第21話 ハズク先生への報告
オレとライラは、3年ぶりとなるグレーザー孤児院を訪ねていた。
「ビートくん、それにライラちゃん!」
ハズク先生はオレたちを出迎え、両腕で抱きしめてくれた。
ハズク先生の包容力は、オレたちが孤児院にいたときと何ら変わらない。
「お久しぶりです!」
「ハズク先生! お久しぶりです!」
オレとライラは、ハズク先生に抱きしめられたまま、挨拶をする。
そしてハズク先生は、そっとオレたちを解放した。
「2人とも、本当にお久しぶりね。一緒に暮らしているみたいだけど、元気?」
「はい! ビートくんと一緒にいられて、わたしは毎日が幸せです! 毎日、ビートくんのために美味しい食事を作っていると、同棲して良かったって、いつも思います」
「ライラっ……!」
オレが頬を紅くすると、ハズク先生は微笑む。
「ライラちゃん、すっかりビートくんに尽くすようになったわね」
「やっぱりわたし、銀狼族なんだって、思います!」
「まぁ。さすが12歳で婚約されただけあるわね」
おい、外で銀狼族だとはあまり云わない方がいいんじゃなかったか!?
オレの心配をよそに、ライラとハズク先生は笑い合う。
「ところで、今日会って欲しいと手紙に書いてあったけど……?」
「実は、立会人になっていただきたいんです」
「もちろんいいけど、いったい何の立会人に?」
「これですよ」
オレが箱を取り出し、開ける。
中身を見たハズク先生は、目を見張った。
「まあ! これは婚姻のネックレス!」
そしてすぐに、嬉しそうに微笑む。
「つまり……私に結婚の立会いをしてほしい……ということね?」
「はい。お願いできますか?」
「もちろん、喜んで引き受けるわ。可愛い教え子のためですもの」
「ありがとうございます!」
「それじゃあ、私の執務室まで来てもらえる?」
オレとライラは頷き、ハズク先生に続いて3年ぶりにグレーザー孤児院へと足を踏み入れた。
ハズク先生の執務室で、オレとライラは向かい合っていた。
ハズク先生はオレたちの横で、オレが預けた婚姻のネックレスを手にしている。
「ビートくん、ライラちゃん、準備はいいかしら?」
「はい」
「いつでも、大丈夫です」
「それじゃあ……ライラちゃんは、婚約のネックレスを外して、私に渡して」
ライラは頷くと、婚約のネックレスを外した。
そしてそれをハズク先生に手渡すと、ハズク先生はオレとライラに、婚姻のネックレスを手渡す。
「まずビートくんから、ライラちゃんに婚姻のネックレスをつけてね」
「はい」
オレはハズク先生の言葉に従い、ライラの首に婚姻のネックレスをつける。
ライラは大人しく、オレが婚姻のネックレスを取り付けて手を離すまで、じっとしていた。
「それじゃあ、次はライラちゃんがビートくんの首に婚姻のネックレスをつけてね」
「はーい!」
ライラは嬉しそうに云うと、オレの首に婚姻のネックレスを取り付ける。
ライラが手を離すと、オレの首元で、婚姻のネックレスが落ち着く。
「はい……これでビートくんとライラちゃんは、正式な夫婦となりました」
そう云うと、ハズク先生の声が震えはじめる。
「婚約を知らせてくれた時、いつかは……と思っていました。ついに今日、その日が来たのですね。おめでとう、ビートくん、ライラちゃん。先生はとっても嬉しいです」
「先生……」
「ハズク先生、わたしたち、いつまでも幸せになります!」
ライラがそう云うと、オレとライラは、再びハズク先生に抱きしめられる。
ハズク先生は感激の涙を流しながら、オレたちに云った。
「おめでとう! ビートくんにライラちゃん、本当におめでとう!!」
ハズク先生が涙を流しながら喜ぶ姿を見たのは、これが初めてだった。
「ライラちゃん、この婚約のネックレスはどうするの?」
婚姻のネックレスが入っていた箱には、今は婚約のネックレスが入っていた。
「もちろん、これはわたしにとってビートくんから最初に貰った宝物です! だから、持ち帰って大切にします!」
「わかったわ。じゃあ、これはライラちゃんに返すわね」
ハズク先生は、ライラに箱を手渡す。
「先生、それともう1つだけ報告があります」
「まだ、何かあるの?」
オレに問いかけるハズク先生。
オレはライラと視線を交わしてから、口を開いた。
「オレとライラは、2ヶ月後にアークティク・ターン号に乗って、旅に出ます」
「まぁ! あの大陸横断鉄道に乗るの!?」
「はい。ライラの両親を探すために、旅に出ます。いつになるかは分かりませんが、必ずライラの両親を探し出して、またここに戻ってきます!」
「ビートくん……本当に立派になったわね」
感慨深そうに云うハズク先生。
オレはゆっくりと、頭を下げた。
「ありがとうございます」
「あなたたち2人の、道中の安全を祈っているわ。ライラちゃん、きっとあなたのお父さんとお母さんは、見つかりますよ」
「先生、ありがとうございます!」
ライラはそう云って、頭を下げた。
ハズク先生と別れた後、オレとライラはアパートへと戻った。
「先生、喜んでくれて良かったね」
「あぁ。これでもう思い残すことなく、グレーザーの街を旅立てるな」
オレはそう云いながらも、まだ何かを忘れているような気がした。
ライラと行う、大切な何かを……。
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