第152話 強盗連合壊滅
「ライラ、これを」
「ありがとう、ビートくん」
オレはライラに、持っていたリボルバーを差し出す。
ホルスターも一緒に差し出すと、ライラはしゃがみ込んでスカートをめくり、足にホルスターを取り付け始める。
「おっと!」
オレは慌てて、明後日の方向をむこうとした。
「あっ、ビートくん、いいよ!」
「えっ……?」
「助けてくれたお礼……じゃなくて、今狙われたら大変だから!」
ライラ、本音と建前が入り混じっていないか?
オレはそんなことを思いながら、視線を元に戻す。
ライラの太腿、本当に白いよな――。
そんなことを考えていると、ライラはホルスターを付け終えた。新しい回転式弾倉を取り出し、リボルバーに取り付けられていた回転式弾倉と交換する。リボルバーの装弾数は、オレが撃つ前と同じ6発に戻った。
「それにしてもビートくん、拳銃の撃ち方も習得していたの!?」
「そんなに難しいことじゃないよ。反動もソードオフより軽いから、制御しやすいからね」
オレはそう云いながら、ベッドの近くに蹴り飛ばしたRPKを拾い上げる。
そこそこ強く蹴ってしまったのに、RPKはビクともしていない。なんともタフな銃だ。
「ライラ、ゲムアを追いかけよう! そしてやっつけよう!」
「もちろんよ!」
オレたちは頷き合うと、大広間を出ようとした。
「あっ、待って!」
ライラが叫び、倒れている強盗のポケットをまさぐる。
少しして、ポケットの中から鍵束が出てきた。
「この人、看守役をしていたみたいなの。地下の牢獄の中に、まだ囚われている人が大勢いたわ!」
「その人たちも助けよう!」
オレたちは大広間を出ると、強盗連合の構成員を銃で撃ちながら地下の牢獄に向かった。
オレたちは地下の牢獄へと続く階段を下りていく。
地下の牢獄にたどり着くと、オレは大勢の人が囚われている牢獄を見た。
「助けに来たぞ!」
「おぉ、待っていたぞ……!」
オレの言葉に、牢獄の中にいる人々の表情に希望の色が浮かぶ。
「よし、ちょっと待っててくれ! ライラ、オレが警戒するから錠前を!」
「まかせて!」
オレはRPKを構え、入り口を警戒する。その間に、ライラが鍵束の中から牢獄の鍵を探し出して、牢獄の錠前を外した。
ガチャン、という重い音がして錠前が外れる。
看守役以外、誰も外すことができないと思っていた錠前が、ライラの手によって外された。
「ビートくん、開けたよ!」
「よし! ならば後は強盗連合の壊滅だけだ!」
オレはRPKを下し、囚われていた人々に向き直る。
「これからオレたちは、ゲムアを倒しに向かうよ。どうか、お元気で」
「必ず、戻ってくるから!」
オレとライラはそう云うと、地下の牢獄を後にした。
再び地上に戻ると、ゲムアを探し始めた。
ゲムアは執務室まで戻ってくると、机の上に置き去りにしてあった、黒光りする大型のリボルバーを手にした。別名「裏切者の銃」と呼ばれるそのリボルバーは、ゲムアが軍隊に在籍していたころからの愛用品だ。自らの部下以上に、ゲムアはこのリボルバーを信頼していた。
大急ぎでリボルバーに強力な火薬が詰められた弾丸を装填していき、腰のホルスターに入れる。
「野郎……ここまで俺を怒らせたガキは初めてだ……!」
ゲムアの身体中を、怒りの感情が駆け巡っていた。
「大佐! いかがなさいましたか!?」
「すぐに残っている全員を集めろ! あのガキをなんとしてでも殺すんだ!」
「ハッ!」
側近の幹部がすぐに動き出す。
しかし、すぐに立ち止まった。
「た、大佐! 大変です!!」
「どうした!? 云ってみろ!!」
「や……やられています!!」
幹部が窓際で凍り付いていた。
すぐに隣に駆け寄り、ゲムアは窓の外を見る。
「……!!」
外の光景を見たゲムアは、目玉が飛び出しそうなほどに、目を見開く。
部下の強盗たちが、次々に撃ち殺されていく。
無敵を誇った強盗連合が、目の前で崩壊していく。
その様子をまざまざと、ゲムアは見せつけられていた。
「ビートくん、大丈夫!?」
「オレは大丈夫だ、ライラは!?」
「わたしも大丈夫よ!」
オレたちは声を掛け合いながら、次々に強盗を撃ち殺していった。
不思議なことに、強盗たちはほとんどが剣や槍、弓矢しか装備していなかった。どうやら、銃を扱える強盗は全員倒してしまったらしい。
しかし、オレたちにとっては好都合だ。
剣や弓矢では、銃に太刀打ちできるはずがない。
さらにオレは、RPKという連射ができる銃を持っている。この世のものとは思えない強力な火力は、たとえ10人束になって襲い掛かってきたとしても、余裕で倒せるほど強力だ。
目の前にいた強盗たちが倒れると、オレたちは素早く再装填をした。オレはRPKに新しい弾倉を取り付け、ライラはリボルバーから回転式弾倉を取り外し、装填済みの新しい回転式弾倉へと交換する。
「それにしても、ゲムアってどこに逃げたのかしら?」
「わからない……でも、もしかしたらオレたちを迎え撃つための準備をしているかもしれない。早く見つけ出して、なんとかしないと……!」
「ビートくん、急ごう!」
ライラの催促に、オレは頷く。
「よし、もう1度、上の方から調べていこう! まだ見ていない場所が、きっとあるはずだ! 強盗には十分注意しながら、ゲムアを見つけ出すぞ!」
「うん!」
オレとライラは、再び上の階へと向かった。
ライラがベッドに拘束されていた大広間を通り過ぎ、その奥へと進んでいく。
一体、どこに隠れているんだ、ゲムア!!
必ず見つけ出して、ライラをさらってひどい目に合わせようとしたことの落とし前をつけさせてやる!!
たとえアークティク・ターン号の出発予定時刻が来たとしても、そんなことは関係ない!
ゲムアを倒すまで、オレはペジテの街から離れるわけにはいかないんだ!!
その時、見覚えのある赤いベレー帽を被った髭の男が、オレたちの前に立ちふさがった。
間違いなく、ゲムアだった!
「死ねえっ!」
「ビートくん、危ない!!」
ライラがオレに飛び掛かってくる。
その直後、銃声が轟いた。
「クソッ、外したか!」
オレとライラはすぐに立ち上がり、ゲムアに銃を向ける。
ゲムアの武器は、リボルバーだけだ。
こっちには、オレのRPKとライラのリボルバー。そしてまだ取り出していないがソードオフもある!
火力の面だけで見れば、勝敗はもう決まったようなものだ。
「銃を捨てろ!」
オレがゲムアに命令するが、ゲムアは銃を捨てない。
そう簡単に、従うわけないとは思っていたが。
「それはできない。なぜなら、お前は俺の部下と、この俺がここまで育て上げた強盗連合を台無しにしてくれたからだ!」
「騎士団が動かないから、オレがやっただけのことだ。人々に迷惑しか掛けない強盗を倒して、何が悪い!?」
「俺のやることはただ1つ、お前たちを殺して、地獄に叩き落すことだけだ!」
ゲムアはリボルバーを、天に向けて撃った。
その銃声を聞きつけたのか、残っていた強盗たちが集まってきた。
あっという間に、オレとライラは強盗に囲まれてしまった。
強盗たちは、まるで血に飢えた猛獣のような目つきでオレたちを睨みつける。
このままだと、どこから襲い掛かってくるのか、まるで分からない。
「ライラ、怖い?」
「大丈夫。さっきと違って、ビート君が居てくれるから!」
「ありがとう……ライラ」
オレはそう云うと、ライラと背中合わせに立った。
そして、目の前にいる強盗たちにRPKの銃口を向ける。
前にも、こんなことがあったなぁ。
「ライラ、オレの背中は任せたよ!」
「ビートくん、わたしの後ろはお願いね!」
オレたちはお互いにそう云うと、引き金を引いた。
「全員、やっつけるぞ!」
次々に弾丸が発射されていき、武器を持った強盗たちが弾丸の餌食になっていった。
オレとライラが射撃を終えるころには、集まっていた強盗はゲムアを除いて残り数人になっていた。
その数人以外は、ほぼ全員が弾丸を食らって即死したり、重傷を負って死にかけていた。血の匂いが辺りに広がる。
「ひっ……ヒイイッ!!」
「だ、ダメだ!」
「とんでもねぇよ! 助けてくれぇ!!」
なんとか弾丸を免れた強盗たちは、その場から逃げ出した。
「待てっ! 命令だ! 待たんかっ!」
ゲムアが慌てて呼び止めるが、もう組織として壊滅した強盗連合は、規律など無かった。
生き残った強盗たちは、何が何でも生き延びたいという、生存本能に従って動いていた。そうなったら、もう誰にもそれを止めることはできない。
命令を無視して、逃げていく強盗たちを見つめるゲムアの顔は、まさに絶望。
その言葉以外に、ピッタリな言葉を見つけることが難しいと思えるほど、絶望的な表情をしていた。
「……そんな……バカな」
「チェックメイトだ!」
オレはゲムアにRPKの銃口を突きつけ、叫んだ。
「お前の負けだ! 銃を捨てろ! 強盗連合は崩壊した。もう誰もお前を助けにくることはない!」
「グググ……」
ゲムアはゆっくりと、リボルバーを捨てる……。
かと思いきや、震える手で自分のこめかみに銃口を持って行った。
「おい、お前……!」
「俺は決して屈しないぞ……!」
ゲムアはそっとハンマーを下し、引き金に指をかけた。
そのまま引き金を引けば、きっと頭に大穴が開いて、跡形もなく吹っ飛ぶに違いない。
オレはそう思っていた。
その時までは――。
「ーーうぉらああっ!!」
次の瞬間、ゲムアは自分のこめかみに向けていたリボルバーの銃口を、オレに向けた。
「!! ヤバい!」
リボルバーのハンマーは下りている。そして、引き金にはゲムアの指がかかっている。
向けられたリボルバーの銃口は、オレを確実に捉えていた。
そして種類は分からないが、リボルバーには強力な弾丸が装填されていることに間違いはなかった。
あれで撃たれたら、もう助からないだろう。
いくらRPKがあっても、この至近距離から狙いを定めて撃つ前に、オレが撃たれてしまう。
まさか、ここまで来てなおも抵抗してくるとは!
正直、ゲムアを少し甘く見すぎたかもしれない。
ライラ、ゴメン。
どうやらオレは、ここまでみたいだ。
チェックメイトなのは、オレの方だったのか。
もう打つ手はない。
オレはギュッと、目を瞑った。
ドガァン!!
そして、銃声が強盗連合の本拠地に轟いた。
「……あれ?」
痛くない。銃声が轟いたのに、オレの身体に痛みはない。血も出ていないし、意識もはっきりとしている。
弾丸が外れたのか?
それとも、単なる脅しの空砲だったのか?
その答えは、ゲムアが教えてくれた。
「こ……この畜生が……!」
「!?」
ゲムアが、リボルバーを持っていた右腕を抑えている。
その手にはリボルバーは跡形もない。
どうやら吹っ飛ばされたらしい。
しかし、いったいどこへ吹っ飛ばされたというんだ!?
「ビートくん、大丈夫!?」
ライラがオレに訊く。ライラが持っているリボルバーは、銃口から硝煙を立ち昇らせていた。
それを見て、オレは何が起こったのか理解した。
ライラが、リボルバーを撃ってゲムアのリボルバーを吹っ飛ばしたんだ!
ライラが射撃の腕をここまで上げていたことに驚くと同時に、とても心強く感じた。
もうこれだけの腕があるのなら、たとえオレがやられたとしても、ライラは自分でできる自分を守れるだろう。
「ありがとう、オレは大丈夫だ」
「よかった! 間に合ったみたいね!」
「バッチリ間に合ったよ!」
オレはライラに向けて親指を立てた。
それから、オレとライラはゲムアをにらみつける。
もうゲムアは、何の武器も持っていない。丸腰だ。
「ま、負けだ! 俺たちの負けだ!」
ゲムアは両手を上げて、命乞いをする。
「頼むから! 命だけは! 命だけは助けてくれ!!」
「……だってさ、ビートくん。どうする?」
「うーん……オレたちが決めても、答えは1つしかないからなぁ……」
オレはそう云って、後ろを振り返る。
そしてすぐに、ゲムアに向き直った。
「お前をどうするかは、この人たちに決めてもらうことにするよ」
「!?」
オレはライラを連れて、横に退いた。
オレたちの後ろから現れたのは、囚われていた街の人々だった。
地下の牢獄から抜け出せた人々は、半分がペジテの街へと逃げ帰ったが、残りはここに残っていた。
理由は単純だ。
まだ復讐するだけの気力を、失っていなかったんだ!
「この野郎……!」
「よくも、私たちを……!」
「裁きじゃ……裁きの時じゃあ……!!」
まるでゾンビが獲物を見つけた時のように、街の人々はゲムアに近づいていく。
「よっ……寄るな! 来るなぁ!」
ゲムアが恐怖に支配された声で叫ぶ。
しかし当然、誰も助けにくる者などいない。
全員、オレたちがやっつけてしまったからだ。
人々はゲムアにどんどん詰め寄っていく。
そして誰かが手をかけたのを皮切りに、次々にゲムアへと群がっていった。
それを見たライラは、恐怖で目を見開いていた。
「ビートくん……!」
「ライラ、見ないほうがいい。逃げるぞ!」
オレとライラは、その場から逃げ出す。
一直線に強盗連合の入り口を目指して走り、そこから出るとスラムを駆け抜けてペジテ駅へと向かっていった。
「助けてくれぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
ゲムアの断末魔の悲鳴は、ペジテ駅まで聞こえてきた。
それで、ゲムアがどうなったのか、オレたちは悟った。
「ビート氏!」
「ナッツさん!!」
オレたちはナッツ氏に迎えられる。
ナッツ氏の周りには、倒された強盗連合の構成員がいる。ナッツ氏がどれだけ大暴れしたのか、倒れた構成員たちが物語っていた。
「ビート氏、ライラ婦人を無事に救出したみたいだな!」
「はい! ありがとうございました!!」
「何、礼には及ばん。ははははっ!!」
ナッツ氏はそう云って、高らかに笑った。
それからオレたちは、アークティク・ターン号の出発予定時刻を迎えることになった。
ペジテの街の人からはお礼として、消費した分の弾丸を受け取った。
そして何事もなかったかのように、アークティク・ターン号はペジテの駅を出発し、次の停車駅に向かって走り出した。
「……はぁあ!」
ペジテの街から離れてくると、オレはベッドに寝転がった。
「疲れたぁ……!」
「ビートくん、ありがとう……」
寝転がったオレに、ライラが隣にやってきて、身体を寄せてくる。
「ビートくん、ギュってして!」
「わかったよ」
オレは云われた通り、寝ころんだままライラを抱きしめる。
「ビートくん……!」
ライラは尻尾を振りながら、抱き返してくる。
抱き合ったことで、オレの体温は上昇していき、鼓動は高まっていく。
あぁ、なんてライラの身体は柔らかいんだろう。
それにいい匂いがする。
これだけでも十分なのに、さらにオレに好意マックスでいつも一緒にいてくれる。
本当に、ライラと結婚できてよかった。
「……!?」
そのとき、オレは気づいた。
ライラの身体が、小刻みに震えていることに。
寒いのかと思ったが、部屋の温度は熱く熱くもなく寒くもない。
なのになぜ、震えているのか?
オレはライラの顔を見て、なんとなく答えが分かった。
「……ライラ、怖いの?」
「あっ、ごめんね。ビートくん」
ライラの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
「ビートくんが助けに来てくれることは分かっていたんだけど、今になって思い返すと怖くなってきちゃって……」
「ライラ、もう大丈夫。オレが居るんだから」
「ビートくん……」
オレはライラを守るように、より強く抱きしめる。
ライラもそれに応えるように、オレに抱き着いてきた。
「ビートくん……」
「ライラ……」
オレはライラの震えが収まるまで、ライラを抱きしめていた。
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