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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第6章
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第70話 山賊たちの恩義

 オレとライラは、展望車で景色を楽しんでいた。

 景色を楽しむだけなら、2等車の個室からでもできたが、展望車からの眺めは格別だ。これを見てしまうと、2等車の個室の窓から眺めるだけでは物足りなくなってしまう。なんとも罪深いものが、アークティク・ターン号にはあるものだ。


「お客様」


 突如、オレたちは聞き覚えのある声に振り返る。

 ブルカニロ車掌がいた。

 そして手には、少し大きな包みを持っている。


「お客様、お預かりしておりました荷物です」


 ブルカニロ車掌がそう云うが、オレたちは首をかしげた。

 オレたちは、荷物など預けていない。

 荷物は全て、今持っているものと、2等車の個室にあるものしかないのだ。


「あの……すいません。オレたち、荷物は預けていなかったと思うんですが……?」

「いえ、こちらはあの山賊たちからお預かりしたものです」


 山賊と聞いて、オレたちは思い出した。

 ミーヤミーヤの病院に引き渡した、あの山賊たちだ。

 人族至上主義者と獣人族至上主義者の対立騒動があって、すっかり忘れていた。


「あの山賊たちから?」

「はい。どうしても、あの時助けてくれた、ソードオフを持った少年と、獣人の少女に渡してほしいとお願いされたものでして、受け取ってください」


 ブルカニロ車掌から、オレは荷物を受け取る。

 受け取る以外にどうしたらいいのか、オレには分からなかった。


 受け取りのサインをすると、ブルカニロ車掌が真剣な表情になった。


「お客さん、開封する時は十分気を付けてくださいね。何が入っているか、全く分からないので」

「えっ、荷物の内容は聞いてもらえなかったのですか?」


 せめて、何が入っているのかくらいは聞いておいてほしかったんだけど。


「山賊が、私に押し付けるように預けて、すぐに去ってしまいましたもので。申し訳ありません。もし何かあった時は、すぐに乗務員を呼んでください」


 ブルカニロ車掌はそう云って、その場を立ち去っていった。




 オレたちは個室に戻り、机の上に包みを置いた。

 さて、これからこいつをどうしようか。


 何が入っているのか分からないとなると、開封が怖い。

 しかし、開封しないことには何が入っているのか分からない。

 包みの表面には、内容物を証明する証票のようなものはない。


「こういう荷物が、いちばん取扱いに困るんだよな」


 オレはグレーザー駅の鉄道貨物組合で、クエストを請け負っていた時のことを思い出していた。

 たまにやってくる証票のない荷物は、内容物も届け先も分からないため、厄介な荷物の代表格だった。

 駅なら受け取り拒否もできるが、列車での移動中には受け取り拒否ができないため、受け取った後でどうするかを考えなくてはならない。

 内容物を確認しないで捨てることは禁じられていた。もしも大切なものであった場合、鉄道貨物組合も取り扱った者も、その責任を取れないからだ。

 最悪の場合、裁判にまで発展することもあった。


「どうする?」

「……開けて中身を確かめよう」


 オレはそっと、包みに手を掛ける。

 ふと、オレはライラを見て、万が一のことを考えて手を止めた。


「……ライラ、念のため外で待ってて」

「えっ、どうして?」

「……もしもだけど、爆弾だったりしたら、ライラだけでも助かって欲しいから」


 鉄道貨物組合で荷物を取り扱っていた時、過去に中身が毒物や爆弾だったことがあり、被害が出た前例があった。

 別の駅でのことだったし、グレーザー駅ではそんなことは一度も無かったが、万が一ということもある。


 ましてやこの内容物が分からない荷物なら、爆弾の可能性も十分あり得る。

 本当に爆弾だった場合、ライラにだけは助かって欲しいとオレは思っていた。


「嫌!」


 しかし、ライラはそれを拒否した。


「爆弾だったら、ビートくんが死んじゃうじゃない! わたしはビートくんがいない世界に放り出されるなんて、耐えられない!」

「オレは、もしものことがあった時、ライラには生き残って欲しいんだ!」


 だが、ライラは首を縦に振らない。


「だったら、その包みを捨てて!」

「中身を確認しないと捨てられないよ」

「それなら、わたしも一緒にここにいる!」


 頑として譲らないライラに、オレは根負けした。

 ここまで来たら、テコでも動かないだろう。


「……わかった。じゃあ、開けるぞ。覚悟はいい?」

「うん……!」


 ライラが頷くと、オレは荷物を紐解いていく。

 ゆっくりとロープを解き、包みを開いていった。




 包みを全て解いた時、中身が現れた。

 中身を見たオレたちは、目を丸くした。


「……これは?」


 オレは中身を手に取り、それが何なのかを理解した。


 中に入っていたのは、ポムパンと呼ばれるバー状の保存食だった。

 肉やベリー類などが入っていて、山で生活している者しか作れないことが多く、高値で取引されることもある貴重品だ。


 爆弾じゃなくて、良かった。

 山賊たちは、オレたちに恩義を感じて、ポムパンを包んでくれたんだ。


「ポムパンじゃないか!」

「えっ、これがポムパンなの!? 初めて見た!」


 ライラもポムパンの価値がどれほどのものかは、よく知っていた。


「見て! 手紙が入ってる!」


 一緒に入っていた手紙を拾い上げ、オレは手紙の内容を読み上げる。



『俺達を助けてくれてありがとう。

君達がいなかったら、俺達の仲間は死んでいたかもしれない。

君達は命の恩人だ。


お礼として、ポムパンを贈る。

食べるなり、売るなり自由に使って欲しい。

食べれば美味しく、売ればかなりの金額になるか、高価なものと交換してもらえるだろう。


もしこの先また出会うことがあるのなら、今度は喜んで力を貸そう。

俺達山賊は、一度受けた恩は決して忘れない。

ポムパンの作り方も教える。

約束する。


またいつか会おう。

さようなら。


代表 アルトムより』



 山賊たちからのお礼の品だ。

 しかし、完全に安心はできない。

 まだ、ポムパンに毒が含まれている可能性があるからだ。


「念のため、オレが味見してみる。万が一のことがあるといけないから」

「ビートくん、大丈夫?」

「……多分」


 オレは一本を拾い上げ、見つめる。

 過去に見たことがあるポムパンと、何ら変わりはない。


 生唾を飲み込み、覚悟を決めると、オレはポムパンをかじった。


 そしてそのまま、噛んで飲み込む。

 味はかなり美味しかった。変な味もしないし、身体に変化も無い。

 毒が含まれている可能性は、低そうだ。


「……美味しいぞ!」


 食べても、問題なし。

 オレはそう思った。



 その言葉に反応したライラが、オレのポムパンを指さした。


「わたしも一口、いい?」

「えっ、食べかけよりも、新しいもののほうが――」


 ライラはオレの言葉を聞かず、持っていたポムパンをひったくると、オレがかじった所から一口かじった。

 そして間で飲み込むと、表情を緩ませて尻尾を振った。


「本当ね! 美味しい!」


 ライラは、ポムパンを通して、オレと間接キスをした。


「……オレが食べたものが、欲しかったのか」

「えへへ……」


 ライラが顔を紅くする。

 少しだけ呆れながらも、オレはライラから食べかけのポムパンを受け取ると、そのままかじった。


「ビートくん、これどうする?」

「食べるか売るかは、これから決めるか。ポムパンはしばらく持ちそうだからな」


 思いもよらぬ収穫に、オレは笑顔になる。

 人助けは、しておいたほうがいいなとオレは感じていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、6月26日21時更新予定です!

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