表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第13章
180/214

第178話 ライラの両親

 グレイシアがドアをパタンと閉めると、ログハウスの中は静寂に包まれた。

 聞こえる音と云ったら、自らの心臓の音と、囲炉裏で薪が燃えるパキパキといった音だけだ。


「ビートくん、どうしよう……?」

「とりあえず……待つしかないな」


 オレは囲炉裏の近くに置かれた座布団の位置を調整すると、近くに荷物を下ろした。

 そして座布団の上にゆっくりと座る。

 座布団はフカフカしていて、まるでベッドの上に腰掛けたようだった。


 ライラもオレに倣って、荷物を下ろして座布団に腰掛けた。

 位置は当然、オレのすぐ隣だ。

 どんな時でも、ライラの位置は変わらない。


 オレたちはしばらくの間、燃える薪が発するパキパキという音に耳を傾けながら、しばらく沈黙していた。




「ねぇ、ビートくん」


 沈黙を破ったのは、ライラだった。


「なんだ?」

「……わたしのお父さんとお母さん、本当にこの銀狼族の村に居るのかな?」


 ライラの表情に、不安の色が浮かんでいる。


「それは分からないな……」


 オレは正直に答えた。

 この銀狼族の村に、ライラの両親がいるかもしれない。

 オレたちはそれに賭けて、南大陸のグレーザーから、ここまで1年近くの時間をかけてやってきた。


 しかし、ライラの両親がいるかどうかと、本当にいるかは別の問題だ。

 いるかもしれない。それはあくまでも可能性の話だ。

 いない可能性だって、完全にないわけじゃない。


 それを考え出すと、どんどん不安になってくる。

 だからオレは、あまり考えないようにしていた。


「もしもいなかったりしたら、わたし――!」

「よせよ、ライラ」


 オレはライラに、優しく云った。


「ここまで来たんだ。居ると考えようよ」

「でも!! もしもいなかったら、ここまで一緒に旅をしてくれたビートくんに、わたしはなんて云ったらいいか、わからないの!!」


 ライラの目に、薄っすらと涙が浮かんでいる。

 もしも両親がいなかったら、ここまで一緒に旅をしてきたオレに申し訳なくて、どうお詫びをすればいいのかと思っているようだ。

 そんなこと、気にしなくてもいいのに。

 オレはそう思ったが、ライラにとって両親がいるか否かは、オレの人生を大きく左右してしまうことでもあるらしい。孤児院に居た頃に、ライラの両親を探すと、オレが申し出てからもう5年になる。ライラはどうやら、その5年の年月の重みを感じているようだ。


 しかし、オレはそんなことは全く重みとは思っていない。

 オレとライラは、単なるカップルではないからだ。


「ライラ、忘れたのか? オレたちは夫婦じゃないか」


 オレはそっと、自分の婚姻のネックレスに触れた。

 ライラと夫婦であることを証明する、婚姻のネックレスが、揺れて光る。


「きっと、居るはずだ。ライラ、信じてみようよ。もし本当にライラの両親が居なかったとしても、それは居ないことがはっきり分かるだけのことじゃないか。それに、オレのことは気にしなくていいよ。ライラの両親を探すことに協力すると云ったのは、何を隠そうオレ自身じゃないか。どれだけ年月が掛かったとしても、オレはライラが見つかるまで探し続ける。ライラが気にする必要はないって!」


 オレはそうライラを説得する。

 ここまで来たんだ。今さら居るかどうかを考えた所で、分かるわけがない。

 そんなことを気にしていても、何も始まらないし、何も生まれない。


 それに、やっぱりライラに涙は似合わない。


「……うん!」


 オレのそんな思いが通じたのか、ライラの表情が明るくなり、涙を拭った。

 そこには、先ほどまでの暗いライラはいない。

 いつもの明るいライラが、戻って来た。


「ビートくん、ありがとう! わたし、ここにお父さんとお母さんがいるって、信じてみる!」

「オレも、信じるよ」


 オレとライラは、座ったまましばらく抱擁を交わした。




 しばらくすると、玄関のドアが開いた。

 中に入ってきたのは、グレイシアだった。


「待たせたわね。ある人を連れてきたの」


 グレイシアが案内してきたのは、1人の銀狼族の初老の男だった。


「ワシは、この村の村長であり長老のアルゲンじゃ」


 アルゲンと名乗った銀狼族の長老は云う。


「お主らが、ビートとライラかの?」

「どうして名前を……?」

「私が伝えたのよ」


 グレイシアが、そっと告げた。


「お主らは、この村に両親を探しに来たと申しておるらしいが、本当かの?」

「はい。オレの妻の、ライラの両親を探して、南大陸のグレーザーからアークティク・ターン号に乗ってサンタグラードまで来ました。その後はグレイシアに案内されて、銀狼族の村までやってきました」


 オレがそう云うと、アルゲンは頷きながらオレの話を聞いた。

 話を聞き終えると、アルゲンはライラに視線を向けた。


「ビートの妻、ライラよ。両親に会って、どうしたいのじゃ?」

「お父さんとお母さんに会って……どうしてわたしを孤児院の前に捨てたのか、今までどうして迎えに来てくれなかったのかを、まずは聞きたいです」

「ふむ。それはつまるところ、自分を捨てた両親を責めるということかのう?」

「いいえ、違います」


 ライラはきっぱりと、否定した。


「わたしが知りたいのは、真実だけです。両親に恨みなどはありません。ただ、どうして捨てたのか、迎えに来てくれなかったのか、まずはその理由が知りたいんです」

「……わかった」


 アルゲンは頷くと、隣に座っていたグレイシアの耳元で何かを囁いた。

 頷いたグレイシアは、再び立ち上がり、家を出て行った。


「少し待っていなさい。ライラの両親のことを、よく知っておる者がいる。その者たちを連れてくるよう伝えた」

「ビートくん!」


 ライラの目に、光が宿った。


「もうすぐ、会えるかもしれないな」


 オレは嬉しくなった。

 もうすぐ、ライラとの約束を果たすことができる。




 しばらくして、グレイシアが2人の男女を連れて戻って来た。

 オレたちは、反射的に立ち上がった。


「お連れ致しました」


 グレイシアが連れてきたのは、銀狼族の男女だった。


 男は整った顔立ちをしているが、同時にがっちりとした筋肉質な体を持ち、まるで勇者や兵士のようだった。背は高く、額に十字型の傷があり、右の耳が少し欠けている。背中には旧式のライフル銃を背負っていて、身体はオリーブドラブのミリタリーポンチョで覆われている。戦争かモンスター討伐クエストに行っていたことがあるのかもしれないと、オレは推測した。

 女は男より少し背丈は低いが、それを上回る魅力的な女性らしい体の持ち主だ。ライラのように長い髪を持ち、胸はライラよりも大きく、服から溢れんばかりの胸元をさらしていた。美しく整った顔はまるで美術館にある女神像のようだ。肌は色白で、触るとスベスベしていそうだ。

 そして双方に共通するのは、白銀の髪の毛と、同じ色の獣耳と尻尾。

 何度も目にしてきた、銀狼族の特徴だ。


 しかし、オレは妙な気持ちに至った。

 この2人の男女は、ライラと雰囲気が似ているように思えた。


 同じ銀狼族だから、だけではない。

 グレイシアもライラと似てはいるが、この2人はそれ以上にライラと似ている。

 同じ銀狼族という種族のくくりを超えて、ライラとこの2人を結びつけるような何かが、確かに存在しているとしかオレには思えなかった。

 それほどまでに、この銀狼族の男女とライラはとてもよく似ていた。


 そう、云い現わすなら――親戚。

 いや違う。もっと近い存在だ。


 それは――家族。そして親子。



 まさか、この2人が!?



 オレがそう思ったと同時に、銀狼族の男女が目を丸くしてライラを見た。

 その目には驚きと動揺がはっきりと見て取れた。


「……もしかして……あなたが、ライラちゃん……?」


 銀狼族の女が発した自分の名前に、ライラは驚いて獣耳をピクピクと動かす。


「!? どうしてわたしの名前を!?」

「やっぱり、ライラちゃんなのね――!?」

「もしかして……お母さん!?」


 ライラが尋ねると、銀狼族の女は、ゆっくりと頷く。

 そしてすぐに、ライラは隣の銀狼族の男にも視線を向けた。


「もしかして、お父さん!?」


 銀狼族の男が、そっと頷いた。


「ライラちゃん!!」


 銀狼族の女は叫んで、ライラに駆け寄った。

 そしてライラを抱きしめ、その豊満な胸に埋める。


「お母さん! お父さん!」

「ライラちゃん、ごめんね! ずっと迎えに行けなくて、ごめんね!!」


 涙を流しながら謝るライラの母親と、母親の胸の中で泣くライラ。

 そして母親とライラの2人をしっかりと抱きしめる、ライラの父親。


「お母さん!! お父さん!!」

「ライラちゃん、ごめんね!」

「ライラ、迎えに行けなくて済まなかった!」


 家族の再会。

 ライラの孤児院時代からの夢が、叶った瞬間であり、同時にオレがライラと交わした約束が、実を結んだ瞬間でもあった。



 その場面を目の前で見せつけられたオレの目にも、涙が浮かんだ。

 オレは涙をそっと拭うと、少しだけ離れて距離を取った。

 今、そこにオレが立ち入る隙は無いし、オレもそこまで野暮な男じゃない。

 しばらくは、再会を喜ぶ時間だ。




 オレとグレイシア、アルゲンは、ライラとライラの両親が落ち着きを取り戻すまで、その場で待ち続けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は11月8日21時更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ