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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第12章
167/214

第165話 北大陸への入り口

 夕陽の中を、アークティク・ターン号は進んでいく。


 そしてついに、オレたちはアークティク・ターン号に乗ったまま、最後の大陸間鉄道橋に突入した。

 東大陸の北端と、北大陸の南端に架けられた大陸間鉄道橋は、北大陸へと通じている唯一の鉄道橋だ。

 これを渡らないで北大陸へ鉄道で上陸する方法は、存在しない。


 そして、この大陸間鉄道橋を渡り終えたら、その先は北大陸だ。

 そう思うと、オレの胸は高鳴りを抑えきれなくなる。




「この先に見える巨大な陸地が、北大陸か」


 オレは個室の窓から前方を見て、呟いた。

 夕陽で紅く染まる世界の中、列車が走っていく方向には巨大な陸地が見えていた。


 あの陸地こそ、北大陸だ。


 オレとライラが目指してきた大陸。

 アークティク・ターン号の終着駅、サンタグラードがある場所。

 そして、銀狼族の故郷である銀狼族の村がある場所。


 オレたちがアークティク・ターン号に乗り続け、やっとたどり着いた場所だ。


「ビートくん、わたしたち……いよいよ最後の大陸に来たのね……」


 ライラが、オレの隣に来てそう云う。


「あぁ。長かったな」

「お父さん……お母さん……」


 ライラの声が、少しだけ鼻声になっている。

 そのことに気づいたオレは、そっとライラの肩を抱いた。


「ライラ、心配しなくても大丈夫だ」


 オレはライラにそう優しく云う。


「オレが絶対に、ライラをライラの両親のところまで連れていくから。それに、オレだってライラの両親に会いたい」

「ビートくん……」


 ライラはそっと、目に浮かんでいた涙を拭った。

 そして、満面の笑みをオレに向けてくる。


「ありがとう! 大好き!!」

「だ、大好きだなんて……嬉しいなあ」


 そのときのオレの顔は、夕陽のように真っ赤になっていたはずだ。

 体温だって、暖房がオンになっていないのに、寒さを感じないほどだったから。




 アークティク・ターン号は、大陸間鉄道橋の中間あたりに差し掛かっていた。


 夕陽が沈みゆく中、オレは窓を開けてみた。

 眼下には、北大陸の港と東大陸の港を行き来する船が海の上に浮かんでいる。


「船が見えるな」

「ひいっ、高い!!」


 下を見たライラは、少しおびえたように叫んだ。

 橋の上から水面までは、かなりの高さがある。眼下に見える船は、オレたちのいる場所からは木の葉ほどの大きさにしか見えないが、実際にはとても大きい船だ。

 確かに、これほどの高さならおびえるのも無理はないかもしれないな。


「……ねぇ、ビートくん」


 眼下を行き交う船を見たライラが、オレに訊いた。


「北大陸と東大陸の間には、こうして鉄道があるのに、どうしてわざわざ船を使ったりするのかしら?」

「確かにな。船は日数が掛かるし、港と港の間じゃないと運べない。それに荷物や人を水揚げといって、船から陸地に上げないといけない。陸路で運べるのなら、そっちのほうが早いし、水揚げする必要もないもんな」


 しかし、オレはかつて鉄道貨物組合で働いていた。

 だからこそ、知っていることもあった。


「でも、実は船が鉄道に太刀打ちできることもあるんだ」

「本当!?」

「船は、鉄道よりも大量の荷物を運べるんだ」



 かつて、先輩のエルビスから聞いたことがあった。

 まだオレが、鉄道貨物組合で働くようになって間もないころのことだ。


『ビート、この世で一番の輸送手段ってのは何か知っているか?』

『鉄道ですよね!?』

『違うな』

『えっ、違うんですか!?』

『答えは、一番の輸送手段なんてものは、無いんだ』

『どういう意味ですか?』

『それぞれに、最も適した輸送手段を使い分けるのが、賢いやり方だ』


 エルビスはそう云って、それぞれの輸送手段の利点と欠点を、オレに教えてくれた。



「船はこの世に存在する輸送手段の中で、最も速度が遅いが、最も大量の荷物を運ぶことができる。だから運送費が安く済むんだ。食べ物とか、あちこちの大陸で安く買える商品があるだろ? それはほとんどが船で運ばれているからなんだ」

「そうなんだー。全然知らなかったよー!」


 ライラは目を丸くしていた。

 受け売りの知識だが、役に立ったな。色々と知っていると、どこで役に立つかわからないもんだ。


 オレはエルビスに心の中で感謝した。




 アークティク・ターン号が、北大陸へと近づいていく。先頭を走るセンチュリーボーイが汽笛を鳴らし、列車が大陸間鉄道橋の半分を過ぎたことを知らせてくる。


 すると、急に空が曇りだし、気温が下がってきた。


「うっ、寒い!!」


 オレは寒さを感じ、慌てて窓を閉めた。


「すっかり寒くなったなぁ」

「ビートくん、寒い時には温かい食べ物が一番よね。今夜は、シチューにしよっか!」


 ライラからの提案に、オレは二つ返事で頷いた。


「賛成! シチューにしよう!」


 まさかライラから、シチューにしようという言葉が聞けるとは思わなかった。


「それじゃ、そろそろ夕食の時間だし、食堂車に行こうよ!」


 ライラの言葉で、オレたちは個室から出て食堂車に向かう。

 食堂車に向かう途中の廊下も、ずいぶんと気温が下がっていた。

 オレは外だけでなく、アークティク・ターン号の廊下でも防寒着が手放せなくなってしまった。


 食堂車に入り、オレとライラはウエイターに2人分のシチューを注文する。


「しっかし、寒くなってきたなぁ……」

「そう? でも、シチューを食べたらきっと温まるよ!」

「シチューは、内側から温めてくれるからな。早く、食べたいよ」


 しばらくして、オレたちの目の前にシチューが運ばれてきた。

 湯気を立てるシチューは、見ただけで冷えた身体を温めてくれそうだ。


「ビートくん、冷めないうちに……」

「もちろん!」


 オレはすぐに、スプーンを手にした。


 ゆっくりと、しかし冷めないうちにオレたちはシチューを味わった。




 食事を終えたオレたちは、個室に戻ってきた。

 すでにシャワーは浴びた。後は、眠くなってきたら寝るだけだ。


 しかし、オレは眠くなってくる前にベッドに入ってしまった。


「うう、寒いなぁ……!」


 オレはベッドの上で厚めの毛布に包まりながら云う。

 どうして、こんなにも寒いのか?

 その理由は分かっている。


 アークティク・ターン号の暖房が、まだ機能していないからだ。


 北大陸に入ったら、自動で列車全体に入ることになっていると、ブルカニロ車掌から聞いていた。

 しかし、今はまだ大陸間鉄道橋の上だ。

 まだ暖房は機能しない。たとえどれだけ寒くても、だ。


「ビートくん、寒がりなのねぇ……」


 ライラが、毛布に包まれているオレを見て呆れたように云う。


「温かい紅茶が飲みたいよ……」

「紅茶はないけど……そうだ!」


 すると、ライラがベッドに入ってきた。


「えへへ、ビートくん!」

「あうっ!」


 ライラが抱き着いてきて、オレは声を上げる。

 柔らかいライラの身体が、オレに絡みついてくるようだった。


「らっ、ライラ! 悪いけど、今日は――」


 また、搾り取られるのか。こんな寒い中で。

 オレが困っていると、ライラが口を開いた。


「違うの! こうすると、温かいでしょ?」


 ライラの言葉で、オレは初めてそのことに気づかされた。


 確かに、肌と肌が触れ合うことで、オレはライラのぬくもりを感じることができる。

 ライラから確かに伝わる、体温。

 オレの頭の中にあった邪な考えは、スッと消えていった。


 肌と肌で温め合う。

 最も原始的だけど、確かに効果がある方法だ。


「……ありがとう、ライラ」

「わたしのぬくもりは、ビートくんだけのものよ」


 ライラはオレを優しく抱きしめながら、そう云ってくれた。

 オレはライラに抱きしめられながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。




 そしてオレたちが眠っている間に、アークティク・ターン号は北大陸に上陸した。




 第12章~カルチェラタンと北大陸上陸編~完




 第13章へ続く

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は10月26日21時更新予定です!


これにて第12章も終わりです!

次回からはいよいよ、第13章に突入します!


北大陸に上陸し、終点が目前に迫ってきます。

果たしてビートとライラは、北大陸でライラの両親に会うことはできるのでしょうか!?

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