第24話 セミツインルーム
オレとライラは、乗車券に記された部屋へと向かって客車の中を歩いていた。
「すごい人だな」
「本当ね。ビックリしちゃった」
出発時刻が迫り、オレたちが飛び乗ったのは、3等車だった。
3等車は4人掛けボックス席の車両で、料金が最も安い。しかし長旅には向かないため近距離の移動をする人たちが利用していた。客車数と座席数が最も多いため、車内は人で埋め尽くされていた。
老若男女、人族も獣人族も問わず、様々な人が座席を埋め、中央通路に座っている人までいる。小さな子どもは車内ではしゃぎまわり、大人たちは眠るか、会話に華を咲かせたり、トランプやリバーシ、チェスなどのゲームや読書を楽しんでいる。
もちろん、ここはオレたちが利用する客車ではない。
オレとライラは、人にぶつからないよう注意しながら、中央通路を進んでいく。
ライラが通ると、男はおろか女までもが、ライラの美しさに目を奪われるらしく、ライラはすぐに注目の的になった。
「うおっ、美人!」
「ほっ、本当だ!」
「おいっ、首元を見て見ろ! あの獣人族の少女、既婚者だぞ!」
「あの若さで、もう結婚しているのか……」
「あと10年若かったら……」
「悔しいけど、あれほど美人だと手も足も出ないわねぇ」
あちこちから、ライラへの評価が飛んでくる。
ライラはあまり気にしていないようだが、ここに長居するのはいい判断とはいえない。
オレはライラの手を引き、逃げるように3等車を進んで行った。
デッキに出ると、オレとライラは荷物を下ろした。
ずっと荷物を持っていたため、手が痛くなってしまった。
「ふぅ……わたしたちが乗る2等車って、まだ先かしら?」
「もう少し先だなぁ」
オレはデッキに張り出されていた、列車全体の見取り図を見て呟く。
「アークティク・ターン号は、全体で120両ある。うち1両が機関車。30両が貨物車で、70両が客車になっていて……残りの19両はその他の車両らしい」
細かく説明するのが面倒くさくなったが、詳細な情報は以下の通りだ。
1両が機関車。
30両が貨物車。
70両が客車。(うち特等車が10両、1等車が10両、2等車が20両、3等車が30両)
残りの19両が食堂車、乗務員車、商売車、図書館車などになっている。
これら全てを合わせて、120両だ。
「2等車は……まだこんなにあるの!?」
「まだ3等車の半分……ってところか」
オレたちは再び、荷物を手にして歩き出した。
アークティク・ターン号に乗り、歩き続けて30分後。
ついにオレとライラは、予約した部屋へと辿り着いた。
「やっと、ゆっくりできるわね」
ライラがそう云って、2等車個室のドアを開けた。
「わぁ……」
「おぉ……」
個室の中を見て、オレとライラは驚く。
個室は、格安の宿屋によく似ていた。列車のせいか少し狭く感じるが、それでも2人で使うには十分な広さが確保されている。ベッドは大きいし、車窓から見える景色も良い。机も設置されていて、食事もできそうだ。それに簡素だが、洗面台もついている。小型の冷蔵庫まであって、申し分ない設備だ。
オレたちは部屋に入り、ドアを閉めて荷物を下ろした。ドアを閉めると、外の物音が完全に聞こえなくなる。どうやら、完全防音らしい。
「これから、わたしたちはここが生活拠点になるのね」
ライラが嬉しそうに云う。
「……あれ?」
オレは部屋の中を見回し、あることに気づいた。
「ベッドが……1つしかないぞ?」
「えっ……!?」
ライラも、そのことに気づいたらしい。
「あれ? オレ確か、ベッド2つの部屋を予約したはずだったけど……まさか!?」
オレは乗車券を取り出し、確認する。
そこには「2等車 セミツインルーム使用」と書かれていた。
「しまったぁ!」
オレは頭を抱える。
「ツインルームを申し込むはずが、間違ってセミツインルームになってた!」
「えぇっ!? 本当!?」
ライラも驚いて乗車券を確認し、事実だと認識する。
乗車券が発行されてからの、内容の変更は不可能だ。
「やっちまったなぁ……」
「……ううん、そんなことないわよ」
ライラは落ち込むオレにそう云うと、ベッドに腰掛ける。
「このベッド、セミツインルームだからか、かなり大きいわ。2人で寝るのに十分な大きさよ。それに、ここでも毎晩、ビートくんと一緒に寝られるから、わたしはむしろこっちで良かったと思うわ」
ライラはベッドに寝転がり、身体を伸ばす。
ライラがそう云ってくれるなら、それでいいか。
結果オーライだ。
オレはそう思うことにした。
「よし。じゃあまずは……」
そのとき、オレのお腹が鳴った。
思えば、列車に乗る前から何も食べていなかった。
「……まずは、食事ね!」
「そうだな。腹ごしらえだ」
オレとライラは、個室の鍵を持って、売店に向かった。
そこで昼食にサンドイッチとスープを購入し、個室へ持ち帰り、個室の机で食べることにした。
オレたちの旅が、本格的にスタートした。
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