第183話 ライラとの夜
宴が終わった。
集会所の中は、大量の空になった食器と酒瓶が残され、世話役になっている銀狼族の女性が次から次へと食器を台所に運んでは洗っていく。
大量の食器ではあったものの、銀狼族の女性たちは慣れているらしく、テキパキと動いては食器をものすごいスピードで片付けていった。
そして1時間と経たずに、集会所の中は元通りになってしまった。
オレはライラと共に、泊まることになっているログハウスに向けて夜道を歩いていた。
月明かりが降り注いでいるおかげで、暗い夜道でも歩くのに問題はなかった。
「ライラ、本当にお父さんとお母さんの所に行かなくていいの?」
「うん!」
オレの問いかけに、ライラは頷いた。
「せっかく、両親と一緒に眠れるのに?」
「今夜はビートくんと一緒に寝たいの! それに、今夜もわたしを抱いてくれるんでしょ?」
「らっ、ライラ!」
オレは顔を赤くし、慌てて辺りを見回す。もしも誰かに聞かれていたら、とんでもないことだ。
幸いにも、近くには誰もいなかった。
ライラは顔を赤くしながら、尻尾をブンブンと激しく振っている。
「そういうことは、外ではあんまり口にしないで……!」
「えへへ……わかった」
尻尾を振りながら答えるライラ。
そんなライラを見ていると、先ほどシャインとシルヴィから告げられたお願いの内容を思い出す。
『ライラと、別れてほしい』
シャインとシルヴィの表情が、オレの頭の中に再浮上してくる。
お願いの言葉を繰り返すと、オレは自然と手に力が入り、奥歯を噛みしめた。
絶対に受け入れられないお願いだ。
たとえそれが、ライラの両親からのお願いであったとしてもだ!
ライラと別れたら、オレは生きる意味を失ってしまう。ライラが居てくれるからこそ、オレはこれまで生きてこられたといっても過言ではない!
だから誰が何と云おうと、ライラと別れることなんてできないんだ!
しかし、ライラの両親の云うことも、分からないわけじゃない。
せっかく再会できた娘と別れるなんて、身が引き裂かれる思いなのだろう。
もしもオレに娘がいたら、同じように思うのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、オレたちはログハウスに辿り着いた。
ログハウスの中に、オレたちは足を踏み入れる。
囲炉裏を中心とした部屋の奥に、2つの個室がある。
オレが1つの個室に入ると、ライラもそれに続いてオレと同じ部屋に入ってきた。
「さて、シャワーを浴びてくるか……」
「一緒に浴びようよ!!」
ライラが、そう云ってオレの腕を引っ張った。
断る理由など、どこにもない。
「久しぶりだな。一緒に浴びるのって」
「さ、早く行こうよ!」
オレはライラと共に、シャワールームへと入っていった。
シャワーを浴びたオレたちは、個室に戻ってくるとベッドに腰掛けた。
温かいシャワーで、オレたちの身体は温まった。
ライラの白い肌はほのかに赤みを帯びていて、艶やかに見える。
「ビートくん……」
「ライラ……」
ライラが、オレに身体を預けてくる。
今夜も、自分を好きにしていいと、ライラは云っている。
それは望むところだ。
しかし、ライラを見ているとどうしてもシャインとシルヴィからのお願いを思い出してしまう。
「どうしたの?」
ライラが、オレの顔を覗き込んで問う。
どうやら、ライラにもオレの気持ちが伝わってしまったようだ。
「いや、なんでもないよ」
オレはそう云うが、それでライラが納得しないことは分かっていた。
「ビートくん、嘘をつかないで」
ライラは、思いのほか真剣な目でオレを見つめてくる。
「ライラ……?」
「わたしの目を見て、正直に話して? ビートくん、お願いだから」
絶対に嘘は許さない。それに、隠し事もダメだから。
ライラの目は、オレにそう訴えていた。
オレに残されているのは、正直に話すことだけだった。
「う……うん……」
やっぱり、隠し通すのは難しいな。
観念したオレは、シャインとシルヴィから云われたお願いを、ライラに打ち明けることにした。
「ビートくんと別れるなんて、わたしは絶対に嫌!!」
オレの話を聴き終えたライラは、そう叫ぶ。
シャインとシルヴィからのお願いを聞いたときは、怒りをあらわにしていたライラだったが、理由を聞いていくうちに怒りが悲しみに変わっていったようだった。ライラの目には、溢れそうな涙が溜まっている。
「オレだって、ライラと別れるなんて絶対に嫌だ。だから、いくらライラのお父さんとお母さんからといって、聞き入れられるものじゃないよ」
「じゃあ、答えなんてはっきりしているじゃない!」
ライラは目に溜まっていた涙を拭い、オレの顔を正面からのぞき込んだ。
「わたしはもう、身も心もビートくんだけのもの! ビートくんと別れたら生きていけないの。ビートくん、そうでしょ!?」
「あ……ああ……!」
ライラからの問いに、オレは頷く。
そこまでライラが一途にオレのことを想っていたら、もう頷くしかない。
それに、オレだってライラと別れたら生きていく気など起きない。
すると、ライラは満面の笑みになった。
「じゃあ……ビートくんっ!」
「うわっ!?」
抱き着いてきたライラによって、オレはベッドに押し倒される。
そしてすぐにオレの口は、ライラの唇によって塞がれてしまった。
ライラが唇を離すと、オレとの間に唾液で糸ができた。
「えへへ……ビートくん、ビートくんっ!」
それと同時に、オレの中でスイッチがオンになる。
「ライラっ!」
「きゃんっ!」
オレはライラを抱き寄せた。
こうして、オレとライラの長い夜が始まった。
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