第38話 図書館車
オレはライラが寝静まった後、こっそりと個室を抜け出した。
窓の外は完全に夜になっていて、外は見えず、窓に映るのは自分の顔だった。
トイレに行くわけではない。
オレが向かう場所は、いくつか車両を移った先にある。
オレが1人で向かっている場所は、図書館車だ。
図書館車とは、アークティク・ターン号に編成されている車両の1つで、その名の通り図書館のように本が大量に並べられた本棚が備え付けられている。もちろん座って本を読むための机とイスもある。飲み物や食べ物の持ち込みが禁止されているところも、図書館とそっくりだ。
オレが図書館車に向かっているのは、銀狼族のことを調べるためだ。
先日、ミッシェル・クラウド家の昼食に招かれた後に、オレはミッシェル・クラウド家の家長であり、旦那様ことナッツ氏と短いやり取りをしていた。
「実は、このアークティク・ターン号には『図書館車』と呼ばれる車両がある」
「ライブラリー、ですか?」
「そうだ。そこにはあらゆる本が収蔵されていて、長距離の旅をする人たちが気軽に本を読めるようになっている。そこに行けば、銀狼族について記された本も、きっとあるはずだ。もしかしたら、図書館車には銀狼族について書かれた本があるかもしれない。1度、探してみる価値はあるだろう」
「ありがとうございます。近いうちに、調べてみます」
ナッツ氏から教えられた、図書館車の存在。
そこには銀狼族について書かれた本が、もしかしたらあるかもしれない。
ライラを連れてこなかったのには、ワケがあった。
1つは、ライラがショックを受けた場合の対策だ。
銀狼族について色々と分かって来た時、もしかしたらライラも知らないような事実を知ることになるかもしれない。
そうなった場合、それを知ることが必ずしもいい結果を招くとは限らないのだ。
事実、ライラはグレーザー孤児院時代、ハズク先生から自分が銀狼族であり、奴隷として人気があると知った時、かなりショックを受けていた。
ライラが覚悟をしているのなら別だが、そうでない場合、もしライラがこれ以上銀狼族のことでショックを受けてしまった場合、両親を探す旅を中断することもあり得る。
だからまずは、ショックを受けにくいオレが調べたほうがいいだろう。
そしてもう1つは、1人で本を読みたくなったからだ。
グレーザー孤児院にいた頃は、1人で本を読める時間はいくらでもあったし、オレもその時間を使って本をよく読んでいた。
しかし、ライラと一緒にいるようになってからは、そんな時間はあまり取れなくなった。
特に鉄道貨物組合でクエストを受けるようになり、アークティク・ターン号で旅に出てからは、本を読む時間は全くといっていいほど無くなった。
今日は、久しぶりに1人で心置きなく本が読める。
オレはウキウキしながら、図書館車へと向かって行った。
図書館車に着いたオレは、入り口となっている貫通ドアを開けた。
「おぉ……!」
図書館車の中を見たオレは、思わずため息をついた。
いくつもの本棚が並び、窓際には机とイスが配置され、数人が本や新聞を読んでいた。
夜も更けてきた時間だからか、図書館車にいる人はあまり多くない。
これなら、思う存分銀狼族について調べることができるし、他人の目を気にすることなく本が読める。
オレは早速、銀狼族について書かれた本を探し始める。
「えーと……民族関係の本は――」
グレーザー孤児院にも小規模ながら図書室はあったし、グレーザーの街にも図書館はあった。時々、休みの日に出かけていたことから、図書館の使い方は知っている。
民族関係の本を置いている書棚を探し、オレはさらにそこから銀狼族について書かれた本を探し始めた。
「や……やっと見つけた」
30分くらい掛かって、やっとオレは銀狼族について書かれた本を見つけた。
『北大陸に暮らす獣人種族について』というタイトルの本だ。
しかし、銀狼族について書かれた本は、今手にしている1冊しか無かった。
まさか、こんなに少ないとは思っていなかった。本があっただけでもありがたい。
オレは空いているイスに座り、本を机の上に置いて開いた。
「えーと、銀狼族についてのページは……」
ペラペラとページをめくり、オレは銀狼族についているページに行きあたると、目で活字を追い始めた。
本から銀狼族についての情報を、オレは拾い上げていった。
「……なるほどな」
一通り読んだオレは、本を閉じた。
そして大きく伸びをする。
辺りを見回すと、いつしか図書館車にいるのは、オレ1人だけになっていた。
「……オレしか、ライラを守れる人はいないんだ」
当たり前のことだが、当たり前すぎてほとんど意識していなかったことを、オレは口に出す。
銀狼族は、白銀のダイヤだ。
奴隷商人が欲しがる理由は、美男美女が多いことや、好きになった相手には一生尽くす本能を持っているだけじゃない。
まさかとは思ったが、こんな理由があったなんて……。
恐ろしいが、しかし現実だ。
そしてこのアークティク・ターン号にも、奴隷商人が乗り込んでいるかもしれない。
「だったら――」
オレに必要なものは――だ。
図書館車を出たオレは、2等車へと向かって進んで行く。
どこの車両からも、いびきや寝息が聞こえてきた。
時計を見ると、もう夜中の2時を過ぎている。いびきや寝息しか聞こえないのも、当たり前だろう。
もしかしたら、起きているのはオレと乗組員の一部くらいかもしれない。
個室へたどり着くと、オレはそっとドアを開ける。
中では、ライラがベッドでぐっすりと眠っているはずだ。
個室へ入ると、案の定ライラはベッドで眠っていた。
オレは足音を立てないように歩いていき、そっとベッドに入る。
(ライラを守れるのは、オレしかいないんだ……!)
オレはそう思いながら、目を閉じる。
それから数時間後、朝が訪れたが、オレはライラから起こされるまで、朝が来たことに気づかなかった。
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