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幼馴染みと大陸横断鉄道  作者: ルト
第11章
157/214

第155話 ダイナマイト

 エクロ渓谷を、アークティク・ターン号は抜けて進んでいく。

 その後、外に広がっているのは、森だけになった。


 そんな中、オレはライラの運動に付き合っていた。

 ライラは雑誌で見た運動不足を解消するための運動をしていて、オレはライラが連続して行うその運動を何回行ったのか、そのカウントを任されていた。

 肌着姿で、ライラは同じような運動を何度も繰り返す。


「……48……49……50!」

「疲れたぁ……!」


 オレが50回目を数えると、ライラは運動を中断する。肩を上下させながら、大きく息をしていた。

 この運動は、50回で区切りがつくように行うことになっている。


「ビートくん、どうして同じ運動をしているのに全然疲れていないの……?」


 ライラがその運動をする前に、オレも同じように50回運動をしていた。

 しかし、オレはほとんど疲れを感じなかった。


 オレには心当たりがあった。


「オレがよく筋トレしている理由、わかった?」

「筋トレが原因だったの……?」


 ライラはそう云って、オレの隣に腰掛ける。

 ふと、ライラの汗の匂いがオレの鼻孔をくすぐった。


 オレはごく自然に、ライラの髪を手にすると匂いを嗅いだ。

 とても、いい匂いがする。


「もうっ、ビートくんったら……!」


 ライラが少し困った表情で、匂いを嗅ぐオレを見て云った。

 あぁ……我慢できない……!


「……って、今はダメ!」

「あうっ!」


 オレはライラから軽く手を叩かれる。

 ライラの太腿に、自然と腕が伸びていた。


「ゴメンね。今はまだ、そういう気分になれないから……」

「わかったよ、ライラ」


 ライラに強要することはできない。

 オレは大人しく、手を引っ込めた。




 お昼が近づいた頃。

 オレとライラは早めのお昼を食べに、食堂車に入った。


 そのとき、敵意のある視線がオレたちに向けられてきた。


「ビートくん……」

「ライラ、気にしたら負けだ」


 それがどこから来ているのか、オレたちはすぐに分かった。


 スティーブンの取り巻きをしていた、あの女性たちだ!


「無視するんだ。視界に入っていないかのように」

「うん……!」


 スティーブンが居なくなってから、取り巻きの女性たちはスティーブンがいなくなる原因となったオレたちを敵視していた。


 しかしオレたちは、それに対して無視をするという対策でしのいでいた。


「ご注文は?」

「季節の野菜が入ったパスタ2人前で」


 ウエイターに料理を注文するときにも、向けられてくる敵意しかない視線を、オレたちは無視した。

 直接危害を加えてこないのなら、こちらから攻撃するようなことはしない。

 火種をこちらから大きくするようなリスキーなことは、オレたちはしたくなかった。


「ビートくん、お昼を食べた後は何をする?」

「本を読もうかな。図書館車で借りてきて、読みかけの本がまだあるから。ライラはどうする?」

「わたしはもう少しだけ、運動しておきたい。太っちゃったら嫌だから」


 オレたちはそんな他愛のない会話をし、運ばれてきた料理を食べる。そして食べ終えたら会計を済ませて、食堂車を後にした。


 個室に戻ったオレたちは、食後ということもあってしばらく休憩することにした。




 キキキーッ!!


「うわあっ!?」

「きゃあっ!?」


 突然、ブレーキ音が鳴り響いてアークティク・ターン号が大きく減速した。

 オレたちは突然の原則に対応できず、ベッドから落ちて個室の中を転がる。


 列車が完全に停車すると、オレたちは立ち上がった。


「いたたたた……」


 ライラが額を撫でながら云う。


「ライラ、大丈夫?」

「うん、大したことないよ。ビートくんは?」

「オレもなんとか大丈夫だ」


 逆さまになっていたオレたちは、起き上がる。

 一瞬、ライラのスカートの中にある紐パンが見えた。

 もちろん、オレはそれを見逃さなかった。


「さっきのブレーキ音……急ブレーキをかけたみたいだったな」

「どうして、急ブレーキを使ったりしたのかしら?」

「そりゃあ……良くないことが起きたんだろうな」


 オレはそう云って、ソードオフを取り出した。

 装填されているショットシェルを確認すると、銃身を元の位置に戻す。

 万が一の事態に備え、オレはRPKも手にした。


「ライラ、オレは何が起きたのか確認してくる。少し待ってて!」

「もう、ビートくん、いつも云ってるじゃない!」


 ライラはそう云うと、スカートをたくし上げた。

 スカートの下から、ライラはリボルバーを取り出す。


「わたしも一緒に行く! ビートくんのいる場所が、わたしのいるべき場所だから!」

「わかったよライラ、行こう!」


 オレは頷くと、ライラと共に個室を飛び出した。




 センチュリーボーイまでたどり着いたオレたちは、目の前の光景に唖然とした。


「えっ……!?」

「なんだこれ……?」


 センチュリーボーイの先に、巨大な岩が置かれていて、レールを塞いでいた。

 岩は2つの巨大な岩を重ねてあるらしく、中ほどに亀裂のようなものが見えた。


 岩の前では、機関士や車掌、鉄道騎士団の騎士たちが困り果てていた。

 そりゃいきなりこんな巨岩がレールに置かれていたりしたら、困るのも分かる。


 その車掌たちの中に、ブルカニロ車掌の姿が見えた。


「あっ、ブルカニロさん!!」

「お客さん!!」


 オレたちの呼びかけに、ブルカニロ車掌はすぐに応えてくれた。


「この岩は、一体……!?」

「機関士が発見したんです。このままでは衝突してしまうことから、先ほど急ブレーキを使用しました。お客様には、大変ご迷惑をおかけいたしまして誠に申し訳ございません」


 ブルカニロ車掌はそっとお辞儀をした。


「どかせられそうですか?」

「現在、対策を検討しておりますが、この岩は非常に硬い上に重く、テコでも動きません。爆薬でもないと破壊できそうにないのです。しかし、この列車には爆薬などは――」


 ブルカニロ車掌が困っていたその時だった。


「フハハハハ!!」


 どこからか、耳障りな笑い声が聞こえてくる。


「おいっ、あそこっ!!」


 1人の車掌が指さす先を、オレたちは見た。

 岩の上に、なんと消えたはずのスティーブンがいた。


「スティーブン!?」

「キャー!」


 すると、どこから聞きつけたのか取り巻きをしていた女性たちが、列車の方から駆けてきた。


「スティーブン様ー!」

「落ち着いてください! それに近づかないで!!」


 車掌や鉄道騎士団の騎士たちが、駆けつけてきた取り巻きの女性たちの前に立ちはだかり、半ば暴走気味の女性たちをけん制する。

 過激派にならないといいが。


 オレとライラは、女性たちを一瞥した後、岩の上に立つスティーブンに向き直った。


「スティーブン! これはどういう真似だ!?」

「ハハハハ! この岩をなんとかしたければ、ミス・ライラを引き渡せ!」


 スティーブンの要求に、オレは唇を噛みしめる。

 こいつ、まだ諦めていなかったのか!


 昨日、決闘をして一瞬で負け、敗走したかと思っていた。

 しかし、こんな形で再び対峙することになるとは!

 なんて諦めの悪い旅騎士だ。


「ふざけるな! そんなことできるわけないだろ!」


 オレは怒鳴る。


「そもそも、お前は昨日オレと決闘して、負けたじゃないか! 決闘で負けた者は、自ら退くのが一般的な決まりだ!」

「決まりなど無用!!」


 スティーブンが、高らかに宣言する。


「ミス・ライラは銀狼族だ! 銀狼族を手に入れるためなら、決まりなどない! 無理を通せば、道理など簡単に引っ込む!」

「こいつ……!」


 どうやら、会話が通じないようだ。

 オレはそっと後ろを向く。後ろでは車掌や鉄道騎士団の騎士たちが、まだ取り巻きになっていた女性たちを抑え込んでいた。

 とてもじゃないが、こちらに回せる余力は残っていないらしい。


 オレとライラは視線を交わし、頷き合う。

 これはもう、武力に訴えるしかない!


「ライラ、こうなったら!」

「ビートくん、いつでもいいよ!」


 ライラが、リボルバーに弾丸が装填済みになっていることを確認し、頷く。

 オレたちで、なんとかしてスティーブンをやっつけるしかない!


「ーー!!」


 そのとき、オレの脳裏を電流のようにあることが駆け抜けていった。

 動こうとしていたオレは立ち止まり、スティーブンが立っている岩を見つめる。


 上下に重なった岩。

 その中間あたりを走るかすかな隙間。

 そして、岩の硬さ……。


「……そうだ!」

「ビートくん、どうしたの?」


 首を傾げたライラに、オレは顔を向ける。


「ライラ、もっといい方法がある! 一時撤退だ!」

「えっ!? でも……!」

「すぐに戻る! 一緒に行こう!」


 オレはライラの手を半ば強引に取ると、列車に沿って後方へと走り出した。


「ハハハ! いつでも戻って来い! どうせ無駄だ!!」


 スティーブンの嫌味な声が聞こえてきたが、オレたちは無視して貨物車に向かった。




 オレは貨物車を警備していた騎士に乗車券と荷札を見せ、貨物車に乗り込んだ。

 そして貨物車に積まれた膨大な荷物の中から、探していたオレの荷物を見つけ出した。


「あった!」


 オレは同じ荷札が取り付けられた木箱を見つけ、木箱を開けた。


「ビートくん、それって……!」

「そう、スパナからの贈り物!」


 中に入っていたのは、ダイナマイトだった。

 ギアボックスのエンジン鉱山で働いている、メカニック見習いの黒狼族の少年、スパナからもらったものだ。

 スパナ自らが製造した、自家製のダイナマイト。


 これを使えば、スティーブンもレールの上の岩も、共に吹っ飛ばせるかもしれない!


 ふとオレは、スパナとのやり取りを思い出していた。



『これ、役に立つかな……?』

『もちろんだぜ! なんといっても、オレの手製だからな!』



 まさか、ここで使うことになるとはな。


「スパナ、本当に役に立つ時が来るとは思わなかったよ」


 そう云って、オレは木箱から3本のダイナマイトを取り出した。

 ダイナマイトは、1本1本がずっしりとしていた。


「よし、戻ろう!」




 再び、先頭まで戻ってきたオレたちを、スティーブンが岩の上から見下ろしていた。


「ちょっと! 気安く近づかないでよ!」

「私たちのスティーブン様に近づくなぁ!」


 取り巻きの女性たちが、半ば過激派になりかけている。

 早く何とかしないと、車掌や鉄道騎士団の騎士たちに危害が及ぶかもしれない。


「ライラ、急ごう!」

「うん!」


 オレはライラに、持ってきたダイナマイトを2本手渡した。


「なっ……それは!?」


 ダイナマイトを見たスティーブンの顔に、焦りの色が浮かぶ。

 オレは口元を釣り上げ、スティーブンを一瞥した。


「お前とこの岩、両方とも吹っ飛ばしてやるぜ!」


 そう叫ぶと、オレはライラと共に岩に駆け寄った。

 岩の割れ目の中で、大きく隙間ができているところを見つけると、オレたちはそこにダイナマイトを尻から押し込んでいく。


「やっ、やめろ! やめるんだ!!」


 スティーブンが慌てた様子でオレたちに云ってくる。

 今更になって気が付いても、もう遅い。

 吹っ飛ばしてやらないことには、オレたちの怒りは収まらない。


 しかし、予想外のことが起きた。


「こらっ! やめなさい!!」


 車掌の誰かが叫び、オレはそちらを向いた。


「何してるのよ!!」

「スティーブン様から離れなさいよ!!」


 暴徒化した取り巻きの女性たちが、ついに車掌と鉄道騎士団のバリケードを突破した。


「げっ!」


 こちらに向かってくる女性たちを見て、オレは叫ぶ。

 ヤバい! このままじゃライラが!


 オレはダイナマイトから手を離すと、RPKを手にした。

 作戦は一時中断だ!

 やりたくないが、今はあの取り巻きの女性たちをどうにかしないと!


 オレが動き出そうとしたその時、オレの前にライラが躍り出た。


「止まりなさい!!」


 ライラが叫び、取り巻きの女性たちが足を止める。

 ライラは右手にリボルバーを、左手にダイナマイトを持っていた。


「これ以上……わたしたちに近づいてみなさいよ……! みんな……木端微塵にしてやる……!!」


 ライラから放たれている殺気に、女性たちは押されていた。

 オレの位置からは表情は見えなかったが、相当恐ろしい表情になっているのではないかと、オレは思っていた。


「いい加減にしてください!!」


 そのとき、男性の声が聞こえた。

 センチュリーボーイの方から、ブルカニロ車掌が歩いてきた。その表情には怒りの色が浮かんでいる。

 まずい。ライラが捕まってしまうのか!?


 しかし、ブルカニロ車掌はライラと並んで立つと、女性たちのほうを向いた。


「これ以上、傍若無人に振舞うのであれば、容赦はいたしません!」


 ブルカニロ車掌はそう叫ぶと、制服の下からリボルバーを取り出した。

 シルバーモデルの、中折れ式6連発リボルバーが現れた。


「すぐに列車にお戻りください! さもなくば発砲します!」


 ブルカニロ車掌が、女性たちに銃口を向けて叫ぶ。女性たちはすぐに再び車掌と鉄道騎士団に囲まれ、身動きが取れなくなった。

 よかった。ブルカニロ車掌は、オレたちの味方だ!


「お客様、今のうちです。急いで準備を……!」

「はいっ! ありがとうございます!」


 ライラは叫ぶと、再び岩に戻ってきてダイナマイトを押し込み始めた。

 オレも安心して、ダイナマイトを押し込み始める。




 ダイナマイトが岩の中に押し込まれると、オレとライラはマッチを手にした。


「やめろっ! やめろおっ!!」


 スティーブンが叫ぶが、オレたちは止めない。


「ライラ、準備はいい?」

「いつでもいいよ!」


 ライラからの返答に、オレは頷いた。


「よし……点火!!」


 オレとライラはマッチを擦ると、ダイナマイトの導火線に火をつけた。

 導火線に火がつき、バチバチと燃える音を立て始めると、オレたちは火のついたマッチを捨て、叫ぶ。


「爆発するぞ! 離れろーっ!」


 オレとライラは、すぐにセンチュリーボーイの方に向かって走り始める。

 それと同時に、機関士と車掌たち、鉄道騎士団も岩から離れていく。


「キャーッ!」

「助けてーっ!」


 女性たちも、爆発すると知ってはスティーブンどころではないらしい。

 もう誰も、スティーブンに近づこうとする者はいなかった。


「ひぇっ! やめろっ! やめろぉっ!!」


 スティーブンはパニックに陥っているらしく、ただ叫ぶことしかしない。

 岩から降りて逃げればいいだろと思ったが、オレはあえてそう云わなかった。


「ライラ、もうすぐだ! 耳を塞いで!」

「うん!!」


 オレとライラは、センチュリーボーイの機関室で小さくなり、両手で自分の耳を塞いだ。


「た、助け――」


 スティーブンがそう叫んだ直後、ダイナマイトが爆発した。


「わっ!」

「きゃっ!」


 爆風が空気を駆け抜け、衝撃が地面を揺らし、列車の窓ガラスをビリビリと鳴らす。

 それから少しして、辺りは静かになった。


「……よし、確かめに行こう!」

「うん!」


 オレとライラは、センチュリーボーイの機関室から出ると、岩が置かれていた場所に向かった。


「わあっ!」

「すごい!」


 オレたちは、そこにあった景色に唖然とした。

 レールを塞いでいた巨大な岩は、木端微塵に吹っ飛んでいた。

 幸いにも、岩が硬かったおかげか、レールは爆発に巻き込まれておらず無事だった。


 スティーブンも、どこかに飛んで行ってしまったらしく、姿は見えない。


「すごい威力……!」

「スパナに感謝しなくちゃ。後で、手紙書いておこう」


 オレはそう云って、足元に落ちていた岩の破片を拾い上げ、近くの森の中に放り投げた。


 それからしばらくしてレールの片づけが終わり、安全が確認されるとアークティク・ターン号は再び動き出した。




「本当に、ありがとうございました!」


 ブルカニロ車掌が、オレとライラに頭を下げる。


「お客様の持っていたダイナマイトのおかげで、障害物を取り除くことができ、無事に運行を再開できました」

「いえいえ、ただ、邪魔なものを取り除いただけですよ。……なぁ、ライラ?」

「そうね! ビートくんの云う通り!」


 オレとライラは視線を交わし、笑い合う。

 なんだかとっても、いい気分だ!




 その後、オレたちは上機嫌で個室に戻った。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

感想、誤字脱字、ご指摘、評価等お待ちしております!

次回更新は10月11日21時更新予定です!

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