表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第13章
171/214

第169話 ジオスト出発

 サウナに入った日の夜。

 オレとライラは翌日の朝まで、一度も起きることなくゆっくりと眠ることができた。


 これもきっと、サウナの効能だろう。

 オレはそう思いながら、気持ちよく床を離れた。


 今日は、ジオストを出発する日だ。

 今日の正午には、アークティク・ターン号がジオストを出発する。

 それまでに、列車に戻らないといけない。


「ビートくん、これって何かしら?」


 朝食の席で、ライラがオレに効いてくる。


「ソバの粥だな。北大陸の伝統料理の1つだよ」


 オレはそう答えて、ソバの粥を口に運んだ。

 それを見たライラも、同じようにソバの粥を口に運んでいく。

 そして温かいスープで、ソバの粥を流し込んだ。




 チェックアウトをすると、オレたちは荷物を持って駅へと向かっていった。


 そして駅に到着すると、改札を抜けてホームに入った。

 アークティク・ターン号は、貨物車や食堂車といった車両に積荷や非常食を次々に積み込んでいた。

 厚手の作業服を着た、鉄道貨物組合の労働者たちがまるでアリのようにせっせと働いている。


「あっ、お客様!」


 オレたちに向かって、声が掛けられる。

 声がしたほうを見ると、ブルカニロ車掌がいた。


「車掌さん!」

「お客様、本日正午に、列車は出発いたします!」


 ブルカニロ車掌がそう云った。


「吹雪は大丈夫なんですか!?」

「吹雪はまだ吹き荒れていますが、かろうじて運行可能との連絡が入りました。本日正午にジオスト駅を出発いたしますので、お早めにご乗車ください」


 そう云い、ブルカニロ車掌は去っていく。

 よく見ると、アークティク・ターン号は荷物が積み込まれていくだけでなく、乗客も戻り始めていた。

 正午の出発予定時刻になる前に、いつでも出発できる体制が整いそうだ。


「ビートくん、吹雪の中を進むみたいだけど、大丈夫かな?」

「きっと……大丈夫だよ」


 オレはそう云った。

 というよりも、そう信じたかった。




 2等車の個室に戻ってきたオレたちは、そっと荷物を下した。

 3日間を宿屋で過ごし、また今日からはここが生活の拠点だ。


「また次の停車駅までは、ここで過ごすのね」

「そうだな」

「それにしても、ちょっと寒くない?」


 ライラの一言で、オレは壁についている空調のスイッチを見る。

 スイッチは、オフになっていた。

 ジオストの街に出る前に、オレが切っておいたのだ。


「いけね! すっかり忘れてた!」


 オレは慌てて、空調のスイッチをオンにした。

 空調が動き出し、温かい空気が流れ込んでくる。


 しばらくすると、上着どころか薄着でも十分なほどの温度まで上がった。

 オレとライラは上着を脱いで、ベッドに腰掛ける。


「うーん……やっぱり温かいのって、いいなぁ」

「うん。でも、もうしばらくはサウナのような温かさはちょっといいかな……」


 ライラがそう云い、オレは笑った。



 正午になると、ジオストの駅に汽笛が響き渡った。

 そして雪が降る中、アークティク・ターン号は動き出した。


 車輪についた氷を破壊しながら、アークティク・ターン号はゆっくりとレールの上を進んでいく。

 駅を出たアークティク・ターン号は、風を切って北へと向かって進んでいった。




 オレとライラは、2等車の個室の窓から外を見て、雪景色を楽しんでいた。


「まだ、吹雪にはならないみたいね」

「吹雪になったら、どうなるんだろうなぁ?」


 外は寒そうだが、暖房がよく効いた個室にいるオレたちは、寒さなど全く感じていない。

 暖房が効いた部屋の中から、雪景色を見るのは、北大陸での贅沢の1つだろう。


 ここにアイスクリームでもあれば、より贅沢になること間違いなしだ。


 すると、ライラが大きなあくびをした。


「ビートくぅん……わたし、なんだか眠くなってきちゃった……」

「お昼を食べたからかな? そういえば、オレもちょっと眠いな……」


 ライラから云われて、オレも眠気を感じた。

 暖房の温かさと、昼食で満腹になったお腹、そして列車の揺れ。

 もしかしたら、この3つが組み合わさって眠気を誘っているのかもしれない。


「ねぇビートくぅん……ちょっとだけ、横になろうよぉ……」


 ライラがオレの腕に抱き着き、頬をこすりつけてくる。

 いい匂いが、オレの鼻をくすぐった。


「そうだなぁ……そうするかぁ……」


 ライラの云う通り、ちょっとだけ横になってウトウトするのも悪くない。

 ウトウトするのは、気持ちがいいものだ。


 ライラがベッドに乗り、オレの隣で横になる。

 オレも同じようにベッドに乗り、ライラの隣で横になった。


「えへへ……ビートくぅん……」

「うーん……ライラぁ……」


 オレたちは身体を寄せ合いながら、ベッドの上で目を閉じた。




 目を覚ますと、オレは2人の人族の男女に見下ろされていた。


 男は王冠のようなものを被っていて、髭を生やしている。女はティアラを頭に載せていて、とても長い髪を持っていた。

 男女に共通しているのは、華美な衣服を身に着けていて、首からは婚姻のネックレスを下げている。

 そして、とても幸せそうな表情で、オレを見下ろしていた。


 いったい、この男女は誰だろう?


 どこの誰なのか、オレには分からない。

 しかし、どこか懐かしいような、安心できるような不思議な感じがした。


「ーーーー!」

「ーーーー?」

「ーーーー!!」

「!! ーーーー!」


 男女はオレを見ながら、何かを離している。

 何を話しているんだ?

 オレにも教えてくれよ!


 オレはそう云ったはずだが、声が出なかった。


 すると、男女の後ろにさらに別の男女が現れた。


「ーーーー!!」

「ーーーー。ーーーー?」

「ーーーー! ーーーー!」


 現れた別の男女は、人族の男女と共にオレを見下ろし、満面の笑みを見せる。

 ライラに似た白銀の獣耳と尻尾を持っている。獣人族の男女だ。

 白銀の髪のせいか、その獣人族の男女は、どこかライラと似ているような気がした。


「ーーーー!!」


 オレは獣人族の女の手の中を見て、驚く。

 獣人族の女は、赤ん坊を抱いていた。


 その赤ん坊には、同じような獣耳と尻尾がある!!

 性別までは分からないが、あの丸みを帯びた顔からして、きっと女の子だろう。


 ……もしかして、ライラなのか?


 オレはそっと、オレを見下ろしている男女に向かって両手を伸ばした。

 なぁ、オレにその赤ん坊を見せてくれよ。


 しかし、オレの気持ちは伝わらなかった。


 人族の男女は顔を見合わせ、口元を大きく釣り上げてオレの手を握ってくる。

 いや、オレは別に握手を求めていたわけじゃないんだけどなぁ。


 そう思ったオレだが、嫌ではなかった。

 大きくて暖かい手は、オレの小さな手を優しく握りしめてくれる。


 その手に包まれていると、なんだか安心できた。


 あぁ、なんだかまた眠く成ってきたなぁ。


 眠気に逆らえないオレは、ゆっくりと瞼を閉じていった。




「……んっ?」


 オレが目を覚ますと、オレを見下ろしていた男女はどこにもいなかった。

 両手を掴んでいた大きくて暖かい手も、そこにはない。


 そこには先ほどまでと変わらない、オレとライラが使っている2等車の個室が広がっているだけだった。


 そしてオレの目の前では、ライラが眠っている。

 いつの間にか、オレとライラは眠りながら手をつなぎ合っていたみたいだ。


「……夢か」


 どうやら、先ほどまでのは夢だったようだ。


 それにしても、あの男女は一体誰だったのだろうか?

 オレの記憶には王様と女王様のような女性に出会った記憶など、ない。

 ましてや、あんなに間近に見られたことなど、1度だってない。


 しかし、どこか懐かしい顔をしていた。

 あの2人になら、安心して甘えても許されるような、そんな雰囲気を感じた。


 正直、少しだけ残念だったかな。


 オレはそう思いながら、そっと窓に目を向け、外の景色を見た。




 窓の外は、猛吹雪になっていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は10月30日21時更新予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ