表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第13章
182/214

第180話 家族の時間

 オレは、ライラの両親を交えての昼食を終えた後、ログハウスの外に出た。

 いつも隣にいたライラは、今はいなかった。


 ライラはシャインとシルヴィの家こと実家で、シャインとシルヴィとの会話を楽しんでいる。


 ずっと会いたかった両親に、ライラは会うことができた。

 しばらくは、両親との時間を心行くまで楽しんでもらいたい。


 オレはそんな思いから、1人でログハウスの外に出た。




「さて……何をするか」


 オレは空を見上げながら、何をしようか考えていた。

 やることが、これといって思いつかない。


 ライラと一緒にやりたいことなら、いくつでもあるというのに……。


 しばらくして、オレは本をしばらく読んでいなかったことを思い出した。


「そうだ! 図書館に行くか!」


 オレはすぐさま、ログハウスのデッキから降りて銀狼族の村を散策しようと歩き出す。

 銀狼族の村にも、図書館はあるだろう。


 さぁ、思いっきり本を読むぞ!!




 それから少しして、オレは銀狼族の村唯一の雑貨屋の『ウェアハウス』で雑誌を購入した。


「ありがとうございましたー」


 店員の声を受けながら、雑誌を手にしたオレはウェアハウスを出る。

 まさか、銀狼族の村に図書館が無いとは予想外だった。

 しかも図書館どころか、普通の商店さえほとんどないとは。


 銀狼族の村では、日常の買い物などは『ウェアハウス』で行い、食料品はウェアハウスで売っているものか、自家栽培するか狩猟採集で採ってくるしかない。

 オレが育ったグレーザーとは大違いだ。


 そして、本もそんなに多くは売られていない。

 面白そうな本があると思ったら、読んだことのある本ばかりが置かれていた。


 オレは本を諦め、普通の雑誌を購入して読むことに決めたのだ。

 読みたい本が無かったのは残念だが、こうでもしないと活字を読めないのだから仕方がない。


 さて、どこかでゆっくりと読むとするか。


「ビートくんは、参加しなくてもいいの?」

「おわっ!?」


 突然、背後から聞こえた声に驚いて振り返る。

 声の主は、グレイシアだった。


「グレイシア、いったいどこに隠れていたんだ!?」

「隠れてなんかないわよ。ちょっと所用で、席を外していただけ」

「そうか……。でも、さっきの参加しなくてもいいって、どういうこと?」


 オレがグレイシアに訊くと、グレイシアはライラと両親がいるログハウスを指さした。


「ライラちゃんと、ライラちゃんの両親との時間によ。夫なんだから、参加する権利はあるはずよ」

「そのことか。それなら、いいんだ」


 オレがそう答えると、グレイシアは目を丸くした。


「本当? 本当に立ち会わなくていいの?」


 グレイシアからの再度の問いにも、オレは首を縦に振って答えた。


「うん、いいんだよ」

「どうして?」

「ライラは、長年の夢を叶えたんだ」


 オレはそう云って、ライラと両親がいるログハウスを見つめる。

 今頃、ログハウスの中でライラと両親のシャインとシルヴィは、会話に華を咲かせているはずだ。


「ライラにとって、両親との再会はグレーザー孤児院に居た頃からの夢だったんだ。そして今日、ライラはその長年の夢を叶えることができた。今は、家族との時間を思う存分に楽しむ時だと思うんだ。だから、そんな家族の時間に、元々ライラの家族でもなかったオレが立ち入るべきじゃない」

「それで、自分から離れたの?」

「まぁ、そんなところかな」


 オレがそう云うと、グレイシアはそっと微笑んだ。


「そう……。ビートくんって、優しいのね」

「そうかなぁ?」


 グレイシアからの言葉に、オレは首をかしげる。

 オレとしては、ライラに優しくしようとか思ったことは無かった。

 考えていたことがあるとすれば……。


「オレはライラのことを考えた時に『これがいいんじゃないかな?』と思うことをやってきただけだ」

「それを、優しいっていうのよ」


 グレイシアは、オレの目を見てそう云った。

 言葉は柔らかなものだった。しかしその目は、真剣そのものだった。




「ところで……」


 オレがそろそろ行こうかと思っていると、グレイシアが再び口を開いた。


「なんだ?」

「ビートくんは、自分の両親に――あっ!!」


 そこまで云いかけて、グレイシアは慌てて口をつぐんだ。

 そして表情が、一気に公開の色を鮮明にさせていく。


 オレはグレイシアが何を考えているのか、なんとなく分かった。

 失言をしてしまったと、グレイシアは思っている。


 グレイシアが、ゆっくりと口を開く。

 答え合わせの時間だ。


「ごっ、ごめんなさい!」


 グレイシアは謝罪の言葉を口にする。

 オレの予想は、当たった。


「つい、口が滑っちゃって……!」

「いや、気にしなくていいよ」


 事実、オレは全く気にしていなかった。

 なぜなら……。


「オレはもう、グレーザー孤児院に居たころから諦めているんだ。オレは――」


 申し訳なさそうな顔をするグレイシアに、オレはあの日の夜、ライラに話したことと全く同じことを話した。


 オレは人族であること。

 ライラのように少数民族でもないし、何も特徴がない。

 だから、両親が引き取りに来るとは考えにくいこと。


 そして最後に、オレは最も大切なことを口に出した。


「だけど、今のオレにはライラがいる。だから両親がいなくても、寂しさを感じたことは無いよ」


 オレがそう云うと、グレイシアはそっと頷いた。


「そう……ライラちゃん、本当にいい旦那さんと出会えたのね……うらやましいわ」

「えっ?」


 グレイシアの言葉で、最後のほうが聞き取りにくかった。


「最後、何て云ったの?」

「なんでもない!!」


 グレイシアはそう云った。

 少しだけ、グレイシアの顔が紅くなっていたような気がした。




「ところで、今夜はどこで寝るの?」


 いきなり話題が変わったな。

 というか、強引に変更してきたな。


 オレはそんなことを思いながら、答える。


「宿屋に行こうかと――」

「待って! 銀狼族の村に、宿屋はないわよ?」

「……えっ?」


 その発言に耳を疑った。

 宿屋がない?

 そんなことは、無いはずだ!


 これまで、アークティク・ターン号で色々な場所を通ってきたが、どんなに小さい街でも宿屋はあった。

 いや、鉄道が通っていないような小さい村でさえも、宿屋は最低でも1軒はあった。

 鉄道貨物組合でクエストを請け負っていた時に、馬車に乗って配達に行ったことがあったが、どんな場所でも宿屋は必ず営業していた。それほど、宿屋は需要がある上に重要な場所だ。


 それが無いなんてことは、あり得ない!!


「バカな!? 宿屋くらい、どこにだってあるだろ!?」

「銀狼族の村は、外からほとんど人が来ないの。だから、宿屋なんて営業しても商売にならないのよ。みんな自分の家を持っているんだから」


 くっ!

 まさかこういう展開になるとは予想していなかった。


 誰かの家に泊めさせてもらうわけにもいかない。

 しかし、そうでもしないと眠れる場所がない。


 ライラは、両親の家で眠るからいいとして、オレはどうすれば?

 ライラの両親と一緒の家で寝るのは、正直気まずい……。


「――そうだ!」


 オレは、あることを思い出す。

 ライラの両親と初めて出会い、昼食を食べたあのログハウスだ!

 あれがあった!


「さっき、昼食を食べたあのログハウスで――」

「あそこは、私の家よ」


 グレイシアの言葉に、オレの考えは打ち砕かれる。


「ビートくん、まさか奥さんのライラちゃんを差し置いて、他の女の人の家で寝るわけにはいかないでしょ?」

「ううう……!」

「ビートくんが私の家で寝たなんてこと、ライラちゃんが知ったらどう思うか、分からないとは云わせないわよ?」

「ぐぐぐ……!」


 グレイシアの言葉は、もっともだった。

 あのログハウスが女性の家だと知ったら、そこで寝ることなどできない。

 たとえ何もなかったとしても、それはライラとの信頼関係を壊すことにしかならない。

 そんなことは、絶対にダメだ!!


 そうなると、後はもうこれしかない!


「……野宿するよ」


 オレは、覚悟を決めた。

 もうこうなったら、これしか方法はない。今夜だけは野宿でなんとかしのいで、また明日夜が明けてから、その日の宿を探さないと……。


「ダメよ」


 しかし、それさえもグレイシアに否定されてしまった。


「どうして!?」

「そんなことをしたら、ライラちゃんも一緒に野宿しちゃうはずよ。もしライラちゃんが風邪でもひいたら、どうするの? 銀狼族の村にも医者はいるけど、たった2人しかいないのよ?」

「じゃあ、どうすればいいんだよ!?」


 どんな答えも、否定されてしまう。

 もうこれ以上、オレにはいい答えが出せるとは思えなかった。


 それに、そこまで色々と否定してくるのなら、グレイシアには何かいい案があるのだろう。

 それを聞かせてもらいたい!


 オレはそんな思いで、グレイシアに訊いた。


「簡単なことよ。ほら、あそこ!」


 グレイシアが指さす先には、1つのログハウスがあった。

 ちょうど、ライラの両親の家と、グレイシアの家の中間あたりに存在している。ほかのログハウスと比べると、少々小さめだ。


「しばらくは、あの少し小さなログハウスを使って。元々は、私の家の物置だったんだけど、今は離れのようにしてあるの。中には囲炉裏もあるし、ベッドもちゃんとあるわよ」


 オレは、納得した。

 あそこなら、ライラと一緒に寝ることもできるし、他の誰かと一緒の屋根の下で寝るわけじゃない。


「ありがとう、グレイシア」

「あそこで、いいかしら?」

「十分すぎるほどだ。後で、荷物を運びこんでおくよ」

「じゃあ、私はライラちゃんにそう伝えておくわね」


 グレイシアはそう云うと、ライラの両親の家に向かって駆けていく。

 オレはその後姿を見送ってから、グレイシアが指し示したログハウスに向かった。


 とりあえず、これで当分の間の生活空間が確保できた。

 あそこで、ゆっくりと買ってきた雑誌を読もう。




 オレはログハウスのドアを開け、中に入っていった。



第13章 北大陸放浪編~完~




第14章へ続く

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!


今回で、第13章もおしまいです!

そして次回からは、第14章!


無事に銀狼族の村に辿り着きましたが、いいことばかりではありません。

ここから、事態は大きく動き出します。

ビートとライラの運命や、いかに!?


プロットが尽きていますが、執筆を進めます!!


そして誠に申し訳ありませんが、またしばらく更新停止いたします。

風邪をひいてしまい、体調が快方に向かわないためです。

なんとかまた1週間をめどに、更新を再開させたいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ