表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第2章
17/214

第16話 目標金額

 その日、オレがクエストを()えて戻って来ると、ライラがペンを手に、紙とにらめっこをしていた。

 その光景は、かつてオレがグレーザー孤児院でライラの勉強を見ていた時のことを思い起こさせた。


「ライラ、どうしたんだ?」

「ビートくん、良かったわ、ちょっと手伝って欲しいの!」


 ライラはそう云うと、紙を見せてきた。

 そこにはなんと、いくつかの計算式が書かれている。

 計算が苦手だったライラが、自ら進んで計算をするようになるとは思ってもみなかった。オレはライラの成長に目を見張(みは)る。


「この計算は?」

「お父さんとお母さんを探すために必要な、おカネの計算よ」


 その言葉に、オレは忘れかけていたライラの夢を思い出す。

 ライラの夢は、自分を捨てた両親に会うことだ。

 グレーザー孤児院にいたときに知った、ライラの夢。

 そしてオレはそのときに、手伝うと約束していた。


 ライラの表情は、真剣(しんけん)そのものだ。

 それはつまり、絶対に夢で終わらせず、現実のものにしたいという強い意志(いし)の表れでもある。


 婚約者の夢を叶えるために、オレも協力しないと。


「オレも手伝うよ」

「本当!?」

「孤児院で約束したじゃないか。ライラの夢を叶えるため、オレも協力するって――」

「……ありがとう、ビートくん」


 ライラはそっと、目元をぬぐった。



「……うーん、こりゃ相当な資金が必要になりそうだな」


 計算式でゴチャゴチャになり、真っ黒になった紙から顔を上げて、オレは(つぶや)く。

 4つの大陸のうち、どこにライラの両親がいるのかわからない以上、全ての大陸を回って調べる以外に方法は無い。

 そうなると必然的(ひつぜんてき)に、使う鉄道は大陸横断(たいりくおうだん)鉄道(てつどう)しかなくなる。

 そして唯一の大陸横断鉄道は、アークティク・ターン号のみだ。


 まず足となる、アークティク・ターン号の料金から見ていこう。

 幸いなことに、アークティク・ターン号の南の終点は、ここグレーザーの駅だ。他の街で乗るわけではないため、その分の交通費は浮く。

 しかし、アークティク・ターン号の料金は他の鉄道に比べてはるかに高い。


 アークティク・ターン号には、特等車(とくとうしや)、1等車、2等車、3等車の4種類がある。

 特等車は1両貸しきりで、上級(じようきゆう)貴族(きぞく)しか使えないくらいに高い。

 1等車は1人1部屋で、ベッドだけでなくトイレやシャワーもついているが、高い。

 2等車は2人1部屋で、ベッドとプライベート空間だけになっている。

 そして最も安いのが、3等車の4人掛けボックス席だ。

 だが、1番安い近距離用(きんきよりよう)の席であっても、金貨(きんか)5枚は必要になってしまう。

 4つの大陸全てを移動することを考えると、1番安い席で旅をするのは大変だ。

 最低でも、2等車以上を使わなくては休めない。

 2等車でも、1つの大陸を横断するのに大金貨(だいきんか)1枚は必要になる。

 4つの大陸全てを回るとなると、大金貨4枚は必要だ。

 毎日クエストをこなして、4か月くらいおカネを使わずに()めないといけない額だ。


 次に、食費だ。

 人族も獣人族も、食べないことには生きてはいけない。

 アークティク・ターン号には食堂車(しよくどうしや)売店(ばいてん)もあり、原則それを使うことになるが、利用するには当然おカネがかかる。

 1日に必要になるのが2人で大銀貨(だいぎんか)6枚だとしても、4つの大陸を横断すれば相当な金額になってしまう。


 消耗品(しようもうひん)や、衣服(いふく)の代金もそうだし、車内サービスなどを利用すれば――。


「……ダメだ、頭痛くなってきた」


 オレはこめかみに指を当てる。

 もしものときに使う金額を見積もっておいても、大金貨50枚は欲しい。

 オレとライラの年収がどれほどなのかは分からないが、毎日クエストをこなして数年分に匹敵(ひつてき)する金額ではある。

 簡単には用意できない。


「ライラ、こりゃ大金貨50枚は最低でも欲しい額になりそうだ」

「大金貨50枚!?」


 ライラも予想外(よそうがい)だったのか、声が大きくなる。


「そんなに、必要だったなんて……」

「もちろん、これより少なくすることもできるけど、そうするとアークティク・ターン号を使わないか1番安い席しか使えないから、相当過酷(かこく)な旅をすることになりそうだ」


 オレが云うと、ライラは黙り込んでしまった。

 無理もない。こんなにおカネが掛かるなんて、オレでさえ予想していなかった。

 協力するとはいえ、始める前から問題は山積(やまづ)みだ。

 しかもいきなり、簡単には解決できない問題が。


「……わかったわ」


 ライラはそう云うと、オレに顔を向け、微笑む。


「ビートくん、ありがとう。おかげで目標金額(もくひようきんがく)がはっきりしたわ」

「え?」

「わたし、頑張って大金貨50枚を貯めるわ」

「……えぇっ!?」


 オレは耳を(うたが)った。

 ライラの収入がどれほどのものなのか、詳しい所までは知らない。

 だが、そこまで多くは無いはずだ。あくまでも、レストランのウエイトレスである。

 身体を売ったりしているなら、話は別かもしれないが、そんなことはオレもライラ自身も許さないだろう。


「ライラ、大金貨50枚を貯めるのに、何年かかると思う?」

「すぐには貯められないことくらい、わたしでも分かる。でも、わたしはそれでも頑張っておカネを貯める。お父さんとお母さんに会うためなら、どんなにかかっても大金貨50枚を貯めるわ!」

「ライラ……」


 ライラは、本気(ほんき)なんだ。

 貯まるまでにどれだけ掛かるか分からない金額だというのに、それでも(あきら)めずに貯めていく決心をした。

 対して、オレは金額を見ただけで「解決するのが難しい問題」だと決めつけてしまった。

 婚約者(フイアンセ)の夢を叶えるために、協力すると云ったのに――!

 こんなことじゃ、婚約者失格(しつかく)だ。


 オレも覚悟を決め、口を開いた。


「オレも、これからクエストをたくさんこなして、おカネを貯めよう! 2人で協力すれば、大金貨50枚貯まるのも、かなり早まるはずだ!」

「ビートくん、気持ちは嬉しいけど、わたしの夢……それも(かな)うかどうか分からない夢のために、ビートくんが稼いだおカネまでつぎ込ませるなんて――」

「そんなことない! オレは云ったはず。ライラのお父さんとお母さんを探すのに協力するって。それに、ライラはオレの婚約者だ。婚約者の願いを叶えるために力を貸すことは当たり前だ」


 オレはそう云うと、今日のクエストで受け取った報酬から、大銀貨1枚を取り出す。


「無理することなく、毎日貯め続けて行こう」

「ビートくん……ありがとう」


 ライラは涙目になり、同じように自分の報酬から、大銀貨1枚を取り出した。


「明日から、今まで以上にクエストを頑張ろう!」

「うん!」


 オレとライラは、両手を取り合った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ