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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第3章
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第31話 貴族専用車両

 オレとライラは、行商人(ぎようしようにん)たちが乗り組んで商売をしている商人車(トレードカー)出向(でむ)き、そこで消耗品(しようもうひん)をいくつか買い求めた。

 主に水と、ゴミを()てるための袋だ。

 ゴミ自体は、各車両に設置されているゴミ箱に出せばいいが、ゴミをそのまま放り込むわけにはいかない。ちゃんと袋に入れて、(にお)いなどが()れ出さないようにしてから捨てるのが、マナーとなっている。


 そして2等車に戻るには、特等車の通路を通らなくてはならない。

 特等車の通路だけは、他の車両と違って、1番外側の両端(りようはし)に設置されていた。

 理由は、特等車は1両()しきりの車両だからだ。そのため、本来なら通路が設置されるはずの場所に通路を作ることができず、両端に設置して中央部分を客室(キヤビン)にしている。

 鉄道車両を1両丸ごと貸切にして使うことができるのは、上流貴族ぐらいしかいない。


「ライラ、ここから先は静かに行こう。騒がしくして怒られたら、目をつけられるかもしれないからな」

「うん」


 オレの言葉に、ライラは何度も(うなず)いた。

 貴族の中には変な人もいる。オレはグレーザー駅の鉄道貨物組合(トランスギルド)でクエストを受けていた時、何度か貴族のお客を相手にしたことがあった。ほとんどの貴族は紳士的だったが、中には貴族であることを(かさ)に着て、オレたちを奴隷(どれい)か何かと勘違いしているような貴族もいた。

 そんな奴が乗っていたりしたら、後々面倒なことになりかねない。

 ライラもウエイトレスとして働いていた時に、そんな貴族と出会っていた。

 言葉で云われるのも辛かったが、付きまとわれた時の方が怖かったと、ライラは話してくれた。オレがそのときの顔も知らない貴族に対して殺意を抱いたのは、()うまでもないことだ。


 だからこそ、貴族しか使わない特等車を歩くときは、私語厳禁で足音にさえ気を(つか)うようにしていた。

 正直、クエストで荷物を運んでいるときよりも、気を遣う。

 オレたちが廊下を進んでいると、いきなり客室のドアが開き、子どもが飛び出してきた。


「わーい!」

「こらっ! 急に飛び出してはいけません!」


 身なりのいい衣服を着た子どもを、母親らしい女性が(しか)る。


「わーっ、お姉ちゃん助けてーっ!」


 突然、子どもがライラの後ろへと隠れてきた。

 オレたちはその場を動くことができず、子どもと母親のフェイント合戦(がつせん)の間に立たされてしまう。

 しかしフェイント合戦は長くは続かず、ついに子どもが捕まった。


「ごめんなさいね。人様に迷惑かけて! 反省しなさい!」


 母親はそのまま、子どもを客室から出てきた執事(しつじ)らしき初老の男性に引き渡す。

 そして乱れかけた服装を(ととの)え、オレたちに向かって頭を下げる。


「どうも、ご迷惑をおかけしました」

「い、いえ……気にしないでください」

「そうですよ。わたしたち、全然気にしていませんから」


 オレとライラがそう云うと、母親が頭を上げる。


「ありがとうございます。お礼に、一緒にお茶でもいかがですか?」

「あっ、あの……」


 それはさすがに悪いです。

 そう云おうとしたが、母親が先に口を開いた。


「そういえば、まだ名乗っていませんでした。私、ミッシェル・クラウド家の夫人、ココ・ミッシェル・クラウドと申します」

「わたしは、ビートくんの妻、ライラです」

「ライラの夫のビートです」


 オレたちは自己紹介(じこしようかい)をして、もしやと思った。

 ミッシェル・クラウド家といえば、4つの大陸全てに大きな支店をいくつも持つ紅茶販売業の最大手、クラウド茶会(ちやかい)のオーナー家で「茶豪(ちやごう)」と呼ばれるほどの名家(めいけ)だ。正真正銘(しようしんしようめい)の貴族で、いくつかの王国からも爵位(しやくい)授与(じゆよ)されていると聞いたことがある。

 オレがそのことを知っていたのは、鉄道貨物組合(トランスギルド)で取り扱っていた荷物に、たびたびクラウド茶会の荷物があったからだ。

 そしてグレーザーで暮らしていた時によく飲んでいた紅茶も、クラウド茶会のものだった。


「ビートくん、もしかして……」

「あの、クラウド茶会の……?」

「まぁ、私達の紅茶を知っているの?」

「はい。よく飲んでいます。食事に良く合うので」

「ありがとうございます!」


 ココ夫人は、丁重(ていちよう)に頭を下げた。


「生活の一時に、よりよい飲み物を提供する。それが私達、ミッシェル・クラウド家のモットーなんです」

「ココ、何かあったのか?」


 客室から、1人の男性が現れた。

 まるで絵に()いたような典型的(てんけいてき)な貴族の衣服を身につけた、背の高い男性が、ココ夫人の隣に立つ。


「あなた! 実は……」


 ココ夫人が、背の高い男性にこれまでのことを話す。

 旦那(だんな)であることは、すぐに分かった。

 ココ夫人の話を聞いた背の高い男性は、オレたちにゆっくりとお辞儀(じぎ)をした。


「それは息子が世話を掛けた! さらに私たちの紅茶を楽しんでいただいているとは、感謝する! 私はミッシェル・クラウド家の家長(かちよう)でクラウド茶会の最高経営責任者(C E O)も務めています、ナッツ・ミッシェル・クラウドだ!」


 ナッツ氏が自己紹介をして、オレたちも自己紹介をする。

 ライラがオレの妻だと知ったナッツ氏は、目を見張った。


「ほう、その若さですでに夫婦とは!」

「私達の若い頃を思い出しますね、あなた」

「うむ。懐かしいな」


 すると、ナッツ氏が穏やかな笑顔を見せる。


「これから、ミッシェル・クラウド家のティータイムの時間だ! 若きお2人をご招待しよう!」

「えと……いいんですか?」

遠慮(えんりよ)することはない! どうぞ中へ!」


 はははははっ、と高笑いをしながら、ナッツ氏はオレたちを貴族専用車の客室へと案内してくれた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

次回更新は5月18日21時更新予定です!

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