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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第6章
69/214

第67話 対立の街、ミーヤミーヤ

 アークティク・ターン号が、ミーヤミーヤに到着した。

 ミーヤミーヤは補給駅であるため、48時間停車することは、停車する前から決まっていた。


 ホームに入ってきた列車が停止すると、すぐに車掌と鉄道騎士団の手によって、山賊たちが下ろされていく。

 そのまま山賊たちは、最寄りの大病院へと搬送(はんそう)された。

 1人が患者、残りの6人が付き添いとして。


 結局、車掌や鉄道騎士団が心配していたような、山賊による略奪は一切起こらなかった。




 オレとライラは、列車が停車してから30分後くらいに、目を覚ました。

 ライラはすでに起きていて、服を着替えていた。

 ちょうど着ていた服を脱いで、下着姿になった所だった。


「ん、ライラ……?」

「わっ! ビートくん、ちょっと待って!」


 ライラは慌てた様子で服を手にして着替えていく。

 しかしオレはしっかりと、下着姿のライラを寝たふりをしながら鑑賞(かんしよう)した。


「お、おはようっ! ビートくん!!」

「んー……おはよう」


 オレは寝起きのフリをして、ライラに返事をする。


「もう起きて……着替えたんだ」

「そ、そうよ! ビートくんも着替えたら!?」

「そうするか……」


 オレも衣服を脱ぎ、着替える。

 着替えている間、ライラはオレに背を向けていた。

 夫婦なんだから、そんなに恥ずかしがること無いんじゃないかと思いながらも、オレは着替えを終える。




 携帯食料での朝食を食べると、オレたちは列車から降りた。

 そのままミーヤミーヤの駅を出る。


 しかし、駅を出た途端、オレたちは何だか様子がおかしいことに気がついた。


 街が、あまりにも静かすぎる。

 時折(ときおり)馬車や人は通って行くが、どこかよそよそしい雰囲気で、足早に去っていく。

 こんな街に来たのは、生まれて初めてだ。


「ビートくん……」

「妙だな。ミーヤミーヤは大きな街だから、もっと活気があってもおかしくない。それなのに、どうしてこんなにも静かなんだろう……?」


 オレたちはおかしいと思いながらも、ミーヤミーヤのメインストリートを歩いていく。メインストリートを歩くことにしたのは、他の通りよりも人通りがまだあるからだ。

 しかし、それにしても人通りが少ない。


 昼間でも人通りの少ない街は、あまり治安が良くないと聞く。

 そのことは、アークティク・ターン号で旅をする他の旅人の会話や、ハッターさんといった行商人から教わっていた。

 だが、ミーヤミーヤの街は、治安がいいと聞いていた。

 少なくとも、凶悪事件が頻発しているような場所ではないことは確かだ。


 それなのに、どうしてこんなにも静かで、人通りも少ないのか。


「あの、すみません……」


 気になったオレは、屋台で商売をしている人に聞いてみた。


「普段からこんなにも、静かなんですか?」

「あーいや、その……あまり気にしない方がいいですよ」


 屋台のオヤジはそう云って、視線を泳がせる。

 まるで、見えない何かに怯えているようだ。


「ビートくん、やっぱりおかしいよ、この街」

「これは普通じゃないな」


 オレはふと、過去に読んだ本の一節を思い出した。


『おお友よ。旅立つ友よ。

 静かすぎる時は、下手に動かない方がいい。

 嵐の前の静けさは、そなたが感じることでしか分からないものだ。

 気をつけたまえ。汝、死に給うこと無かれ』


 オレは武者震いをした。

 静かな街は、一見すると平和そのものにしか見えない。

 だが、何が起きるか分からない、起こっても不思議ではない不気味さがオレたちを包んでいるようだ。まるで見えない死神に、頬を()でられているような感じさえする。

 沈黙は、時として激昂(げつこう)よりも威圧(いあつ)してくる。


 列車に戻って大人しくしている方が、安全だ――!!




「おい、そこの獣人女!」


 オレの嫌な予感は、早くも的中した。

 突然、人族の男たちで構成されたグループに、オレたちは呼び止められた。


 人族の男たちは、革ジャンを来て、筋肉質な体をしていた。

 ボディビルをしているのかもしれない。

 手には短剣や棍棒(こんぼう)などの武器を持っている。

 大方(おおかた)街の不良か、ならず者といったところだろうか。


「ゲヘヘヘヘ……」


 人族の男たちが、オレとライラを取り囲む。

 男たちが何をたくらんでいるのかは、すぐに分かった。

 オレを殺してライラを奪い、奴隷にするか慰み者にするつもりだろう。

 だが、そんなことはさせない!


 オレはそっと背中に右手を回し、ソードオフを握る。

 非致死性のショットシェルでなく、戦闘用の対人用散弾を入れてある。

 場合によっては、殺人の罪を被るかもしれない。だが、ライラを奪われるよりマシだ!!


「ビートくん、ゴメンね。わたし、リボルバー出せない」


 ライラがそっと、オレに云う。

 リボルバーは、スカートの内側だ。周りを取り囲まれた今、無理に取り出そうとすれば相手に隙を与えかねない。


「大丈夫だ。オレがなんとかするから」


 オレはライラを抱き寄せ、ソードオフを取り出した。

 人族の男たちが、一瞬だけソードオフに目を奪われる。


「オレたちを奴隷として売りさばこうたって、そうはいかないぞ!」


 オレはソードオフを構えて、叫んだ。



「奴隷として? 違うな。俺達は人族のお前を助けたいんだ」

「は?」


 云っている意味が、まるで分からない。

 オレを助けたいだと?

 いったい、何がどうなっているんだ?


 オレが頭の中を混乱させていると、男たちの中の1人が、命令を出した。


「獣人女! その人族の男を置いて、とっとと失せろ!」


 ライラに、オレを置いて失せろだと!?

 前例のない事態に、オレはさらに混乱した。

 普通は、逆じゃないのか!?


 男たちが下した命令を、当然ライラは聞き入れるはずもない。


「イヤです。ビートくんと離れ離れになりたくないです」


 男がイラついた表情になり、今度はオレに視線を向ける。


「だったら人族の男! すぐにその獣人女から離れるんだ!」

「ふざけるな! ライラはオレの妻だ。どこの馬の骨とも知れない奴に云われて、離れるバカがいるか!」


 オレたちは、男たちの命令を拒否する。

 こいつらが何なのかは知らないが、オレたちに別れるよう命じる権限なんか持っていないはずだ。

 そもそも、オレたちは夫婦だ。

 赤ん坊の頃から同じ孤児院で育った幼馴染み同士で、今は夫婦になっている。

 今さら別れるなんて、1度も考えたことは無い!


 すると、ライラがオレの妻だと知った男たちは目を丸くした。

 オレたちの首元で光る婚姻(こんいん)のネックレスが、目に入らなかったのか?

 ものすごく、目立つと思うんだが。


「この男、畜生を妻に!?」

「なんてことだ! 完全に汚染されている!!」

「くそっ、獣人のクセにっ! 人族の男を旦那にするなんて!!」


 畜生だと?

 オレの妻、ライラのことを畜生呼ばわりしただと?


 オレは怒った。

 表情には出さないが、身体中をアドレナリンが駆け巡る。こいつらには、ライラを侮辱した罪を、この場で(つぐな)ってもらうことにしよう。それに、オレを本気で怒らせることがどういう結果を招くか、1度見せておかないといけない。


 オレはそっと、ライラに耳打ちした。


「ライラ、少し目を閉じて、耳を(ふさ)いで。いい?」

「うん、ビートくん気を付けてね」


 ライラが疑うことなく目を閉じて耳を塞ぐと、オレは遠慮なく男たちに向かってソードオフの銃口を向けて、引き金に指を掛ける。


「お、おい、待て――!」


 オレは男たちの制止を聞かず、引き金を引いた。

 銃声が轟き、前に立っていた男の胸に大穴が開く。

 そこから血が吹き出し、男は倒れた。


「あ、兄者!!」

「こ、このクソガキ!!」

「畜生を妻にするような裏切り者だ、()っちまえ!!」

「殺せ殺せ!!」


 男たちが一斉に、武器を取り出す。

 オレは素早く見まわして、男たちが持っている武器を確認した。

 剣や棍棒ばかりで、飛び道具は持っていないらしい。


 これなら、ソードオフだけでもなんとかなりそうだ。


「やれっ!」


 男たちが正面から襲い掛かるが、オレはそのまま再び引き金を引いた。

 ソードオフから銃声と共に散弾が飛び出し、すぐに拡散して正面の男たちに向かって飛んでいく。


「がっ!」

「ぐっ!」


 散弾を食らった男たちは、断末魔の悲鳴を上げてその場に倒れる。

 身体中に、細かい穴が開いていた。


「ぐぐ……」

「おお……」


 ソードオフの威力に恐れをなしたのか、襲い掛かろうとしていた他の男たちが怯んだ。

 今が、絶好のチャンスだ!


「ライラ、逃げるぞ!!」

「うん!!」


 オレが叫び、ライラと共に逃げ出す。

 オレはライラを連れて逃げながら、ソードオフに再装填(リロード)する。

 再び囲まれても、ソードオフが使用可能なら、何度でも道を切り開ける自信がオレにはあった。


「待ちやがれ!」

「よくも俺達の仲間を!」

「止まれっつってんだろ!!」


 男たちの残りが追いかけてくる。どうやら、このまま見逃してくれそうにない。

 駅まで逃げ切るつもりだったが、これでは逃げ切るどころか、駅まで辿り着く前に捕まってしまいそうだ。


 オレはライラと共に、路地裏に逃げ込んだ。



「くっそう、どこにいった!?」

「おい、こっちを探すぞ!」

「うす!!」


 路地裏に入ってきた男たちが走り去っていく。

 オレたちは、路地裏に置いてあったゴミ箱の中から出てきた。古典的な隠れ方だったが、男たちから逃れるには効果があったみたいだ。


「怖かったぁ」


 ライラが尻尾(しつぽ)を抱えて云う。


「あいつら、どうしてオレにライラと別れるよう云ってきたんだろう? ライラが銀狼族だと分かって、奴隷にする気なのかと思ったけど、違うみたいだ」

「なんだかビートくんを、わたしから助けようとしていたみたいだったわね」

「おかしいよな。オレたちは夫婦だっていうのにさ」

「まるで、わたしたちが夫婦になるのがおかしいような口ぶりじゃなかった?」

「そういえば、あいつらライラのことを畜生呼ばわりしやがった!」


 オレの中に、再び怒りが込み上げてくる。


「やっぱりあいつら、生かしておけない」

「ビートくん! 今は逃げることが先!」


 ライラの言葉に、オレは怒りが海の波のように引いていくのを感じる。

 そうだ、今は怒っている場合ではない。

 あの男たちと再び出会う前に、ライラと無事に駅まで戻ることが先だ。


「そうだな。あいつらに出会ったら、また別れるよう云われかねない。でも、どうしてオレたちに別れるよう云ってきたんだろう?」


 オレの疑問に答えたのは、ライラではなかった。


「それは、あいつらが人族(ひとぞく)至上主義者(しじようしゆぎしや)だからだ」


 突如として現れたのは、獣人族の男たちだった。


「人族至上主義者だって!? それは本当か!?」


 オレは驚いて訊き返す。

 そんなものは、過去のものだと思っていたからだ。


 かつて人族と獣人族が対立していた時代には、至上主義者と呼ばれる者たちが、人族にも獣人族にもいた。

 至上主義者たちは、徹底した差別主義の立場を取り、同族種こそが絶対的な正義であると固く信じていた。それ故に、多種族への迫害などが行われた時、必ず先頭に立って扇動していた危険人物たちだ。

 時代が進むにつれて人族と獣人族の関係が修復されると、そうした至上主義者たちも減って行き、人族と獣人族が手を取り合うようになった今では、存在しないものとオレは思っていた。


 だが、実際にはオレの知らないところで生き残っていたんだ!


「ああ、本当だ。ミーヤミーヤは今、人族至上主義者がのさばっていて、人族も獣人族も怯えながら暮らしているんだ。一般市民にとって、迷惑(きわまり)まりないよな」

「なんてひどい!」


 ライラが怒りを鮮明にする。

 同じ獣人として、見過ごせないのだろう。


「たっ、助けてくれよ! オレたち、人族至上主義者から命を狙われているみたいなんだ!」

「もちろんいいとも」


 オレは安心して、ソードオフをしまった。

 助っ人が現れてくれたから、もう大丈夫だろう。

 オレとライラはすっかり安心していた。


 だが、オレたちはすぐに裏切られることになってしまう。



「……ところで少年よ、その獣人女はもしかして彼女か?」


 獣人族の男が、ライラを見て訊いた。


「……オレの妻だけど?」

「妻ァ!?」

「な、なんだってー!?」


 正直に答えると、獣人族の男が叫び、隠し持っていた武器を取り出す。


「悪いが、さっきの約束は取消だ」


 それに続くようにして、他の獣人族の男たちも武器を取り出した。

 全員が、小さなナイフを持っている。


「人族のくせに、誇り高き獣人族の女を妻にするなんて、許せん!」

「なっ、なんだよいきなり!?」

「食らえっ!」


 獣人族の男が、ビートにナイフを振りかざす。

 ビートはギリギリのところで、ナイフを避けた。


「ひえっ!」

「ビートくん、逃げよう!」


 オレとライラは、再び逃げ出す。


「どうやらあの獣人たち、至上主義者とかいう人たちの、獣人版みたいよ!」

獣人族(じゆうじんぞく)至上主義者(しじようしゆぎしや)か!」


 オレは再び、ソードオフを取り出した。

 あいつらに捕まっても、タダじゃ済まなさそうだ。


「いたぞ!」


 路地裏から出ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。人族至上主義者と、再会してしまったようだ。どうしてこんなときに!

 絶体絶命だ。前には人族至上主義者、後ろには獣人族至上主義者がいる。どっちへ逃げても、衝突は免れない。ライラを守りながら両方と戦うのは不可能だ。少なくともどちらかと、戦わなくてはいけない。

 路地裏から、獣人族至上主義者たちも姿を現した。


「くそう、こうなったら……!」


 オレがソードオフを構えた時だった。

 人族至上主義者たちが、オレたちを追いかけてきた獣人族至上主義者を見つけると、目の色を変えた。人族至上主義者の存在に気づいた獣人族至上主義者たちも、目の色を一気に変えていく。

 双方がオレたちを無視して、にらみ合った。


「ビートくん!」

「ライラ、待って!」


 オレはゆっくりとライラを連れて、双方の視界からフェードアウトしていく。

 大通りの隅っこまで移動して、そこでじっと様子を伺った。

 これからどうなるのか、展開はすぐに読めた。


「「とっととこの街から失せやがれ!!」」


 同時に叫ぶと、その場で殴り合いが始まった。大通りのど真ん中で、白昼堂々と繰り広げられるバトル。剣や棍棒で攻撃し合い、次々に人族も獣人族も倒れていく。

 それでもなお、攻撃は止むことを知らない。

 近くに居た一般人は、悲鳴を上げながら逃げていく。


「よし、逃げよう!」


 オレたちはこの騒動のどさくさに紛れて、逃げ出した。

 オレたちが逃げ出したと同時に、誰かから通報を受けた騎士団が現れた。騎士団は間に割って入ると、剣で威嚇(いかく)しながら残った人族至上主義者と獣人族至上主義者たちに手錠をはめて拘束し、騎士団詰所へと連行していく。


 その間に、オレたちは駅の方角へと逃げ延びた。



「た……助かったぁ」


 オレとライラは、大きくため息をついた。

 早く駅に戻り、アークティク・ターン号の中で大人しくしていよう。


 そう思った時だった。


「君達、大丈夫か!?」


 人族の青年と、獣人族の青年が声を掛けてくる。


「うわあ! もうトラブルは勘弁(かんべん)してくれ!」

「落ちついて! 俺達は一般人だ!」

「そうだよ! 俺の名前はダイス。こっちが、オレの親友のジムシィだ!」


 人族の青年が自己紹介をし、隣に居た獣人族の青年の名前を教えてくれた。


「俺たちはあいつらとは違う! 人族だろうと獣人族だろうと、差別はしない!」

「ただのしがない学生だ!」


 それを裏付けるのかは不明だが、ダイスとジムシィの2人からは敵意は感じられなかった。

 とりあえず、信用しても大丈夫だろう。


「す、すまない。つい警戒しちゃって……」

「気にすることは無いさ! あんな奴らに出会った直後なら、無理もない」


 ダイスがそう云って、微笑む。


「それよりも、ここは危険だ! 駅なら奴らも簡単には手出しできないから、駅へ!」

「わかった! ライラ、行こう!」

「うん!」


 オレはライラの手を取り、ダイスとジムシィに連れられてミーヤミーヤ駅を目指した。




 ダイスとジムシィの手助けで、オレたちははミーヤミーヤ駅へと戻って来れた。

 駅の中に入ると、妙に人が多いように感じられた。


「なんだか、混雑しているなぁ」

「駅を出たときは、ここまで混雑していなかったのに」


 オレとライラが首をかしげていると、ダイスが口を開いた。


「この人たちは、全員アークティク・ターン号の乗客だ」

「きっと、君達と同じように、人族至上主義者と獣人族至上主義者に追いかけられて、駅に避難してきたんだろう」


 ジムシィが云い、オレたちは悲しみと怒りを感じる。

 どうして無関係な事なのに、巻き込まれないといけないのか。


「とりあえず、どこかで休憩しよう。幸い、カフェはまだ空いているみたいだ。俺がお代は出すから」


 ダイスの言葉に、オレたちは甘えることにした。



 紅茶を飲むと、だいぶ気持ちが落ち着いてきた。

 気持ちが落ち着いたところで、オレとライラは助けてくれたお礼と、改めて自己紹介をした。


「助けてくれてありがとう。オレはビート。アークティク・ターン号で旅をしている」

「わたしはライラ。ビートくんの奥さんで、一緒に旅をしています」

「俺はダイス。なんと、夫婦だったのか。驚いたな」

「俺はジムシィ。ずいぶんと若い夫婦だな」


 自己紹介が終わると、ダイスがミーヤミーヤの現状を話してくれた。


「大変な時に来ちゃったな。今のミーヤミーヤでは、人族至上主義者と獣人族至上主義者が対立していて、街のあちこちで争いが起きているんだ」

「どうして今どき、人種差別主義者たちがのさばっているんだ?」


 オレの問いに、ダイスが答えた。


「今に始まったことじゃない。ずっと昔から、ミーヤミーヤには少ないけど人族至上主義者と獣人族至上主義者が居た。数は多くなかったし、騎士団も厳しく取り締まっていたから、これまで大きな争いや衝突は起きなかったんだ。だけど……」


 ダイスは紅茶を一口飲み、続けた。


「少し前に、路上で言い争いになっていた人族至上主義者と獣人族至上主義者が、何者かに銃撃されて殺された。人族は獣人族が、獣人族は人族が犯人だと決めつけてしまい、それが引き金となって人種差別主義者が増えたんだ。そして勢力が増した今、騎士団も押さえつけるのが不可能になって、争いが度々起きるようになってしまったんだ」

「おかげで、俺たち一般人は安心して生活ができないんだ」

「なんとかして、争いを収めたい。人種差別主義なんて、今の時代には合わないからな。だけど、騎士団も領主も打開策を打ち出せないでいるんだ」


 オレは、なんとか力になりたいと思ったが、何もできそうになかった。オレにとってあまりにも重すぎるし、難しい問題だ。

 ふと横を見ると、ライラは悲しそうな表情をしていた。


 オレはライラの気持ちが痛いほど分かった。

 ライラとオレは、結婚するほど仲が良く、愛し合っている。だが、ここではそれが許されない。だが、オレたちはそれが正しいことだと、ハズク先生から教わったりしなかった。

 ハズク先生の教えは『困ったときは、助け合いましょう。人族も獣人族も関係なく、困っているときは、助け合いましょう』だった。

 ミーヤミーヤの状況は、ハズク先生の教えに反している。


 そんなことは間違っている!!

 間違っていることは、正しい方向に戻さないと!!


 しかし、どうすれば争いを収めることができるか分からず、悩む。

 どちらも力づくで抑え込んでしまえばいいが、それでは根本的な解決にはならない。




 そのとき、ジムシィがライラを見て何かに気づいたらしく、目を丸くした。


「もしかして……銀狼族か?」


 突如として出た「銀狼族」という単語に、オレたちは驚く。

 オレは自然と、警戒心を強めた。

 ライラが銀狼族だと知られたのなら、少々マズイ事態にも発展しかねない。


「あのっ!」

「いい、分かっている。奴隷にしようなんていう気はさらさらない」


 慌てたライラにダイスが一言を発した。

 緊張状態になっていたオレたちは、そっと警戒を解く。


「ちょっと珍しいからな、もしかしたらと思って訊いたんだけど、まさか当たっていたとはな」

「……実はオレたち――」


 オレはダイスとジムシィに、旅をしている理由を話した。ライラの両親を探すために北大陸へと向かう旅をしていて、それでアークティク・ターン号に乗ってこのミーヤミーヤのまでやってきた。

 これまでのことを話すと、それを訊いたダイスとジムシィは何かを話し合い始めた。

 耳慣れない言語だった。


 ダイスとジムシィが話し合いを終えると、オレたちに向き直った。


「実は、俺達は銀狼族についての情報を持っている」

「教えてもいいけど、条件がある」

「ミーヤミーヤでの対立を、解決してほしい」


 持ちかけられたのは、取引だった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は、6月23日21時更新予定です!

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