第18話 目標金額到達
オレとライラが15歳になってしばらくした頃、ついにその時がやってきた。
「――ついに、やったぞ!」
オレは全ての大金貨を数え上げ、思わず声を上げる。
グレーザー孤児院を卒業してから、早3年。
最初はライラの夢だった、ライラの両親に会うこと。
それがいつしか、2人の夢になってから、ずっとやってきたこと。
「ビートくん!」
ライラが嬉しそうに叫び、オレに抱きつく。
オレも嬉しくて、ライラを抱き留める。
「ライラ、ついにやったな!」
「ビートくんが、頑張ってくれたおかげよ!」
「いや、ライラも頑張った!」
オレたちはお互いを褒め合い、喜びを分かち合う。
ついに、オレとライラが続けてきたことが、実を結んだ。
ライラの両親を探すために見積もって貯め続けていたおカネが、目標金額に到達したのだ。
毎日節約し、クエスト報酬から一定額を貯金し続けるのは根気が必要だったが、今ではそれらさえ懐かしく感じられる。
「これで、あとはアークティク・ターン号の切符を買うだけだ!」
「……そういえば、次のアークティク・ターン号って、いつグレーザーの駅を出発するの?」
「……あ」
ライラからの指摘で、オレは初めて気づかされた。
旅費を貯めることばかりに気をとられ、アークティク・ターン号がグレーザーを出発する日時について、全くといっていいほど調べてこなかった。
もしも、すでにアークティク・ターン号がグレーザーを出発した後だとしたら、次に乗れるのは早くても1年後になってしまう。
そうなると、出発は来年までおあずけだ。
「ね……ねぇ、ビートくん?」
ライラの不安そうな言葉に、オレはふと我に返る。
「と、とにかく一度駅に行って調べよう!」
「そ、そうよね!」
オレとライラは、不安を吹き飛ばそうと、明るく振る舞おうとした。
クエストを終え、鉄道貨物組合から出てきたオレは、駅の方へと向かって歩き出した。
いつもなら、まっすぐ帰るが、今日ばかりはそうもいかない。
ライラとの待ち合わせが待っている。
グレーザー駅のエントランスに入り、オレはライラを探す。
グレーザーは、ちょうど人族と獣人族の人口は半々の割合だ。そして半分の獣人族の中から、白銀の髪を持つ銀狼族の美少女を探し出すのは、それほど難しいことではない。
すぐに、オレは時計台の近くに居るライラを見つけ、駆け寄る。
「ライラ!」
「ビートくん!」
ライラは嬉しそうな声で、オレを呼ぶ。
オレが駆け寄ると、ライラは人目も気にせず抱き着いてきた。
「あぁ、ビートくんの匂い……」
「ライラ、ここでは恥ずかしいから止めて」
オレはライラを引き離し、落ち着かせる。
周りから、オレたちを羨ましそうに見つめる生温かい視線が囲んできた。
「じゃあ、帰ったらいい?」
「その前に、やることがあるだろ?」
「分かっているわよ。アークティク・ターン号のことでしょ?」
「そういうこと。じゃ、行くか」
オレとライラは、手を取り合い、グレーザー駅の駅事務所へと向かった。
「えーと、アークティク・ターン号が次はいつ出発するか、知りたいということですね?」
中年男で小太りの駅員が、オレとライラを見て問い合わせ内容を確認する。
駅員の手元には、オレが記入したお問い合わせ連絡票がある。
「はい。次のアークティク・ターン号はいつ出発するのか、予定日時が知りたいんです」
「あとできれば、列車の予約も!」
オレに続いて、ライラが要望をぶつける。
「わかりました。すぐに調べますので、少々お待ちください」
駅員はカウンターの奥へと消え、少ししてから『年間時刻表』と書かれた分厚いファイルを持って戻って来た。そしてファイルをカウンターの上に置き、開いてページを指でなぞる。
「次のアークティク・ターン号の出発予定日は、こちらになります」
駅員がファイルをオレたちに向け、指で出発予定日が載っている場所を示す。
ちょうど、3ヶ月後の日だった。
時間は、十分すぎるほどある。
オレはすぐに、その日付けを手帳にメモした。
「それと、列車の座席予約をお取りになりますか?」
「はい、お願いします!」
幸い、手持ちのおカネにはある程度の余裕があった。
今ここで、なるべくいい場所を確保しておきたい。
「かしこまりました。それでは、特等車、1等車、2等車からお選びください。なお3等車につきましては、予約は不要です」
駅員は、オレたちにそれぞれの特徴を説明してから、どれを選ぶか尋ねてきた。
オレとライラは話し合った後、料金の安さと個室であることから、2等車の個室を選んだ。
空きはまだあったため、料金を支払うと、駅員はすぐに予約を取ってくれた。
「申し込み手続きを行いました。出発当日、こちらを駅事務所までお持ちください。乗車券と引き換えさせていただきます。くれぐれも無くさないよう、十分ご注意下さい」
駅員はオレたちに、申込用紙の控えを手渡す。
オレたちは駅員にお礼を云い、駅事務所を出た。
「あと3ヶ月後には、オレたちはアークティク・ターン号に乗っているんだな」
オレは持ち帰ってきた申込用紙の控えを眺めながら云う。
「今から、その日が待ち遠しいわね」
「いよいよ、ライラの両親を探しに行くことになるのか……!」
オレは自然と、手に力が入った。
この広い世界のどこかで、必ずライラの両親は生きている。
必ず見つけよう。
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