第47話 大陸間鉄道橋
「ビートくん、すっごく大きな橋!」
「うん、水平線まで続いているな」
オレとライラは、どこまでも続いている鉄道橋を眺めて云う。
ずっと先に、アークティク・ターン号を牽引するセンチュリーボーイが見えるが、その先にも鉄道橋は続いていて、それが水平線まで続いている。
話には聞いていたが、これが大陸間鉄道橋か。
オレは想像を超越した光景に、言葉が出てこない。
大陸間鉄道橋は、大陸と大陸を繋ぐ鉄道用の巨大な橋だ。
全ての大陸を繋いでいる唯一の橋は、大陸間鉄道橋しかない。
これ以外で別の大陸に渡るためには、船を使うしかない。
大陸間鉄道橋を造ることは、大陸横断鉄道の開通を左右する重大事項であったことから、最も建設工事が難航したと聞いている。海底深くまで橋げたを通し、水上での工事は自然との闘いだった。大陸横断鉄道建設で出た多大なる犠牲者の半数は、大陸間鉄道橋の建設で亡くなった者と聞いている。
実際に大陸間鉄道橋を自分の目で見て、オレはやっと分かった。
大陸間鉄道橋を開通させることが、いかに大陸横断鉄道の成功を左右するか。
いかに難工事であったことか。
建設に従事した人たちの苦労と犠牲。
そしてそれらの上に成り立つ、現在の大陸横断鉄道。
過去と未来は、繋がっている。
切り離すことなどできない。
「ビートくん! 次はいよいよ西大陸よ!」
オレが感傷にふけっていると、ライラが無邪気に云う。
「西大陸って、何があるか、どんな人がいるか、楽しみね!」
「えーと、確か西大陸は……」
オレは過去に、グレーザー孤児院で学んだ、4つの大陸についてのことを思い出そうと、過去の記憶を遡って行く。
ハズク先生から受けた授業よりも前に、オレは4つの大陸については本で学び終えていた。
「西大陸は、獣人が多いらしい。それに人口も多いらしいよ」
「獣人が多い……もしかしたら、わたしのお父さんとお母さんも、いるのかな?」
「銀狼族は……どうだろう? 運が良ければ、もしかしたら何かしらの情報は見つかるかもしれない。でも、北大陸の方が見つかる可能性は大きいかな」
「少しでも、手がかりが見つかるといいね!」
ライラは水平線の向こうにある、西大陸へと思いをはせた。
オレは少しでもいいから、何らかの手がかりが見つかって欲しいと思い、そっと手の指を組み合わせた。
昼が近くなってくると、オレとライラは個室で携帯食料とドライソーセージの昼食を食べた。
食堂車はどれも、海を見ながら食事を楽しみたい人々であふれかえっていた。
1時間待ちが当たり前でとても食事どころではない。
まるで何かのイベントのようだ。
それを見たオレたちは個室に戻り、携帯食料やドライソーセージなど、あるもので昼食を済ませることにした。
「海を見ながらの食事は、個室でもできるわね」
「そうだけど、せっかくだからライラと一緒に食堂車で少しいい料理を楽しんでみたかったな」
「気にしないで。わたしはビートくんと一緒なら、どこでも食事は楽しめるから!」
ライラは本心からそう思っているらしく、満面の笑みで答える。
そう云われると、もうオレが何か云うことは無い。
「それに、明日の朝方に西大陸に到着するんだから、夕食か朝食の時に、海を見ながら食事はできるよ!」
「……それじゃ、夕方ごろに早めの夕食と行こうか!」
「さんせーい!」
ライラは2つ返事で、頷いた。
夕方になり、オレとライラは食堂車に入った。
運よく、まだ座席は空いている。
「いらっしゃいませ」
ウエイターが挨拶をする。
食堂車の車内には、夕陽が降り注いでいて、幻想的な光景を作り出していた。
オレたちはウエイターに案内されて席に着き、サーロインステーキセットを注文した。
ライラは肉料理が大好物だが、その中でも特に、グリルチキンとステーキが大好物だ。
孤児院にいた頃は、肉料理といえばグリルチキンだった。
サーロインステーキのような高級料理は、孤児院はおろか働くようになってからも、1度も食べたことが無い。外食をした時、何度もライラがサーロインステーキに意識を向けていたことを、覚えていた。
「ビートくん、本当にいいの? サーロインステーキなんて高いものを……」
「オレのポケットマネーから出すから、気にするな」
「特別な日でもないのに、本当にいいの?」
「たまには贅沢するのも、悪くないだろ?」
オレたちが海を見ながら会話を楽しんでいると、いい匂いが漂ってきた。
少し申し訳なさを感じていた様子のライラも、サーロインステーキの匂いを感じ取ると、表情が一気に明るくなった。
「おまたせいたしました。サーロインステーキのセットでございます」
ウエイターが真ん中にサーロインステーキを置き、さらにパン、サラダ、スープを配置する。
サーロインステーキセットが並べ終ると、ライラの目がキラキラと輝いていた。
「いい匂い……!」
ライラは今にも、飛びかかりそうな目でサーロインステーキを凝視している。
「食べるか」
「うん!」
オレが云うと、ライラは即座にフォークとナイフを手にして、サーロインステーキを食べ始めた。
サーロインステーキを食べているときのライラは、とても幸せな表情をしていた。
その表情は、絵に描いて残しておきたいと思えたほどだった。
個室に戻って来ると、ライラはゆっくりとベッドに腰掛けた。
オレもそれに続くように、ライラの隣に腰掛ける。
「ビートくん、ありがとう。とっても美味しかったよ!」
「ライラが喜んでくれて、オレも嬉しいよ」
あの幸せな表情が見られただけでも、奮発しただけの価値はあった。
オレは受け取った領収書を見て少し驚いたが、ライラが喜んでくれたのなら、惜しくは無い。
「美味しいお肉を食べたせいかな? なんだか、精がついたような気がするよ」
オレはなんとなく、そう発言する。
しかし、それが思わぬ展開を招いてしまった。
「じゃあ、今夜は寝かせてくれないのね?」
「――えっ?」
それって、どういう意味?
オレがそう聞こうとする前に、ライラがピンク色の液体が入った小瓶を開け、中身を全て飲み干してしまった。
しまった!
オレがそう思った時には、もう遅かった。
「準備……できたから、いつでも来て……」
ライラが顔を紅くし、目を少し細めてオレを見つめてくる。
完全に雌の顔になったライラ。
オレはそっと、個室のドアに鍵を掛けた。
オレはライラが気を失うまで、ライラの腰を離さず掴み続けた。
第4章 南大陸旅立ち編~完~
第5章へつづく
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次回更新は、6月3日21時更新予定です!





