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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第3章
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第29話 城壁の街、ヴァルツ

 夕方(ゆうがた)が近づいてきた頃、汽笛(きてき)()(ひび)いた。

 停車駅が近い。

 オレは個室の窓から、列車の前方を見た。


「じょ……城壁(じようへき)だ!」


 オレが叫ぶと、ライラも窓に()け寄り、前方を見る。

 巨大な城壁に向かって、列車が進んで行く。


「あれが……城壁の街、ヴァルツなのね」


 ライラも城壁を見たのは初めてらしく、その大きさに圧倒される。

 列車は速度を(ゆる)めつつ、城壁へと一直線に走って行った。



 城壁の門が開き、アークティク・ターン号がヴァルツの街へと入って行く。

 ヴァルツは、城壁の中に作られた街だ。

 かつてのナハナハ領の領主、ヴァルツ(きよう)善政(ぜんせい)()いていて「私の()き後は、この居城を取り壊してここを街にし、人々の生活向上に役立てるように」と遺し(のこ)て亡くなった。そして街にしたとき、ナハナハ領の人々がヴァルツ卿の功績(こうせき)(たた)えて永遠にその名前を残そうと、街の名前にヴァルツ卿の名前をつけた。領主の居城時代に造られた城壁が、今もなお街を守るために残されている。



 ヴァルツ駅にアークティク・ターン号が到着し、乗降のためドアが開く。


「ヴァルツに到着いたしました。列車は1日停車します。出発時間は明日の夕方5時になります。ご乗車になられますお客様は、夕方5時までに列車にお戻りください」


 駅員のアナウンスがあちこちから聞こえてくる。

 オレたちはそれを合図に、アークティク・ターン号から降りた。


「ヴァルツでは、ドライソーセージが名物なんだって」


 ライラが駅を出た直後、歩きながら云う。

 確かに駅の近くでも、あちこちでドライソーセージが売られている。店を(かま)えているところもあれば、屋台などの路上で販売しているところもある。


「ドライソーセージが?」

「戦争の時代に、新鮮な食料が底をついたから、それまで非常食だったドライソーセージが食べられるようになって、広まって行ったんだって。戦争が終わっても、食べる習慣が残ったみたいよ。あと、ヴァルツ卿の好物でもあったんだって」


 ライラが流暢(りゆうちよう)に説明する。いったい、どこでそんな知識を身につけたのか。

 すると、背後に人の気配を感じた。


獣人(じゆうじん)のお嬢ちゃん、若いのに詳しいね」


 振り返ると、1人の中年男が立っていた。エプロンを身につけ、手には2本のドライソーセージを持っている。


「あんたは?」

「俺はそこでドライソーセージを売っているソーセージ屋だ。良かったら、ドライソーセージ、買って行かないかい?」


 中年男はドライソーセージを手に、営業する。


「俺はヴァルツの街で生まれ育ち、ドライソーセージ作りを学んで、ずっとここでドライソーセージを売ってきたんだ。味はもちろん、種類(しゆるい)豊富(ほうふ)、おまけに長持ち! ビールやラム酒にもよく合う! どうだい、買って行かないかい?」


 せっかくだから、名物を食べていくのも悪くは無いかもしれない。

 オレはそう思い、ライラと視線を()わす。


「じゃあ、2本下さい」

「ありがとう! 銀貨(ぎんか)4枚ね!」


 オレが銀貨4枚を手渡すと、中年男は2本のドライソーセージを手渡してくれた。


毎度(まいど)っ!」


 中年男は屋台に向かって戻って行った。



 その日は駅の近くを少しだけ見て回り、2等車の個室へと戻って来た。

 夜が更けてきたため、見る場所が無くなりつつあったからだった。


「このドライソーセージ、美味(おい)しいね」

「うん、美味(うま)い! だけど、(のど)(かわ)くなぁ」


 ライラが路上で買ったドライソーセージに舌鼓(したつづみ)を打ち、オレも同意する。

 塩味が効いているためか、やけに喉が渇いて、水が進んでしまう。


「わたし、こういう食べ物、どういうわけか好きなの。もうちょっと買っておけば良かったわ」

「じゃあ明日、観光がてら買いに行くか」


 オレの提案に、ライラは目を(かがや)かせる。


「うん! 行きたい!」


 2つ返事で、ライラは答えた。



 翌日の朝。オレはライラと駅を出た。

 朝方のヴァルツの街は、仕事に向かう肉体労働者たちで(あふ)れていた。そしてそんな労働者たちに朝食販売(ちようしよくはんばい)をする屋台も、あちこちで商売をしている。


「はいはいみなさん! 仕事に向かう前に腹ごなし!」

「安いよ安いよ! どれでも1つ銀貨1枚だよ!」

「サンド、いっぱいあるよ! 食べなきゃ仕事できないよ! さぁ、いらっしゃい!」


 屋台からは威勢(いせい)のいい売り文句が飛び、労働者たちが朝食にサンドイッチや軽食を買って仕事に向かう。

 オレとライラは、そんな労働者たちの間を抜け、労働者が向かう方向とは反対の方角へと歩いていく。

 途中にある屋台で、オレは2人分のサンドイッチとスープを買い求めた。

 これを朝食にする。

 さすがに労働者たちであふれかえる場所では食べづらいため、オレたちは大通りを離れて、噴水(ふんすい)がある広場へと移動した。

 広場に置かれているベンチに座り、オレたちはそこで朝食をとる。


「すごく立派な噴水ね」


 ライラが、目の前に(つく)られた噴水を見て云う。

 大きな街には、だいたい所々に広場があり、噴水などが整備されていることが多い。グレーザーにも、広場はあった。

 しかしヴァルツの街の広場は、少し違った。噴水も大きくて立派(りつぱ)で、さらに花壇(かだん)まで整備されている。


「この噴水も、ヴァルツ卿の居城跡の一部かもしれないな」


 オレはなんとなく、そう思った。

 朝食を食べると、オレたちは再び歩き出した。



 そのとき、オレは誰かに見られているような視線を感じた。


「ん?」


 オレは振り返るが、そこには誰もいない。


「ビートくん、どうかしたの?」

「……いや、気のせいだったみたいだ」

「変なの」


 オレは自然と、隣を歩くライラの手を握りしめる。

 ライラは嬉しそうに尻尾(しつぽ)を振ったが、オレはどういうわけか安心できなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

次回更新は5月16日21時更新予定です!

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