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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第4章
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第44話 スパの街出発

 オレが目を覚ましたのは、9時過ぎだった。

 起き上がって隣を見ると、ライラはまだ眠っている。


 昨夜、夕食から戻って来たオレたちはしばし休憩した後、2度目の温泉を楽しんだ。

 もちろん専用温泉だ。

 ゆっくりお湯に浸かって温泉を楽しんだ後、オレはライラに搾り取られた。


 何がとはあえて云わない。




 オレは布団から抜け出すと、大きく伸びをした。

 もう眠気は、すっかり消えている。


 さて、朝風呂でもしようか。


 オレが専用風呂に向かおうとすると、背後で物音がした。


「うーん……ビートくん?」

「あ……おはよう」


 ライラが起きた。


「おはよう。……もしかして、これから朝風呂?」

「そうだけど……」

「わたしも入りたい!」


 ライラはそう云って、布団を抜け出した。




「「ふはぁ~~~」」


 オレとライラは、朝風呂に入ってのんびりする。

 朝に風呂に入るなんて、グレーザー孤児院に居たときも、孤児院を出てクエストをするようになってからも、したことがなかった。


「なんか、朝からお湯に浸かるなんて不思議な気分ね」

「今までに一度も、朝からお風呂に入るなんて無かったもんな」


 オレは空を見ながら、思いっきり足を延ばす。

 すると、グルグルと変な音が聞こえてきた。


「ん?」


 一体、なんの音だ?

 音に気づいて辺りを見回すと、それはライラから聞こえてきた。


「えへへ……お腹空いてきちゃった」


 そういえば、朝食がまだだったな。


「確か朝食は、6時~11時の間だったな」

「お風呂から出たら、食べに行こう」

「そうだな。朝食は大事だ」




 オレは朝食を食べた後、サウナに入ってみることにした。

 ライラも誘ったが「暑いのは苦手だし、なによりもビートくん以外の男の人がいっぱいいる部屋に入るのは嫌」という理由で、部屋で待っていることになった。

 服を脱いでサウナに入ると、むせるような熱気が襲ってきた。

 サウナの奥には、石がいくつか積まれたレンガ造りのコンロのようなものがあり、時々そこに水が垂れては、蒸発していく。

 どうやら熱気の原因は、これのようだ。


(これがサウナか……)


 サウナの中にいるのは、男性ばかりだった。全員が、修行僧のようにじっとして全身から汗を吹き出し、暑さに耐えている。

 確かにこの熱気と男ばかりの空間は、ライラには辛いだろう。


 これほどまでの熱気に当たるのは、オレも初めてだ。

 いつまで、耐えられるだろうか。


 オレは先客と同じように、木製の床に座り、じっとして汗を流し始める。


 暑い。

 息がしづらくなるほど、暑い。

 普通の温泉がぬるま湯に感じられそうだ。

 こんなに暑いのに、不思議と嫌な気持ちにはならない。

 むしろ、温泉と同じように、身体から疲れが抜けていくような気がする。


(もう、どれくらい経ったかな……?)


 時計を見ると、15分が経過していた。

 もうそろそろ、出てもいいだろう。


 オレは立ち上がると、タオルで全身の汗を拭い、サウナから出た。

 タオルを絞ると、大量の汗が零れ落ちた。


(こんなに汗をかいていたなんて!)


 驚きつつも、オレはそのまま水風呂に入る。


「くぁぁぁ~~~っ」


 オレはそんな声を出してしまう。

 火照って限界まで温められた身体に、冷たい水が気持ちいい。

 急激に、体力が回復していくような気がした。




 サウナを堪能したオレは、温泉卵を買って部屋に戻った。

 部屋では、ライラが備え付けの雑誌を読みながら待っていた。


「戻ったよ~」

「お帰り! サウナはどうだった?」

「良かったよ~。汗かいてスッキリした! それと、これ食べようか」


 オレは買ってきた温泉卵を、紙コップに割り入れ、ライラに差し出す。

 それを見たライラは、目を輝かせた。


「わぁ、温泉卵!」

「スパの源泉で作った温泉卵らしいよ。名物として売ってた」

「ありがとう! いただきます!」


 ライラはスプーンで温泉卵を食べ始める。

 オレも紙コップに割り入れ、スプーンで温泉卵をつつく。


「美味しい! トロっとしていて、甘みがある!」

「うん、これはいい温泉卵だ」


 オレとライラは、温泉卵に舌鼓を打った。


「ねぇ、もっとある? 美味しくておかわりしたくなっちゃった」

「まだまだ、いくつもあるぞ」


 オレは袋に入った温泉卵を指し示す。

 昼食の時間になっても、オレとライラは温泉卵を食べ続け、温泉卵が昼食になってしまった。




「あぁあー……」

「いてて……」


 オレとライラは、午後にマッサージを受けていた。

 ルームサービスでマッサージができると知ったオレたちは、ついでだからマッサージを受けてみることにした。やってきたのは、兎耳を持つ獣人と、猫耳を持つ獣人の女性だった。

 旅の疲れに効果があると評判のマッサージを受けてみたが、その結果、オレとライラは全身が凝り固まっていたことが分かった。


「あぐっ! いてて……」

「お客さん、かなり凝っていますね」


 兎耳を持つ獣人のマッサージ師が、オレの身体を押しながら云う。


「お嬢さんも凝っていますけど、彼氏さんほどじゃないみたいですにゃあ」

「もうっ、彼氏じゃなくて夫ですよぉ。ふぁぁんっ!」


 ライラが猫耳を持つ獣人のマッサージ師の言葉を一部訂正した後に、気持ちよさそうな声を出す。


「あら、それは失礼しましたにゃあ。お若いので、恋人同士かと思いましたにゃあ」

「夫婦だと、私はすぐに分かりましたよ」


 兎耳のマッサージ師が云う。


「さすが先輩ですにゃあ! でも、どうして分かったんですかにゃあ?」

「首元の婚姻のネックレスを見れば、誰でも分かりますよ」

「いででっ!」


 今のって、本当にマッサージですよね?

 オレは兎耳のマッサージ師に訊きたくなった。


「お客さん、本当に凝ってますねぇ……もうちょっと強くやったほうが疲れも取れますよぉ?」

「いでえっ! ぐあっ! いだだだだ!!」

「ちょっと痛いかもしれませんが。我慢してくださいね」

「いや、ちょっとどころじゃ……ギャッ! いだぁっ!!」


 オレは押されるたびに身体に走る痛みに、ただ叫ぶことしかできない。

 絶対に、単なるマッサージ以外の何かがありそうだ。


 まさかこの兎耳のマッサージ師、オレとライラに嫉妬しているんじゃ――。


「お客さん、余計な事を考えずに身体の力を抜いている方が、効果がありますからね?」

「いでででで!!!」


 そんな無茶な。

 オレは歯を食いしばりながら、痛みに耐えるしかなかった。


 絶対、間違いなくマッサージ以外の何かが含まれている。




 夕方になると、オレとライラは少し早めに夕食を食べることにした。

 オレは先ほど受けたマッサージの痛みが、まだ残っている。

 確実に、あのマッサージ師から受けたマッサージ以外の何かのせいだ。

 それに反して、ライラはマッサージですっかり身体が軽くなったらしく、足取りが軽やかになっていた。


「いよいよ明日で、スパの街ともお別れなんて、寂しいわね」

「確かにな。もうちょっと、ゆっくりしていきたいとはオレも思うよ」


 オレとライラは夕食を食べながら、お互いの胸の内を打ち明ける。

 考えていることは、一緒だった。


「スパを発ったら、次の停車駅はリリスだ。リリスを出発したら、いよいよ南大陸とはお別れして、オレたちは西大陸へと入ることになる」

「いよいよ、私たち生まれて初めて、南大陸から他の大陸に足を踏み出すことになるのね」


 ライラの言葉に、オレは頷く。

 オレたちは、グレーザー孤児院に引き取られてからただの一度も、南大陸から出たことが無い。いや、グレーザーの街からさえ、足を踏み出したことが無かった。

 この世界を構成する4つの大陸は、どれも広大で往来するのは大変だ。大陸間は鉄道橋か船が主な移動手段になっている。しかし、船は長距離を移動できるが港町でないと乗り降りができない。そのため、大陸各地に張り巡らされた鉄道に比べると利便性はどうしても劣ってしまう。

 鉄道は大陸各地に張り巡らされてはいるが、街と街の間はかなり離れている場合がほとんどだ。


 そのため、オレたちは孤児院に居た頃は隣町にさえ出たことが無かった。

 きっと、ライラの両親を探すという目的が無かったら、一生をグレーザーの街で終わらせることになったかもしれない。


「北大陸までの道のりは、まだまだ長いなぁ」

「大丈夫。きっと、いつかは辿り着けるはずだから」


 ライラはそう云って、ミートボールを口に運び、美味しそうに咀嚼した。




 翌朝。オレとライラは持って来た荷物をまとめ、温泉旅館『テルマエ』に料金を支払い、チェックアウトした。


「ありがとうございました。またのお越しを心よりお待ちしております」

「色々とお世話になりました」

「ありがとう! また来ます!」


 受付の従業員に、オレたちは挨拶をして、温泉旅館『テルマエ』を後にした。




 そしてオレたちは、2日ぶりとなるアークティク・ターン号の個室へと戻って来る。


「なんだか、いつもの場所に戻って来たような、そうじゃないような気分になる」

「あぁ、それなんとなく分かるな」


 ライラの言葉に、オレは同意する。

 確かに、ここはオレたちの旅の拠点のような場所だ。生活は、ほとんどがこの場所で行われている。


 しかし、ここはオレたちの家のようで、家ではない。

 あくまでも、料金を支払って利用している場所だ。


「ライラの両親を見つけたら、今度はオレたちの家を見つけないといけないかもな」

「ビートくんとの新居かぁ……今から楽しみになっちゃう」


 ライラは尻尾を振りながら、オレと新居で過ごすところを想像しているらしい。

 しかし、その前にまずライラの両親を見つけないと。



 そのとき、汽笛が轟いた。

 時計を見ると、12時を指し示している。


 出発の時間だ!

 オレがそう思った時、個室が揺れ、ゆっくりと動き出す。


 アークティク・ターン号が動き出した。


 外を見ると、景色が動き始め、それがどんどん早くなっていく。

 やがて駅を出て、外の景色は街の風景から平野へと変わっていく。



 アークティク・ターン号は、南大陸最後の街、リリスへと向かって走って行った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

次回更新は5月31日21時更新予定です!

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