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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第14章
195/214

第193話 銀狼族への加勢

 ハッターが武器商人としてオレたちに味方してくれることになった。

 もうこれで、武器の心配をする必要はなくなった。


 あとは、仲間が必要だ。

 オレと一緒に銀狼族を守るために戦ってくれる、多くの仲間が必要だ。


 しかし、それもあと少しで解決する。


 武器と、共に戦う仲間。

 それが揃ったら、銀狼族を守るためにアダムと戦うことができる――。




 オレはナッツ氏、ハッターと共にサンタグラード駅のホームにいた。


「うう、寒いなぁ……」


 駅の中に雪は無かったが、吹き込んでくる風は冷たかった。ホームの先を見たが、列車はまだやってくる様子はない。駅の外は雪が降っていて、はるか先は白いカーテンが閉まっているかのように真っ白で、何も見えない。

 典型的な北大陸の天気に今日も空は支配されている。銀狼族の村とは、大違いだ。本当に同じ大陸にあるのかと疑ってしまいそうになる。


「そろそろ、臨時列車が到着するころだ」


 ナッツ氏が、懐から懐中時計を取り出す。


「その臨時列車とやらに、ビートの仲間が乗っているというのか?」

「予定では、そうなっています」


 ハッターの問いかけに、オレはそう答える。


「連絡が上手くいっていれば、各地のクラウド茶会の支店からの紹介で臨時の急行列車に乗っているはずなんです。連絡が、上手くいっていればなんですが……」

「大丈夫だ、ビート氏!」


 オレの不安げな声に、ナッツ氏が威勢よく答える。


「我がクラウド茶会のスタッフは、みな優秀だ! 報告や連絡は時間通りに間違いなく送られてくる。大丈夫だ!」

「いえ、クラウド茶会の人を信用していないわけじゃないんです。ただ、緊急電報を送った人がちゃんとそのことを理解しているのかどうかが、不安なんです……」


 オレはそのことを心配していた。連絡は、相手に自分の考えていることが伝わって初めて意味がある。内容を間違って把握してしまったり、別の解釈をされてしまうと、それですべてが台無しになってしまうのだ。そうなると、場合によっては目も当てられない結果を招くこともある。

 そして今回となると、連絡が上手くいかなかったら一緒に戦ってくれる仲間がナッツ氏とハッターだけになってしまう。いないよりかはマシだが、人手が減るのはかなりの痛手だ。

 そうならないためには、今日到着予定の臨時列車に緊急電報を送った相手が乗っていることが重要になってくる。もし乗っていなかった場合は、作戦開始日を延期しないといけないか、最悪の場合は3人で作戦を決行しなくてはならない。だが、そんなことはできれば避けたいのが本音だ。


 そのとき、雪の中からピィーッという汽笛が聞こえてきた。


「!」


 汽笛を耳にしたオレは、すぐに雪のカーテンの向こうを見ようとする。

 しかし、まだ何も見えてこない。


「……ドンピシャリ、だな」

「そうですね」


 ハッターとナッツ氏が、そう言葉を交わす。

 少し待っていると、白いカーテンの向こうに蒸気機関車の前照灯が見えてきた。前照灯は雪をかき分けながら、ホームに向かってくる。そしてすぐに、幹線で急行貨物列車を牽引する蒸気機関車が姿を現した。蒸気機関車蒸気機関車は2両の貨物車と客車を連結していて、ホームに入ってくるとスピードを落としていき、オレの目の前で止まった。

 あちこちに雪が付いた客車のドアが開くと、乗っていた人が次々に下りてきた。


「ビート!」


 オレの名前を呼ぶ、懐かしい声がホームに響き渡った。




「みんな!!」


 オレは客車から降りてきた面子に、声をかける。

 ダイスとジムシィ、ボニーとクライド、ムク、エルビス、スパナ、ヨハン、ジャック、レイラ、リュート、オール、カラビナ、ガルさん、ケイロン博士。

 これまでの旅で出会った懐かしい人々が、サンタグラード駅のホームに降り立った。


「ビート! この緊急電報を受け取ったぞ!」


 鉄道貨物組合で一緒に働いていた先輩、エルビスがオレに緊急電報を見せてくれた。

 それは間違いなく、オレがサンタグラード駅から送ったものだった。


「オレたちも受け取ったぜ!」

「書いてある内容も、ちゃんと読んだ!」


 ダイスとジムシィも、緊急電報を持っている。


「みんな! 命に係わるかもしれないというのに、遠いところから集まってきてくれて、本当にありがとう!!」


 オレは全員に頭を下げた。こんなにもたくさんの人が駆けつけてくれるなんて、正直思いもしなかった。なんてオレは人に恵まれているんだろう。正直、涙が出てきそうになる。オレはそれをなんとか堪えて、顔を上げた。


「水臭いことを云うなよ!」

「ビートの頼みだからな」

「こういうことは、無視できないんだ」


 ジムシィとダイス、そして劇団『ニューオークランド・パイレーツ』の船長ジャックが笑顔で答える。


「ビートさんには、色々とお世話になったんですから!」

「ビートくんからのオーダーなら断れません」

「後輩のために一肌脱ぐのも、悪くないよな」


 少女狙撃手のカラビナ、バーテンダーのムクさん、鉄道貨物組合の先輩エルビスがそう答えた。


「ビートさんは、俺たちにとって恩人です!」

「ビートさんから受けた恩は、必ず返します!」

「アルト・フォルテッシモ楽団の今があるのは、ビートくんのおかげだ。今度は、私が恩を返す番だ」

「お2人のために、私もお手伝いさせてください!」


 ボニーとクライド、アルト・フォルテッシモ楽団の団長のヨハン、オレとライラが助けたレイラが云った。


「ダチの頼みなら、駆けつけるのが男ってもんよ!」

「ビート氏の頼みは断れない。これは騎士としてでなく、友人としてだ!」


 ギアボックスの鉱山労働者でメカニック見習いのスパナ、騎士旅団の団長も務めたドーンブリカ領主の息子で騎士のオール・ベルファスト・フランシス・スミス。この2人とは、付き合いが長い。


「若い者を助けるのは、年長者の務めじゃ!」

「戦いは好きではないが、銀狼族を守るためなら戦うのもやぶさかではない」


 ガルとケイロン博士。この中では年寄りに近いが、協力してくれるのはありがたい。


「ビート氏、これで全部か?」

「はい」


 ナッツ氏の問いかけに、オレは頷いた。

 オレが緊急電報を送った人数と、ちょうど同じだけの人数が集まっている。オレが緊急電報で助けを呼び掛けた人全員だ。

 これだけの人数が本当に集まってくれるなんて、思ってもみなかった。半分まで来てくれたらいいと思っていたのに、まさかの全員が駆けつけてくれるとは。


「これから……ん?」


 オレは貨物車から、物音がするのに気づいた。

 その瞬間、貨物車の扉が開いて何人かの男たちが飛び出してきた。


「うわあっ!?」


 オレは驚く。

 男たちは、なんと山賊だった。


「山賊だ!」

「ビート殿! お久しぶりです!」


 慌ててソードオフを取り出そうとしたが、山賊の中の1人がオレの名を呼び、オレは手を止めた。

 その山賊は、どこかで見覚えがあった。


「アルトムです! その節は大変お世話になりました!」

「……ああ!」


 オレは、思い出した。

 西大陸のミーヤミーヤに到着する前に、列車を止めてきた山賊たちがいた。仲間が病気で、その仲間を助けるためにミーヤミーヤまで一緒に行ったことがある。お礼としてポムパンをくれた山賊たち。そんな彼らが、どういうわけか目の前にいた。


「ど、どうしてあなたたちが!?」

「仕事をしているときに、あなたが助けを求めていると風のうわさで知ったんですよ!」


 アルトムがそう答えた。


「俺たちにも、是非手伝わせてください!」

「「「「「お願いします!」」」」」


 貨物車から出てきた山賊たちが、一斉に頭を下げてくる。

 貨物車に忍び込んだのはともかく、この熱意は突っぱねにくい。それに、仲間は多ければ多いほうがいい。


「ビート氏、この者たちはどうするんだ?」

「彼らにも、銀狼族を守るために共に戦っていただきましょう」


 オレはナッツ氏の言葉に、そう答えた。

 こうしてオレはイレギュラーな戦力も手に入れた。



 その後、クラウド茶会の応接室で打ち合わせをした。出発は明日となり、借家の地下にあるトロッコを使って、ノワールグラードへ向かうことが決まる。オレはグレイシアにそのことを話し、トロッコを動かす牽引車のキーを預かった。武器はトロッコの駅でハッターから手渡されることになり、オレはハッターと共にトロッコの駅にAK-47を運び込んだ。久しぶりの肉体労働だったが、鉄道貨物組合でクエストを請け負っていたころの経験が生きた。予定よりも大幅な時間短縮が実現できた。

 そしてその日の夜は、集まってくれた仲間にはクラウド茶会の社員寮の空いている部屋を使わせてもらえることになった。

 社員寮とはいえ、そこは天下のクラウド茶会。隙間風が吹くようなこともなく、個室でちゃんと朝までぐっすり眠れるようになっていた。まるでホテルのような部屋に、みんな目をキラキラさせていた。


 何から何までサポートしてくれたナッツ氏とココ婦人に、オレは何度も頭を下げて感謝した。




 出発の日の前夜。

 オレはライラが眠っているベッドの横に座っていた。


 今夜が、もしかしたらライラと一緒に過ごせる最後の夜になるかもしれない。

 できる限り、ライラと一緒に過ごしたい。

 そんな思いから、オレはライラの横から動かなかった。


「ビートくん」


 グレイシアが、紅茶を持って近づいてきた。


「グレイシア……」

「はい、ジンジャーティー。温まるわよ」

「ありがとう」


 オレはグレイシアから紅茶の入ったカップを受け取り、一口飲む。

 温かい紅茶が、身体に染み入るようだった。やっぱり、クラウド茶会の紅茶は世界一だ。


「ビートくん、ライラちゃんずっと眠っているの」


 グレイシアが、ライラを見下ろして云った。


「ホットココアで、睡眠薬を飲ませたのはいいけど、いくらなんでも長すぎるんじゃない? もうこれで、4日目よ?」

「大丈夫。睡眠薬とはいっても、その効き目は弱いほうだ」


 オレは眠っているライラの頬に、そっと手を当てる。

 ライラが起きる様子は一切ない。まるで眠れる森の美女のように、ライラは眠り続けていた。


「薬草の魔女が書いた本に載っていた薬草を使ったんだ。眠っているだけだから、問題は無いよ」


 グレイシアにそう云うと、オレはジンジャーティーを飲み干した。


「それなら、いいけど……」

「グレイシア、心配してくれてありがとう」


 オレはそっと、グレイシアに空になったカップを手渡す。


「オレ、今夜はここで寝るよ。明日は出発だから、少しでもライラと一緒にいたいんだ」

「そう……わかったわ」


 グレイシアは、そっと頷く。


「じゃあ、身体を冷やさないように気を付けてね。おやすみ」

「ありがとう。おやすみ」


 グレイシアが部屋を出ると、オレは部屋の明かりを落とした。




 出発の日の朝。

 準備を終えたオレは、戦闘服を着た。戦闘服のポケットには、すでに予備の弾丸が詰まっている。戦闘服の内側には、スパナからもらったダイナマイトを隠してあるし、背中にはソードオフも隠してある。後はトロッコの駅に隠してある、オレのRPKを手にすれば、完全武装が整う。

 オレはそっと、左胸のトキオ国の国旗に手を当てた。


「ビートくん!」


 グレイシアが、レイラとメイヤを連れてやってきた。


「レイラは、メイヤやグレイシアと共にここでライラを守って!」

「わかりました! 打ち合わせのとおりですね!」

「ライラ様の護衛は、私たちにお任せください! ライラ様には指一本、触れさせません!」


 メイヤが自信たっぷりに宣言する。

 頼もしいが、まさかその手にしているモップで戦うわけではないだろうな?

 オレはそう思いつつも、グレイシアに視線を向ける。


「本当に……行くの?」

「もちろんだ」


 グレイシアの問いかけに、オレは頷く。


「銀狼族を見捨てることはできない。それにあいつらは、ライラも探し出すかもしれないんだ。特にアダムだけは、絶対に生かしておくわけにはいかない。オレがこの手で、絶対に倒す!」

「……わかったわ」


 グレイシアは覚悟を決めたように、リボルバーを取り出した。


「ライラちゃんのことは私たちに任せて。メイヤちゃんやココ婦人、それにレイラちゃんもいる。どんなことがあっても、あなたが帰ってくるまで絶対にライラちゃんを守り抜くわ」

「ありがとう。頼んだ」


 オレはグレイシアに頭を下げると、ライラの顔を覗き込んだ。

 ライラはまだ眠り続けている。予定では、そろそろ睡眠薬の効き目が切れてくるころだ。

 その頃には、オレはノワールグラードにいるだろう。


 オレはふと、昨晩のことを思い出した。

 もしかしたら、ライラと会えるのはこれが最後になるかもしれないな。


「……ライラ、愛してる」


 そっと、ライラの頬にキスをした。


 ライラの頬から唇を離して振り返ると、そこにいた女性陣が顔を真っ赤にして慌てていた。

 しまった。人目があるのに、こんなことをしてしまった。

 オレはそのことに気づき、遅れながらも顔を紅くした。


「こ……これを持って行って!」


 すると、グレイシアが数発のショットシェルをオレに差し出した。

 オレはショットシェルを受け取って、手のひらの上で眺める。


「これは……?」

「スノーシルバーで、できた弾丸よ……。特別な力を……持っていると……いわれているの!」

「ありがとう、グレイシア」

「じゃ、じゃあ、気を付けてね!!」


 グレイシアの言葉に頷き、オレはライラが眠っている部屋を後にした。


 ありがとう、ライラ。

 オレにとってライラは、かけがえのない最愛の女性だ。オレは必ず、ライラのことを守り抜くよ。


 借家に向かい、オレは走り続けた。




 オレは先に出ていたナッツ氏やハッターたちと合流する。

 借家に入ると、すぐにカーテンを閉めて本棚を動かし、地下へと続く階段を下りていく。それに続いて、仲間たちも階段を下りていった。


 トロッコの駅に辿り着くと、ハッターがオレを除く全員にAK47と弾丸を配布していく。


「ようし、全員、よぉく聞け!!」


 暗闇の中、わずかな灯りの中でハッターが叫んだ。


「これより、AK47の使い方を指南する。全員、よく覚えておくように!」

「はい!」


 全員が返事をすると、わずかに地下空間が振動したような気がした。

 ハッターによるAK47の使用方法の指導が終わると、次々に仲間がトロッコに乗り込んでいく。トロッコはあっという間に一杯になり、貨物用のトロッコも溢れかえりそうだった。全員が乗り込んだことを確認したオレは、牽引車の運転席に座り、運転台にキーを差し込んで回した。

 牽引車のヘッドライトが闇を切り裂き、唸り声のような起動音を上げる。

 向かう場所は、1つしかない。

 トロッコの出口の近くにある、ノワールグラードだ!


「ビート氏、出発しよう!」

「はい!」


 ナッツ氏から云われ、オレはブレーキを解除してマスコンを動かした。

 グレイシアから云われた通り、牽引車が動き出す。それに牽かれたトロッコも動き出し、トンネルの中を走り出す。


「これはすごいな。こんなものが、サンタグラードの地下にあったなんて!」


 驚いた声を上げるケイロン博士。


「これが銀狼族の村の近くまで続いているなんて……!」

「外の寒さも感じないし、便利だ」

「エンジン鉱山にも、こういうのあるぜ!」


 ワイワイガヤガヤと、トロッコが少しだけにぎやかになる。

 これから先には、生きて帰れるか分からないことが待ち構えているというのに、まるで遠足に行くような気分だ。


 だけど、こういう空気は嫌いじゃない。


 オレはカーブなどに注意しながら、トロッコを走らせて行った。




 ノワールグラードに到着したオレたちは、愕然とした。


「おい、あれ……!」


 ジャックがつぶやき、全員が息を呑んだ。


 銀狼族の男たちと、アダムが率いている男たちが戦っていた。

 しかも、銀狼族は押されている。傷を負っている者も居て、攻撃を防ぎながら、少しずつ追い込まれていた。


 予想以上に、銀狼族は窮地に追い込まれている!


「……行こう!」


 オレはそっと、RPKの安全装置を解除する。


「銀狼族を、助けるぞ!」

「……おう、その通りだ!」


 スパナがオレの言葉に反応し、AK47の安全装置を解除した。


「ここまで来て尻尾撒いて逃げちゃあ、何のために集まったのかわからねぇ!」

「そうだ! ここまで来て逃げられない!」

「銀狼族を助けなくちゃ!」

「やることは決まっておる! 全員で、行くぞ!」


 次々にAK47を手にし、安全装置を解除していく。

 よし、後はオレが合図を出すだけだな。



「突撃!!」



 オレが駆け出すと、一斉にノワールグラードに向かって走り出した。




 叫び声を上げながら、オレたちはノワールグラードへと雪崩れ込んでいった。

 驚いたアダムの部下が一時的に発砲を中断する。その隙を狙い、オレはRPKを撃った。


「ぎゃっ!」

「うわっ!」


 上手い具合に、アダムの部下に命中する。

 それを見た仲間たちも、次々にAK47でアダムの部下たちを攻撃していく。


「ビートくん!」


 聞き覚えのある声に、オレは振り向く。

 そこには旧式のライフル銃を手にした、シャインが座り込んでいた。

 オレは大急ぎで、シャインに駆け寄った。


「シャインさん!」

「ライラは、ライラは無事なのか!?」


 その問いかけに、オレは頷く。


「現在、ライラは安全な場所にいます」

「そうか……良かった」


 シャインは一瞬だけ安堵した表情を見せたが、すぐに元の表情に戻った。


「それよりも、君はどうしてここに!?」

「……決まっているじゃないですか」


 オレは、シャインと目線を合わせた。


「銀狼族を、助けに来たんです……!」


 その答えに、シャインは目を丸くしていた。




 こうして、ノワールグラードの戦いが、幕を開けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は12月6日21時更新予定です!

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