第33話 大雨の日
オレは目を覚ました。
不思議なことに、列車の規則的な揺れがない。
ということは、列車は停まっている。
ひょっとしたら、もう次の駅に着いたのかもしれない。
オレは寝ぼけ眼を擦りながら、そっとブラインドを上げる。
窓を打ちつけていたのは、土砂降りの雨だった。
「あ……雨!?」
「ん~……どうしたの、ビートくん?」
ライラが目を覚ます。
「外が、ものすごい雨なんだ」
「雨なんて珍しくないじゃない。大げさね」
「ものすごい土砂降りで、おまけに列車が停まっているみたいなんだ」
その言葉に、ライラもただごとじゃないと思ったらしく、身体を起こす。
オレとライラは服を着替え、顔を洗うと個室から出た。
2等車の通路を、多くの旅人や乗組員が行き交っている。
どの人も慌てていて、オレたちに目もくれない。
「やっぱり、何かあったみたいだな」
「行ってみよう!」
ライラが云い、オレは頷いた。
「列車はいつになったら動き出すんだ!?」
「雨くらいで停まるなんて、どういうこと!?」
「何が起きたのか、詳しく説明してくれ!」
多くの乗客が、何が起きたのか知りたがっていた。
下手に声を上げると、トラブルに巻き込まれかねない。
オレはライラの手を離さないように気をつけながら、人ごみの中を進んで行く。
オレとライラが人ごみの中を進んで行くと、ブルカニロ車掌が現れた。
「車掌さん!」
オレがブルカニロ車掌に声を掛けると、立ち止まった。
「お客さん! 大変申し訳ありません」
「一体、何が起きたんですか?」
「実は、この大雨でこの先にある川が氾濫してしまいました」
よく見ると、ブルカニロ車掌の制服は雨で湿っていた。きっと、列車の外にも出たのかもしれない。
「そのため現在、交代で乗組員が安全確認に走っています。機関車や列車に問題はありませんので、安全が確認され次第、発車いたします。くれぐれも列車から離れたりせず、個室やお席で出発までお待ちください」
「わかりました。忙しい所、ありがとうございます」
「いえいえ。では、私はまた見回りに戻ります」
ブルカニロ車掌はそう云って、再び人ごみの中へと消えて行った。
これ以上この場所に居ても、新しい情報は得られそうにない。
オレとライラは、個室に戻ることにした。
個室に戻ったオレとライラは、ドアを閉めてブラインドを開けた。相変わらず、薄暗い空から雨が降っている。先ほどまでは土砂降りのようだったが、どうやらパワーアップして集中豪雨レベルにまで強くなったらしい。
激しい雨の音が聞こえてきそうだが、個室は完全防音になっているため、雨の音は聞こえてこない。
列車がいつ動き出すのか、まるで分からない。
オレとライラは携帯食料の朝食を食べつつ、列車が動き出すのを待つことにした。
「ビートくん、このまま列車が永遠に動かなくなっちゃったら、どうする?」
「そうだなぁ……オレが機関士に代わって列車を動かして、報酬として鉄道運営組合から好きな額のおカネを貰おうかな」
あり得ないことを、オレは想像して答える。
「もちろん、ライラにも手伝ってもらってね」
「それなら、報酬は半分ずつね!」
「そうなるな」
そんなことを話していると、個室全体が揺れた。外を見ると、集中豪雨の中、微かに見える地面が動いている。
「……動き出したみたいだ」
少しずつ、地面の動きが早くなっていく。スピードが上がっているな。
しばらくゆっくりと走っていたが、やがていつものスピードを取り戻した。
昼を過ぎる頃には、集中豪雨のような雨も弱まってきた。
集中豪雨から土砂降りになり、列車が進んで行く中、ゆっくりと雨の中心地を抜けたのか弱くなっていき、最終的には小雨になってきた。
「ビートくん、あれ!」
ライラが窓の外を指さす。
遠くに、虹ができていた。
「おー、虹だな」
「虹の根っこには、宝物が埋まっているなんていうけど、本当かな?」
「……きっと、本当だと思うよ」
オレはそう答えた。
ライラは気づいていなかったかもしれないが、オレはしっかりと気づいていた。
虹の根元の方角にあるのは、北大陸だ。
ここで待っている。
オレは、そうメッセージを受け取ったような気がした。
列車は大河を超え、再び走り出した。
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