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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第13章
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第176話 ノワールグラード

「ビートくん!」

「ん? どうかしたの?」


 ライラが馬車の外を見て、声を上げる。

 オレはちょうどその時、グレイシアから借りた本を読んでいた。


「ちょっと、見て!」

「んー……んおっ!?」


 ライラから云われて外を見たオレは、目を疑った。

 オレの目に飛び込んでくるのは、廃墟と化した建物と、荒れて石の間から草が生えている石畳の道路。時折、土がむき出しの場所もあった。

 廃墟は1つだけではなかった。

 次から次へと廃墟が現れてくる。植物に覆われそうになっているものもあり、朽ちて原型をかろうじて保っているようなものまである。


 馬車はいつの間にか、荒れ果てて廃墟と化した街の中を走っていた。


 しかも、荒れ方からしてただの廃墟とは考えにくかった。

 自然にできたとは考えにくい形の穴。

 廃墟と化した建物の中に残る、生活の跡。

 赤黒いシミ。

 壊れた馬車や、赤錆びて朽ちた剣や銃といった武器……。


 ここまでヒントが転がっていれば、誰だってわかる。


「グレイシア、ここはどこなんだ!?」

「ノワールグラードよ」


 グレイシアが、答えを云った。


「もしかして……昔ここで、何か事件でも――!?」

「そうよ。ノワールグラードは、過去に起きた戦争で戦場となった街なの。戦争で街は瓦礫になっちゃって、戦争が終わってからも誰も戻ってこなかったのよ。だから、廃墟になってしまったの。私はそう聞いているわ」


 やっぱりか。

 この廃墟の街、ノワールグラードは過去に、戦場となっていた。


 自然に朽ちたわけではなく、戦争によってこうなってしまったのだ。


 そして、今は人は1人もいない。

 馬車の音しか聞こえないことが、それを証明していた。


 だが、それだけで判断するのは危険だ。


「……強盗が出たら、厄介だな」


 こうした廃墟には、強盗や野盗がつきものだ。

 人がいなくなった場所にこそ、こうした奴らは潜んでいることが多い。


 なんといっても、大声で叫んでも助けを呼べないからだ。

 好き勝手できることから、強盗にとってはこの上ない好条件といえるだろう。


 すると、グレイシアが振り返った。


「安心して。ノワールグラードに強盗はいないから」

「本当に?」

「本当よ。少なくともここ1年は、私も他の連絡員も、誰も強盗や野盗は見ていないの。それに、安心して」


 グレイシアはそう云うと、服の下から9連発のリボルバーを取り出した。


「私も、銃は持っているんだから」

「わたしも、銃はあるわよ!」


 ライラが、スカートの下からリボルバーを取り出す。


「ライラちゃん、いいもの持ってるじゃない!」

「グレイシアちゃんのだって、強そうよ!」


 オレも、RPKという恐ろしい銃を持っているんだけどなぁ。

 そう思ったが、あえて云わないでおいた。




「ねぇ、こんな伝説知ってる?」


 ノワールグラードを進んでいる途中で、グレイシアが唐突に云った。


「伝説って、何の?」

「ノワールグラードに伝わる伝説よ。昔、ノワールグラードに暮らしていたというおばあさんが、サンタグラードに住んでいて、その人から聞いたことがあるの」

「どんな伝説なんだ?」

「グレイシアちゃん、聞かせて!」


 オレとライラは、グレイシアの話に興味津々だった。

 馬車の上は退屈で、もうすっかり話のネタになるようなことも尽きていたからだ。


「わかったわ。私が聞いたノワールグラードに伝わる伝説は、こういうものよ」


 グレイシアは手綱を握ったまま、語り始めた。



 ノワールグラードがまだ廃墟になる前のことよ。

 かつてのノワールグラードは大きな街で、鉄道が敷かれることも計画されていたほどだったの。

 そんなノワールグラードには、1人の預言者が暮らしていたわ。預言者の預言はよく当たるということで評判で、街の人からも慕われていたというわ。


 そしてそんなある日、預言者は次のような預言をしたの。


「遠い未来、この地が戦火に巻き込まれた後、その地に降り立った天使が愛する者の命を救い、永遠に結ばれる」


 その予言者はその預言を残した後、ノワールグラードを突如として離れてしまったの。

 でもその後、何年も戦火に巻き込まれることがなかったことから、いつしか忘れ去られてしまった、といわれているわ。



「……というものよ。ロマンチックな伝説だと思わない?」

「うん、すごくロマンチックね!!」


 グレイシアの問いに、ライラが頷く。

 しかし、どうしてそんな預言をしたのか、そしてどうして突如として消えたのか。

 謎ばかりが残る伝説だ。


「そしてこの伝説、銀狼族の間ではけっこう有名な伝説なのよ」

「そうなの!?」


 ライラが叫ぶ。

 銀狼族とはいえ、銀狼族の村で暮らしたことがないライラは、そのことを知らなくてもおかしくはない。


「どうして銀狼族の間では有名なんだ?」

「だって、ノワールグラードから銀狼族の村までは、そんなに離れていないから」


 グレイシアは当たり前のように、そう云った。




 しばらくして、オレたちはノワールグラードを抜けた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は11月6日21時更新予定です!

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