第151話 ライラ救出
迫りくる強盗連合の構成員をRPKで薙ぎ倒しながら、オレは進んでいく。
フルオートで次々に弾丸を発射し、強盗を薙ぎ倒していくRPKは、まさにゴミを掃き出す箒のようだった。
「くそっ、どこにいるんだ、ライラ!」
オレはRPKを手に、次々と部屋を襲ってはライラを探していく。
しかし、どこにもライラは見当たらなかった。
このままじゃ、埒が明かない。
嘘の情報を掴まされる危険もあるが、強盗連合の構成員を脅すかして聞き出したほうが早い。
「野郎!」
「!」
オレは聞こえた声に反応して振り返り、すぐにRPKの引き金を引いた。
連続で発射された弾丸の餌食になった強盗連合の構成員2人が、その場に倒れる。
オレはそのまま、倒れた強盗に近づいた。
1人は頭に弾丸を受けて即死していたが、もう1人は腹に食らったらしく、まだ生きていた。
「おい、お前、昨日捕まった獣人族の女がどこに連れていかれたか、知らないか?」
「ち……地下の……牢獄だ」
「そうか、わかった」
もう、こいつは長くないだろう。
オレはそっと、虫の息になっている強盗にRPKの銃口を向けた。
「今、楽にしてやるからな」
その直後、銃声が轟いた。
こんな姿は、ライラに見せちゃダメだな。
オレは強盗の死体をその場に残して、地下の牢獄へと急いだ。
しかし、地下の牢獄にライラはいなかった。
「くそっ! やっぱり嘘の情報を掴まされたか!!」
オレは空っぽになった牢獄に向かって叫ぶ。
覚悟はしていたが、余計な時間を食ってしまった。いや、ここにライラがいないと分かっただけでも、少なくとも収穫はあった。
大急ぎで、ほかの場所を探そう!
「おーい、そこの若いの……!」
「えっ? ……うわっ!?」
オレは声がしたほうを振り返り、驚く。
牢獄の中に、大勢の男女が囚われていた。
この人たちは、一体……?
「ーーそうだ!」
オレはあることを思いついた。
「あの、ここの牢獄に獣人族の女が囚われていませんでした!?」
「今朝まで、ちょうど囚われていたよ。そこの、今は空っぽになっている牢獄にいた。確か銀狼族だとか、看守の男が話していたよ」
囚われている男が答え、オレは目を見張った。
ライラのことに、間違いはない。
「その銀狼族は、どこに連れていかれました!?」
「おそらく、2階の大広間のはずだ。若い女は、だいたいあそこに連れて行くと、看守が前に喋っていた」
「わかりました! ありがとうございます!」
どうやら、行くところが決まった。
2階にある大広間か。そこにライラが居るのなら、急がないと!
「後で必ず、あなたたちも助けます! それまでしばらく、待っていてください!」
「待ってくれ若いの! そこのロッカーの中に、看守が銀狼族から取り上げた武器があるはずだ」
男の言葉に従い、オレはロッカーを開ける。
「これは……!」
ロッカーの中に入っていたのは、ライラが持っているリボルバーだった。装填済みの予備の回転式弾倉まである。
これがここにあるということは、今のライラは丸腰だ。
オレは迷うことなく、ライラのリボルバーと予備の回転式弾倉を手にする。
弾丸が全て装填されていることを確認すると、服の中に隠した。
「ありがとうございます! すぐに戻りますから!」
「待っているぞ!」
オレは親指を立てると、再び地上へと戻った。
向かう場所は、2階の大広間だ。
大広間に向かい、オレはRPKを撃ちながら走り続けた。
「ライラ!」
「ビートくん!!」
オレはライラに向かって叫び、ライラはそれに応えるようにオレの名前を叫ぶ。
ライラはベッドに縛り付けられていた。そして、なぜかその後ろに見える祭壇。強盗はゲムアを除くと、ベッドを取り囲むようにして6人居た。
強盗連合の奴らが、ライラに何をしようとしていたのか、オレはすぐに理解した。
身体中が熱くなり、若干の吐き気を催す。
怒りが全身を駆け抜けていくのを、オレは確かに感じ取っていた。
「ほらね、助けに来てくれるって云ったじゃない」
ライラが、勝ち誇ったように云う。
「くっ……まさか侵入者って!?」
ゲムアが目を見張る。
「ゲムア大佐……ライラを、返してもらうぞ!」
オレはゲムアに銃口を向ける。
しかし、ゲムアはすぐに部下の強盗たちに命令を出した。
「私は武装を整えてくる! それまでに奴を食い止めるか、もしくは殺害せよ!」
「イエッサー!」
「あっ、待てコラ!!」
オレが慌てて後を追いかけようとするが、強盗がライラにナイフを向ける。
「動くな! この女の命が惜しかったら、動くんじゃねぇ!!」
「くっ……!」
オレは要求を呑んだ。ライラの命には、代えられない。
ゲムアはその間に、奥の部屋へと退却していった。昨日のような勇ましさは、そこにはない。
ゲムアが完全に奥へと引っ込んでしまうと、強盗はオレに向き直った。
「おいガキ! この獣人女がどうなってもいいのか!?」
「よくないに決まっているだろ!!」
「なら、その銃を捨てろ!!」
強盗は、オレにRPKを捨てるように要求してくる。
確かに、この連射ができるRPKの存在は大きい。強盗たちにとってみれば、恐怖でしかないだろう。
しかし、RPKを手放すことは――。
「おい、どうした!? この女を捨てるのか!? だったら、俺たちがもらっちまうぞ!?」
「……わかった!」
オレはRPKを地面に置き、蹴飛ばした。
ベッドの近くまで、RPKが滑っていく。仮にRPKを再び手にできたとしても、取りに行くまでの間に、オレは撃たれてしまうだろう。そしてライラは殺されてしまう。
それに、今ここでRPKを撃ったら、強盗はもちろん皆殺しにできる。しかし、ライラに流れ弾が飛んでしまうかもしれない。ソードオフもあるが、ソードオフでは射程が短すぎて、有効な打撃を与えられない。つまり、今この状況ではオレの持っている銃はどれも、役には立たない。
今のオレには、強盗の要求に従うしかない。
「フン、ここで俺を撃ってやるという気はないみたいだな」
ライラにナイフを突きつけている強盗が、オレを嘲笑した。
銃を捨てろ、と云ったのはお前じゃないか!
そう思ったが、オレはその言葉を飲み込む。下手に刺激して、ライラに危害を加えられたらたまらない。
「度胸もクソもねぇな。さすがは畜生を妻に迎える男だ。その程度の奴ってことがよく分かったぜ」
おい、今、ライラのことを何ていった?
畜生だと?
ライラを畜生呼ばわりしたな!?
もう、許さない!
ライラをさらったことで許す気など毛頭無かったが、ライラを畜生呼ばわりしたこいつだけは、誰がなんと云おうと絶対に許さない!!
オレの妻を畜生呼ばわりすることは、オレの目の前でやってはいけないことだ。
たとえ知らなかったものだとしても、それで罪が許されることはない!!
オレはライラに目を向け、口を開いた。
「……ライラ、オレのこと、信じている?」
「ビートくんのことは、わたしはいつも信じているよ? だって、わたしの最愛の人だから」
ライラは当たり前のことのように、そう答えた。ライラの瞳は全く淀みなく、オレを見つめている。
さすがはライラだ。オレ自身よりも、オレを信じてくれている。
本当に、ライラと結婚してよかった。
「……ありがとう、ライラ」
オレはライラにそうお礼を云い、ポケットに手を入れる。
そして、ポケットから1枚の銀貨を取り出した。
グレーザーでライラと暮らしていた頃、何気なく銅貨をコップに投げ入れたら、入った。何度投げても、まるでコップに吸い寄せられるように、銅貨はコップに入った。
それを見たライラは、何度もすごいすごいと云っていたな。
もしかしたら、オレが射撃がうまいことと、何か関係があるのかもしれないな。
「おい! 貴様、何をしているんだ!?」
「おうおっさん、これやるよ。そらっ」
オレはそう云って、銀貨をライラの隣にいる強盗に向かって投げた。
飛んで行った銀貨が、強盗の顔に命中する。
狙った通りだ!
「わっ!?」
突然銀貨が顔に当たり、強盗は驚いて目を瞑る。
よし、今だ!
オレは身をかがめて走り出した。
そしてそのまま、ライラの近くにいた強盗にタックルした。
「ぐあっ!?」
オレのタックルで強盗は弾き飛ばされる。
しかし、すぐに立ち上がった。
「やってくれたな……てめぇ!!」
突き飛ばされた強盗が、ナイフを取り出した。
「来いよ! 銃が無くたって、オレは戦えるんだ!」
「やるじゃねぇか! 気に入った、お前は直々に殺してやる! おいお前ら! 手出しするんじゃねぇぞ!!」
ナイフを手にした強盗は、周りにいた5人の強盗にそう叫んだ。
その強盗から発せられたオーラにビックリしたのか、強盗たちは頷いた。
「ビートくん……!」
「ライラ、大丈夫だから」
オレはライラにそう云って、強盗と対峙する。
そうだ。オレには銃が無くても、生まれ持った武器がある。
それをこれから、お見舞いしてやる!
すると、強盗がナイフを手に向かってきた。
だが、オレはまだ動かない。
すぐに強盗との距離は、ゼロ距離になった。
「死ねええええ!!」
強盗は絶叫しながら、オレにナイフを振りかざそうとする。
オレはその場にしゃがみ込むと、ナイフの刃がオレの身体に突き立てるよりも早く、強盗の股間に自分の頭をぶつけた。
ぐしゃり。
そんな嫌な音が、オレの頭のほうで聞こえてきた。
「あがあ!!」
強盗は激痛に悲鳴を上げると、その場で固まった。
手からナイフが落ち、そのまま仰向けに倒れる。口からは泡を吹いていて、完全に意識を失っているようだった。
「どうだ! オレの最後の武器、石頭だ!!」
久しぶりに、これを使ったな。
最後に使ったのは、グレーザー孤児院に強盗が押し入ってきて、ライラを助けようとした時だったかな。
いや、今はそんなことを考えている場合ではない!
まだ残っている強盗が、5人はいる!
だが、それもあまり問題はなさそうだ。
「や、やられたぞ!」
「くそう、命令に変更はなしだ! ぶっ殺せ!!」
強盗たちが、武器を構える。
「ライラ、そのまま伏せてろ! 絶対にベッドから身体を起こそうとするな!」
「うん!」
ライラにそう云うと、ライラはベッドの上でじっと身を固めた。
オレは服の下に隠していたソードオフ……ではなく、リボルバーを取り出した。
ソードオフは、すぐに弾丸が拡散する。ライラが目の前で伏せているのに、ソードオフを撃ったら巻き添えを食らってしまう。
オレはリボルバーのハンマーを下すと、1人の強盗を撃った。
「ぐあっ!」
強盗が倒れるよりも早く、すぐに次の強盗に銃口を向け、左手でハンマーを下しながら撃った。
そしてさらに隣にいた強盗を同じように撃ち、すぐに大きくターンした。
オレの背後にいた強盗たちを、リボルバーで残さず撃っていく。
「ぎゃっ!」
「あがっ!」
「うわっ!」
「があっ!」
次々に断末魔の悲鳴を上げて、強盗たちは倒れていった。
そして十秒足らずで決着がついた。
大広間に、6人の強盗が倒れていた。
「ライラ!」
強盗が動かなくなったことを確認すると、オレはすぐにライラに駆け寄った。
強盗が落としたナイフで、ライラを縛っていたロープを切る。
「ビートくん!」
自由になったライラは、すぐにベッドから起き上がってオレに抱き着いてくる。
ほぼ1日ぶりに、オレはライラの体温を感じる。
「ライラ、ひどいことされなかった?」
「牢獄に入れられたけど、それ以外は何もされていないよ!」
ライラがそう云い、オレは一安心する。
なんとか、ひどいことをされる前に助け出せた。
「ありがとう、ビートくん! 絶対に助けに来てくれるって、信じてた!」
「ライラ……」
「信じてた……よ」
そう云った直後、オレはライラが身体を震わせていることに気づいた。
目には大粒の涙を浮かべ、ライラはそのまま泣き出した。
「ビートくん! 怖かったよぉ!!」
ライラは声を上げながら泣き叫ぶ。
「ライラ、もう大丈夫だ。大丈夫だから……」
オレはライラを抱きしめながら、そっと頭をなでる。
泣き叫んでいたライラは、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「……ありがとう、ビートくん」
「ライラ、もうこんな危ないことはやめてくれよ?」
オレはライラの目を見て、そう云う。
「今回はひどいことされなかったからよかったけど、もしもライラが殺されたりしたら、オレはこれからどうやって生きていけばいいんだ? もう、こんな無茶なことはしないでくれ……!」
「ビートくん……ごめんね」
ライラはそう云って、オレの胸に顔をうずめてくる。
顔を上げると、ライラは上を向き、目を閉じた。
オレはゆっくりと、ライラの唇に、自分の唇を近づけていく。
そしてオレたちは、キスをした。
キスをしたとき、婚姻のネックレスがそっと触れ合って音を立てた。
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次回更新は10月7日21時更新予定です!
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まだまだ物語は続きます。
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