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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第6章
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第73話 音楽の都アルト

 オレとライラが展望車で景色を眺めていると、先頭のセンチュリーボーイが汽笛を鳴らした。

 その汽笛に反応して、オレたちはイスから立ち上がり、前方に目を向ける。


 列車が向かう先に、ドーンブリカのような西大陸西部の特徴である石造りの建物が並ぶ街が見える。

 あそこが、アルトだ。


 列車がアルトに近づいてくると、微かに音楽が聞こえてきた。

 ライラにもそれは聞こえたらしく、獣耳をピクピクと動かしている。

 聞こえてくる音楽は、どうやら交響曲のようだ。

 列車が走る音の方が大きいが、それでも微かに聞こえてくる。


「あそこが、音楽の都?」

「アルトだな。演奏会が毎日開催されているらしいから、1回くらいは演奏会に行ってみようか」

「さんせーい!」


 ライラが2つ返事で答えた。




 アークティク・ターン号がアルト駅のホームに入ってきて、所定の位置で停車する。

 ドアが開いて、列車に乗っていた乗客たちが次々に降りていく。

 ホームでは、プラカードを掲げた駅員が往来していた。プラカードには『アルト駅に到着しました。停車時間は48時間です』と書かれている。


 オレたちも個室を出ると、鍵を掛けて列車からホームへと降り立った。

 そしてそのまま改札を抜け、駅の外へと出る。


「んーっ、ここがアルトなのね。なんだかドーンブリカにまた来ちゃったみたい」

「音楽の都……街の人もなんだか、ドーンブリカと似ているな」


 ライラの云う通り、ドーンブリカとよく似ていた。待ちゆく人々の服装も、着飾っていて豪華だ。

 オレたち、浮いたりしないだろうか?

 そんなことを考えていると、群衆の中から突如として呼び込みをする人が現れた。


「演奏会が始まるよー! 場所はアマデウスホールだ! みんな聴いていっておくれー!」


 呼び込みの人がチラシを配りながら歩いている。

 演奏会の告知をしているらしい。

 そしてライラにもチラシを手渡していった。


「はい、お嬢さんも良かったら、演奏会に着て音楽を聴いていっておくれ」

「あの、誰でも演奏会には参加できますか?」


 ライラの質問に、チラシを渡した呼び込みの人が、笑顔で頷いた。


「もちろん! 誰でもどなたでも大歓迎! みんなでおいでよ!」


 呼び込みの人がオレたちから離れて行き、次の人にチラシを手渡しに行く。

 ライラがもらったチラシに目を通すと、アマデウスホールという場所で演奏会が行われるらしい。

 演奏会の始まる時間を見ると、それはもうすぐだった。


「ビートくん、演奏会だって!」

「音楽の都に来たんだ。いい機会だから、聴いていこう!」

「行こう、行こう!!」


 オレとライラは、アマデウスホールという場所に向かうことにした。




 アマデウスホールの前にやってくると、すでにたくさんの人が集まっていた。

 全員、ここに演奏会を聴きに来たらしく、オレたちが持っているものと同じチラシを手にしている。


「すごい人ね!」

「大人気らしいな。どんな演奏が聴けるんだろう?」


 オレたちは期待しながら、アマデウスホールの扉が開くのを待った。

 少しして、アマデウスホールの中から1人の男が現われる。

 男は黒いタキシードに身を包んでいて、紳士的なしぐさで一礼をした。


「お待たせしました! 今回演奏いただきますのは、あのアルト・フォルテッシモ楽団でございます!」


 待っていた人々が色めき立つ。

 オレとライラも顔を見合わせ、その発表内容に驚いた。


 アルト・フォルテッシモ楽団は、アルトを中心に活動する楽団だ。常にどこかへ興行に出ていて、演奏を聴くことは、非常に難しいと聞いている。アルト・フォルテッシモ楽団の演奏を聴けるだけで、かなりラッキーなことなのだ。

 オレたちは、これから始まる演奏会に期待を膨らませる。

 演奏会で音楽を聴けるなんて、まるでお祭りみたいだ。それも演奏するのが、あのアルト・フォルテッシモ楽団だなんて!


 オレたちはアマデウスホールに入り、チケットを購入してホールのイスに腰掛けた。すでにステージには楽器が用意されていて、いつ演奏が始まるのかとワクワクする。


 しばらくして、ホール内が暗くなると、舞台に照明が当てられる。そしてステージにアルト・フォルテッシモ楽団が次々と姿を現した。

 人々の拍手と歓声に迎えられながら、楽団員たちは担当しているのであろう楽器の前に移動して、演奏開始に備える。

 そして指揮者が現れると、指揮棒を手にして降り始めた。それに続くようにして、交響曲の演奏が始まった。

 普段なかなか聞くことができない交響曲の演奏に、オレとライラはすっかり聞き入った。



 演奏会は、5曲演奏されて終わった。

 惜しみない拍手が注がれ、オレとライラも拍手を送る。


「すごかったね、ビートくん!」

「あぁ、素晴らしい演奏だった!」


 オレたちは音楽に対して深い教養などは持っていないが、今回のアルト・フォルテッシモ楽団の演奏が素晴らしいものであったことは、よく分かった。

 滅多に聴くことができないものが聴けて、大満足だ。


「……あれ?」


 しかしその時、オレは妙な事に気づいた。

 観客に向かって手を振るアルト・フォルテッシモ楽団の団員が、どこか浮かない表情を浮かべている。

 それに気づいているのかいないのか、拍手を送り続ける他の観客たち。

 オレの勘違いだろうか?


 そうこう考えている間に、ステージの照明が落とされ、演奏会は完全に終了した。



「演奏、素晴らしかったね!」


 ライラは大喜びで云う。

 しかしはオレは、浮かない表情の楽団員のことが気になっていた。


「……ビートくん、どうかしたの?」

「うん。実は……」


 オレはさきほどの演奏会の最後に、楽団員たちが浮かない表情をしていたことをライラに話した。

 すると、ライラはうかない表情の楽団員たちに気づいていなかったらしく、驚いていた。


「どうも気になるんだ」

「それなら、直接聞いてみるのがいちばんじゃないかしら?」

「でも、アポなしでいきなり聞いて大丈夫かな?」

「やらなくて後悔するよりも、やって断られてガッカリするほうがいいよ」


 確かにその通りだなと、オレは思った。

 ライラの言葉に押され、オレは浮かない表情の楽団員に、どうして浮かない表情をしていたのか聞いてみることにした。


 近くに居た警備員に、アルト・フォルテッシモ楽団の楽屋の場所を訊き、案内してもらう。警備員は腰に下げていたトンファー型の警棒に、手を掛けた。


「食べ物などの差し入れはお断りさせていただいてますが、ご存じですか?」

「食べ物は持って来ていません。ただ、今日の演奏会が素晴らしかったから、感想を直接伝えたいんです」


 ビートはそう答え、警備員は安心する。それと同時に、警棒からも手を離した。


「かしこまりました。それでは、ご案内します」


 オレたちが警備員に案内されて足を踏み入れたのは、アマデウスホールの裏側にある従業員用の区画だった。通路は半分物置のようになっていて、少し狭い場所もある。

 普段なら入れない場所であることから、少し緊張しながらオレたちは進んで行く。




「こちらが、アルト・フォルテッシモ楽団の楽屋になります」


 そしてアルト・フォルテッシモ楽団の楽屋へと案内された。

 扉の前に立つと、中から何か話す声が聞こえてくる。

 オレはノックをして、扉を開いた。


「すいませーん、アルト・フォルテッシモ楽団の楽屋は、ここですか?」

「来たな、ディアブロの手下め! 覚悟しろ!!」


 突然、扉の向こう側から現れた若い楽団員に箒で頭を叩かれた。

 オレは避けることもできず、そのままモロに受けてしまう。

 電撃が走ったような衝撃を受け、オレはその場に倒れ込んだ。



「ビートくーん!!」



 ライラの叫び声が、響き渡る中、オレの意識は遠のいていった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、6月29日21時更新予定です!

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