第168話 貸し切りサウナ
「お客さん、うちにはサウナがあるんですよ」
昼過ぎ。オレは宿屋の主人をしているという獣人族ベア族の男から聞いた。
「サウナが!? 本当ですか!?」
「はい。宿泊されているお客様に、大変人気があります」
興味が湧いてきたオレは、主人からさらに話を伺った。
それによると、どうやらこの宿屋には貸し切りのサウナがあるらしい。料金を支払えば、いつでも利用できるらしく、大人数で利用できるものから、少人数で利用できるものもあり、さらには部屋に個人用のサウナがついている部屋もあるらしい。全く気がつかなかった。
最も、オレとライラが宿泊している部屋は安いこともあり、サウナはついていないとのことだった。
しかし、オレはサウナが好きだ。
南大陸のスパで初めて体験したときから、オレはサウナがお気に入りになっている。
しかも貸し切りで入れるとなれば、人目を気にする必要もない。
ライラと2人っきりで、思う存分サウナを楽しめるぞ!
オレは部屋に戻り、ライラをサウナに誘うことにした。
「ライラ!」
オレが部屋に戻ってくると、ライラはベッドに腰掛けながら雑誌を読んでいた。
「ビートくん!」
ライラはすぐに雑誌を閉じて、オレに駆け寄ってくる。
「どうしたの?」
「ライラ、この宿にはサウナがあるんだって! 一緒に入らない!?」
オレはライラに訊いた。
すると、ライラはそれまでの嬉しそうな表情を曇らせた。
「サウナって……あのすごく暑い密室みたいなところでしょ? わたし、あんまり暑いのは……」
オレは予想と違う言葉がライラの口から出たことに、拍子抜けする。
これまで、オレの誘いには二つ返事で応じてきたライラ。
きっと今回も、オレの誘いに二つ返事で乗ってくるだろう。
オレはどこかでそう思っていた。
ふとオレは、スパでライラをサウナに誘った時のことを思い出した。
確かあの時も、暑いことを理由にライラは断っていた。
そうなると、やっぱりライラをサウナに誘うのは難しいかもしれない。
しかし、オレは諦めたくなかった。
サウナは、とても気持ちがいいものだ。それを是非、ライラにも知ってほしい。
オレはもう少しだけ、ライラを誘ってみることにした。
「ライラ、サウナっていいものなんだよ? オレはスパで初めてサウナに入ったけど、すごく身体が軽くなったし、それまでの旅の疲れもかなり抜けた。それに、ずっと暑い場所にいるわけじゃないんだ。水風呂とサウナを交互に出入りするのが、サウナなんだよ」
「ふぅん……そうなんだ。ずっと暑い場所にいるわけじゃないのね」
ライラの表情が、少しだけ明るくなる。
よし、これでライラと一緒に、サウナに入れる!
しかし、オレの考えは甘かった。
「うーん……でも、サウナって混浴でしょ?」
「えっ? 混浴?」
オレは目を丸くした。
確かに混浴のサウナもあるが、オレは同性しか入れないサウナにしか入ったことは無い。
「ビートくんと2人で入るならいいけど、ほかの男の人もいるんでしょ? わたし、ビートくん以外の男の人がいっぱいいる場所に入るのは、嫌なんだけど……」
ライラはそう云って、自分で自分の両腕を抱きしめる。
オレ以外の男で埋め尽くされている場所にいる自分を想像して、悪寒を感じたらしい。
しかし、それはあり得ないことだ。
なぜなら――。
「ライラ、ここのサウナは貸し切りサウナだぞ?」
まだ話していなかったな。
何を隠そう、ここのサウナは貸し切りだ。混浴などではないし、男女別にもなっていない。
入れるのは、サウナを利用している人だけだ。誰にも邪魔されることはない。
すると、オレの言葉にライラの耳がピクンと動いた。
直後、ライラはオレに驚いた顔を向ける。目の色が、明らかに変わっていた。
「ビートくん! それ、本当!?」
「ああ。宿屋の主人から聞いたから、本当だよ」
オレが答えると、ライラはすぐにバスタオルを手にした。
「じゃあ、入ろうよ!!」
「へっ? ライラ、本当に?」
ライラの発言に、オレは目が点になる。
「うん、入ろう!」
「ライラ、暑いの苦手じゃなかったっけ?」
つい先ほどまで、ライラが自らの口から放った言葉は、そうだったはずだ。
「水風呂にも入るじゃない! それに、ビートくんと一緒なら、暑くてもわたしは平気!!」
「そ……そう……」
そしてオレはライラに押される形で、ライラと共にサウナへと向かった。
服を脱いで、タオルだけを手に持ち、オレはサウナへと足を踏み入れる。
「おぉっ! 広い!!」
サウナの中は、20人ほどがくつろげそうな広さになっていた。隅には丸太を組んで作られたスペースがあり、内側には焼けた石の入ったコンロのようなものが置いてある。焼け石には一定の間隔で水が落とされ、蒸発して散っていく。あそこが、このサウナを熱くしている源だ。その証拠に、サウナの中はかなり熱く、焼け石が置かれている場所に近づくほど気温が上がっているように感じられた。
これだけのスペースを、貸し切りにできるなんて……!
オレはテンションが上がっていくのを感じた。
おかげでゆっくりと、人目を気にせず心行くまでサウナを満喫できるぞ!
そのとき、背後でドアが開く音がした。
振り返ると、身体にタオルを巻いたライラが、ゆっくりと入ってきた。
「すごい熱気……!」
ライラは後ろ手にドアを閉める。
「ビートくん、すごく熱いよぉ……」
タオル1枚だけを身体に巻いているライラは、曲線美を相当なまでに自己主張していた。
胸は大きく、Fはありそうだ。お腹から腰にかけては、細すぎず太すぎずといったちょうどいいほどにくびれている。そしてお尻も大きい。どうしても、オレはその3点に目が行ってしまう。
「でも、ビートくんとわたしだけだから、人目を気にしなくていいわね!」
「そ、そうだね……」
オレは別の意味で、身体が熱くなり始めていた。
オレとライラは、サウナの中でじっと座り、汗を流していた。
汗は大粒の水滴となり、次から次へと床に落ちていく。
熱い。なんていう熱さだ。
しかし、喉がヒリヒリするようなことはない。
サウナの中は水蒸気で熱されているから、湿度がかなり高いせいかもしれない。
「……ふぅ、そろそろ水風呂に入ろうか」
「うん!」
オレとライラは立ち上がり、外に出た。
そして身体の汗を流し、水風呂へとゆっくり浸かっていく。
「くああああ~~~~~」
「んう~~~~~~~」
水風呂に入ると、どうしても声が出てしまう。
それはオレだけでなく、ライラも同じなようだ。
「ふぁーっ、気持ちいいなぁ……」
「ビートくん、サウナがこんなに気持ちよかったなんて、知らなかったよぉ……」
「どう? オレがサウナに誘った理由、分かった?」
「すごくよく分かった!」
しばらくして水風呂から上がると、再びオレたちはサウナに入って汗を流した。
汗を流すと、また水風呂に入って熱くなった身体をクールダウンさせていく。
それを何度か繰り返した。
「ビートくん!」
水風呂から上がったライラが、タオルで身体を隠しながらオレを呼ぶ。
「もう1回、入ろうよ!!」
ライラはサウナを指していた。
「オレはいいけど、ライラは大丈夫?」
この時点で、オレたちはもう5回ほどサウナと水風呂を行き来していた。
もうそろそろ、上がって部屋に戻ってもいいだろう。
何事も、やりすぎるのは身体に毒だ。
「きっと、大丈夫!」
「じゃあ……あと1回だけな」
オレはそう云って、ライラと共に再びサウナの中に入った。
今から思えば、ここで強引にでもライラを連れ戻しておくべきだったのかもしれない。
サウナの中で座り、オレとライラは汗を流していく。
もう十分すぎるほど、汗は流した。
これ以上流したとしても、出ていくのは水分だけじゃないのか?
オレは隣にいるライラを見た。
もうそろそろ、サウナから出ようか。
そう声をかけようとしたときだった。
「ビートくん……」
ライラが、ゆっくりと近づいてきた。
スルリ。
なんと、ライラは自ら身体に巻いているタオルを外し始めた。
少しずつ、ライラの色白な肌があらわになっていく。
「ラッ、ライラ!?」
オレはライラの生まれたままの姿を見せられ、顔を紅くする。
何度も見てきたが、いきなり見せられるとさすがに動揺してしまう。
「ビートくん……!」
ライラの顔も、真っ赤になっていた。
まさか、ライラはこんなところで発情したというのか!?
だとしたら、それだけは絶対にダメだ!
ここは貸し切りになっているとはいえ、そういうことをしていい場所じゃない!
ライラを、なんとしてでも止めないと!
オレはそう思っていたが、そうではなかった。
「あ……熱いよぉ」
ライラは目をグルグルと回しながら、オレの前で倒れた。
「ライラ!?」
抱き起こしたライラの身体は、すっかり熱くなっていた。
これはヤバイ!!
オレはすぐさま、ライラの身体をタオルで包んだ。
ライラをサウナから運び出したオレは、脱衣所のベンチにライラを寝かせた。
幸いにも、まだサウナはオレたちの貸し切りになっているため、誰かが入ってくる心配はない。
ベンチに寝かせると、オレはタオルを濡らして絞り、それでライラの身体を拭いた。
これくらいしかできないが、応急処置としてはこれが限度だ。
しばらくすると、ライラはオレに顔を向けた。
「ごめんね、ビートくん……」
「ライラ、大丈夫?」
オレは再びタオルを濡らし、ライラの身体を拭いた。
「ありがとう、もう大丈夫よ。わたし、自分が熱さに弱いってこと、すっかり忘れちゃってた」
ライラは恥ずかしそうに云った。
「ごめんね、ビートくん。心配かけちゃって……」
「いや、オレの方こそゴメン。無理に誘っちゃって……」
「ううん、ビートくんは悪くないよ」
ライラはそう云うと、身体をベンチから起こした。
ハラリ、とライラの身体を覆っていたタオルが落ち、ライラの胸があらわになった。
「自分を過信しちゃった、私の責任だから」
「ライラ……」
「ビートくん、心配してくれてありがとう」
ライラは、笑顔でそう云う。
「ライラ……」
「ビートくん、顔が紅いよ?」
「ライラ、タオルが……」
オレが指摘すると、ライラは自分の身体を見た。
そこで初めて、ライラは自らが何もつけていない、生まれたままの姿であることに気づいた。
それに気づいたライラは、オレよりも顔を紅くした。
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