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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第3章
28/214

第26話 パナイの街

 汽笛(きてき)が聞こえてきた。

 オレはその汽笛に反応し、窓の外を見る。


 アークティク・ターン号の機関車が、汽笛を鳴らすときはいくつかある。

 次の停車駅(ていしやえき)が近づいてきたとき、出発するとき、何らかの異常事態(いじようじたい)が起きたときなどだ。

 場合によっては複数回鳴らすこともあるらしい。


 そして今鳴った汽笛は、次の停車駅が近づいてきたことを、乗客と乗組員に知らせるためだった。


「次の街だ!」

「えっ、本当!?」


 ライラも窓の外を見ようと、オレのすぐ隣にやってくる。

 列車が向かう先に、街が見えた。


「なんていう街かしら?」

「最初の街だから、えーと……」


 オレは壁に貼られている4つの大陸の地図を見て、南大陸を探す。

 グレーザーの隣に名前が書かれていたのは『パナイ』という街だった。


「あそこは、パナイだ。グレーザーの次の停車駅だ」

「へぇ、あれがパナイなんだ」

「ライラ、知ってるの?」

「グレーザー孤児院の友達で、パナイで働いている友達がいるの。きっと、どこかにいるはずよ!」

「じゃあ、3年ぶりの再会か」

「きっとわたしたちを見たら、ビックリするかもしれないわね」


 そりゃあ、ビックリするだろうな。

 なんせグレーザー孤児院を卒業するときには婚約(こんやく)のネックレスをしていた友達が、今は婚姻(こんいん)のネックレスをしていると知ったら。

 しかも相手が同じ孤児院の幼馴染(おさななじ)みだと分かったら、きっと()いた口が(ふさ)がらないかもしれない。



 オレたちを乗せたアークティク・ターン号は、パナイの街へと走って行った。



 パナイ駅に到着すると、3等車(あた)りから次々に人が降りていく。3等車は短距離を移動するための人が大半を()めているためか、人の入れ替わりが激しい。


「アークティク・ターン号は、パナイ駅にて1日停車いたします。引き続きご乗車になられます方は、出発時間までに列車にお戻りください。出発時間は明日の10時です」


 駅員があちこちで、同じ内容をアナウンスしている。


「ビートくん、一旦(いつたん)降りよう」

「うん、降りよう」


 オレとライラは、アークティク・ターン号の個室から飛び出した。

 個室の(キー)と必要なものだけを持ち、オレたちは駅を出る。


 ナハナハ領パイナ地方パナイ。

 南大陸の同じ領地で同じ地方だからか、駅から出ると、グレーザーとよく似た街並みが現れた。行き交う人々の服装などを見ても、グレーザーとほとんど変わらない。


「なんだか、グレーザーみたいなところね」

「あぁ、そっくりだ」


 ライラの言葉にオレが同意すると、ライラは歩き出す。


「せっかくだから、友達のラーマを探してみる」

「オレも行くよ!」


 オレは慌てて、ライラの後に続いた。



 ライラによると、人族(ひとぞく)の友達のラーマは現在、酒場(さかば)で働いているらしい。


「でも、酒場なんていくつもあるだろ? その中からラーマが働いている酒場を見つけるなんて、難しすぎやしないか?」

「大丈夫よ。いなかったら、すぐ次の酒場に行って探せばいいじゃない」


 ライラが当然とばかりに()い、オレは少し面食(めんく)らった。

 酒場にとっては、単なる冷やかしでしかない。蹴りだされるのを覚悟しておいたほうがいいだろう。

 しかし、所持金(しよじきん)にも限りがある今、友達を探すためとはいえ、酒場ごとで酒を注文していては、おカネがいくらあっても足りない。ライラのやり方も、一理(いちり)あるといえなくもなかった。

 ただ、なるべく酒かそうでない場合は、何か飲み物を頼むことにしよう。オレもライラも酒はあまり得意ではなかったが、ライラの友達に会うためには、酒場に入って酒を注文するのが近道だろう。

 むしろそれ以外で、どうやって出会えばいいのか分からない。


「あった! まずはあそこを探してみよう!」


 ライラが、飲み屋街に(たたず)むとある酒場を指さした。

 『バッカス』という名前の酒場らしく、昼間だというのに酒を求める人で(にぎ)わいをみせている。

 ほとんどが中年の男性で、肉体労働者(にくたいろうどうしや)冒険者(ぼうけんしや)と思わしき者が大半を占めている。

 その中で元気に立ち回る、1人の少女がいた。手にはビールの入ったグラスをいくつも持ち、酒場の中を動き回っている。


「いらっしゃい。若いお2人さん、昼間から酒場に用かい?」


 少女が威勢(いせい)よくオレたちに云って、目を見張(みは)った。


「――もしかして、ライラかっ!?」

「ラーマ!?」


 ライラも(おどろ)いて、少女の名前を叫ぶ。まさかの最初の店で当たりを引いた。

 しかしラーマは、手に持っているビールを見ると、ライラに向き直った。


「空いている席に座ってて。すぐに行くから!」


 そう云ってラーマは、ビールを持ってテーブル席へと向かう。

 仕事を終わらせるのが先。その判断は正しい。

 オレとライラは云われたとおり、カウンターの空いている席に座った。

 しばらく待っていると、ラーマが戻って来た。


「いらっしゃい! ご注文は?」

「えーと……とりあえずサイダーを2つ」


 本来なら酒を頼むのが正しいのだろうが、オレは酒以外を選んだ。

 さすがに昼間から、酒を飲む気にはなれない。

 それはライラも同じのようだ。


「はいよ! サイダー2つね!」


 ラーマは嫌な顔1つすることなく、ガラスのコップにサイダーを(そそ)ぎ始める。そして1分と掛からずに、サイダーを2つ、オレたちの前に置いた。


「サイダー2つ、お待ち!」

「ありがとう」

「ありがとう、ラーマ」


 オレとライラは云い、サイダーを1口飲む。


「しかしライラにビート、久しぶりだねェ」


 ラーマがカウンターの中で、ニヤニヤしながら云う。


孤児院(こじいん)にいたとき、まさか婚約(こんやく)するとは思ってもいなかったからビックリしたよ。そして今は……まさかその首のって、婚姻(こんいん)のネックレスか!?」

「そうよ。今は婚約者(フイアンセ)じゃなくて、妻になったの」

「ファッ!?」


 ライラの言葉に、ラーマは驚いて持っていたグラスを落としかける。


「け……結婚、したのかい!?」

「うん。15歳になってから、ハズク先生に立会人(たちあいにん)になってもらってネックレスを交換したの。わたし、今はとっても幸せよ」

「い、いいなー……」


 ラーマがチラっと、オレを見る。

 心配するな。ライラのことはオレが命に()えても守り抜くから。


「で、今日は新婚旅行(ハネムーン)?」

「ううん。今は仕事を()めて、お父さんとお母さんを探す旅をしているの」

「えっ……本気で?」


 ラーマの問いに、ライラは頷く。


「わたしの夢は、お父さんとお母さんに会うことなの。そして、どうしてわたしを捨てたのか、()きたいの」

「へぇ……それは知らなかった」

「それで、今はビートくんと一緒にお父さんとお母さんを探すために、アークティク・ターン号で旅をしているの」

「へぇ! 今、パナイ駅に停車中の、あの!?」


 ラーマは(なか)ば興奮しながらライラと会話している。仕事のことなど、まさにアウトオブ眼中だ。


「……すごいなぁ」


 するとラーマは、カウンターを離れて酒場の奥へ入って行った。

 少しして、ラーマは四角(しかく)くカットされたサンドイッチが乗った皿を持って戻って来た。


「これ、あたしの(おご)りね」

「えっ、いいの!?」

「ライラとビートのこれからの旅の安全を(いの)ってね。同じ孤児院出身として応援(おうえん)してるからね!」

「ありがとう、ラーマ」


 ライラが涙目になり、頭を下げる。


「よしなよ。酒場に涙は(いき)じゃないからさ。じゃ、あたしは仕事に戻るから、ゆっくりしていってよ!」


 ラーマはそう云って、注文を聞きに走って行った。


「……食べようか。ラーマがせっかく奢ってくれたから」

「うん……!」


 オレとライラは、サンドイッチへと手を伸ばした。

 ありがとうな、ラーマ。

 ライラの両親は、必ず見つけ出すよ。


 オレはビールを手に酒場の中を()()するラーマに、(ちか)った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘等お待ちしております!

次回更新は5月13日21時更新予定です!

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