第195話 ノワールグラード攻防戦~1~
「散らばれっ!」
オレが仲間たちに指示を出し、廃墟へと駆けこむ。
それと同時に、アダムの部下たちが一斉射撃を始めた。
「うわああっ!」
オレは間一髪、弾丸に当たることなく廃墟へと逃げ込むことができた。しかし、アダムの部下たちが持つ黒い銃は、もろくなった廃墟のレンガを破壊して飛び込んでくる。あまり長いこと、ここに隠れていることもできなさそうだ。
「ビート、どうするんだ!?」
スパナの問いかけに、オレは答える。
「作戦に変更はない。AK47を主力武器に、アダムの部下たちを1人残らず撃ち殺す! あいつらは人族でも獣人族でもない。見た目が似ているだけの、ただの化け物だ! 全員、撃ち殺すぞ!」
「よし、やっちまおう!」
スパナがそれに答えて、AK47を撃ち始める。それを合図とするかのように、他の仲間たちも次々にAK47を撃ち始めた。
ハッターによって、銀狼族の連絡員や男たちにも、AK47が配られていく。
「シャインさん!」
オレはAK47を手に、シャインへと駆け寄った。
「あなたも、これを……!」
「いや、悪いが私はいい」
シャインは首を振ってそう告げると、旧式のライフル銃に弾丸を込めていく。
「私は使い慣れた、これを使う。それは、他の必要としている男たちに回してくれ」
「……はい!」
オレは頷くと、他の銀狼族にAK47を手渡した。
「いくぞ……戦争だ!」
アダムの部下とビートの仲間たち&銀狼族は、ノワールグラードのあちこちに散らばった。
ノワールグラードのそこかしこで撃ち合いが始まり、銃声が辺りを駆け巡る。
銀狼族の男たちは、ハッターから手渡されたAK47に驚いていた。
「これはすごい!」
アダムの部下数人を撃ち殺した銀狼族の男が、AK47の威力に驚く。
「引き金を引くだけで、弾丸が次々に発射される銃なんて、初めてだ!」
「こんなすごい銃が、世の中に存在していたなんて!」
あっという間に、もう1人の男も数人のアダムの部下を撃ち殺す。
「これはすごい!」
「勝てる……! 俺たちはこれなら勝てるぞ!」
銀狼族の男たちは、AK47を手にしたまま喜ぶ。
それで気が緩んだためか、男たちは近くに他のアダムの部下が近づいていることに、すぐには気が付かなかった。
「うおおおっ!!」
「!?」
黒い銃を構えながら、突撃してくるアダムの部下。
銀狼族の男たちは慌ててAK47を構えようとするが、もう間に合わなかった。
ドガガガガッ!!
撃たれた。
これでもう、終わりだ。
銃声が鳴り響き、銀狼族の男たちが諦めたその時。
突撃してきたアダムの部下が、ゆっくりと倒れた。
「……え?」
銀狼族の男が恐る恐る顔を上げ、自分の身体を見つめる。
どこにも、風穴は空いていない。そして突撃してきた男は、どういうわけか倒れている。
その時、狐族の少年リュートが男たちの前に姿を現す。
「大丈夫ですか!?」
「あ……ああ、大丈夫だ」
「ありがとう!」
男たちが答えると、リュートは安心した様子で、手にしたSTG44の弾倉を交換する。
「ここは戦場です。ボケっとしていたら、撃たれますよ!」
「す、すまねぇ!」
「まだまだ敵は大勢います。撃たれる前に、こっちから撃ってやりましょう!」
「お、おう!」
男たちはリュートと共に、AK47を手に再びアダムの部下たちを撃ち始めた。
ボニーとクライドは、背中合わせの状態でアダムの部下たちに囲まれていた。
「……ボニー、準備はいいか?」
「いつでもいけるわよ、クライド」
「OK……それじゃ、いっちょやっちまおうぜ!」
AK47を構えると、ボニーとクライドは何の警告もせずに撃ち始めた。
突如としてAK47から弾丸を撃ち出され、次々に弾丸の餌食となっていくアダムの部下たち。取り囲んで一斉射撃で葬ろうとしていたが、それを逆に利用される形になってしまった。
ものの十秒と掛からず、ボニーとクライドを取り囲んでいたアダムの部下たちはAK47によって薙ぎ倒されて絶命した。
「やったな、ボニー!」
「ええ、クライド!」
クライドが立ち上る硝煙を吹いて消し、ボニーが弾倉を交換する。
「ビートさんの勧めで、冒険者になっておいて良かったわね!」
「ああ、オレたちのチームワークは最強だな!」
「もちろん!」
絶命したアダムの部下たちを踏みつけ、ボニーとクライドはノワールグラードを駆け抜けていく。
「うぉらっ!!」
「ぎゃああっ!」
ジャックが、自前のカトラスでアダムの部下を切りつける。切られたアダムの部下は、手にしていた黒い銃を落としてしまう。
腕の筋を切られて、銃を持てなくなったからではない。
「腕が……腕が……!」
アダムの部下が、自身の右腕を見て叫ぶ。
黒い銃を握っていた右手が、途中から無くなっていた。
そう、ジャックは相手の右腕を切り落としたのだ。
「てめぇらみてぇな奴は、もう右手もいらねぇだろう」
ジャックはカトラスをしまうと、背負っていたAK47を手にした。
「ここが、墓場になるんだからよぉ」
「た、助け――」
アダムの部下がそこまで云いかけて、AK47が火を吹いた。
腕と胴体から大量の血を流しながら、アダムの部下は絶命した。
「ジャックさん!」
ムクが、AK47を手にやってくる。
「どうした!?」
「しぶとい奴らが、やってきました!」
ムクがそう云うと、数発の銃弾が飛んでくる。
ジャックはムクと今倒したアダムの部下の死体を交互に見た。
「俺に、いい考えがある」
「えっ……? どんな!?」
「海賊の戦い方ってものを、見せてやるよ!」
ジャックはムクと共に、近くの廃屋へと隠れた。
少しして、アダムの部下たちがやってくる。
「敵はこっちに来たぞ!」
「この先は袋小路だ! 見つけ次第鉛弾を……うわあっ!!」
アダムの部下たちが、叫び声をあげる。
腕を切り落とされ、血を流しながら絶命している仲間の死体を見つけたためだ。
「こ……これは……!!」
「ひどい……!」
狼狽しているアダムの部下たちに向かい、ジャックとムクは物陰からAK47を乱射する。
「ぎゃあああ!!」
アダムの部下たちは、手にしていた黒い銃を落としていき、その場で倒れていく。
あっというまに全員が命を奪われ、血の池が出来上がった。
「汚いブラッディ・マリーだ」
ムクが鼻を抑えながら、そう呟いた。
「ブラッディ・マリーか。いいな、久々に酒が飲みたくなってきた」
「あんた、飲める口なのか?」
ムクの問いかけに、ジャックは頷く。
「ラム酒が好きなんだ」
「帰ったら、一杯いかがかな? お望みのカクテルを作りますよ」
「いいねぇ。俺は結構、飲めるほうだからな。楽しみにしてるよ」
酒の話で、少しだけいい感じになったジャックとムク。
血だまりを避けて、廃墟から廃墟へと移動して銃声が聞こえるほうへと向かっていった。
確実に、アダムの部下たちのチームワークが乱れ始めていた。
少しずつ失われていく仲間に、予想以上の抵抗をするビートとその仲間たちと銀狼族。
だが、誰も撤退しようという考えを起こす者はいなかった。
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