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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第6章
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第77話 アルト出発

 ディアブロから突然放たれた言葉に、オレは激怒した。


「ふざけるな! あの銀狼族……ライラはオレの妻だ! 誰にも渡さないぞ!」

「アマデウスホールとマリアの代わりだ。あの銀狼族は、マリアよりも美しい。俺たちの女にして、飽きたら奴隷として売れば、マリアなんかとは比較にならないほどの金を手に入れられる」

「わかったなら、さっさとあの銀狼族を連れて――」


 ドガン!

 ヴィクセンがそこまで云いかけた時、銃声が轟いた。


 オレがソードオフを取り出し、空に向けて放った。

 空に向けられた銃口から、硝煙が立ち昇る。

 ディアブロとヴィクセンの動きが、止まる。


 オレはそのまま、銃口をディアブロとヴィクセンに向ける。


「お、おい、ふざけるな!!」

「や、やめろ!!」


 ディアブロとヴィクセンが慌ててオレに云うが、オレはそれを無視して、引き金を引いた。

 こいつらは、オレを怒らせた。最愛の妻ライラを、慰み者にするだけじゃなく、飽きたら奴隷として売ると宣言した。オレの逆鱗に触れるどころじゃない。

 再び銃声が轟き、銃口から飛び出した散弾がすぐに拡散し、ディアブロとヴィクセンに向かって飛んでいく。


「ぐあっ!」

「ぎゃっ!」


 散弾を食らったディアブロとヴィクセンが、散弾の威力で吹っ飛ばされ、2メートルほど後方へと飛んで、地面に転がった。

 その時、ディアブロの懐から金貨が入った袋が飛び出し、地面に落ちた。

 非致死性の弾丸を装填しておいたため、死にはしないが、気絶はしただろう。


 オレはディアブロの懐から飛び出した袋を拾い上げると、それをヨハンへと手渡した。

 もうこいつらに、金貨は必要ない。


「ビート殿!」

「ヨハンさん、こいつらを騎士団に突きだしましょう」


 オレの言葉に、ヨハンが驚く。


「その返済不要証明書を添えて突きだせば、もうアルトの街には居られなくなりますよ」

「それはそうだが……ビート殿、どうしてまた!?」

「こいつらは、ライラのことを奴隷にしようとした。オレはそれが許せませんでした。本当なら散弾をぶち込みたいところでしたが、アマデウスホールの壁を血で汚したくありませんでしたので、非致死性の弾丸で気絶させました」


 オレはトドメとばかりに、ディアブロとヴィクセンをソードオフでぶん殴る。

 もうこれで、半日は起き上がれないだろう。


「わ……わかった。すぐに電話で連絡する」


 ヨハンが、若干引いた様子で楽屋へと向かって行った。




 ヨハンの通報を受け、アルト騎士団が到着した。

 返済不要証明書を見せると、騎士団はすぐにディアブロとヴィクセンを縄に掛けた。


「ありがとうございました。実は、サドラーとヴィクセンについてはあちこちから相談を受けていまして、今回の件で逮捕に踏み切ることができました」


 騎士がお礼を告げた。


「詳細はまた後日連絡いたします。それまで、あなた方の身の安全は保障します」


 騎士団はディアブロとヴィクセンを馬車に乗せると、騎士団詰所に向かって連行していく。ディアブロとヴィクセンは観念したらしく、馬車の中でも騒いだりはせず、大人しくしていた。


「……終わりましたね」

「いや、まだだ。まだ演奏会が終わっていない!」


 ヨハンの言葉で、オレは演奏会の事を思い出した。

 そうだ、まだライラが歌っている!

 ライラの歌は、オレはほとんど聞けていないんだ!


 オレはヨハンと共に、慌ててアマデウスホールの中へと戻って行く。



 ステージ端まで戻って来ると、演奏会は終了直前だった。

 ライラが歌っている歌も、最後のサビに突入している。

 アルト・フォルテッシモ楽団の演奏にも、熱が入っていた。


 そしてライラの歌と演奏が終わる。

 これで、全てのプログラムが終了した。


 演奏会が終わり、ライラが観客席に向かって一礼をすると、観客席全体から拍手が沸き起こった。

 拍手だけではない。

 観客たちは笑顔で、ライラとアルト・フォルテッシモ楽団に賛辞を贈っている。

 中には口笛を吹いたり、アンコールを求める声も起こる。


 ヨハンがジェスチャーで指示を出し、それを受け取ったライラとアルト・フォルテッシモ楽団は、アンコールに応えて演奏を再開する。


「これで、午後の部でも満員御礼、決定です!」

「はい!」


 ヨハンが嬉し涙をこらえながら云い、オレが同意する。

 ライラも、楽しそうに歌っていて、苦痛に感じている様子は無い。

 これなら午後も大丈夫だろう。


 その後、昼の休憩を挟んだ後に、午後の部が始まった。

 午後の部も、アマデウスホールはすぐに満員御礼となった。

 午前の部を上回る観客が押し寄せ、立ち見をする者も大勢現れた。


 結果として、演奏会は大成功を収めた。

 アマデウスホールは、過去最高の売り上げとなる大金貨100枚にもなる売上を記録した。




 演奏会終了後。

 アマデウスホールの楽屋では、歌姫として活躍したライラと、演奏を行ったアルト・フォルテッシモ楽団の団員たちが演奏会の成功に喜んでいた。

 オレは楽屋のドアを開け、その中に飛び込んだ。


「ビートくん!」

「ライラ!」


 すぐにライラがオレに気づき、近づいてくる。

 ライラは舞台衣装のまま、オレに抱きついて尻尾を振った。


「ライラ、ありがとう! 素晴らしい歌だったよ!」

「本当!?」

「あんなに美しい歌を聴いたのは初めてだ! ライラはオレにとって自慢の嫁だよ!」

「嬉しい!!」


 オレはライラを労おうと、ライラの頭を撫でる。ライラは笑顔をオレに見せながら、尻尾をブンブンと振った。

 ふと辺りを見回すと、アルト・フォルテッシモ楽団の団員たちが、砂糖を吐きそうな表情をしている。オレとライラの甘々なところを見せられて、参っているみたいだ。

 ちょっと周りに気を配れていなかったな。

 オレはそう反省する。


 すると、スタイリストがやってきた。


「さてライラさん、着替えの時間ですよ」

「うーん……もうちょっとだけ、このままで……」

「ダメです。着替えが終ったら、好きなだけ撫でてもらえばいいじゃないですか」

「はいっ、わかりました!」


 好きなだけ撫でてもらえばいい。

 その一言で、ライラの表情は明るくなり、ライラはオレから離れて奥にある更衣室へスタイリストと共に向かう。


「ビートくん、ちょっと待っててね!」


 ライラはそう云って、更衣室へと消えて行った。

 オレはライラが遺した温もりを感じつつ、ライラが着替えを終えて出てくるのを待つことにした。


 すると、ヨハンとマリアがやってきた。


「ビート殿、ありがとうございました!」


 ヨハンはそう云って、オレに頭を下げた。


「あなたのおかげです! 演奏会は大成功でしたし、ディアブロの問題もすっかり心配する必要は無くなりました!」

「あなたは、私達……いえ、私達だけじゃなく、我がアルト・フォルテッシモ楽団にとって命の恩人です!」


 マリアも頭を下げた。マリアの長い髪が、ふわりと揺れてライラとは違ったいい匂いが、オレの鼻をくすぐった。


「いえ、お礼はライラに云ってください。オレは何もしていません。ライラの歌声と皆さんの演奏が、大成功へと導いたのですから」

「おまたせ、ビートくん!」


 ちょうど、ライラが着替えを終えて出てきた。

 オレと似たような旅人の服に身を包んだ、見なれたいつものライラだ。


「ライラさん、これは出演料とお礼です」


 そう云って、ヨハンが大金貨30枚をライラに手渡す。

 突然得られた大金に、ライラは目を見張った。


「えっ、いいんですか!?」

「あなたのおかげで、大繁盛でした! ありがとうございました!」


 ヨハンがライラに頭を下げる。


「ねぇライラさん、あなたさえ良ければ歌手になって、私達と一緒にアルト・フォルテッシモ楽団とアマデウスホールを盛り上げてくれませんか? きっと、4つの大陸全てから出演依頼が舞い込むほどの、スーパースターになれますよ。ライラさんには、その素質があります」


 しかし、マリアのお誘いの言葉に対して、ライラは首を横に振った。


「気持ちは嬉しいですが、わたしはビートくんと一緒にいたいので、遠慮します」

「そうですか……」


 少し残念そうに、マリアは云った。


「でも……またアルトに来た時は、必ず演奏を聴きに来ますから!」


 ライラのその一言に、団員たちは笑顔になって歓声を上げた。




 夕方。

 アークティク・ターン号が汽笛を鳴らし、出発時刻を告げる。

 アルト駅のホームには、ヨハンとマリアが見送りに来ていた。

 オレたちは個室の窓から身を乗り出し、ヨハンとマリアを出迎える。


「ディアブロからアマデウスホールを救ってくれた上に、過去最高の売上まで出していただいたのに、十分なお礼もできなくて、ごめんなさい」

「いえ、もうお礼は十分すぎるほどいただきました」


 ライラは大金貨30枚が入った袋を持っている。


「色々とお世話になりました」

「またアルトに来た時は、是非アマデウスホールに来てください。アルト・フォルテッシモ楽団一同、心よりお待ちしております」

「はい、必ず!」


 オレとライラは、ヨハンとマリアと握手を交わす。

 一緒に居た時間は短かったが、オレたちとアルト・フォルテッシモ楽団の間には、確かにきずなが生まれていた。

 握手を終えると、オレはヨハンから包みを渡された。


「それと、これは餞別です」

「ありがとうございます! これは……?」


 汽笛が再び鳴り響き、アークティク・ターン号が動き出した。ゆっくりとスピードを上げて行き、ヨハンとマリアが後方へと遠ざかり始める。


「さようならーっ!」

「さようならー! また会う日までーっ!」


 オレたちは窓から手を振り、それに答えるように手を振り返す、ヨハンとマリア。

 アークティク・ターン号はアルトの街を出て、地平線へと続いているレールを走り、夕日をバックに進んで行った。




 アルトが地平線の彼方に姿を消し、オレとライラは窓を閉めた。


「えっ、ビートくんわたしの歌、ほとんど聞いていなかったの!?」

「そうなんだよ。実は……」


 オレが演奏会の間、何が起きていたのかを話した。

 ディアブロと対峙していたこと、ライラを奪おうと発言していたこと、騎士団に引き渡したこと……。

 それら全てを話すと、ライラは納得してくれた。


「ビートくん、大変だったのね」

「ライラの歌、ゆっくり聞きたかったよ」

「大丈夫よ。いつでも出演料ナシで、歌ってあげるから」


 そう云うと、ライラはその場で1曲歌ってくれた。

 オレのためのスペシャルライブだ。

 美しい歌声を聴いていると、オレは自然とリラックスできた。ライラの歌声には、ヒーリングの効果があるのかもしれない。


「うーん……いい。ライラの歌、他の人に聞かせるのはもったいないな」


 ライラの歌を聴いて、オレはそう感想を告げる。

 すると、お腹が鳴った。

 そういえば、お昼から何も食べていない。腹が鳴っても、全くおかしくないな。


「……そろそろ、夕食にしようか」

「賛成! 今夜は、何にする?」

「ライラが頑張ってくれたから、サーロインステーキの特上にしよう」

「本当!? 嬉しい!!」


 大喜びするライラと共に、オレは食堂車へと向かった。

 そしてオレとライラは、食堂車で夕陽を見ながらサーロインステーキの特上を味わった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、7月3日21時更新予定です!

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