表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第2章
16/214

第15話 才能の目覚め

 オレはその日も、鉄道貨物組合(トランスギルド)でクエストを受けてクエストをこなしていた。

 かなりの数のクエストがあり、オレはライラに渡す婚姻(こんいん)のネックレスを作る資金を得るため、少々多めのクエストを()()っていた。

 クエストを多く請け負い、多くこなすほど、オレに入ってくる収益(しゆうえき)は増える。


 ライラは今も婚約(こんやく)のネックレスを肌身離(はだみはな)さず身につけている。

 しかし、ずっとそのままというわけにもいかない。

 ちゃんとした婚姻(こんいん)のネックレスを渡さないことには、結婚したとは認められない。

 だからあくまでも、今はまだ婚約中(こんやくちゆう)だ。


「ライラ、待ってろよ。すぐに婚姻のネックレスを贈るからな……」


 オレは婚姻のネックレスを作ることばかり考え、クエストを消化していく。



 そのとき、悲鳴が上がった。


「キャーッ! 泥棒(どろぼう)ーっ!」


 駅の構内に響いた女性の声に、ほとんどの人が振り返る。

 オレもその声に驚いて、振り向いてしまった。


 1人の男が、何かを抱えてこちらに向かってくる。

 あの男が泥棒だというのなら、抱えているものは、女性から奪ったものに違いないだろう。

 すぐに、3人の労働者たちがその男に向かって行った。


「止まれっ!」

「ここまでだっ!」

「大人しくお縄につけっ!」


 しかし、屈強な労働者たちの間をすり抜けるように、男は逃げる。

 向かって行った労働者は、3人とも正面衝突(クラツシユ)して倒れた。


「どけっ!」

「待てコラ!」


 誰もが泥棒を捕まえようとするが、泥棒は全くといっていいほど捕まらない。

 これはかなり手ごわい相手だと、オレは思った。


 他の労働者が泥棒を捕まえようとして、失敗した。

 なら、オレが捕まえなければ!


 オレはポケットに手を入れ、1枚の大銅貨(だいどうか)を取り出した。

 そして大銅貨を握りしめると、泥棒を睨む。


「これでも、くらえっ!」


 オレはボールを投げるように、銅貨を投げる。

 オレの手を離れた銅貨は、吸い寄せられるように、泥棒へと向かって飛んでいく。


「んがっ!?」


 そして信じられないことに、オレの投げた銅貨が、泥棒の額に命中した。

 突然のことに驚いた泥棒は、避けるはずだった木箱に足を当ててしまい、そのまま前のめりにホームへと倒れ込んだ。

 抱えていたものが転がり、オレの足元(あしもと)へと飛んでくる。

 女物のバッグだった。

 オレはそれを拾い上げた。


「でかした! ビート!」


 エルビスの声が、ホームに響く。

 エルビスは泥棒が立ち上がる前に、仲間の労働者と協力して泥棒を縄で(しば)()げた。

 荷物を崩さないように積み上げ、縛る技術においてはグレーザーで右に出る者がいないエルビスの縄縛(なわしば)りは、簡単には()けない。


「こいつは俺達にまかせとけ! お前はその荷物を()られた人に返してくるんだ!」

「はい!」


 オレはすぐに泥棒被害にあった女性を見つけ出し、駆け寄った。

 そして、女性に奪われたバッグを差し出す。


「こちら、お返しします」

「ありがとうございました!」


 女性はオレに頭を下げてから、バッグを受け取った。

 そしてすぐに、中身(なかみ)を確認する。


「中身も無事です。本当にありがとうございました!」


 その後、オレは駆けつけた騎士団(きしだん)から女性と共に事情聴取(じじようちようしゆ)を受け、エルビスたちと共に泥棒の身柄(みがら)を引き渡した。

 この後、泥棒は取り調べを受け、裁判所(さいばんしよ)がある街まで運ばれることになるのだろう。

 事情聴取が終わると、オレはクエストを消化するために、ホームへと戻った。



「今日は大変でしたね」


 鉄道貨物組合の受付で、受付嬢(うけつけじよう)が云った。

 泥棒の話が、こちらまで伝わっているようだ。


「でも、ビートさんの活躍で、無事に泥棒が逮捕されたそうで」

「いや、オレはただ大銅貨を投げたら当たっただけで、実際に捕まえたのはエルビスさんたちですよ」

「ビートさんが大銅貨を投げなかったら、それもできなかったかもしれません。自分に自信を持ってください。はい、これがクエスト達成報酬です」


 オレは受付嬢からクエスト達成報酬を受け取り、鉄道貨物組合を後にした。

 そんなこんなで、オレがやっとアパートに帰れたのは、いつもより遅くなってしまった。




「ただいま」

「お帰りなさい!」


 アパートに戻って来ると、ライラが待ってましたとばかりに抱き着いてくる。


「ビートくん、わたし見てたよ!」

「あぁ、昼間の泥棒騒ぎのこと?」


 ライラは首を何度も(たて)に振った。


「もちろん! ビートくん、泥棒捕まえるなんて、カッコ良かったよ~!」

「捕まえたのはオレじゃなくて、エルビスさんだけどな」

「違うよ! ビートくんだよ! ビートくんがあのとき大銅貨を投げなかったら、きっとそのまま逃げられていたはず! だから本当はビートくんが最大の功労者よ!」


 受付嬢さんが云っていたことと全く同じことを、ライラは云った。

 そこまで活躍したとは、どうしても思えない。

 オレがやったことは、ただ単に大銅貨を投げただけだ。そしたら偶然にも、当たってしまった。

 大銅貨なんて、小さな子どもでも小遣いで貰うことがあるくらいだ。珍しくもなんともない。


 夕食の後になっても、ライラは俺のことをスゴいスゴいと云っていた。

 このままだと、夢に出そうだ。


「単なる偶然(ぐうぜん)だよ。大銅貨なんて、誰でも持っているし……」

「でも偶然にしては凄すぎない? 1回投げただけで当てるなんて、神業(かみわざ)かも?」


 すると、ライラは離れた机の上にコップを置いた。

 そして袋から大銅貨を取り出し、オレに渡してくる。


「ビートくん、あのコップに大銅貨を投げてみて」

「えー、なんで?」

「いいから、いいから!」

「……じゃあ、1回だけだぞ」


 オレは承諾(しようだく)すると、大銅貨を(ちゆう)へと放り投げる。

 大銅貨は、まるで引き寄せられるように、コップの中に落ちて音を立てた。


 一部始終(いちぶしじゆう)を見ていたライラは、唖然とする。


「び、ビートくん! 今の見た!?」

「見てたけど……すごいな、偶然って重なるんだな」

「お願い! もう1枚投げてみて!」


 ライラは、袋からさらに大銅貨を取り出す。

 1回だけって、云ったはずだけどなぁ。

 そう云いながらも、オレは大銅貨を受け取り、再び投げる。

 全く同じように、コップの中に大銅貨が落ちた。


「すっごーい!」


 ライラがコップの位置を変えても、結果は同じだった。


「ビートくん、百発(ひやつぱつ)百中(ひやくちゆう)!」

「こんなの、何の役にも立たないよ」

「そんなことないよ! きっと役に立つ時が来るはずだから!」


 ライラのその根拠(こんきよ)のない自信はどこから来るのか。

 相変わらずオレに対して絶大な信頼を持っている婚約者(フイアンセ)に、オレは苦笑した。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ