第160話 銀狼族は生存している
「それではまず、銀狼族について説明しようと思うが、いいかね?」
「はい!」
「もちろんです!」
オレとライラは、二つ返事で答える。
ケイロン博士はそれを見て、ゆっくりと頷いた。
「わかった。銀狼族は獣人族の1つの種族であり、少数民族だ。数はそんなに多くは無い。そしてそのほとんどが、北大陸の奥地で暮らしている。外見の特徴としては、白銀に輝く美しい髪を持ち、狼の耳と尻尾を持っている。そしてなおかつ、美男美女がとても多い。ここまではいいかな?」
「「はい!」」
オレとライラは答える。ライラもオレも、ちゃんと知っていることだ。
「次に、内面的な特徴だ。銀狼族の特徴としては、好きになった相手には生涯をささげるほど尽くすことがまず挙げられる。一度つけた婚姻のネックレスは、何があろうと外さないし、好きになった相手のどんな要求にも応じようとする。男性の場合は、どんな苦難にも耐え抜く。女性の場合は、好きになった相手の子供を産みたいと強く望む。どんな繋がりよりも、確かな絆を求め、大切にする。それが銀狼族の本能といわれている。これはほかの人族や獣人族にはなかなか見られないことだ。人族や獣人族の多くは、個人の性格や育った環境、他人との信頼関係で好きになった相手に尽くす者も現れる。しかし銀狼族は好きになった相手は、どんな相手でも尽くそうとすることだ。特に結婚すると、よりそれが顕著になる。ここまではいいかな?」
すると、ライラが口を開いた。
「それ、すごくよく分かります! わたしもビートくんには、なんだってしてあげたいと思うんです!」
「ちょ、ライラっ!!」
オレは顔を紅くしてしまう。今、そんなことをケイロン博士に告白してどうするんだ!?
ライラの言葉を聞いたケイロン博士は、ころころと笑った。
「うむ。確かにライラさんは銀狼族だ」
ケイロン博士はそう云うと、イスに座りなおした。
「さて、ここからは2人から質問を出してもらって、それに対して答える形式でいこう。まずはどんなことが訊きたい?」
「銀狼族が、全滅したという話を聞いたことがあるのですが、それって本当なんですか?」
オレは、間違いだろうと思いながらも、その疑問をケイロン博士にぶつけた。
ケイロン博士は不思議そうな顔をした。
「いったい、誰がそんなデタラメなことを云ったんだ? それは嘘だよ。銀狼族は、全滅などしていない」
ケイロン博士は、キッパリと否定した。
「全滅していないのですね!」
「もちろん。銀狼族は、今も北大陸の奥地にある銀狼族の村で暮らしている。銀狼族は少数民族なうえに、ほとんどが北大陸の奥地にある銀狼族の村から出てこない。だからそんなウソの情報が出回っているのかもしれないな」
ケイロン博士の言葉に、オレとライラは喜んだ。
「ビートくん!」
「ライラ、これで両親に会える確率が上がったな!」
オレとライラが落ち着きを取り戻すと、再びケイロン博士が口を開いた。
「他に訊きたいことは、あるかな?」
「銀狼族の村には、どうやったら行けるんですか?」
ライラの問いに、ケイロン博士は頷く。
「うむ。いい質問だね。先ほども云ったように、銀狼族は少数民族かつ、ほとんどが北大陸の奥地にある銀狼族の村から出てこない。最寄り駅はサンタグラードだが、銀狼族の村に鉄道は通じていない。陸路で向かうしかないが、それには険しい道を乗り越えなくてはならない。険しい道の間には、常に吹雪が吹き荒れている地域だってある。簡単にはたどり着けないんだ」
「そ、そんな……」
「だから、銀狼族の村にたどり着いて、銀狼族と会うことは難しいんだ」
ケイロン博士はそう云って、紅茶を一口飲んだ。
「さて、お次は?」
「ケイロン博士は、銀狼族にあったことがありますか?」
「あぁ、もちろんだ。銀狼族の中には、稀にライラさんのように銀狼族の村以外で暮らしている者もいる。しかし、それは非常にレアなことだ。滅多にいない。ほとんどの銀狼族は、銀狼族の村で生まれ、銀狼族の村で育ち、銀狼族の村でその生涯を終える。実は私も、この前のフィールドワークで銀狼族の村を訪ねたんだ」
すると、その言葉を聞いたライラが、耳をピンと立てた。
「ほっ、本当ですか!?」
ライラはイスから立ち上がり、耳だけでなく尻尾までもピンと立てながら、テーブル越しにケイロン博士に近づく。
「わ、わたしのお父さんとお母さんは!? 見ていませんか!?」
「い、いや……ライラさんのお父さんとお母さんがどんな人か、私は知らないから……なんとも云えないよ」
「そうですか……」
ケイロン博士の返答に、ライラはガッカリする。
「らっ、ライラさん! 席についてください! はしたないですよ!」
「後ろ! パンツ! パンツが見えてるぜ!!」
オレたちの背後にいた、ダイスとジムシィが指摘する。
それを聞いたライラは顔を真っ赤にして、慌ててイスに座りなおした。
「ライラ、そこはオレたちで見つけないと。ケイロン博士は、あくまでも研究が仕事だ。オレたちじゃないと、できないことだ」
オレがそう説得すると、ライラは頷いた。
「うん。そうだったわ! お父さんとお母さんは、わたしたちで見つけるって、ビートくんと約束したんだった!」
どうやら、納得してくれたようだ。
オレはそっと胸を撫で下ろした。
それから、オレたちはいくつもの質問をケイロン博士に投げかけ、ケイロン博士から銀狼族についての様々なことを教わった。
知っていることも多かったが、かつては狩猟採集を中心とした生活をしていたことから、肉料理が好きであること。ログハウスの家に住み、家族単位で生活をしていること。銃の扱いがうまい者が多いこと。満月の明かりの下で愛を告白すること。……知らないことも数多くあった。
オレはメモ帳を開き、知らなかった銀狼族の情報を次々にメモしていった。
「さて、他にどんなことが訊きたい?」
「えーと……」
ケイロン博士の言葉に、オレはチラッと横にいるライラを見た。
ライラは視線を上に向けている。何か聞きたいことがないが、必死で探しているみたいだ。
オレも何か、聞きたいことがあったはずだ。
しかし、こういうときに限って、なかなかすぐには出てこない。
あぁ、もどかしい!
「ビートにライラ、焦らなくてもいいぞ」
後ろにいたダイスが、そう云った。
オレはダイスに振り向く。
「ケイロン博士は待ってくれるから」
「あぁ、ありがとう……」
ダイスとジムシィからも、色々な情報を貰ったなぁ。
思えば、旅をするようになってから、銀狼族の情報を最もよく知っていたのは、ダイスとジムシィだったかもしれないな。
サンタグラードに、確かガイドがいると云っていたのも――。
……ん? ガイド?
「ーーそうだ!」
オレは思い出した。
ダイスから聞いた、本当なのか是非確かめたいことを。
「ケイロン博士! サンタグラードには、銀狼族のガイドがいると聞いたことがあるのですが、それって本当ですか!?」
それは、かつてミーヤミーヤでダイスから聞いていたことだった。
『心配することはない。銀狼族の村まで案内してくれる、ガイドとなってくれる銀狼族が、サンタグラードにいると聞いたことがある。まずはサンタグラードまで行って、ガイドの銀狼族を探すのが近道だ』
ダイスのことを疑っているわけではないが、裏が取りたかった。
銀狼族のガイドが本当にいて、もしもケイロン博士が知っているのなら、紹介してほしい。
オレが質問すると、ケイロン博士は頷いた。
「ガイドの銀狼族のことか。確かに、ガイドはいる」
ケイロン博士は、再び紅茶を一口飲んだ。
「正確には、連絡員というんだ」
「連絡員……ですか?」
オレが復唱すると、ケイロン博士は頷いた。
「うむ。連絡員は、銀狼族の中でも優秀な者でないとできないとされている、名誉ある職業だ。銀狼族の村とサンタグラードを往来して、銀狼族の村に情報を持ち込んだり、生活必需品や物資、郵便物を運ぶなど、銀狼族の村にとっては無くてはならない存在だ。まさに生命線ともいえる職業だ。これは銀狼族の村にしかない職業なんだよ」
「どうして、銀狼族の村にしかないんですか?」
「いい質問だね」
ライラの質問に、ケイロン博士は満足そうな顔をする。
「なぜ銀狼族の村にしかない職業なのか? それは銀狼族の村が北大陸の中でも離れた場所にあり、かつ閉ざされた場所にあるからこそ必要とされ、発達してきたんだ。銀狼族の村を取り囲む豪雪地帯を見回り、遭難している人が居たらサンタグラードまで送ったり、奴隷商人としてやってきた者に対して警戒したりする。これはすべて、銀狼族が危険な目にあったりしないことと、味方となってくれる存在を増やして自分たちの安全をより強固なものにするためなんだ。だからこそ、連絡員は優秀な者しかできない名誉な職業なんだよ」
「その連絡員を、紹介してください!」
オレはケイロン博士に向かって、頭を下げた。
銀狼族の連絡員。銀狼族の中でも優秀な人なら、ライラの両親を見つけるために力になってくれるはずだ。ガイドが味方になってくれれば、後は銀狼族の村に案内してもらうだけ。そうなれば、もうライラの両親は半分、見つかったようなものだ。
このチャンスは、絶対に逃すわけにはいかない!
「サンタグラードのどこに行けば会えるのか、教えてくれませんか!?」
きっと、ケイロン博士なら教えてくれるはずだ。
ここまで色々と、銀狼族の情報を教えてくれたのだから。
「……申し訳ないが、それはできない」
しかし、そんなオレの思いとは裏腹に、ケイロン博士からの答えは素っ気ないものだった。
「そんな! どうしてですか!?」
ケイロン博士の答えに納得できず、オレは問いかける。
答えられないのなら、その理由が知りたかった。
「せめて、理由を教えてください!」
「わかった。基本的に連絡員は、人前に姿を現さないようにしているんだ」
その言葉に、オレは首をかしげる。
それが、連絡員を紹介できない理由なのか?
あまり納得がいかなかった。
「それが、理由なんですか?」
「いや、まだ話は終わっていない。落ち着いて、最後まで聞いてくれ」
ケイロン博士の言葉に、オレは言葉を飲み込んだ。
「銀狼族はただでさえ、奴隷として狙われやすい。もしも、連絡員の居場所が割れて、そこに悪意を持った者が押しかけたらどうなると思う? もしも奴隷商人だったら、銀狼族全員が奴隷にされてしまうかもしれないんだ。ビートくんが悪意のある者に話すとは考えていない。だが、人の話はどこで誰が聞いているのか分からない。壁に耳あり障子に目ありだ。だから、最悪の事態を防ぐために、連絡員と約束したんだ。居場所は決して口外しないとね」
ケイロン博士は、そっと息を吐いた。
「申し訳ないが、連絡員を紹介することはできない。どうしても会いたいというのなら、自力でサンタグラードの街で連絡員を探してほしい」
「そんな……」
ケイロン博士の言葉に、オレはガッカリする。
しかし、そこまでだったら、まだよかったのかもしれない。
この後、ケイロン博士から云われた言葉に、オレたちは完全に沈黙することになってしまったからだ。
「それに……」
ケイロン博士は、ガッカリするオレたちに向けて、確かにそう云った。
「銀狼族の村に行くことは、正直云うとオススメできない」
「えっ……?」
オレの頭の中は、真っ白になった。
隣にいるライラも、言葉を失っていて、ただ茫然としているだけだった。
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次回更新は10月21日21時更新予定です!
大変お待たせいたしました!
本日より連載再開します!
前回は突然の休載になってしまい、申し訳ありませんでした!
なるべく毎日更新を心がけてきましたが、やむを得ず一時更新をストップしなくてはなりませんでした!
楽しみにしていただいていた皆様には、大変申し訳ありませんでした。
今後とも、ルトくんをよろしくお願いいたします!
活動報告を更新しました!
コメントへの返信は、活動報告にて行っております。





