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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第1章
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第5話 アークティク・ターン号

「みなさん、あれが駅です。グレーザー駅ですよ」


 ハズク先生が、まるでどこかで見たガイドさんのように振る舞い、子どもたちを引率している。

 オレやライラは、年長ということもあってか、まだ小さい子どもたちのまとめ役を(まか)され、ハズク先生を補佐(ほさ)している。


「先生、駅ってなんですか?」


 年少の子どもが、手を挙げて質問する。


「いい質問ですね」


 あれ? どこかで聞いたことがあるフレーズだな。

 オレはハズク先生の言葉を聞いて、なぜかそう思った。


「駅とは、列車が発着(はつちやく)……つまり出入(でい)りする場所のことです。鉄道が4つの大陸のあちこちを結ぶ大切な交通手段であることは、以前(いぜん)お話ししましたよね? でも、鉄道も()まるところが無いと、荷物(にもつ)や人を乗せたままどこまでも進んでしまうことになります。そこで荷物や人を下ろしたり、乗せたりする場所が必要なんです。それが駅です。大きな街には必ず駅が1つはあり、その街の名前がついた駅は、いわばその街の玄関(げんかん)とも呼べるところです」


 ハズク先生は、スラスラと駅について解説する。

 オレとライラも、ハズク先生の解説に聞き()っていた。


「駅があることで、鉄道は交通手段としての役目を果たすことができます。もちろんそれだけではありません。駅があれば、荷物と人が来ます。それをさらに別の場所に運ぶために、専門の仕事が()まれます。そしてそれらの仕事をする人も生まれます。駅を管理する人や、駅に訪れた人に商品を販売する人も生まれます。つまり駅は、人々の生活を色々な面で支えているのです」


 そこまで解説すると、ハズク先生は一呼吸(ひとこきゆう)置いてから、(ふたた)び口を開いた。


「それでは、これからみなさんで駅の中を見学(けんがく)しましょう!」

「はーい!」


 そう子どもたちが答え、オレはライラや他の同年代(どうねんだい)の子どもたちと協力し、子どもたちを駅の中へと誘導(ゆうどう)するのを手伝う。



 グレーザー駅は、孤児院の近くにある大きな駅だ。

 駅の構内(こうない)()えず人が行き交い、奥にあるプラットホームには次々と蒸気(じようき)機関車(きかんしや)()く列車が停車しては、また出発していくのが(かす)かに見える。


「ここが、駅のエントランスです。ここで人々は切符(きつぷ)を買ったり、待ち合わせをしたり、売店で買い物をしたりします」


 ハズク先生が説明しながら歩く。オレたちは子どもたちを誘導しながら、駅の構内を歩いていく。

 すると、ハズク先生は鉄道関係者の制服を着た人の所へ歩き、その人と何かを話し始めた。すぐに戻って来ると、オレたちはエントランスからプラットホームへと案内された。



 オレは、目を見張った。

 ホームには、数多くの列車が停まっている。

 多くの人が行き交っているが、大きく分けて2つに分けられた。


 まずは乗客。

 列車に乗り降りする人たちで、上品な身なりの人もいれば、普段着を着ている人もいる。これから列車でどこかへ旅立つ人もいれば、列車から降りて長旅を終えたらしい人もいる。


 次には労働者。

 制服を着て乗客の対応をしたり、機関車に乗っている者と話しているのは、駅員などの鉄道職員だろう。貨物列車や貨物車の前で働きアリのように荷物の積み下ろしをしているのは、鉄道貨物組合(トランスギルド)の労働者に間違いなさそうだ。



 子どもたちは、初めて入った駅の中に夢中になっていた。


「ここには、あの有名な大陸横断鉄道のアークティク・ターン号も到着します」


 オレは耳を疑った。

 グレーザー駅には、あのアークティク・ターン号も来るのか!?

 もしかしたら、アークティク・ターン号に乗れば――!


「アークティク・ターン号について、質問はありますか?」

「あります!」


 手を挙げたのは、1人の子どもだった。


「アークティク・ターン号には、どうやったら乗れるんですか?」


 ライラの耳が、ピクピクと動いた。

 オレは少し前に聞いた、ライラの夢を思い出す。

 もしかして、ライラはオレと同じことを考えているのか?


 ――アークティク・ターン号に乗って両親(りようしん)を探しに行く気なのか?


 確かに、アークティク・ターン号の貨物車で見つかったということは、グレーザー駅を除くどこかの駅で乗せられた可能性が高い。時間は掛かるが、ライラの両親について何かしらの手がかりをつかむことはできるかもしれない。


「切符を買えば乗れます。でも、かなり高いわね。4つの大陸全てを走破(そうは)する唯一の大陸横断鉄道だから、一番安い席でも金貨(きんか)5枚は必要ね」


 ハズク先生の言葉に、ライラは愕然とした表情になる。



 突然駅の構内にベルが鳴り響いた。

 次々に制服を着た駅員が出てきて、作業服を着た労働者たちもやってくる。


「申し訳ありませんが、子どもたちを連れて、別のホームかエントランスへの移動をお願いします」


 駅員がやってきて、ハズク先生にそう伝える。


「な、何があったんでしょうか?」


 ハズク先生が尋ねる。


「まもなく、アークティク・ターン号が到着いたします。大勢(おおぜい)の乗客が下車(げしや)されますため、どうかご理解とご協力をお願いいたします」


 駅員はそう云うと、去って行った。


「みなさん! これから多くの人が来ます。危ないですから、みなさんはエントランスに戻りましょう! 年長の方は、引率(いんそつ)の手伝いを忘れないように!」


 ハズク先生は、すぐに指示を出した。

 オレたちもそれに(したが)い、子どもたちをエントランスへと誘導する手伝いをする。


「先生! 子どもたちは全員います!」


 エントランスに移動してしばらくして、他の同年代の子どもがハズク先生に報告する。


「よかったわ。ひとまずご苦労様(くろうさま)でした」


 そのとき、遠くから汽笛(きてき)が聞こえてきた。

 これまでに聞いてきたどの汽笛とも、違う。

 それは重厚(じゆうこう)で、力強い汽笛だった。


 気がつくと、オレの足は()け出していた。


「あっ、ビートくん! 待ちなさい!」


 ハズク先生に呼び止められるが、オレは振り返らない。

 オレの中には、1つの思いだけがあった。


 ――アークティク・ターン号を、自分の目で見たい。


 オレはエントランスを駆け抜け、プラットホームへと入った。

 すると、背後に誰かの気配(けはい)を感じる。

 ハズク先生が、連れ戻しにやってきた。

 そう思って振り返ると、意外な人物がそこにはいた。


「ライラ!」


 走ってきたのは、ライラだった。


「ビートくん! どうしたの!?」

「アークティク・ターン号、もっと近くで見てみたくないか?」


 オレが訊くと、ライラは目を丸くする。


「で、でも……」

「ライラ、もしかしたら次にみられるのは1年後かもしれないぞ? 先生が云ってたじゃないか。『駅によっては、1年に1度、通るか通らないかのすごく特別な列車』だって。だから、今見ておかないと、後で後悔(こうかい)するかもしれないぞ?」


 オレの説得(せつとく)を聞いて、ライラは顔を上げた。


「そこまで云うなら……見てみたい」

「決まりだな」


 そのとき、再び汽笛が鳴り響いた。

 さっきよりも、ずっと近い。


「到着するぞ! 全員、配置につけー!」


 人族の駅員が叫ぶ。


 それからまもなく、アークティク・ターン号がその姿を現した。


「うわぁ……」

「デカい……」

 オレとライラは、それだけ云うと、何も云えなくなった。


 大陸横断鉄道、アークティク・ターン号。

 見たことも無いほど、長くて巨大な蒸気機関車が、大量の客車と貨車を()きながらホームへと入ってきた。

 機関車はそのままホームを通り過ぎ、客車が10両くらい目の前を通り過ぎたところで、やっと列車は停まった。

 先端(せんたん)の超巨大な機関車はもちろん、列車の最後尾(さいこうび)肉眼(にくがん)では見えない。本当にあるのかさえ疑いたくなるほどだ。

 客車のドアが(ひらく)くと、2分と()たないうちにホームは人で(おお)()くされた。ほとんどが旅行者で、家族との再会を喜ぶ人、疲れてベンチに座る人、荷物を受け取る人……実に様々(さまざま)だ。

 中には、貴族までいた。貴族は長旅だったはずなのに、どういうわけか疲れた表情をほとんど見せていない。


 オレとライラにとって、目に映るもの全てが新鮮。

 それが、アークティク・ターン号との最初の出会いだった。



 その後、孤児院に戻ったオレとライラは「途中で割り当てられた仕事を放棄(ほうき)した」ことで、ハズク先生から直々(じきじき)に説教を食らった。

 ハズク先生の形相(ぎようそう)はすさまじく、まるで鬼そのものだった。

 当然のこと、オレとライラは涙目(なみだめ)になった。

 普段おとなしい人が本気でキレると、ここまで恐ろしくなるものなのか。


 金輪際(こんりんざい)、ハズク先生を怒らせるようなことは絶対にしない。


 オレとライラが固く(ちか)ったことは、いうまでもない。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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