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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第14章
194/214

第192話 武器商人ハッター

 オレはライラをメイヤとラーニャ、そしてグレイシアに任せた後、ナッツ氏に会っていた。


「ナッツさん!」

「ビート氏、緊急電報を受け取ったぞ!」


 ナッツ氏は、オレがサンタグラード駅で出した緊急電報を手にしていた。

 どうやら、無事に届いてくれたようだ。


「……しかし」


 すると、ナッツ氏が冷静な声で云った。


「ビート氏よ、どうしてそこまでするのか?」

「どういう意味ですか?」

「アダムは、ただの奴隷商人ではない。私設軍隊まで抱えている、奴隷商人の中でもかなり異質な存在だ。ペジテの街で戦った強盗連合のような者たちとはわけが違う。ビート氏、正直に云うとこの戦いはかなりの苦戦を強いられてしまうと考えたほうがいい」


 ナッツ氏の云うことは、もっともだった。

 オレは、今のままではかなりの苦戦を覚悟しないといけないこと。そしてアダムと戦うということは、死を覚悟しないといけないこと。失敗すれば自分たちの命どころか、銀狼族の未来まで大きく変えてしまうこと。正直、あまりにも荷が重すぎる。


「ビート氏、今ならまだライラ婦人と共に逃げるという手もある。幸い、今はアダムたちに大きな動きは見られない。サンタグラード駅に向かい、そこから東大陸へ向かう列車に乗り込めば、逃げ切ったも同然だ。そうしようとは、思わなかったのか?」

「いえ、そうは思いませんでした!」


 確かに、ナッツ氏の云う通りだ。

 ライラと一緒に、逃げたほうがいい。それなら自分もライラも確実に助かる。それにアダムから逃げ切ることだって、できないわけじゃない。

 だけど、それはオレにとってどうしてもできないことだった。


「逃げてしまえば……ライラの同族が、奴隷にされてしまうからです」

「奴隷に……」

「オレは、そんなことは絶対に嫌です。銀狼族の村には、ライラの両親もいるんです」


 その言葉に、ナッツ氏が目を見張った。


「なんと! ライラ婦人のご両親をついに見つけたのか!?」

「はい。ライラとライラの両親は、やっと再会できたんです。このままじゃ、銀狼族だけでなく、ライラの両親までもが奴隷にされてしまいます! そんなことになったら、ライラがどんなに悲しむか……」


 オレは、シャインとシルヴィが奴隷になったと知って悲しむライラを想像した。

 美しい顔が涙でぐしゃぐしゃになっていくのを想像すると、胸が痛くなる。ライラに涙は似合わないし、再会した両親と再びアダムによって離れ離れにされてしまうなど、とても容認できなかった。


 それを防ぐためには、手段は1つしかない!

 アダムを打ち倒し、銀狼族を守ることだ!


「だから、オレは絶対に銀狼族を守らないといけないんです!」


 オレの中には、それしか残されていなかった。

 ライラに悲しい思いをしてほしくない。そのためには、アダムを倒すほかない。ライラのためなら、オレはどんなことだってする。たとえそれが、命を失うことになったとしてもだ。


「そうか……わかった!」


 ナッツ氏は、頷いた。


「ビート氏、その熱い思いを確かに感じたぞ! 私も是非、力を貸そう!」

「ありがとうございます!」


 オレはナッツ氏に頭を下げた。

 ナッツ氏が味方に付いてくれるなら、かなりの力になってくれるはずだ。


「早速だが、私は何をしたらいいのだろうか?」

「ナッツさんには、臨時列車を出してもらいたいんです」

「臨時列車?」


 ナッツ氏が首をかしげる。


「はい。貨客列車をお願いしたいんです。できませんか?」

「いや、不可能ではない。紅茶などの商品は、ほとんどが列車を使って運ばれる。だけど、それが……?」

「実はですね……」


 オレはナッツ氏の耳元で、作戦の概要を話した。オレの話を耳にしたナッツ氏は、みるみるうちに顔色を変えていき、オレが話を終えるころには、すっかり乗り気になっていた。


「そうか! それは名案だ!」

「お願いできますか!?」

「もちろん! すぐ各支店に連絡しよう!」


 ナッツ氏が頷き、オレは一安心する。

 これでなんとか人をそろえることができる。アダムと戦うための準備が、また1つ整った。

 問題が1つ、解決した。


「ありがとうございます!」


 オレはナッツ氏に頭を下げた。




 その翌日、ナッツ氏がサンタグラード支店の電信室から出てきた。


「ビート氏、列車の手配が完了した! それに各支店からの情報によると、ビート氏からの緊急電報を受け取ったという者が、何人も支店に来ているらしい。すぐに支店には『手配した臨時列車に乗せるように』との指示を出した」

「ありがとうございます!」

「明日には列車が出る。その後は、各地の支店で人を乗せてサンタグラードへ超特急で向かうことになっている。超特急だから、数日後には到着できるはずだ!」

「早い! 本当に、そんなに早いなんて!!」


 アークティク・ターン号でも、半年はかかった距離のはず。それをたったの数日で北大陸まで来てしまうなんて!

 オレはいかにアークティク・ターン号が遅かったのか、今になって知った。


「アークティク・ターン号よりも早いんですね!」

「いや、アークティク・ターン号は仕方がない。あれはスピードを重視した列車ではないからな。アークティク・ターン号は、大量の人と荷物を運びながら全ての大陸を進む国際貿易列車だ」

「そ、そうだったんですか……」


 オレがそう云うと、ナッツ氏は笑う。


「だが、確かに遅いな! 半年は少しのんびりしすぎだ。時は金なり! もっと早く走ってもらわにゃ、困るってものだ!!」


 ナッツ氏の笑い声は、アークティク・ターン号で聞いてきたものと変わらない。

 いつでも同じ調子で過ごしている、ナッツ氏がオレは少しうらやましかった。


「……さて、後は武器だ」


 ひとしきり笑ったナッツ氏が、冷静になって告げる。

 そうだ。今のオレたちには、アダムとその私設軍隊に対抗できるだけの武器がない。


 オレが持っている武器は、ソードオフとRPKだけだ。

 それだけでは、アダムと私設軍隊を相手にするには心もとない。

 強力で、かつ多くの人が使える量の武器が必要だ。


「ビート氏、武器はどうする? このまま素手で戦うわけにもいくまい。私だけならまだしも、他の人は私のように素手で戦える者は多くないのだろう?」

「それは……そうですね」


 オレはチラッと、ナッツ氏の腕を見る。ナッツ氏なら、その片腕だけで何人も葬ることができる。その実力は、ペジテの街で強盗連合と戦った時に確認している。


「大量の武器があればいいのだが……」

「実は、それももう考えてあるんです」


 オレがそう云うと、ナッツ氏は目を丸くした。


「ほ、本当か――!?」

「はい」

「ビート氏、そんなにやることが早いとは思いもしなかったぞ!」

「ありがとうございます」


 オレはナッツ氏に頭を下げた。もうこれで何度目だろう?


「それで、武器はどこに?」

「武器商人を呼んだんです。もうそろそろ、来る頃ですが……」


 オレは懐中時計を取り出した。

 約束した時間まで、あと5分だ。そろそろ来ていても、いい頃だろう。5分前に到着できるのは、大昔の海軍から受け継がれてきたという、デキる人としての振る舞いだ。


 そのとき、クラウド茶会サンタグラード支店の入り口が開いた。




 雪が肩に乗った大男が、ゆっくりと入店してくる。


「いらっしゃいませ!」

「おっとすまねぇ。実は客じゃないんだ」


 挨拶してきた店員に、大男はそう答える。

 オレはその大男に見覚えがあった。


「あれは……アークティク・ターン号に乗り組んでいた行商人の、ハッター殿ではないか!?」


 ナッツ氏が、目を丸くしてオレに問いかける。

 どうやらナッツ氏も、ハッターのことは知っていたみたいだ。


「はい。オレが呼んだんです」

「まさか、武器商人というのは……!」


 そのとき、ハッターがオレたちの存在に気づいた。

 ハッターは嬉しそうな表情をして、オレたちに近づいてくる。


「ハッターさん!」

「久しぶりだな、ビートに、ミッシェル・クラウドさん」

「わ、私の名前を憶えて……!?」

「そりゃあ、知ってますよ。クラウド茶会の紅茶は、私も仕入れていますからね」


 ハッターは、背負っていたリュックを、ゆっくりと下した。


「ビートよ、頼まれていたものを持ってきたぞ」

「それでは、立ち話も何ですから、応接室にご案内します」

「そりゃありがたい! お願いします」


 ナッツ氏が云うと、ハッターは再びリュックを持ち上げた。

 オレとナッツ氏は、共にハッターを応接室へと案内した。




「実は私もこの緊急電報を受け取ったんです」


 応接室に案内され、応接用のイスに座ったハッターは、懐から1通の緊急電報を取り出した。


「それで、急きょギアボックスから武器を仕入れてきました」

「なるほど。ハッター氏は何でも取り扱うことを信条にしている行商人とは伺っていたが……まさか武器も取り扱っているとは」

「えぇ。商売になるものなら、何でも取り扱いますよ」


 ハッターはそう云って、リュックの中から1丁の銃を取り出した。

 オレはその銃に、見覚えがあった。


「それは……!?

「これがいいと、思ったんだ」


 ハッターはそっと、机の上にその銃を置いた。

 知っている。オレはこの銃の名前を。

 エンジン鉱山で、黒狼族のスパナと共に見つけた銃。


 そう、確かこれの名は――。


「AK47です」


 ハッターが告げた銃の名前を聞き、オレは頷く。

 そう、こいつの名前はAK47だ。


「AK47というものは?」


 ナッツ氏が目を丸くしてハッターに問う。


「最近、エンジン鉱山の奥地から発見された武器です。通常の銃器とは違い、とんでもない威力と連射能力を持っている恐ろしい銃です。引き金を引きっぱなしにするだけで、次々に弾丸が発射されます。威力も、レンガの壁をものの数秒で瓦礫にしてしまうほど強力です」

「なるほど。まるでビート氏の持っている、RPKのようだな」

「おそらくですが、ビートのRPKはこのAK47をベースに作られているのではないかと思うんです」


 ハッターの言葉に、オレは驚いて顔を上げる。


「似ているんですよ、見た目が。それにAK47と同じ弾丸を使用することも、その理由です」

「ふむ……」


 ナッツ氏はそっと、AK47を手にする。

 大柄なナッツ氏が持つと、AK47が小さく見えた。


「これを武器として、アダムと戦うと……?」

「えぇ。これなら向かうところ敵なしでしょう」


 ハッターはそう云うと、ニヤリと笑う。


「これを、あと50丁は用意してあります。弾丸も、3000発は調達済みです」

「なるほど。よし、それを買い取ろう!」


 ナッツ氏がそう宣言する。


「ナッツさん! オレもおカネを出しますよ!」


 オレはすぐに、そう告げた。

 ただでさえ世話になっているというのに、これ以上ナッツさんに負担させるわけにはいかない。

 元はといえば、云い出したのはオレなんだから。ここはオレもおカネを出して武器を買わないことには、筋が通らないだろう。


 しかし、その言葉を聞いたハッターは、首を傾げて横に振った。




「残念だが、これは売れない」

「――えっ?」


 ハッターの一言に、オレとナッツ氏は目を丸くして顔を見合わせる。

 武器を、売ってくれない?


 じゃあ、どうしてこのAK47を調達してきたんだろう?


「ど、どうしてですか!?」

「ハッター殿、おカネなら望むだけ出す。だから、そのAK47を売ってもらいたい!」

「これは、おカネじゃ売れないんだよ」


 ハッターはどういうわけか、首を縦に振ってくれなかった。

 いつもならニコニコしながら物を売ってくれるのに、今回ばかりはどうしても売ってくれない。

 なぜ? どうして?

 オレの中が疑問に支配される。


「……これは、私からのプレゼントだからだ」


 ハッターはそう云うと、イスから立ち上がった。


「どうかこの私も、銀狼族を守るための戦いに参戦させて下さい! お願いします!!」


 ハッターはオレたちに向かって、深々と頭を下げた。


「は、ハッターさん!?」

「銀狼族は、私にとっても大切なお客さんなんだ! だから私にも、銀狼族を守る義務がある。武器商人として、銀狼族を支援したいんだ。お願いだ!!」

「ハッターさん、落ち着いてください!!」


 オレも、イスから立ち上がった。


「あの……ありがとうございます!」


 オレも頭を下げる。


「ハッターさんまで加わってくれるなんて……すごく心強いです! 本当に、ありがとうございます!」


 こうして、オレには武器商人ハッターという強力な助っ人が加わってくれることになった。




 武器の問題が解決したオレに残された問題は、あと1つだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は12月5日21時更新予定です!

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