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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第5章
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第62話 アルバイト

 オレとライラは、商人車にやってきていた。

 しかし、客としてではない。

 ハッターが行商人として使用しているスペースで、ハッターの商売の手伝いをしているのだ。


 どうしてオレとライラが、ハッターの商売の手伝いをすることになったのか。

 それは前日の事だ。



 オレとライラがハッターから消耗品(しようもうひん)を買った時に、ハッターから声を掛けられた。


「すまねぇ、お2人さん。明日ちょっと、俺の商売を手伝ってくれないか?」


 突然手伝いをお願いされ、オレとライラは目を丸くした。


「あの、どうしてオレたちが……?」

「明日は、商人車のお祭りなんだ。商人車に乗り組んで商売をしている行商人たちが、持っている在庫を解放して、盛大に売り出すことになっている。だからお客さんが多くなるはずなんだ。そうなると、俺1人じゃ回らなくなっちまう。手伝いをしてくれる人が必要なんだ」


 ハッターがオレたちに向かって、両手を合わせる。


「頼む! このとおりだ。手伝ってくれるなら、バイト代も支払う!」


 バイト代。

 オレとライラは、この言葉に魅力を感じ、引き受けることにした。



 そしてオレとライラは、ハッターのスペースで手伝いをすることになった。

 ライラが売り子になり、オレは品出(しなだ)しと帳簿(ちようぼ)付けを頼まれた。


「さぁ、いらっしゃい!」


 商売車の店が開く時間になると、次々にお客さんが流れ込んできた。

 それと同時に、あちこちから呼び込みの声が上がり、一気に商売車の中は(にぎ)やかになる。

 次々に、ハッターのところにお客さんがやってきては、商品を買っていく。

 他の行商人もお客さんに囲まれているが、ハッターはその数が倍近く多い。

 続々とお客さんがやってくるため、オレの品出しは追いつかないのではないかと心配になるほどだ。


 どうやらオレたちの知らない間に、ハッターはかなり評判の良い行商人になっていたらしい。


「ハッターさん、すごい人気ですね」

「それもこれも、お前さんたちのおかげさ」


 ライラの言葉に、ハッターは嬉しそうに告げる。


「お前さんたちに売った非致死性の弾丸が、この間の列車強盗を撃退してくれたからな。それを知ったお客さんが、俺から同じものを買いたいって、やってきたんだ」

「あはは……」


 オレは乾いた笑いが出る。

 実際には、ハッターから買っていただけではない。

 他の行商人や武器商人からも、オレたちは非致死性の弾丸を買っていた。全ての量を合わせると、ハッター以外の商人から買った方が量は多い。

 しかし、ハッターは売っているものが豊富なためか、ハッターに多くのお客がつくようになっていた。それにどうやら、オレたちに非致死性の弾丸を売ったことを、積極的に宣伝していたらしい。


 これが、マーケティングというやつか。

 ハッターの商人としての才能は、他の商人よりも高いらしい。


「さぁ、いらっしゃい! いらっしゃい!!」


 元気よく、ハッターはお客を呼び込んでいく。

 その横では、ライラもお客を呼び込んでいた。




 オレたちが手伝っている、ハッターのスペースには、男女問わず多くのお客がやってきていた。しかし、割合では男性の方が多い。

 それはきっとライラのせいだろうなと、オレは思っていた。

 ライラは美少女だし、さらに孤児院を出てからオレと旅に出るまで、グレーザー駅にあるレストラン『ボンボヤージュ』でウエイトレスとして勤めていた。接客には、慣れている。

 まさに接客はうってつけだ。


 1人の男性客が、商品を指さして告げる。


「こ、これください!」

「はい! 銀貨1枚です!」


 ライラは笑顔で銀貨を受け取り、男性客に商品を手渡す。


「ありがとうございました!」


 笑顔でお礼の言葉を飛ばすと、男性客は顔を真っ赤に染めて嬉しそうにその場を後にする。

 ライラの笑顔は、ボンボヤージュで身につけた完全な営業(つくりもの)スマイルだが、男性客はもちろん、女性客にも大人気だ。

 美少女の笑顔は、男女問わずいい気持ちにさせるらしい。

 さすがは、オレの妻だ。




 そしてオレは、品出しと帳簿付けで忙しく手を動かしていた。

 オレは元々、鉄道貨物組合(トランスギルド)で荷役のクエストを中心に請け負っていた。品出しについては、そんなに難しいものじゃない。


 問題は、帳簿付けだった。

 帳簿付けなんて、クエストを請け負っていた時でさえ、やったことがない。

 金銭の受け渡しや書類への記入は、ほとんどが鉄道貨物組合の事務の人の仕事だった。開店前に、ハッターから簡単に帳簿付けのやり方を教わったが、オレはちんぷんかんぷんになっていた。


「数字が間違いなく合うように記入すれば大丈夫」


 ハッターは笑顔でそう云ったが、オレはその笑顔が恐ろしかった。

 間違いなく合うように記入する。それは裏を返すと、記入する位置を間違えれば全てが狂ってくることを意味している。

 使っているのは足し算と引き算だけなのに、どうしてこうも複雑に感じられるのか。


 オレはグレーザー孤児院で、ライラに計算を教えていた時のことを思い出す。

 昔はライラに教えるほどだったのに、まさか時を経た今、教えていた計算で苦戦することになるなんて、思いもしなかった。


 しかし、オレは投げ出す事だけはしたくなかった。

 バイト代が貰えないだけならまだいい。

 オレが恐れているのは、ハッターとの間に築き上げた信頼関係が、崩れてしまうことだ。行商人と信頼関係を築き上げていくと、時にはオマケをつけてもらえたり、商品を安く購入することもできるかもしれない。それに話し相手としても、重要だ。

 せっかく築き上げた信頼関係だ。

 簡単に手放してなるものか!


 オレは意地になって、品出しをしながら、間違えないように慎重に、帳簿へと売上を記入していった。


 途中で休憩を挟みながらも、商人車を訪れる人は後を絶たなかった。

 そして夜になって商人車のお祭りが終わりを迎えるまで、お客さんはやってきた。




「はぁ~……疲れたぁ」

「わたしも……顔がひきつっちゃいそう」


 オレとライラは、閉店したスペースの中で疲れ果てていた。

 久しぶりに、かなり激しく動き回ったような気がする。それに、精神的にもかなり疲れた。

 まさか対面販売をする商売が、こんなにも大変だったとは思わなかった。

 列車強盗を相手にするほうが、まだマシかもしれない。


 これを毎日こなして、生業にしているハッターさんって、超人じゃないだろうか?


 見ると、ハッターはスペースの奥で本日の売上を計算している。

 その目はキラキラとしていて、おもちゃで遊ぶ子どもの目そのものだ。

 いったいどこに、そんな元気があるんだろう?


 しばらくして、純利益が出たらしい。

 ハッターの表情は、より一層キラキラと輝いた。


「2人とも、ご苦労さん」


 ハッターがオレたちに、アルバイト代を金貨で手渡しで支払ってくれた。


「きっ、金貨!?」


 オレは驚きのあまり、声に出してしまう。

 金貨でアルバイト代を支払ってもらえるなんて、予想外だった。

 普通、アルバイト代を手渡して支払う場合、銅貨か銀貨で支払われることが一般的だ。オレが鉄道貨物組合でクエストを請け負い、報酬を受け取る際も、そうだった。


 それなのに、ハッターは金貨を出してきた。


「売上が思ったよりも良かったからな。ちょっとだけ色を付けておいたぜ。他の奴らには話すなよ?」


 オレたちは、ハッターの気前の良さに感激し、何度も首を縦に振る。

 こんなにすごいこと、もったいなくて話せない。


「「あ、ありがとうございます!!」


 オレとライラは、ほぼ同時にお礼を云った。


「それと、ちょっと片づけを手伝ってくれないか? 残業代、出すからさ」


 さらに残業代ももらえるチャンスがやってきた。

 これを逃すわけにはいかない。


「じゃあ――」


 ライラが動こうとしたが、ライラは大きな欠伸をした。

 これ以上、ライラが働くことは無理だろう。


「ライラは先に戻って、休んでいていいよ。オレが片づけを、手伝うから」

「いいの? じゃあ、お先に……」


 ライラを先に個室へと戻し、オレはそのまま残ってハッターの片づけを手伝った。

 そして全ての片付けが終ったのは、営業終了から1時間後だった。




「悪いな、片づけまで手伝って貰っちゃって。ほい、残業代」

「あ、ありがとうございます!」


 残業代を受け取ると、オレは疲れが少し軽くなったような気がした。

 そしてハッターのスペースから出ようとして、オレは視線に気がついた。


 誰かが、オレのことを見ている。

 オレが視線を感じる方向に顔を向けると、獣人族ネコ族の少女がいた。細長い尻尾(しつぽ)をゆらゆらと揺らしながら、少女はこちらを見つめている。


「すいません」


 少女は、オレに向かって話しかけてきた。

 いったい、こんな時間に何の用だ?

 そもそも、この少女は誰なんだ?


「私はミャーコといいます。お願いです、助けてほしいんです!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

次回更新は、6月18日21時更新予定です!

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