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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
エピローグ
213/214

第211話 辿り着いた場所

「ビートくん、あれ!」

「あれは……!」


 ライラが指し示した方角を見て、オレは目を見張った。

 オレたちの視線の先には、西大陸の平原が広がっている。そしてそこに、ノワールグラードのような街の廃墟が見えた。




 サンタグラードをアークティク・ターン号で旅立ってから、半年が過ぎた頃。

 オレたちは長旅の末、かつてトキオ国があったと教えられた場所に辿り着いた。


 ここに到着するまでの間、本当に色々なことがあった。

 嬉しいことも、悲しいことも、大変なことも、驚くことも……。

 すべて、ライラと共有した出来事ばかりだ。


 そしてオレたちは、ついに向かうべき場所へと辿り着くことができた。




「……間違いない!」


 オレはライラの父、シャインからもらった地図に目を落とす。

 辿ってきた道を指でなぞり、自分たちの辿ってきた道を確認する。


 そして、現在位置と指が止まった場所が間違いないことを確かめると、オレは地図から顔を上げた。


「あれが、トキオ国だ!」

「あれが……ビートくんとわたしが、生まれた場所……!」


 ライラの言葉に、オレは頷く。


 ついに、オレたちはトキオ国の跡地に辿り着いた。

 あそこで、オレたちは生まれ、そしてほぼ同時に国を追われた。アダムの襲撃によって、オレは両親を失い、ライラは両親と引き裂かれ、長い間離れ離れになってしまった。

 オレたちの運命が、大きく変わった場所でもある、トキオ国。


 アダムと、導きの使徒によって徹底的な殺戮と破壊が行われ、現在は街全体が廃墟となっている。

 アダムの正体を知ったミーケッド国王ことオレの父さんと、トキオ国の国民はアダムを倒そうと準備をしていたという。それをアダムに知られてしまったために、トキオ国は滅ぼされてしまった。


 だけど、オレはアダムを倒した。

 父さんやトキオ国の国民全員の、仇を討ったんだ!


 オレは地図をカバンにしまうと、ライラの手を取った。


「ライラ、行こう……!」

「うん!」


 オレの言葉に、ライラが頷く。

 オレたちは一歩ずつ確実に、トキオ国の跡地へと近づいていった。




 トキオ国の跡地は、典型的な西大陸のレンガ造りの建物が立ち並ぶ廃墟となっていた。

 かつては多くの人が行き交ったであろう大通りには、今はオレたちだけしかいない。都市国家だったトキオ国は、今は静寂が支配している。


 もしかしたら、廃墟になったことで潜伏している盗賊がいるかもしれない。

 オレはライラと共に警戒しながら、進んでいく。


「……ライラ、何か臭う?」

「うーん……」


 ライラは鼻をスンスンと動かして、トキオ国の跡地に流れている臭いを探った。


「……変な臭いはしないわ。わたしと、ビートくんのいい匂いしかしない」

「いい匂いって……」

「本当のことよ」


 ライラが歩きながら、オレの首筋へと顔を近づけてくる。

 すると、ライラが足元にあった石につまづいた。


「きゃあっ!」

「危ないっ!」


 前に倒れかけたライラを、オレが慌てて支える。


「ほら、前を向かないと危ないって」

「……ありがとう、ビートくん」


 オレと密着したからか、ライラは顔を紅くしていた。


「……あっ!」


 そのとき、ライラが何かに気づいた。


「ビートくん、あそこ!」

「えっ?」


 ライラが指し示した先を、オレは見る。


 そこにあったのは、城だった。

 レンガ造りの建物の中に現れる、ひときわ大きな城。

 誰がどう見ても、それが特別な場所であると分かる。


「城……?」

「ビートくん、ビートくんのお父さんとお母さんって、確か――」

「ああっ!!」


 ライラの言葉を遮って、オレは叫んだ。


 オレの父さんと母さん。

 トキオ国。

 城。


 この3つから導き出せる答えは、1つしかない!


「あそこが……オレとライラが、生まれた場所……王宮だ!!」

「ねぇ! もしかしたら、ビートくんのお父さんとお母さんも――!」

「……ライラ、すぐに行こう!」


 オレはそう云うと、ライラの手を取り、駆け出す。


「わっ! ちょっと、ビートくん!!」


 ライラが叫ぶが、オレは振り返らない。

 前だけを向いて、ひたすら王宮に向かって走っていく。


 もしかしたら、あそこにまだミーケッド国王とコーゴー女王こと、オレの父さんと母さんが!!


 オレはライラを連れ、王宮へと一直線に向かった。




 王宮に足を踏み入れる。

 領主や国王が暮らす城にありがちな、跳ね橋や堀などは無かった。

 王宮と街を隔てているのは、城壁だけであった。


 王宮に入っていくと、中は時の流れとアダムによる襲撃で荒れ果てていた。

 壁や床には、血の痕ではないかと思われる痕跡が残っている。

 かつてここで、想像を絶するような戦闘が行われたことを、オレは感じ取った。


「ビートくん、どうするの?」

「シャインさんの話によると、シャインさんとシルヴィさんは、王宮の奥にある玉座の間でオレの父さんと母さんに仕えていた。そしてオレの父さんと母さんは、玉座の間でアダムに殺されて、最後を迎えたらしい。もしも……そこにまだ父さんと母さんがいたら……!!」

「ビートくん、行こう!」


 ライラの言葉に、オレは頷く。


「よし、行くか!」


 オレは階段を、ゆっくりと登っていった。


 玉座の間と云う場所がどこにあるのか、オレは知らない。

 シャインから大まかな場所は聞いていたが、当時はシャインとシルヴィも混乱していた。

 そのことから、大まかな場所しか覚えていないらしい。


 だから、玉座の間を探すのは、完全な手探り状態だ。


 だが、オレはどうしても玉座の間を見つけないといけない。

 そこに必ず、オレが探し求めているものがあるはずだ!


 オレは1階登るたびに、そのフロアにある全ての部屋をライラと共に調べていった。




「ここが……最後の部屋よ」


 5階に辿り着いて最後の部屋の前に立つと、ライラがそう云った。


 これまで、玉座の間といえるような雰囲気の部屋は無かった。

 そしてこの最後の部屋のドアは、他の部屋と違って重厚な印象を与えてくる。


 ここが、玉座の間に間違いない。


「ここに……父さんと母さんが……」


 オレはそこまで云うと、生唾を飲み込んだ。

 そして、ライラに向き直る。


「ライラ、もしかしたらショッキングな光景を目の当たりにするかもしれない。だから、ライラはここで待っていても――」

「ビートくん!!」


 突然ライラが叫び、オレは驚く。


「そんなこと、関係ないわ。ミーケッド国王とコーゴー女王は、わたしのお父さんとお母さんを助けてくれた、命の恩人よ。ミーケッド国王とコーゴー女王がいなかったら、わたしは生まれていなかったかもしれない。だから、わたしも一緒に行く! ビートくん、変なことは云わないで!」

「ライラ……ありがとう」


 本当に、オレはなんていい嫁を貰ったんだろう。

 オレは熱くなる目頭を、そっと抑えた。


「ライラ……行くぞ!」

「うん!」


 オレはドアに手をかけ、ゆっくりと押していく。

 ドアは錆びた音を立てて、開いていった。


 ライラと共に、オレは玉座の間へと足を踏み入れた。




「……ここが」

「……玉座の間?」


 オレとライラは、玉座の間を見渡す。


 部屋の奥には、2つの立派なイスが並んでいる。

 きっと、あそこにミーケッド国王とコーゴー女王が座っていたのだろう。


 立派なイスの上には、トキオ国の国旗が掲げられている。

 オレの戦闘服の左胸に縫い付けられているものと、全く同じだ。


「ビートくん……」

「どうやら……オレの父さんと母さんは、ここにはいないみたいだ」


 玉座の間には、オレたち以外には誰もいない。

 ただ、ホコリを被った空間が、そこにあるだけだった。

 積み重なった厚いホコリが、長いこと誰も立ち入っていなかったことを物語っていた。


「ビートくん!」

「どうしたの?」

「あそこ……!」


 ライラが指さす先に、1枚の紙切れのようなものが落ちていた。

 あの紙切れは、いったいなんだろう?


 どこからか飛んできたものじゃないかと思ったが、そうではないような気がした。

 もっと重要な、何かのような気がしてならない。


「なんだろう……?」


 オレはゆっくりと玉座の間を歩いていき、紙切れに近づいていく。

 近づいてみて初めて分かったが、それは写真だった。


「写真? どうしてこんなものが……!!」


 写真をのぞき込んで、オレは目を見張った。

 ホコリでよく見えないが、2人の人族の男女と、2人の獣人族の男女が写っているようだ。


「ライラ、来て!!」

「どうしたの!?」


 オレが叫び、ライラがオレの隣に駆けてくる。


「これ、写真だよ!!」


 落ちていた写真を、オレは拾い上げる。

 溜まっていたホコリを手で払い、オレは写真をライラに見せた。


「!! ビートくん!」


 写真を見たライラが目を丸くし、叫ぶ。


「ここに写っている獣人族の男女、わたしのお父さんとお母さんよ!」

「えっ、本当!?」


 オレは再び、写真に目を向ける。

 ライラの云う通り、写真に写っている獣人族は、確かにシャインとシルヴィだった。

 今よりも若く、着ている服も立派なものだ。


 そして、写真の中にいるシャインとシルヴィは、1人の赤子を抱いている。


「じゃあ、この赤ちゃんは……!」

「わたしよ!」


 ライラがそう云い、オレはやっぱりと心の中で呟く。

 すると、ライラはシャインとシルヴィの隣に写っている、人族の男女に目を向けた。


「この人たちは……ミーケッド国王とコーゴー女王じゃないかしら?」

「どうして、分かるの?」

「ビートくん、見て! 男性は王冠を被っていて、女性はティアラを頭に乗せているわ。立派な服も着ていて、高貴な人としか思えない。それに、この女性は赤ちゃんを抱いてる!」


 ライラの指摘通り、人族の男女は王冠とティアラを頭に戴いていた。

 じゃあ、この女性がその胸に抱いている赤ん坊は……!


 オレの考えを汲んだかのように、ライラが口を開いた。


「間違いないわ。ビートくんよ!」

「もしかして、この写真は……!」


 オレはそっと、写真を裏返した。

 写真の裏には、次のように書かれていた。


『ライラとビートの誕生記念。忠実なる部下であり、大切な友人でもあるシャイン・シルヴィ夫妻と共に写す。ミーケッド国王・コーゴー女王』


 その後には、日付らしい数字が並んでいた。

 オレはそっと、写真を表に戻す。


 ミーケッド国王とコーゴー女王。

 オレの父さんと母さん。


 やっと、その姿を見ることができた。

 オレは自然と、目頭が熱くなってくる。


「父さん……母さん……!」

「わたしたちの、家族写真ね」


 ライラの言葉に、オレは浮かんでいた涙を拭い、頷いた。


「……そうだな。唯一の、家族写真だ」


 オレはそっと、その写真をカバンへとしまった。


「……それにしても、ミーケッド国王とコーゴー女王はどこに……?」


 少なくとも、玉座の間にはいないことは分かった。

 だとしたら、オレの父さんと母さんは、アダムによって殺された後、どこに行ってしまったのだろう?


「……あっ!」


 オレが辺りを見回していると、突然ライラが叫んだ。


「どっ、どうしたの!?」

「ビートくん、大切なことを思い出したわ!!」


 ライラはそう云って、窓に駆け寄る。

 窓から顔を出して、キョロキョロと外を見回すライラ。何かを探しているようだ。


 オレはライラの近くに行き、共に窓から顔を出した。


「ライラ、いったいどうしたの?」

「あったわ! あそこよ!」


 ライラがそう叫び、ある場所を指さす。

 そこは王宮の裏にある土地で、広大な敷地があった。


 そこには何かのシンボルなのか、何本もの木の棒のようなものが立てられている。


「あれは……?」

「わたし、お父さんから聞いたの。トキオ国の住民は、アダムたちによって殺された後、そのままにされていたらしいの。でも、救援に駆け付けた他の国から派遣された騎士や兵士によって、その亡骸は王宮の裏にある広大な敷地に埋葬されたの」

「ライラ、責めるわけじゃないんだけど……どうしてそんな重大なことを、今まで黙っていたの?」


 オレの問いかけに、ライラは首を振った。


「黙っていたんじゃないの! ただ、忘れちゃっていただけ……」

「そうか……」


 オレはそっと、ライラの頭に手を置いた。


「ライラ……思い出してくれて、ありがとう」

「ビートくん……」

「これで、向かうべき場所がはっきりと分かった」


 ライラの頭に乗せていた手を、そっと離すと、オレはライラの手を再び握った。


「あそこに行こう。きっと、オレの父さんと母さんは、あそこにいるはずだ!」

「……うん!」


 オレとライラは、玉座の間を後にした。




 王宮の廊下を駆け抜け、裏側に広がる広大な地を目指してオレたちは進んでいく。何本もの木の棒のようなものが立てられた場所。きっとあれは、墓標に違いない。ここではかつて、大勢の人が命を落とした。そしてその亡骸は、王宮の広大な敷地に埋葬された。

 それならばきっと、ミーケッド国王とコーゴー女王も、そこで眠っているはずだ。


 王宮の外に出て、オレとライラは下へと降りる階段を駆け下りていく。

 地面が少しずつ近づいていき、やがて地面へと降り立つ。


「ビートくん、こっちみたい!」

「わかった!」


 オレはライラの指し示した方角へと、走り出す。

 そして狭い建物の間に作られた路地のような通路を抜けると、視界が広がった。


「あっ……!」


 オレは立ち止まり、言葉を失った。


 広大な敷地の中には、たくさんの木でできた墓標が立てられていた。

 どれほどの墓標が立てられているのかは分からない。名前が書かれているものもあれば、かすれて見えにくくなっているもの、書かれていないものもある。


 どこまでも広がっている、墓標だけが遺された、殺風景な墓地。

 そこはとても静かで、風が吹き抜けていく音以外には、虫の声さえ聞こえてこない。


「ビートくん……!」

「……ライラ、ここの中にきっと、オレの父さんと母さんがいるはずだ。オレ、探してくるよ」

「待って! わたしも行く!」


 オレが歩き出すと、ライラはすぐについてきてくれた。

 ライラと共に、オレはミーケッド国王とコーゴー女王の墓標を探していった。




「ライラ!」

「ビートくん、どうしたの!?」


 オレの叫びに、ライラが駆け寄ってくる。


「うう……!」


 オレはそっと、目の前にあるものを指し示した。


「……!!」


 その先を見たライラが、口元を抑える。


 オレの前には、2本の墓標が立っていた。他の墓標と違い、その2本だけが石柱になっていた。

 石柱の墓標には、それぞれ王冠とティアラが供えられるように置かれている。王冠とティアラは、長い年月を経てボロボロになっていた。


 そして墓標をよく見ると『ミーケッド国王』と『コーゴー女王』と、墓標の下で眠る者の名前が刻まれていた。


「オレの……父さんと……母さんだ……!」


 ついに、オレはミーケッド国王とコーゴー女王の墓標を見つけた。

 これではっきりと、オレは認識した。


 ミーケッド国王とコーゴー女王は、確かに亡くなっていた。

 アダムの言葉に、嘘は無かった。


 オレは全身から力が抜けていくような感覚に陥り、2本の墓標の前でひざをついた。

 そのまま前のめりになり、両手をつく。


「父さん……母さん……!!」


 オレの目から、雫が一粒ずつ落ちていく。

 雫の数は増えていき、どんどん落ちては地面を濡らしていった。


「ビートくん……」


 ライラがそっと、オレの肩を抱いてくれたことに、オレは気が付かなかった。

 オレはどうしても、溢れ出てくる思いを止めることができず、ただただ泣くことしかできなかった。



「……ビート」



「えっ……?」


 突然、オレの頭の中で声が聞こえたような気がした。


「だっ……誰?」

「ビート、私だ。ミーケッドだ」

「ビート、コーゴーよ」


 ミーケッドに、コーゴー。

 オレははっとして、声の主に問いかける。


「もしかして……父さんと、母さん!?」


 そのとき、オレの目の前にミーケッド国王とコーゴー女王が現れた。

 写真で見たのと全く同じ姿で、オレの目の前に立っていた。


「ビート、トキオ国まで来てくれて、ありがとう。立派な男になったな」

「ビート、その姿と優しい心……本当に私たちの子供ね」

「父さん……母さん……!!」


 オレは涙を流しながらも、笑顔になる。

 やっと、両親と再会できた。


「ビートよ、シャインとシルヴィの娘、ライラと結婚したそうじゃないか」

「ライラちゃんと結婚したと知って、私たちも嬉しいわ」


 ミーケッド国王とコーゴー女王の発言に、オレは驚く。

 どうして、ライラと結婚したことを知っているんだろう?


「どうして、オレとライラが結婚したことを……!?」

「もちろん、知っているさ。何せ、ビートのことはいつでも、私たちは空の上から見守っているからだ」


 ミーケッド国王の発言に、隣にいるコーゴー女王も頷いた。


「ビート、あなたはもう、私たちに直接会うことはできないの。私たちは、あなたとトキオ国を守ろうとして、アダムに命を奪われてしまったわ。でも、私たちは命を失った後、天の国に行ったの。そこから毎日、あなたとライラちゃんを見守っているのよ」

「母さん……!」

「ビートよ、アダムを倒してくれて、本当にありがとう。これで私たちの無念も晴れた。それに悲しむことは無い。私たちは天の国と、ビートの心の中で、いつまでも生き続けるのだからな!」

「父さん……!」


 オレは、流れ落ちそうになっていた雫を拭った。


「ビートよ、心して聞きなさい」

「はっ、はいっ!」


 ミーケッド国王の言葉に、オレは背筋を伸ばした。


「ビートとライラは、トキオ国で生まれた。それは紛れもない事実だ。しかし、ここはもうお前たちの帰ってくる場所ではない。トキオ国は、滅ぼされてしまって、もうないのだからな。それに、私たちもここにはいないんだ」

「じゃあ……オレたちは、これからどこに帰ればいいの?」

「心配することはないわ。これからは、あなたたちが、自分の力で自分の帰るべき場所を作っていくのよ」

「母さんの云う通りだ。ビートよ、お前はもう1人前の男だ。帰るべき場所を、自分で作っていくことができる。ライラちゃんとそこで、いつまでも仲良く暮らすんだ」

「グレーザーでも、銀狼族の村でもいいわ。そしてそこを、トキオ国より素晴らしい場所にしていくのよ。ライラちゃんと、いつまでも仲良く暮らしてね」

「……うん、分かったよ!」


 ミーケッド国王とコーゴー女王に、オレはそう返す。

 すると、ミーケッド国王とコーゴー女王が少しずつ光の粒となって消えていく。


「時間のようだ。ビート、いつでも見守っているからな」

「ビート、ライラちゃんのこと、守り抜いてね」


 ミーケッド国王とコーゴー女王は、完全に光りの粒となって、消えていった。


「父さん! 母さん!」


 もうオレに、ミーケッド国王とコーゴー女王の声は聞こえなかった。




「ビートくん!」

「んあっ!?」


 オレは顔を上げた。

 そこには、先ほどと同じように、ミーケッド国王とコーゴー女王の墓標をがある。

 地面が、少しだけ湿っていた。


 オレはゆっくりと立ち上がり、隣にいたライラを見る。


「ビートくん……?」

「……父さんと母さんに会ったよ」


 オレがそう告げると、ライラはただ頷いた。


「ミーケッド国王とコーゴー女王に……?」

「うん。オレを……励ましてくれた」


 カバンの中に手を入れ、オレは写真を取り出す。

 写真の中にいるミーケッド国王とコーゴー女王を見ると、心なしかほほ笑んでいるように見えた。


 父さん、母さん、わかったよ。

 オレ、これからはライラと一緒に帰るべき場所を探しに行くよ。


 もしかしたら、それは終わらない旅の始まりかもしれない。

 でも、それならそここそが、きっとオレたちの帰るべき場所だと思う。


 父さん、母さん。

 本当にありがとう。


 オレはミーケッド国王とコーゴー女王に向けて、お礼の言葉を心の中で捧げた。

 写真をカバンにしまうと、ライラに向き直る。


「ライラ、行こうか」

「えっ、もういいの?」


 ライラの問いかけに、オレは頷く。


「父さんと母さんが云っていたんだ。もうここに、父さんと母さんはいない。だけど、いつでもオレたちのことを見守ってくれている。そして、これからはオレたちで、帰るべき場所を探しに行こう」

「ビートくん……」


 ライラがそっと、オレに身体を寄せてくる。

 オレはそれを、優しく抱きしめた。


「ライラ……」

「なあに?」


 オレを見上げるライラに、オレは告げた。


「……これから、銀狼族の村に帰ろう」

「……うん!」


 オレの言葉に、ライラはすぐに頷いた。




 ミーケッド国王とコーゴー女王の墓標に一礼してから、オレたちはトキオ国の跡地を去った。

 その先には、北大陸への長い道のりが待っていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回、いよいよ最終話です!

最終話の更新は12月24日21時更新予定です!

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