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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第3章
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第39話 訪問者

 突然(とつぜん)、個室のドアがノックされた。


「誰かしら?」

「オレが出てみるよ」


 オレはそう云って、ドアノブに手を掛ける。

 きっとまた、ブルカニロ車掌(しやしよう)辺りが乗車券(じようしやけん)のチェックに来たのかもしれない。

 オレはその時までは、そう思っていた。


 しかしドアを開けた所にいたのは、ブルカニロ車掌ではなかった。


「はい――?」


 オレはドアを開け、言葉を(うしな)った。

 長いコートに身を包んだ長身(ちようしん)の男が1人、オレを見下ろしていた。

 目つきは鋭く、どんなことを隠していても、見通(みとお)してしまいそうな感じがする。


「誰ですか?」

「私は、鉄道騎士団(てつどうきしだん)の者だ」


 男はそう云って、鉄道騎士団の紋章(もんしよう)が入った手帳(てちよう)を見せてきた。


「鉄道騎士団が? どうしてまた?」

「実はこの列車に、おかしな人物が乗り込んでいると通報(つうほう)があったんだ。それで念のため各車両を(まわ)って、乗客たちに聞き込みを行っているんだ」

「おかしな人物って、どんな人ですか?」

「それはまだ調査中だ」


 男はそう云うと、オレとライラを見た。


「男性の人が1人と、女性の獣人(じゆうじん)が1人か」


 そう云うと、手帳をしまった。


「失礼した。何かおかしなことがあったら、すぐに車掌か鉄道騎士団に連絡してくれ」


 男は一礼をして、次の部屋に向かって行った。




 オレはドアを()め、深いため息をついた。

 なんだか、妙に疲れたような気がする。


「……ふぅ」


 オレはベッドに寝転がる。


「一体、おかしな人物って、誰の事だろう?」

「ビートくん、あの人、変じゃなかった?」


 ライラがベッドの(ふち)に腰掛け、オレに聞いてくる。


「どうして?」


 ライラの云っていることが、イマイチよく分からなかった。

 どこからどう見ても、鉄道騎士団にしか見えなかった。


「普通、鉄道騎士団の人って、2人で行動しているじゃない? それなのにあの人、1人だけだったわよ」

「きっと、聞き込みで人手(ひとで)()りていないんじゃないかな?」


 オレはそう考えた。

 アークティク・ターン号は120両編成だ。そのうち客車は50両もある。全ての客車を回って聞き込みをしているとしたら、人手がいくらあっても足りないだろう。


「そうかもしれないけど、なんかあの人、雰囲気(ふんいき)もおかしかったし……」

「きっと、そう見えるだけじゃないかな?」

「わたし、なんだかあの人が鉄道騎士団の人じゃないように思えるの」


 ライラは立ち上がると、自分の尻尾(しつぽ)(また)(はさ)み、前に持って来て抱きしめる。

 それはライラが(おび)えているときに、よくやっていたクセのようなものだった。

 グレーザー孤児院(こじいん)にいた頃、まるで犬みたいだとからかったこともあったが、今はそんなことは当然しない。


「ライラ……」

「ビートくん、何か良くないことが()こりそう……」

「大丈夫だ」


 オレはベッドから起き上がり、背後からライラをそっと抱きしめる。


「あ……」

「ライラのことは、オレが守るから」


 そう云うと、ライラはそっと尻尾から手を(はな)し、尻尾を元の位置まで戻した。


「うん……ビートくん、ありがとう」


 ライラは安心しきった声で、お礼を云う。




 夕方に、再びドアがノックされた。


「ひゃんっ!?」

「ライラ、オレが出るから」


 ビックリしたライラに、オレが云う。

 オレはゆっくりと、ドアを開ける。


「はい、どちら様ですか?」


 ドアを開けた先にいたのは、ブルカニロ車掌だった。


「車掌さん? 乗車券の拝見(はいけん)ですか?」

「いえ、違います。この男を見ませんでしたか?」


 ブルカニロ車掌はそう云って、1枚の人相書(にんそうが)きを見せてくれた。


「……!!」


 オレはその人相書きの男に、見覚(みおぼ)えがあった。

 昼間(ひるま)、個室を訪ねてきた鉄道騎士団を名乗(なの)る男だった。


「その顔は……もしかして」

「昼間に、見ました。鉄道騎士団を名乗っていまして……」

「分かりました。ありがとうございます」


 ブルカニロ車掌はそう云って、人相書きを(ふところ)へとしまう。


「車掌さん、この男は……」

「……奴隷商人(どれいしようにん)です」


 ブルカニロ車掌の発言に、部屋の奥から小さな悲鳴(ひめい)が聞こえてくる。

 ライラの悲鳴であることは、(うたが)いようもない。


「ただの奴隷商人なら私達乗組員も手を出しませんが、今回は別です。この男は、人さらいなどで奴隷をかき集めて売りさばく犯罪者(はんざいしや)です。ニセの鉄道騎士団手帳を持ち、鉄道騎士団を(よそお)って行動しています」


 ライラが(いだ)いた違和感(いわかん)と怯えは、勘違(かんちが)いなんかじゃなかったんだ。

 そのことにも気づかなかったとは……。

 オレは心の中で、ライラに(あやま)る。


「とにかく、一刻(いつこく)も早く取り押さえます様、乗組員一同で対応いたします。しばらくの間、ご不便をおかけしますことを、申し訳なく思います」


 それでは、とブルカニロ車掌は次の部屋へと移動していく。

 オレはそっとドアを閉めて、部屋の中を見る。


 ライラは、部屋の(すみ)で尻尾を抱えていた。


「ライラ……」

「ビートくん、わたし……怖い」


 オレはライラの隣に行くと、そっと肩を抱いてライラと密着(みつちやく)する。


「しばらくの間、オレと常に一緒に行動しよう。いざというときは、オレがなんとかして時間を稼ぐから、その間にブルカニロ車掌を呼んで、応援してもらうんだ」

「うん……でも、ビートくんが――」

「何があっても、オレが守るって、孤児院で(ちか)っただろ?」


 オレは、ライラに婚約のネックレスを渡した時のことを思い出す。


「オレのことは心配しなくていい。ライラを1人残して、いなくなったりはしないから」

「……ありがとう、ビートくん」


 落ち着きを取り戻したライラが、オレにそっと、寄り添う。

 オレはライラの温もりを感じながら、ライラの頭を()で続けた。



 しかし、オレたちはこの時、想像もしていなかった。

 後に、大陸横断鉄道が奴隷商人から報告を受けたあいつらに、狙われるとは――。




第3章 大陸横断鉄道と南大陸編 完


第4章に続く

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

次回更新は5月26日21時更新予定です!

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