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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第13章
168/214

第166話 北大陸の港街ノルテッシモ

 北大陸の港町、ノルテッシモに到着したオレたちは、まず最初に腹ごしらえをした。


 ノルテッシモでは、北の海でしか採れない豊富な魚介類を使った海鮮料理が名物になっていた。

 オレたちは『海の幸食べ尽くしフルコース2人前』を注文し、温かい海鮮料理の数々に舌鼓を打っていた。


「美味しいな、この料理」

「ビートくん、これも美味しいよ!」


 オレはカキを食べ、ライラは白身魚を食べている。

 普段、魚をあまり食べないライラだが、今回だけは違うようだ。まるで大好物のグリルチキンを食べるように、次々に海鮮料理を口に運んでいく。


 他のテーブルを見ても、ほとんどの人が海鮮料理を食べていた。

 名物になる理由が、オレはなんとなくわかったような気がした。




 食事をしていると、聞き覚えのある音楽が流れてくる。

 小さいころに、オレはその音楽を何度か聞いたことがあった。


「これは……!」


 その音楽にライラも気づいたらしく、食事の手を止めて耳をピクピクと動かした。

 そしてその音楽の正体に気づき、口を開いた。


「ニコラウスソングじゃない!」

「久しぶりに聴いたな」

「グレーザー孤児院の時以来かしら?」

「それくらいは、経っていそうだな」


 オレたちは、その懐かしい音楽に耳を傾けた。



 ニコラウスソングは、北大陸で毎年冬に行われるニコラウス祭というお祭りの期間中、あちこちで奏でられる音楽だ。

 伝統的に歌われ続けているものから、最近流行になっているものまで、種類は多い。

 そのどれもが、オレたちには聞き覚えのある曲ばかりだった。


 これが流れてくると、ニコラウス祭が近づいていることを如実に感じ取れる。

 オレもライラも、ニコラウスソングが大好きだった。



「それにしても、いつ聴いてもいい曲ね」

「あぁ。癒されるなぁ……」


 耳に心地よいメロディーが、オレたちの耳をくすぐる。

 料理を食べ終えたオレたちは、そのメロディーに眠ってしまいそうになる。


「……って、眠っちゃダメだった!」


 オレは慌てて、伝票を手に取った。

 会計を済ませて、行かなきゃ!




 レストランから出ても、ニコラウスソングは街のあちこちから聞こえてきた。

 ノルテッシモの街を歩いているのか、ニコラウスソングの中を歩いているのか分からなくなりそうなほど、聞こえてくる場所まであった。普通の音楽なら、うるさいと思ってしまうこともあるかもしれないが、今のオレたちにはそうは感じられなかった。

 ニコラウス祭のムードが、ニコラウスソングによって作られつつあったためだ。


「どこに行っても、ニコラウス祭のムードが出てるわね」

「いいムードだな」


 オレは店先のディスプレイに目を向ける。

 赤と緑の電飾で、ニコラウス祭の雰囲気が出ていた。そこに流れるニコラウスソングが、それをより強調する。


 ノルテッシモの駅前にまで戻ってくると、あちこちで寄付を募っている人がいた。


「あっ、ビートくん! 募金やってるよ!」


 ライラが叫ぶ。

 これも見慣れた、ニコラウス祭の風物詩だ。


「慈善団体に、少しは寄付しておいたほうがいいかな?」


 オレは財布に手をかける。

 ニコラウス祭の期間中は、あちこちえ慈善団体が寄付を募っている。そんな慈善団体に賛同して寄付をすると、お礼としてクッキーとホットミルクがタダでもらうことができた。

 オレとライラが出たグレーザー孤児院も、そうした寄付があって成り立っている部分があった。


「ビートくん、それはいいことだと思うよ!」

「やっぱり、寄付していこうか!」


 オレは財布を取り出した。

 寄付する先は、もちろん決まっている。


 オレたちと同じような、孤児院を運営している慈善団体だ!!


 孤児院で育った者として、ここで寄付をしないという選択肢はない。

 たとえ少額であったとしても、寄付を待ち望んでいる子供たちはいる。

 そんな子供たちを、見捨てるようなことはできない!!


 少しでも、オレたちのおカネを――!


 そのとき、オレたちの前にミッシェル・クラウド家が現れた。


「やぁ、ビート氏にライラ婦人!」

「あっ、ナッツさん!! こんにちは!」


 オレとライラは、頭を下げる。


「ちょうどよかった!! セバスチャン、あれを!」

「かしこまりました、旦那様」


 ナッツ氏が、執事のセバスチャンに命じると、セバスチャンは大量のクッキーをどこからか持ってきた。

 なんだあの量は!?

 オレとライラは、その量に驚いて目を見開いた。いったい、どれほどの金額を寄付したのだろう?


「ナッツさん……これは……!?」

「はははっ! 実はあちこちで寄付をしたのだが、気が付いたらこれほどの量になってしまったんだ。よかったら、受け取ってほしい!」

「そんな!」


 オレは叫んだ。


「寄付もしていないのに、受け取れません!」

「そうですよ! それは寄付をした人がささやかなお礼として受け取るものです。私たちは、まだ寄付をしていないので受け取れません!」


 ライラもオレと同じ意見だ。

 しかし、ナッツ氏は頷かなかった。


「いやいや、いいんだ! お2人さんは寄付をしなくてもいいんだよ!」


 ナッツ氏の言葉に、オレたちは首をかしげる。

 寄付をしなくてもいい?

 それはどういうことだろう?


「お2人さんは、ライラ婦人の両親を見つけるためにおカネを使うべきだ。お2人さんの分は、私たちが代わりに寄付をしたとでも思ってくれたまえ!」

「だから、何も気にする必要はないわ」


 ココ婦人もそう頷く。


「それに、私たちはもうホットミルクを飲みすぎて、あと少しでお腹がゴロゴロしそうなんだ。クッキーが入る余地がない。私たちでは処理しきれないクッキーは、このままだと処分しないといけなくなってしまう。しかしそれは忍びない。だから、代わりに受け取ってほしいんだ!」


 こうしてオレとライラは、ミッシェル・クラウド家から大量のクッキーを半ば押し付けられるような形で、受け取ってしまうことになった。




 ミッシェル・クラウド家が居なくなった後、オレは両手で抱えたクッキーの袋を見てため息をついた。

 とても、自分たちだけでは食べきれない量だ。


「ライラ、食べれると思う?」

「ちょっと、多すぎるわよ……」

「そうだよなぁ……」


 グレーザー孤児院にいた頃は、おやつとして出されることも多く、みんな大好きだったクッキー。

 オレも好きだったし、今でも好きなことに変わりは無い。


 しかし、目の前に急に大量に現れたら、どうしていいのか困ってしまう。

 おまけに、今のオレたちは食事を終えた直後で、お腹は空いていない。


 捨てるのももったいないし、せっかくくれたミッシェル・クラウド家に悪い。

 さて、どうしたものか……。


「……ん?」

「ビートくん、どうしたの?」


 ライラが訊いてくると、オレは街角を見た。


「あそこ」


 オレの視線の先を、ライラは見る。

 そこには、何人かの子供たちがいた。着ている服はくたびれていて、あまり裕福そうではない。一目で貧しい子供であることが分かる。

 その子供たちは、じっとオレたちを見ていた。

 いや、より正確にはオレたちではなく、オレが持っているクッキーを見ていた。


「ライラ、どうやらクッキーの貰い手が見つかったみたいだ」

「ビートくん……!」


 ライラの表情が明るくなり、オレは頷く。


「オレたちじゃ、食べきれない。このクッキー、あの子たちにあげよう!」

「うん! わたしも手伝うよ!!」


 ライラはオレの手から、半分ほどクッキーを持っていく。


 オレたちは子供たちに近づいていき、クッキーを配り始めた。

 最初は遠慮していた子供たちだったが、1人がクッキーを手にしてかじると、次々に子供たちが群がってきた。ホットミルクは無かったが、ニコラウスからのプレゼントだと云って、子供たちは大喜びしていた。

 笑顔でクッキーをかじる子供たちを見ていると、オレたちのしていることが間違っていないことを確かに感じ取れた。


 大量にあったクッキーは、子供たちによって順調に減っていき、子供たちがいなくなるころには、わずかな量がオレたちの手元に残された。


「……ビートくん、余った?」

「ほんの少しだけ。ライラは?」

「わたしのも、少しだけ余った」


 オレたちの手元に残ったクッキーを合わせると、ちょうど少しつまむにはいい量が残った。


「これ、どうする?」

「これは、オレたちが食べよう。だいぶ身体も冷えちゃったし、何か温かいものでも飲みながら、列車でクッキーをいただこう」

「賛成!」


 クッキーを1つの袋にまとめると、それを持って、オレたちはノルテッシモの駅へと向かっていく。

 途中、ライラがオレの手を握ってきた。


「ビートくん、だいぶ手が冷えちゃったね」

「寒かったからなぁ。ライラの手も、冷えたね」


 オレたちは、お互いに手を握り合って温め合った。




 駅前でクッキーを子供たちに配っている少年と少女を、1人のコートを着た男が見つめていた。

 子供たちはクッキーに夢中になり、無邪気な笑顔を見せながらクッキーを口に運んでいく。

 子供たちがいなくなると、少年と少女は残っていたクッキーを1つの袋にまとめ、何かを話し合ってから手をつなぎあい、ノルテッシモの駅へと向かって歩いていく。そして駅の中へと入っていった。


「……クッキーの配布だと?」


 男は、そう呟いた。


「……ニコラウスの真似事でもしているというのか? 愚かな」


 男は路地裏から出てくる前に、帽子を目深にかぶりなおした。


「ビートにライラ……」


 そして駅前で子供たちにクッキーを配っていた少年と少女の名前を呟くと、ノルテッシモの駅へと向かって歩み始める。




「美味しい!」

「うん、美味しいクッキーだ!」


 オレとライラは、個室でホットココアを飲みながらクッキーを食べていた。

 ホットココアは冷え切った身体を温めてくれ、クッキーはお茶請けとしてちょうどいい甘さだった。


「なんだか、グレーザー孤児院のころを思い出すね! 毎年、ニコラウス祭のころになると、こうしてホットココアとクッキーがハズク先生から配られていたね!」

「そうだな。懐かしいな……」


 ホットココアの湯気の中に、ハズク先生の表情を垣間見たような気がした。

 ライラの両親が見つかったら、必ずハズク先生に手紙を書こう。


 オレとライラはクッキーとココアを、残すことなく平らげた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は10月27日21時更新予定です!


いよいよ最後の舞台である、北大陸へとやってきました!

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