第30話 ヴァルツ出発
オレとライラは、城壁のすぐ近くを歩いていた。
ヴァルツの城壁は、列車からも迫力のある姿を見せていたが、近くまで来るとさらにすごい迫力があった。50メートルはある城壁が見下ろしてくる。
「すごいな……」
オレは城壁を見上げて、呟く。
ヴァルツ卿は、とんでもない資金を持っていたらしい。しかもこれが居城の一部だったとは――。
普通なら、税金の無駄遣いと罵られそうだが、ヴァルツ卿の亡き後は、街を守るための城壁としての役割を果たしている。さらに観光名所としても有名だ。ヴァルツ卿の名前を街の名前にして、永遠に功績を残そうと人々が決めたほどだ。よほど人望があったのだろう。
「近くで見ると、迫力あるわね」
「これなら、巨人族が来ても大丈夫そうだな」
「ビートくんったら、南大陸に巨人族はいないわよ」
ライラがころころと笑う。
それにつられたのか、オレも自然と笑みがこぼれた。
オレとライラは、午後になると多めにドライソーセージを購入した。
ライラの希望で旅の間、少しずつ食べる予定だ。
「少し買いすぎちゃったかしら?」
「大丈夫じゃないかな。ドライソーセージは、長持ちするからな」
オレとライラは、ドライソーセージを2等車の個室に運び込む。
「携帯食料もあるし、これで夜食には困らないわね」
「そんなに夜食を食べることって、あるかな?」
「あるじゃない。遅くまで、起きていた時とか……」
ライラはそう云って、顔を紅くする。
考えていることがすぐにわかり、オレも顔を紅くする。
もしかしたら、今夜は眠れなくなるかもしれない……。
夕方5時になった。
汽笛がヴァルツの駅に轟き、アークティク・ターン号がゆっくりと動き出す。3等車には入れ替わった乗客が乗り、貨物車の荷物も一部が入れ替わる。
城壁を出ていくアークティク・ターン号を、駅のホームから見ている男がいた。
「……次の停車駅で、必ず会おう。ビート」
ロングコートに身を包んだ男は、アークティク・ターン号が走り去ると、歩き出した。
「……はっ!?」
オレは嫌な予感がして、目を覚ます。
時計に目をやると、眠り始めてからあまり時間が経っていない。
たまにどういうわけか、こうして目が覚めてしまう。
「ん……ビートくん?」
隣で眠っていたライラが、目を覚ました。
「ごめん、起こしちゃった?」
「もしかして、眠れないの?」
「なぜか……目が覚めたんだ」
するとライラが、白い肌を布団からさらけ出した。
「大丈夫? ビートくんが望むなら、今からでも私――」
「ありがとうライラ。でも、大丈夫だよ」
ライラも疲れているはずだ。
オレはそっとライラの肌に手を這わせる。
そしてそのまま横になった。
「もう1回横になれば、今度は朝までぐっすり眠れるよ」
「じゃあ、これでどう?」
するとライラが抱き着いてきた。
オレの身体にライラの胸や太ももが、直接包み込むように触れてくる。
「あぅう……」
オレは顔を真っ赤にして、声を漏らす。
これじゃあ、逆に眠れなくなりそうだ。
しかし、嫌な予感は消えて行った。
いつしかオレは、ライラに抱き着かれながら深い眠りへと落ちて行った。
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