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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第5章
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第48話 西大陸の港町マルセ

 アークティク・ターン号は、昼前に西大陸の港町、マルセの駅へと到着した。

 停車時間はマルセが補給駅であるため、いつもの倍の48時間が設定された。

 美しい港町のマルセは観光客にも人気があり、アークティク・ターン号からは次々に人が降りて行った。

 アークティク・ターン号に乗っていた人の半分が、列車を降りてマルセに出て行った。




 オレとライラが目を覚ましたのは、列車が駅に停車してから、1~2時間後だった。


「んっ……ビートくん?」

「ライラか……おはよう」

「おはよう」


 オレがベッドから起き上がると、ライラも起き上がった。


「わたし、いつの間にか寝ちゃってたの……?」

「いや、途中で気を失っちゃって……」


 オレは昨晩のことを話す。

 それを聞いたライラは、顔を紅くした。


「……昨日のビートくん、凄すぎてわたし、腰が抜けちゃった」

「やりすぎたよ……ゴメン」

「ううん、むしろ嬉しかった。大好きなビートくんが、わたしでここまで興奮してくれたから、幸せ……」


 ライラがオレに寄り添ってくる。


 ライラを嫁にして、本当に良かった。

 オレはそっと、ライラの肩に手を回す。


「くぅぅん……」


 ライラが尻尾を振りながら、オレの首筋の匂いを嗅いでくる。

 その姿は、まるで犬そのものだった。




 オレとライラは、マルセの駅から出た。


 マルセの街は、西大陸の街の特徴をよく表していて、石造りの建物が並んでいた。道路も石畳で、人々が行き交っている。

 大通りでは市場も開かれているらしく、露店が立ち並んでいる。人の数も、他の道路とは比べ物にならないほど多い。


「ここがマルセの街かぁ」

「港町って、どこも活気に満ち溢れていることが多いのね」


 オレとライラは、大通りの中を歩きながら露店を見て回る。

 売っているもののほとんどが、今朝水揚げされたばかりと思われる、海産物やそれを使った食事だった。

 他に売られているものといえば、舶来品で他の大陸から来たものばかりだ。そしてマルセは南大陸に近いためか、南大陸の特産品が多い。オレとライラが見てきたものが、数多く売られている。


 そのとき、屋台から漂ってきた匂いに、オレとライラは足を止めた。

 海産物と何かを炒めたような、とても食欲をそそる匂いだ。

 オレとライラは匂いに引き寄せられるように、匂いの発生元となっている屋台に近づいていく。


 屋台の中では、店主らしき人物が平たい鍋で黄色い米とシーフードを炒めていた。その隣では、店主の妻と思われる太った女性が鍋で何かを煮込んでいる。


「いらっしゃい! マルセの名物料理、海鮮ライスとブーヤブーヤはいかが!?」


 オレたちに気づいた店主が、営業スマイルで話しかけてくる。


「海鮮ライスとブーヤブーヤ?」

「そうさ! マルセに来たのなら、1回は食べておいたほうがいいよ! ちょうど昼時にさしかかる頃だ。ランチにはもってこいさ!」

「どんな料理なの?」

「海鮮ライスは、黄色に染めたライスとシーフードを炒めて炊いた米料理。ブーヤブーヤは、新鮮なシーフードを香味野菜と一緒に煮込んだスープさ!」


 店主が料理の説明をすると、オレとライラの口の中に唾液が出てきた。

 そしてお腹が鳴る。

 オレはライラと視線を交わした。

 ここいらで、腹ごしらえをしていくのも悪くないだろう。


 オレとライラは、ほぼ同時に頷いた。


「海鮮ライスとブーヤブーヤを、それぞれ2人分下さい」

「ありがとよっ! 店の奥にイートインスペースがあるから、そこで食べて行ってくれ!」


 オレが銀貨で支払うと、店主がプレートに海鮮ライスが盛られた皿と、ブーヤブーヤが入った器を置いて手渡してくれた。

 オレとライラはそれを受け取り、屋台の奥にある、ほぼ屋台と建物の間に急きょ用意されたような簡素なイートインスペースに腰掛けた。

 海鮮ライスと、ブーヤブーヤ。

 いったいどんなものなのか。


 オレとライラはスプーンを手にし、食事を始めた。


「美味しい!! ビートくん、すごく美味しいよこれ!!」

「シーフードから出た魚介の味を、香味野菜が引き立てているな。海鮮ライスも、塩味だけど旨味が強くて美味い!!」


 名物に美味いもの無し。

 その言葉は、どうやらここでは当てはまらないらしい。

 オレとライラが食べていると、昼時になってきたからか、より多くの人が屋台へとやってきた。全員が、オレたちが食べているものと同じ海鮮ライスとブーヤブーヤを買って、オレたちと同じようにイートインスペースで食事をしていく。


 食事をしに来た人の中には、船員らしき身なりの人も大勢いる。

 やっぱり港町だ。

 船乗りが多い。


「ずいぶんと、人気があるみたいだな」

「こんなに美味しいんだもん。人気にもなるよ」


 ライラはすでに、ブーヤブーヤの入っていた器を空にしていた。

 オレたちが食事を終える頃にも、次々とお客がやってきていた。

 船乗りらしい人が増え、オレたちが屋台から離れる時も、立派な帽子を被った初老の男が1人、店主と何かを話していた。

 商売繁盛しているな。

 オレはそっと、心の中で笑った。




 食事を終えたオレたちは、港の方に向かって歩いていく。

 マルセの港は、漁港と貿易港という2つの顔を持っている。そのため多くの船舶が出入りを繰り返していて、港には常に船が停泊していた。そこが南大陸の港町、リリスとは違うところかもしれない。


「すごい! 大きな船!」

「あれが貨物船かあ」


 オレとライラは、港に停泊している貨物船を見上げる。

 巨大な貨物船から、次々に積荷が上げ下ろしされている。周りを船員がうろついて、声を掛け合いながら仕事をしている。

 なんとなくオレは、鉄道貨物組合でクエストを請け負っていたときのことを思い出す。

 こうした現場に立つのは、嫌いではない。


 そのとき、別の場所から小競り合いをするような声が聞こえてきた。


「ん?」


 オレが声が聞こえる方に目を向けると、別の貨物船の前で船員たちが何やら騒いでいた。

 騒ぎ方が、少々おかしい。

 こんな昼間から、酒でも食らっているのだろうか?


「なんの騒ぎだろう?」

「……困っているみたい。船が出せない。仕事ができない。そう嘆いている」


 ライラが獣耳をピクピクと動かし、そう告げる。

 獣人族のライラは、人族のオレよりも耳が良い。そのため遠くの音までよく聞こえることが多い。


「ビートくん、何があったのか、話だけでも聞きに行ってみよう!」

「あんまり厄介事に、首を突っ込みたくはないんだけどな……」


 オレはそう云いながらも、ライラと共に騒ぐ船員たちがいる場所に向かい、歩きはじめた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

次回更新は、6月4日21時更新予定です!

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