」
「ビートくん!」
今だっ!
ハズク先生が叫ぶと同時に、オレは片足を後ろへと蹴り上げる。
ぐしゃっ。
上手いこと、強盗の股間に当たった。
「――!!」
強盗は声を出すことなく、気絶する。
オレはすぐに解放された。
さて、残るは……。
「ビートくん!」
ライラを捕まえている、あの強盗だけだ。
「な、なんなんだこのガキ!」
「いててて……」
オレは右手を抑え、その場にしゃがみ込む。
「腕が……腕が……!」
「へっ、やっぱり大したことねェな」
強盗が、ゆっくりと向かってくる。
このままじゃ、捕まる!
「ビートくん! 逃げなさい!」
ハズク先生が叫ぶが、オレは逃げない。
そして強盗が、オレの目の前で立ち止まった。
「ゲームオーバーだぜ」
強盗が片手を伸ばして捕まえようとして来る。
「――なんちゃって」
オレはニヤリと笑うと、強盗の股間を右手で掴み、握力を一気に発揮した。
ぐしゃ。
「ああああ!!」
強盗は捕まえていたライラを放すと、口から泡を吹いてその場に倒れ込んだ。
これで、強盗は全滅した。
こいつらは、2度と起き上がれないだろう。
思った通りだった。
この痛みに勝てる男など、いないのだから。
オレは強盗の股間から、手を離す。
「うえ……変な感触」
「ビートくん! ライラちゃん!」
ハズク先生が、オレたちを抱きしめる。
「良かった。無事で本当に良かった……!」
その後、オレたちは駆け込んできたお手伝いのオバさんたちと、通報を受けて駆け付けた騎士団に取り囲まれた。
騎士団、遅い!
オレは叫びたくなったが、ハズク先生の胸に顔を埋められ、声が出せなかった。
強盗は騎士団に引き渡され、オレは身体にケガを負っていないか検査された。
無事に終わったと思っていたら、今度はハズク先生からのお説教が待っていた。
こっぴどく叱られるのかと思いきや、そうではなかった。
2度と危険な事をしない、と約束しただけで解放された。
オレが談話室に戻るために進んでいると、ライラが現れた。
「あっ、ライラ」
ライラはうつむいたまま、じっとその場に立っている。
「無事で本当に良かっ――んぐっ!?」
突然、オレはライラに抱き着かれた。
「……ライラ?」
「助けてくれて……ありがとう」
そう云うと、ライラはオレに抱きついたまま、声を上げて盛大に泣き出す。
怖かったんだろう。
強盗に捕まり、奴隷として売り飛ばすなんて云われて、連れ去られそうになる。
どれほど怖い思いをしたことか。
それはライラにしか分からないはずだ。
他の子どもたちやオバさんが見てくるが、ライラは構わず泣き続ける。
オレはライラが泣き止むまで、抱きしめながらそっとライラの頭を撫で続けた。
これって役得……だよね?
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!