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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第14章
183/214

第181話 歓迎の宴

 夕方になると、西の空が赤く染まり、1日の終わりがすぐそこまで迫ってきた。




 オレは夕陽を見つめながら、寝床となるログハウスでこれからのことについて考えていた。


 これで、ライラとの約束は果たした。

 ライラの両親を見つけるという、グレーザー孤児院に居たころからの2人の約束。

 アークティク・ターン号でサンタグラードまで来て、オレたちは銀狼族の村に辿り着いた。そしてそこで、ライラは生みの親と再会することができた。両親と再会できたときのライラの表情を、オレは一生忘れることは無いだろう。

 だが、これで終わったわけじゃない。


 大事なのは、これからだ。

 ライラの両親と再会できたのは良かったが、これから何をしていこうかだ。

 今のオレには、目標がない。


 次に探しに行こうと思っていた、北大陸の楽園はもう探す必要がない。

 なぜなら、銀狼族の村がその北大陸の楽園だからだ。


 これまでは、ライラの両親を探して見つけ出すことが目標になっていた。


 ライラの両親を見つけ出した今、新しい目標を探さないといけない。

 これからオレは、何をすればいいのだろう?


 鉄道貨物組合でクエストを請け負うことも考えたが、サンタグラードの駅までは遠い。

 ソードオフやRPK等の銃を生かそうにも、平和な銀狼族の村では出番など無い。

 オレのできることが、ここではほとんどない。


 一体、どうすれば……。


「ビートくーん!!」


 そのとき、ログハウスの外から聞き覚えのある声がした。

 オレは玄関に走り、木製のドアを開ける。


「ライラ!」


 ドアの外には、ライラが立っていた。


「ビートくん! ここにいたんだ!!」

「どうして、オレの居場所が……?」

「忘れたの? 銀狼族は鼻が利くのよ?」


 ライラの言葉で、オレは思い出した。

 銀狼族は、元々北大陸で狩猟採集を中心とした生活を送ってきた。そのため、獣人族の中でもとりわけ鼻が利く。その実力は折り紙付きで、アークティク・ターン号で知り合った薬草の魔女のラベンダーも、絶賛していた。


「ビートくんの匂いを追ってきたら、ここに辿り着いたの」

「さすがは、ライラだな……」

「でも、グレイシアちゃんの匂いもしたわ。ビートくん、グレイシアちゃんと一緒だったでしょ?」

「!!?」


 当たっていた。

 このログハウスに入る少し前まで、グレイシアと一緒だった。


「当たってるでしょ?」

「……うん」


 オレは正直に頷いた。

 隠していても、匂いでバレてしまうのなら、隠しても意味がないのだ。


 もしもまた、浮気をしたと疑われたら――!


 すると、ライラがいたずらっ子のように笑う。


「ビートくん、わたしはビートくんが浮気しただなんて思ってないよ?」

「え?」

「さっきそこで、グレイシアちゃんに会ったの。ビートくんがここに向かったって聞いて、匂いを追ってきたのよ」


 良かった。

 オレはやましいことなど何もないが、心底から安心した。


 オレはライラをログハウスの中に案内する。

 さて、これからの目標をどうしようか……。


「ビートくん、もう聞いた?」

「え? 何のこと?」


 ライラから唐突に云われ、オレは聞き返す。

 聞いたって、何のことだろう?


「集会場で、村長のアルゲンさんがグレイシアちゃんの帰還報告会と、わたしとビートくんの歓迎会を開いてくれるんだって!」

「へぇ、歓迎会かぁ」


 わざわざ歓迎会を開いてくれるなんて。

 そんなことがあるとは思いもしていなかったオレは、あまり実感がわかなかった。

 歓迎会のことよりも、これからの目標のことがどうしても頭をよぎってしまう。


 オレのそんな様子を、ライラは見逃さなかったようだ。


「ビートくん、どうかしたの?」


 ライラが、オレの顔を覗き込む。


「さっきから、なんだか他のことを考えているみたいだけど……?」


 これは、隠していても仕方がない。

 下手に誤魔化しても、きっとライラはすぐに感づくはずだ。


 オレは、ライラが来るまで考えていたことを、ライラに話し始めた。




 すべてを話し終えると、ライラが待っていたかのように口を開く。


「ビートくん、そういうことは後にしようよ!」


 ライラが、笑顔でそう告げる。

 後にする?

 オレはできれば、後回しにしたくなかった。

 いつも頭の片隅に居座り続けるこの問題を、1日でも早く解決したかった。


「どうしてだ?」

「今は、銀狼族の村で過ごすこの時間を大切にしよう。先のことを考えるのは、後からでもいいじゃない。急ぎじゃないんでしょ?」


 急ぎではない。

 確かに、ライラの云う通りだった。


 別に取り立てて急ぐようなことじゃない。

 しばらくは、銀狼族の村に滞在することが決まっているのだ。


 そう考えると、ライラの云うことももっともな気がした。

 今は今しかできないことをすればいい。

 急ぎのことじゃないのなら、先のことを考えるのは、後からでも十分時間はある。


「……それもそうか」


 オレが呟くと、ライラがオレの手を握った。


「ビートくん、早く集会所に行こうよ!」

「わかった。行くか!」


 オレはライラと共に、ログハウスを出て集会所へと向かった。




 集会所に到着すると、すでに何人もの銀狼族がいた。

 倉庫から次々に道具を運び込み、集会所の中に歓迎会の会場が設営されていく。銀狼族の女性が中心となって料理を作り、男性はテーブルや会場の飾りつけなどの肉体労働を中心になって行っていた。オレたちよりも小さい子供まで、会場の設営に協力していた。


「久しぶりだよな、お客さんなんてさ」

「それも同じ銀狼族がお客さんとは、たまげたぜ」


 銀狼族の男たちが、そんな会話を交わしながら働いている。


 ただ見ているだけじゃ、なんだか申し訳ない気がするな。

 そう思ったオレは、作業に加わろうとしたが、拒否されてしまった。


『お客さんに手伝ってもらうわけにはいかないから』


 そう銀狼族の男性から云われて、オレは納得して退いた。

 彼らに任せておいたほうが、良さそうだ。


 それからしばらくして、会場の設営が整った。




 日が完全に沈むと、あちこちから銀狼族が集まってきた。

 集会所がいっぱいになると、アルゲンが銀狼族の前に出る。それを見た銀狼族は、一斉に静かになった。


「これより、グレイシア連絡員の報告会と、客人の歓迎会を行う」


 アルゲンが云うと、銀狼族は拍手をした。

 まず最初に行われたのは、グレイシアの報告会だった。


「では、今回のグレイシア連絡員による報告をまずは伺おうと思う。グレイシアよ、前に」

「はいっ!」


 アルゲンの言葉で、グレイシアが集まった銀狼族の前に躍り出る。

 グレイシアの報告が楽しみなのか、それともグレイシアが美人だからなのかは分からないが、グレイシアが躍り出ると歓声が上がった。


「サンタグラードには、大陸横断鉄道のアークティク・ターン号が到着しました。ニコラウス祭も近くなり、多くの人がサンタグラードに入ってきています。出かける際には、十分注意してください。そして今回入手した品物は……」


 グレイシアが手に持ったメモを見ながら、入手して銀狼族の村に持ち込んだものを述べていく。

 その多くが、紅茶や香辛料、鉄器や武器、書籍、布製品だった。

 銀狼族の村では、手に入りにくいものをグレイシアは持ち込んでくるらしい。


「そして、客人の2人。以上です!」

「ありがとう、グレイシア。それでは、グレイシアの報告にもあった客人のお2人、前へどうぞ」


 えっ、オレたちも出るの?

 そう思いながら、オレはライラと共に前に出る。


「こんにちは! グレーザーで育った銀狼族のライラです!」

「どうも、同じくグレーザーで育った、人族のビートです」


 オレたちは、簡単な自己紹介を行う。

 銀狼族の反応は、2種類に分かれた。


 ライラに向けられたのは、色目や異性を誘惑するときの仕草だった。

 対するオレは、珍しいものを見るかのような、好奇に満ちたまなざしだ。


 オレに好奇の視線が向けられることは、予測済みだった。

 銀狼族しかいない村なのだ。人族はおろか、他の獣人族でさえ珍しいのだろう。


 しかし、ライラに色目を向けるのはなぜだ?

 しかも明らかに婚姻のネックレスを首から提げている銀狼族までもが、ライラに見とれているぞ!?

 そんなにライラは銀狼族の中でも美人なのか?


 ライラに色目を使っても、どうせ無駄なだけなのになぁ。

 オレと結婚しているのだから。


「ありがとう。我々は心から、客人を歓迎する」


 心の中で勝ち誇った表情を浮かべながら、オレはライラと共に元の場所へと戻った。


「さぁさぁ、皆の衆! 今宵は宴じゃ! 食べて飲んで、楽しく過ごそうではないか!」


 アルゲンが腕を上げると、集会所の中に次々と料理が運ばれてきた。

 季節の野菜や、肉料理、そして珍しいポムパンもあった。


「ビートくん! あれ!」


 ライラが指し示した先には、グリルチキンがあった。

 それもオレたちがこれまで食べてきたようなものではなく、丸々1羽のチキンをグリルしたものだった。


「あんなすごいグリルチキン、初めて見た!!」


 ライラは大はしゃぎだ。


「食べたい?」

「もちろん!」


 オレの言葉にライラが頷くと、アルゲンが声を上げた。


「それでは、乾杯!!」


 乾杯!!

 集会所の中に、銀狼族の声が響き渡った。


 それから始まった宴会は、本当に楽しい時間だった。

 ライラはグリルチキンに夢中になり、1人で半分を食べて他の銀狼族を驚かせていた。

 それを見て、ライラに言い寄るつもりだった男たちは、若干引いたような表情をしていた。


「なぁ、ビートとやら」

「ん? なんですか?」


 ライラの様子を見ていた銀狼族の男が、オレに声をかけた。


「君の妻は、いつもあんなに食べるのか?」

「今回は特別ですね。だって……」


 オレは、ライラに目を向ける。

 ライラは切り取ったグリルチキンを皿に乗せ、フォークで次々に口に運んでいく。

 その表情は、とても幸せそうだ。


「ライラは、グリルチキンが大好物ですから」

「そ……そうなのか……あはは……」


 とんでもない大食らいの女と結婚したな。気の毒に。

 銀狼族の男の目が、そう云っていた。


 なんか、ものすごく勘違いされているような気がしたが、これでライラに言い寄る男が減ったと思うことにした。




 宴会が始まってからしばらくして、オレは集会所の外にあるデッキに出た。

 空には月が出ていて、星もたくさん見える。


 集会所の中では、まだ宴会が続いていた。

 ライラはグリルチキンの次はローストビーフを口に運んでいる。

 しかしそんな中でも、時折オレに目を向けることは忘れていない。


『あまり食べすぎないようにね』


 オレはライラにそっと、そうハンドシグナルを送った。


『わかってるよ、ビートくん! 帰ったら、またいっぱい楽しもうね!』


 ライラがそう、目で返してくる。

 オレは体温が上昇していくのを感じつつ、頷いた。


 ライラは嬉しそうな表情をして、再びローストビーフを口に運び始める。


「さて……オレはちょっと休もう」


 オレは、置いてあったイスに腰掛けた。

 夜風が涼しくて、気持ちいい。


 こうして月を見ていると、ライラとグレーザー孤児院で過ごした夜のことを思い出す。

 思えば、あそこからオレたちの旅は始まったのかもしれないな。


 そして、今は目的を果たした。

 オレはライラとの約束を、ちゃんと守ったんだ。


「ビートくん……だね?」


 聞き覚えのある声がして、オレは振り返った。




 そこにいたのは、ライラの両親ことシャインとシルヴィだった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回は11月24日21時に更新予定です!


大変長いことお待たせいたしました!

本日より連載を再開いたします!

楽しみにしていただいた皆様、お待たせしてしまい申し訳ございませんでした。


ここまで伸びた理由は、2回も連続して別の風邪をひいてしまったせいです。

今までに前例のないことで未だに完全回復には至っていません。

正直、風邪に似た別の何かではないのかと疑ってしまいます。

とはいえ、執筆はできるほどには回復しましたので、プロットを作ったりブログを更新したりしていました。

2回も風邪をひいたことは、またブログに改めてまとめようと思っています。


最後まで完走する気でいますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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