第200話 ラストダンス。そして……
オレは落ちていた剣を拾い上げて、アダムに立ち向かった。
「うおおおおっ!!」
絶叫しながら、狂戦士のように突撃する。
剣を無茶苦茶に振り回すが、全てかわされた。
「ふんっ! おらっ! やっ!」
「はっはっは! 相変わらずダンスの上手い奴だ!」
アダムがバカにしたようにオレを嗤う。
勝手に嗤ってろ。
「本当に、お前はよく似ているな!」
「うるせえっ!」
オレは再び剣を振りかざす。
ガキンッ!
アダムにヒョイとかわされた剣が、地面を打つ。
オレの腕に衝撃が走ったが、オレは再び剣を振り上げる。
「使い慣れない武器であったとしても、あるなら利用する。その姿こそ、ミーケッド国王の生き写しだ!」
オレの動きを勝手にそう評価しながら、アダムはオレの攻撃を避け続ける。
暖簾に腕押ししているような気分に、オレはなってきた。
「……だがな!」
オレが再び剣を振りかざした瞬間、アダムは片手で剣を受け止めた。
「!!」
「使い慣れない武器を使うことで、ミーケッド国王はわずかだが隙を作った」
オレは剣をアダムの手から振りほどこうと、手に力を入れて動かそうとする。
しかし、剣はビクともしなかった。
「そしてそれが、命取りになったんだよ!!」
「うわあっ!?」
アダムは叫ぶと、オレの腕から剣を奪い取った。
そして膝を使って、剣を真っ二つにして投げ捨てる。二つに折れた剣が地面に落ちて、金属音を響かせた。
「ミーケッド国王は、よほどこの私から国とお前を守りたかったんだろう! 最後の最後まで私に抵抗しようとしたよ! 呆れるほどにな!」
「よくも……!」
「ミーケッド国王だけじゃない! コーゴー女王もだ! お前を銀狼族の男女に託したまでは良かったが、それでもお前を守ろうとしてこの私に立ち向かってきた。母の愛というものかね。必死に名なって私を止めようとしてきた。しかし、コーゴー女王も私には勝てなかった。この私が神であるからだ! 全く持って、バカな国王と女王だったよ!」
「よくも、オレの父さんと母さんを侮辱したな!」
オレの中に燃え上がっていた怒りの炎が、油をぶちまけられたかのように激しく燃え上がった。
今までにないほどの怒りを感じ、身体中をアドレナリンが駆け巡っていく。
「絶対に……お前だけは絶対に許さない!!」
「さぁ、次はお前の番だ!!」
アダムが目をカッと見開き、オレを指さした。
「お前に帰る国はもうない。銀狼族だって、もうすぐ我々の手に落ちる。安心しろ、殺したりはしない。ただ、私の崇高な理想のために働いてもらうし、女には子供も産んでもらう! それに、お前は銀狼族の女と結婚しているようだな!」
オレが結婚していることまで、こいつは知っているのか!?
「な、なんでそんなことまで知っているんだ!?」
「お前の妻は実に素晴らしい。あの尽くす気持ちこそ、私が求めているものだ! 絶対に子供を大量に生んでもらうぞ! あの銀狼族の女のような者ばかりになれば、私の願いは叶ったも同時だ!」
「お前に……ライラを渡したりするか!!」
ライラに、アダムの子供を産ませる!?
そんなこと、このオレが絶対に許さん!
相手が神であろうが誰であろうが、そんなことをする権利は誰にもない!
そんなことをしようとする奴は、オレが必ず地獄へ送る!
ライラは物なんかじゃない!
ライラはオレの最愛の女性だ!!
「たとえオレの命に代えてでも、ライラのことは絶対に守る!!」
ライラのことを守り抜けるなら、オレは命を失ったとしても構わない!
オレはアダムと対峙し、背中に手をまわした。
そして、ゆっくりとソードオフを取り出していく。
最初に入手した銃で、最初に使ったのが、ライラを守るためだった銃。
それが、オレのこのソードオフだ。
決して上等な銃ではない。
ショットシェルは2発しか入らないし、遠距離戦になると使い物にならない。
オレに残された、最後の切り札だ。
これで、決着をつけてやる!
「なんだ、まだ銃を持っていたのか」
ソードオフを目の当たりにしたアダムは、目を見開いた。
「ちっとも気がつかなかったぞ。しかし……!」
アダムはソードオフに怯えることもなく、すぐに距離を取った。
「そんなもので、私を倒せると思うなあっ!!」
「待てっ!」
オレはすぐに、アダムを追いかける。
やっぱり、ソードオフの弱点をすでに見抜いていた!
どんどん距離を取られ、オレが追いつくころにはすでにソードオフの有効射程圏外へと逃げてしまう。
こんな奴に、ライラを奪われてなるものか!
ライラを抱きしめることができるのは、オレだけだ!
オレは再び、アダムへと全力で駆け寄っていく。
「またか……」
アダムは向かっていくオレに、呆れたように云う。
そしてオレが、ソードオフの有効射程圏内へと足を踏み入れた時だった。
「そんな方法で、私に追いつけると思うなっ!」
アダムが再び、地面を蹴って距離を取ってしまう。
「くっそう!!」
オレは悔しくて、地団駄を踏んだ。
どうやっても、追いつけない。
あの高速歩行術を止める方法は無いのだろうか!?
そのとき、地団駄を踏んでいたオレのポケットから、1本の棒状のものが転がり落ちた。
ちくしょう、こんなときになんでオレはドライソーセージなんか持ってきたんだ。
今欲しいのは腹ごしらえをするための食べ物じゃない。
アダムを確実に仕留めることができる方法だ。
オレはイライラしながら、落としたドライソーセージを拾い上げようと屈みこんだ。
しかし、それはドライソーセージではなかった。
「……あ、あれ?」
オレは落としたものを拾い上げ、目を丸くする。
落としたと思ったドライソーセージは、実はドライソーセージではなく、ダイナマイトだった。
「これは……」
オレは、過去の記憶を思い出す。
このダイナマイトは、スパナからもらったものだ。ノワールグラードに出発する前に、ポケットに入れておいたものだ。
すっかり、その存在自体を忘れかけていた。
「……そうだ!」
オレはダイナマイトを見つめ、ある作戦を思いついた。
「ハハハ! 誰も私を止めることはできぬわっ!」
アダムが高笑いをしながら、オレに遠距離から攻撃を仕掛けようとしてくる。
いつの間にか、アダムは黒い銃を手にしていた。
アダムは黒い銃に弾倉を取り付け、遊底を操作して弾丸を薬室へと送り込んでいる。
銃を使う前の、今がチャンスだ。
オレは、ダイナマイトに火をつけた。
導火線に引火して、音を立てながら導火線が燃えていき、火がダイナマイトへと近づいていく。
オレはそれを懐に隠したまま、ソードオフを手に再びアダムへと向かっていく。
「うおおおおっ!!」
「またかっ! しつこいわあっ!!」
アダムは叫ぶと、黒い銃を構えた。
狙いは当然、オレへと向けられる。
このままアダムが引き金を引けば、きっとオレの命は無くなるだろうな。
だが、そんなことはさせない!
「ていっ!」
オレは隠し持っていたダイナマイトを取り出し、アダムに向かって投げる。
「なっ!?」
突如としてオレが投げたダイナマイトに驚いたらしく、アダムはダイナマイトに黒い銃を向けた。
黒い銃でダイナマイトを撃てば、爆発から逃れられると思ったのかもしれない。
だが、ダイナマイトはそれを待ってはくれなかった。
「ぎゃっ!?」
ダイナマイトが、アダムの近くで爆発する。
爆風で、アダムがどうなったのかは見えなかった。
「今だっ!」
オレは駆け出した。
そして爆風に飛び込み、ジャンプする。
オレは空中で、アダムにソードオフの銃口を向け、引き金を引いた。
「ぎゃああっ!!」
耳をつんざくような銃声が轟き、アダムが絶叫する。
弾丸が命中したようだ。ゼロ距離に近いこの距離だと、外すことなど考えられない。
「あっ……がああっ!」
アダムの身体から血が噴き出し、痛みに苦しんでいた。
確実に、ダメージを与えている。
グレイシア、ありがとう。
銀の弾丸は伝説にある通り、神を殺すための武器だったよ。
オレは銀の弾丸をくれたグレイシアに、心の中でお礼を告げた。
手元にある銀の弾丸は、残り2発。
うち1発は、猛獣狩りで使うための弾丸として作られたものだ。
それを猛獣以外に使ったら、どんな凄惨な結果を招くことか。
オレはそれを今から、このアダムという邪神で試そうとしている。
「こっ、このぉっ――」
アダムが血を吐きながら襲い掛かろうとした瞬間、オレは2発目の銀の弾丸を撃った。
見ごとに命中。
「あがあっ!」
銀の弾丸が再びアダムの身体をえぐり、血を流出させていく。
「やっ……」
すると、アダムが逃げ出した。
「やめてくれぇっ!!」
先ほどまでの威厳はどこへやら。
血まみれで逃げ惑うアダム。
それはまるで、オレにはダンスを踊っているように見えた。
しかし、今オレが見たいのはダンスじゃない。
「これで、止めだ!!」
オレはソードオフに、最後の切り札として残しておいた猛獣狩り用の銀の弾丸を取り出し、装填する。
これを使えば、もうアダムは助からないだろう。
だが、オレはアダムに止めをさせることに目が奪われ、アダムが反撃の機会を伺っていたことに気づけなかった。
「うおおっ!」
「わっ!?」
アダムが、オレの腕を拳で殴ってきた。
その予想以上の力に、オレは顔をしかめる。
「ぐっ!」
オレは吹っ飛び、地面に倒れこむ。そしてオレの手からソードオフが離れ、飛んで行ってしまう。
なんていうことだ。これから止めをさそうとしていたときに、最後の最後で武器を失うなんて!
オレは手で口を押えた。
「貴様……よくもやってくれたなぁっ!!」
アダムが怒りに狂った声で叫ぶ。
あれだけの血を流しているというのに、いったいどこにそんな力が隠されているのか?
オレは不思議でならなかった。
「銀が私の弱点だと、どこで知った!? 云え! 誰が話した!? 答えろ!!」
どうやら、オレが誰かから自分の弱点を知ったと思い込んでいるようだ。
しかし、オレは誰からも銀が弱点だと知らされたわけではない。
「たまたまだ……!」
伝説で聞いたことが、まさか本当になるとは思わなかった。グレイシアから渡されたときも、本当に効果があるとは思わなかった。
だから、たまたまだ。
だが、アダムはその答えに満足することなく、オレを踏みつけてきた。
「ぐああっ!!」
「たまたまで、そんなことが、あるわけないだろうがっ!!」
何度も、アダムはオレを踏みつけてくる。
痛い。
このままでは、せっかく掴んだチャンスが台無しだ。
オレはイチかバチか、賭けに出ることにした。
「ふんっ!」
「うおっ!?」
オレはアダムの足を掴み、引っ張る。
予想通り、足を掴まれてバランスを失ったアダムは、そのまま地面に倒された。
オレは起き上がると、アダムに馬乗りになった。
「地獄へ……道連れにしてやるっ!」
そう告げると、オレは戦闘服を脱ぎ捨てた。戦闘服の下から現れたのは、大量のダイナマイトだった。
万が一に備え、オレは持っていたダイナマイトを全て身体にくくりつけておいた。
今のオレは、文字通りの人間爆弾だ。
オレは身体からダイナマイトを取り外すと、アダムの身体にとりつけていく。
そして導火線に火をつけた。
「こんなことをして……何になると云うんだ!?」
アダムは叫ぶ。
「こんなもので……私は死なないぞ!?」
「分かっているさ。だが、これならどうだ?」
「!!」
オレが手の中に出現させたものを見たアダムは、目を見張った。
銀の弾丸だった。
「な、なんでそれを!?」
「ごあいにく様。さっき腕を叩かれてソードオフを手放す直前に……ソードオフから抜き取っておいたのさ」
オレは攻撃を食らう直前に、ソードオフの銃身から未発射の銀の弾丸を抜き取っていた。
そして、それを口の中に入れておいた。
「最後だ……アダム!」
オレは傍らに落ちていたAK47を拾い上げると、銀の弾丸をアダムの左胸に押し付けた。
そして銀の弾丸が動かないように、AK47を上から押しあてて固定する。ちょうど、AK47の銃口が、銀の弾丸の雷管部分に当たるような形で銀の弾丸は固定された。
「や、やめ――!」
オレはアダムの言葉を遮り、叫んだ。
「G A M E O V E R !!」
叫んだと同時に、AK47の引き金を引いた。
発射されたAK47の弾丸が雷管を叩き、銀の弾丸を発射させる。
アダムの左胸に、巨大な穴が開いた。
「ぐああ――!!!」
その瞬間、ダイナマイトが爆発した。
「ビートくん!!」
遠くから、シャインの叫び声が聞こえたような気がする。
それがシャインの声だったのかどうかは、オレには分からなかった。
しかし、ただ1つ分かったことがある。
オレはアダムを倒した。
つまり、勝ったんだ!
銀の弾丸で、オレはアダムに勝利した!
これでもう、銀狼族がアダムから狙われることは無い。
オレの役目は、終わったんだ。
そしてオレは、意識を失った。
第14章~ラストダンス編~完
第15章へつづく
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!
次回更新は12月13日21時更新予定です!
活動報告を更新しました!
コメントへの変身は活動報告にて行っております!
これにて、第14章も終わりました!
残すところ、あと第15章とエピローグになります。
どうか最後までのお付き合いを、よろしくお願いいたします!
さて、ビートはどうなってしまうのでしょうか!?





