第2話 居残り授業
テストの結果、ライラは見事に居残り授業となった。
そして、オレも居残りさせられている。
オレはテストの結果、平均点を上回っていた。
それなのに、なぜ居残りになってしまったのか。
全ては、ハズク先生の一声だった。
「ビートくんは、ライラちゃんの勉強を見てあげてくださいね。幼馴染みですから」
それだけ云って、ハズク先生は教室を出て行った。
「うう……ゴメンね、わたしのせいで……」
ライラが、申し訳なさそうに謝る。
しかし、オレはそこで怒ったりするほど、心が狭い人間ではない。
「早く終わらせて、談話室に行こうよ。消灯までの遊び時間も、少なくなっちゃうよ」
「うん……」
「大丈夫だって、ライラならできるから」
オレはそう励まして、ライラの居残りに付き合う。
ライラは、計算が苦手だ。
足し算はまだいいが、引き算でさえ間違うことがある。
オレは割り算までちゃんとできるのに……。
最初、居残りをしている子どもたちは、オレとライラの他に10人ほどいた。
しかし、1人、また1人……と順番に居残りを終えて教室を出て行き、最後に残ったのは、オレとライラだけになった。
その頃には、夕陽が教室の中に挿し込むようになっていた。
今、何時だろうか。
オレはふと、時計を見た。
もう夕方の5時に近い。
そしてようやく、ライラの居残りが終わった。
「うぅ……ゴメンね、ビートくん」
ライラが、涙声で謝る。
「こんな時間まで……遊びたかったかもしれないのに」
「いやそんな……謝られても困るよ」
オレはそう云って、ライラの頭に手を置いた。
「ライラは十分頑張って、ちゃんと分からなかったところを理解した。オレが居残りに捧げた時間は、無駄じゃなかったってことだ」
オレは優しく、ライラの頭を撫でる。
実はこれ、オレのちょっとした楽しみの1つだ。
ライラの髪の毛は触り心地がよく、撫でているとライラは決まって嬉しそうな表情を見せてくれる。
「……ありがとう。ビートくん」
ライラは、もう涙声じゃなくなっていた。
「さ、そろそろ夕食の時間だな」
「今日の夕食、気になるね」
オレはライラと一緒に、まずは談話室に向かい、そこから食堂へと向かった。
消灯の時間になると、オレはベッドにもぐりこんだ。
「よっこいせっと……」
オレがベッドに入ると同時に、孤児院を手伝っているオバちゃんが部屋の灯りを消していく。
薄い掛布団をかぶり、オレはゆっくりとため息をつく。
「明日もテストがあるんだっけ。また居残りさせられるかもなぁ……」
オレはそう云って、慌てて口を塞ぐ。
確かこういうのって、フラグっていうんじゃなかったっけ?
フラグが立っていないことを祈り続けるうちに、オレは深い眠りへと落ちて行った。
翌日。
オレはフラグを立ててしまったことを、後悔していた。
「ビートくんは、ライラちゃんの勉強を見てあげてくださいね。幼馴染みですから」
昨日も聞いたぞ、そのセリフ!
オレは教室を去っていくハズク先生を、軽くにらんだ。
「うう……ゴメンね、わたしのせいで……」
ライラが、申し訳なさそうに謝る。
そのセリフも、昨日聞いた。
「早く終わらせて、談話室に行こうよ。消灯までの遊び時間も、少なくなっちゃうよ」
オレも、昨日と全く同じ言葉を口に出す。
なにこのデジャブ……。
オレはその日も、ライラができるようになるまで、居残りに付き合うことになった。
しかし、この日の居残りは、少し違った。
「終わったよー!」
ライラがそう云った時、オレは時計を見て、目を見張った。
時計の針が、1時間しか進んでいない!
昨日は夕方までかかったのに、今日は1時間しかかかっていない。
「うぅ……ゴメンね、ビートくん。2日連続で、居残りになっちゃって……」
「すごいぞ! ライラ!」
オレはライラを褒める。
ライラは何が起きたのか分からず、首をかしげていた。
「昨日は夕方まで掛かったのに、今日は1時間で終わらせた!」
「それが、どうかしたの……?」
ライラが訊くと、オレはライラの頭に手を置き、ライラを撫でる。
「大幅な時間短縮だ。ライラはやっぱり、やればできるんだ!」
オレから褒められてうれしかったのか、ライラは笑顔を見せた。
「ありがとう……ビートくん」
ライラはそっと、呟くようにお礼を口にした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!